浴槽迷宮
兄貴とは、ここしばらく口をきいてない。喧嘩したわけじゃない。気まずいわけでもない。 ただ、兄貴がそうして欲しいって言ったから、そうしただけ。 2,3日ならよかったけど…。 「烈兄貴…」 こっそりドアを開けて、呼びかけてみる。 兄貴はずっと、背中を見せてるだけで、あのまんまだ。 いい加減にして欲しい。俺って恋人だよな?そりゃあ、兄貴の力になれないことくらいわかってるけど、けど、愚痴くらい聞くし、見てられない。 「しょうがないか…兄貴が悪いんだからな」 こっそり呟いて、ドアを閉めた。 ぐちぐち悩んでることが、一度リセットしたら割と簡単に答えが出せたなんて、よくあることだ。 「30分悩んで答えが出なかったら明日やれ」とか、有名な開発者も言ってることだしな。 寝た程度で兄貴がリセットできないことなんて知ってる。 だから。 「兄貴ー、風呂入ろうぜー」 「…は?」 まずは芯まで温まってもらわないとな。 「…なんで、いきなり風呂なんだ?」 ペンを置き、眉根を寄せて俺を睨んだ。 「だってさ、もう4日目だぜ、兄貴が篭ってるの。もう我慢の限界」 ぎゅうーっと抱きしめようとすると、手で払われた。 「兄貴…?」 「最近シャワー浴びてるだけだから、抱きしめるのはやめとけ」 そういって、苦笑いした。 「じゃあ、なおさらだ。沸かしたから入ろう」 「…なんでそんなことするんだよ」 「もう4日そんなことしてたら、思いつくものも思いつかないって。一旦リセット。風呂は心の洗濯っていうだろ?」 笑顔で言ってやると。兄貴は困ったような、仕方ないとでも言いたげな、そんな笑みを浮かべた。 「心の洗濯か、お前も言うな」 「ま、友達の受け売りなんだけどな。一度さっぱりして、それからやるのも悪くないぜ」 「…それって、お前も入るのか?」 「もちろん」 「……」 どうやら、意味がわかってきたらしい。 もう一度確認すると、俺と兄貴は恋人で、ベッドで二人で過ごしたのは2度ほどだ。 それくらいの関係。 つかず離れず。恋人としては、理想なほど近くて心地よい距離感。 そんな二人が一緒に風呂に入る。まぁ、予想はつくよな。 兄貴はしばらくゆっくりと瞬きを繰り返すと。 「じゃあ、入るか」 そういって、少しだけ笑った。 「そうこなくっちゃ」 ちょうどよく最近風呂場は改装したばかりで、多少広さがある。高校生二人で入っても多少余裕があるくらい。 母ちゃん様様だ。 ◆ ◆ ◆ 豪が僕を抱くときは、鍵を開ける感覚に似ている。 音はしない。理性とか、羞恥とか、そういう形の無いものを一つ一つ崩して、素のままの自分をこじ開けてくる。 そういうときの自分は、頭の中が何もかもぶっ飛んでて、豪しか入ってこなくなる。 視界も、心も、身体も。 ただ、豪に手を伸ばし、求めて、受け入れて、また求めて、狂おしいくらい揺さぶられて、恍惚に支配される。 信じられないくらい、豪でいっぱいになる。 その感覚は、言葉では現せない。歓喜と、幸福と、苦痛と、憎悪と。持ちうる感情総てを開放すると、おそらくあんな感じになるのだろう。 自分の白濁で豪を濡らして、豪の白濁を自らの中に飲み込んで、同性のはずなのに、兄弟のはずなのに。なんて疑問すら蹴散らして、絶頂に達するあの瞬間を、忘れられるはずがない。 ただ、終わった後に、少しだけ罪悪感が残る。 豪を自分だけのものにして、こんなに汚して。苦しくなる。 そんな、記憶が戻るようにして訪れる後悔を、豪は優しく抱きとめた。 だけど、その優しさに慣れてしまわないように。傲慢になってしまわないように。 僕はその温かさを、ずっと奥底に閉じ込めておくことにした。 ずっといられるはずがないのだから。 いつか、別れは来るのだから。そのときに、女々しく引き止めないために。 だけど。 自分を追い詰めて、限界まで別のことをしていても、豪はそれを引き戻す。 温かい腕に抱きとめられたら、正気を保っていられるかわからない。 わからないけど、1つ言えるのは、豪をそれくらい求めている、ということだ。 言ってなんかやらないけど。 なのに、なんでこんな場所で二人きりになってしまうんだろう。 裸体で浴槽に、二人で向き合っていたりなんかしたら。 「…烈兄貴?」 なんだか、自分のほうが煽られてしまいそうだ。 豪はというと、前髪も後ろ髪もびしょびしょで珍しくオールバックだ。 たまにこっちを見てなんだか意味深な笑みをしてくる。 「…なんでもない。したいならさっさとしろ」 風呂でこうしているってことは、3回目が今から行われるってことだ。 欲求不満だっていうなら仕方ない。あいにくと、恋人と認めてしまってるのだ。豪も。僕も。 「つれないなぁ…」 「仕方ないだろ…さすがに、風呂でやるだなんて、はじめてだからな…」 「あったかくていいだろ?」 「ちょっと、心もとない」 準備も何も、最初から無防備な状態なんだから。 湯船から腕を出して、手を伸ばす。こうなったら、とことんやってやるまでだ。 「こっちに来い」 「うん」 豪を抱きしめた瞬間には、唇をも塞がれていた。ゆっくりと口を開け、戯れに舌を遊ばせる。 ねとねとしてるはずのその舌は、豪のものと思うと、別物のように思う。 息が苦しくなるのも構わずに、目を閉じて、その感覚だけを感じ取る。十分に絡ませて離せば、潤んだ青い瞳が見えた。 「…ずいぶん、上手くなったじゃねーか」 「お前のせいだろ」 「違いないな」 苦笑して見せると、豪も笑って見せる。狭い浴槽の中で交わす口付けっていうのは、ベッドの中とはまた違う感覚がする。 毛布の代わりに、体温に馴染んだお湯を。そのおかげで、身体が自然と上気して、二重にのぼせ上がってしまう。 とろんした目に、眠りそうになる。 「こら、烈兄貴。寝るにはまだ早いって」 「悪い。つい…」 気持ちよくてたまらない。寝てしまうにはもったいないけれど、まどろんでしまう。 何度か触れるだけのキスを繰り返して、ようやく、意識が戻ってくる。 「なんだか、新鮮な感じがするな」 「そうだな」 今から禁断の行為だっていうのに、なぜか豪も僕も落ち着いていた。 慣れなのか、余裕なのか。それとも、完全に心を許している故か。 「いつもだと、一回兄貴をいかせてるんだけど、どうしよっか?」 「今日は俺がやってやろうか?」 「烈兄貴が?」 「…たまには、いいだろ?それにな…、出すほうの苦労もたまには味わえ」 「え…?」 「いろいろ悩むんだぞ、それを教えてやる」 「じゃ、教えてもらおっかな」 本当はすっごく恥ずかしいのだけど、もうどうってことはない。 何度もしてもらったことはある。だから、大丈夫だ。怖くない。そう自分に言い聞かせた。 シャワーが降り注ぐなか、豪のものに指を絡ませ、くすぐるように扱く。 元から濡れてて、さらに透明な液が先端から染み出していた。湯気の中でそれは茫洋として見える。 「…気持ちいい、のか?」 「うん、すっごく。もっとやって」 「ああ…」 曖昧な返答で答えただけ。まるで意識が半分持っていかれたみたいに、豪のものを両手で揉みほぐす。 けれども柔らかくなどならない。ますます大きく、硬くなっていって、時折震えが起こるたびに、豪からため息が漏れた。 豪の指が、髪に絡む。梳くように撫でで、頬に触れる。 「なぁ、烈兄貴…」 「ん?」 「舐めてくれる?」 「舐めるのか?」 「俺は、いつもそうしてる」 そのとおりだ。確かに、豪は僕のものを口に含んで舐めまわす。ひくひくと震えて限界を訴えても、豪は止めてはくれない。 結果、やってくる選択肢にどうしようもなくて、僕は一度心の中で悲鳴をあげてる。 それを、豪にも味あわせてやる。 「わかった」 すっかり大きくなってて、口に含めるかどうかもわからなかったけれど、ゆっくりと、口の中に飲み込んだ。 「んっ…」 豪が感じたのか、微かにたじろいだ。 唾液を絡ませて音を立てるなんて、器用なことなどできない。動くスペースなどほとんどない舌を、僅かに動かして、熱さをすくい取った。 「…あ、あっ……」 出したり、入れたりするたびに、豪から呻き声と快楽に浸る音が、シャワーの音に混じった。 すっかり腰についてしまいそうなほど反り返っても、まだ僕はそれをやめようとはしない。豪をいかせなかれば意味がない。 「や、もう、…いい、からっ……!やめっ……あ…」 そろそろ、豪にも限界が来たらしい。さらに舌を動かし、さらに指で、その奥にある柔らかいひだまでも触れて、さらに豪を追い詰める。 僕は確かに受け入れる側にあるけれど、今の主導権は僕が握っていた。 「…やっ…れ、れつあに…き……やめ…ん…だし…ああっ」 恍惚と苦痛に顔をゆがめて、呼吸が不安定になる。 苦しいだろ?豪。 この状態で出してしまえば、僕は豪の精液を飲むか、体に掛けられるかのどちらかしかない。 どちらにしろ恥ずかしいのは出してしまったほうだ。 こんな戸惑いと焦りを、豪にしてもらうたびに味わってきたんだ。少しは思い知るといい。 「あ、ああっ……」 戸惑いの声が、悲鳴じみたかすれ声に変わった。 ひくひくと口の中のものが激しく震えている。解放の時は、もうすぐそこまできていた。 (……かけさせるか) そう思って、口をはなした瞬間だった。 「…っ……」 ぴしゅ、と頬から口にかけて、温かい何かが降りかかった。 「はっ……はっ…」 荒い呼吸で、豪が虚ろな目を天井に向けていた。豪が無理やりいかされたのは、たぶん、これが初めてなんだろう。 唇にかかった白濁に触れて、少しだけなめてみた。 「…苦い……」 まぁ、精液だし、しょうがない。 「豪…大丈夫か?」 「烈兄貴…」 シャワーを止めて近づいてみると、豪はとたんに真っ赤な顔をした。 「ご、ごめん、烈兄貴…!抑えられなくって…!」 「ああ…」 そういえば、洗い流してなかった。 「どうだ?いかされた感想は?」 「…気持ちいいけど…烈兄貴のそれはやばい…って……」 ちらちら僕を見ては、眼をそらしていた。 「それ、って…あ…」 「…ご、ごめん」 手をふと当てると、べたべたしたものが頬についていた。シャワーでもこの部分は流せなかったんだろう。 顔射ってやつか…とぼんやり思いながらも、べろりと舐めとった。 「あ、兄貴っ…!」 「どうだ?いかされて自分のものをぶっかけられた相手を見た感想は」 「う…」 「気持ちいいんだけど、恥ずかしいだろ」 「う、うん…」 シャワーを再び出すもの少々面倒なので、そのまま猫みたいに手の甲を舐める。 苦いのだけど、まぁ初めてではない味なので2,3度舐めていると、急にその手首を握られた。 「兄貴…もしかして誘ってる?」 「…かもな」 自分でも、よくわからなかった。抱かれたいと思っているのか。曖昧で、ぼんやりと豪を見ていた。 まだ灼熱感も高揚感も実感が沸かず、育ち始める自分自身のものでさえ、なんだか自分のものではないような感覚。 「そんな風に誘われると、俺、兄貴をめちゃくちゃにするよ?」 「…それは、嫌だな」 「嘘ばっかり」 「嘘じゃない」 「嘘だ。じゃあなんで兄貴のこれはこんなになってるの?」 「んっ…」 不意に握られて、微かに全身が震えた。 正面から抱きしめられて、身動きが取れない。それなのに、豪の腕が背中から腰に、腰からさらに下へ伸びてくる。 「う…」 まさぐるように、入り口を擽られて、何かにすがりつきたいものの、しがみつくものがない。豪の身体を、強く抱きしめることしかできない。 「入れるな」 「…う、ぁ…はぁっ…」 入り口からゆっくりと長い指が食いこんでくる。 「あ、ああ…」 ほんの数センチ、身体の中に入れられただけで、がくがくと震えている。 お腹のあたりに、硬いものが当たって、それが豪のものだとわかるのはすぐだった。 「う、あ…」 すでに2回、ここは限界まで開かれたことがある。けれども、もともとそんな器官ではないゆえ抵抗も大きく、唯一の救いといえば豪も僕も、全身濡れているということだ。 抵抗を和らげるには不十分かもしれないそれも、何度も何度も内壁を擦られていくうちに、抵抗そのものが無くなっていく。 「ご、ごう…!」 「兄貴、いま指が何本入ってるかわかる?」 謎々でもかけるよな口調で、問いかけた。 「そ、そんな…」 「じゃ、ヒント」 「うあっ…、はっ…」 一本、また一本と、身体の中で触れる場所が変わっていく。豪の奴、僕の中で指を順番に折っている。 「ひうっ…」 「…わかった?」 「…さ、さんぼん…」 「正解」 「この…!」 「兄貴、わかる?中に、指が三本も…兄貴は俺にすごく感じてるんだよ」 そんなこと言われてもわからない。身体が勝手に受け入れてるだけなのか。 それとも、僕自身が望んで受け入れてるのか。 心臓の鼓動がいつもより速い。今から、豪の全部を受け入れることになる。 初めてじゃないはずなのに。初めてのようにどきどきしている。 「もう、いいかな」 入り口をかき回されてとろとろになったころ、ようやく指が離れた。 「はっ…はっ……」 僕自身ですら、しっかりとたち上がってしまっている。鼓動の音が、頭から離れない。 「兄貴を、抱くからな。悩み事、全部ぶっ飛ばしてやるよ」 「豪…」 涙かお湯かでわからないが、潤んでしまった目で、豪を見上げた。 豪は、呆然としてる。そんな表情すら、愛しいと思ってしまう。 「兄貴…?」 「僕は…豪に欲情してる、んだな…」 自分のことなのに、まるで、他人事のような口調だった。 「お前が、こんなに近くにいる。もっと、触りたいとか…そんなことばっかり考えるんだ。おかしいよな…お前は…僕の弟なのに」 「烈兄貴…」 「こんな兄貴で、本当にいいのか?お前を、幻滅させるだけだぞ?」 そういって、少しだけ笑った。 豪はきょとん、とした表情で僕を見て、そして。 「あったりめーだろ?兄貴は、どんなことをしてても俺の兄貴で、恋人。どんなに兄貴が狂ったって、俺が一緒に狂ってやるからさ」 そういって、笑ってくれた。 「豪…」 「だから、入れてください、って言ってみな?」 「っつ…!」 最後の最後までこれか。でも、引き下がってなんかやらない。 「…入れてやる」 「へ?」 「僕の中に、お前を入れてやる」 「……烈兄貴…」 「もういい、黙れ」 こんなこと言うのは、恥ずかしくて仕方がないんだ。 確かに、僕が受け入れるけれど、お願いなんて真っ平ごめんだ。豪に狂っていても、それは譲らない。 僕が豪に溺れてしまったように、豪もまた、僕に溺れていることを知っているから。 だから、力関係はいつだって対等でいたい。 恋愛だって、兄弟だって、一人ではできないんだから。 ◆ ◆ ◆ 兄貴の身体は、綺麗だった。 そりゃ風呂入ってるんだから、綺麗だっていえばそうなんだけど。 不安定に息を吐いて、一気に吸って、俺を受け止めようとする姿は、それだけで頭がくらくらする。 ぐっと自分のものを食い込ませて、びく、と兄貴の身体が震えた。 「う、あ…」 「…痛い?」 「う……」 3回目だっていうのに、身体にはまだ痛みが伴う。痛いというより、苦しくてきつい、と前に兄貴は言ってた。 こっちだってきついけど、あともうちょっとで全部入る。 「…ぜんぶ、はいった」 「……う…ごう…」 荒い呼吸を繰り変えずばかり。時折ぼんやりと瞳を開けて、もう俺のことさえ視界に入っているのかわからない。 柔らかい肉が震えて、俺を締め上げてくるけれど、たぶん兄貴は無意識だ。 このまま押さえつけて、めちゃくちゃに突き上げて悲鳴をあげさせるのもいい。けれど、それはもう2度やった。 「ちょっと動くな」 「っつ…あっ…」 体をつなげたまま、胸まで密着させて、隙間なく抱き合った。 兄貴の顔が、限界まで近付いている。 「烈兄貴、俺が見える?」 「豪…」 快楽で光をなくしたように薄らいだ眼が、しっかりと、俺をとらえた。 「苦しい?」 「…大丈夫、だ……なんかじんじんするけど…」 「そりゃ、まぁそうだろうな……気持ちいい?」 「…まだ、よくわからない……でも……すごく熱い」 「兄貴の中は、いつもあったかいな」 「当たり前だろ」 そう言って、兄貴は少しだけ笑った。だらりと床に触れるだけだった腕をのばして、俺の首に回してくれる。 「烈兄貴…」 「…こういうときは、その言い方はやめておけ」 「え…」 「お前の、好きなように、呼んでいい。こんなことしてるんだ。俺たちは…血の繋がり以上に繋がってる」 兄弟であるが故に、触れられなかった。実の兄だったから。 思いを告げ、身体を繋げても、まだ俺は烈兄貴としか呼べなかった。 いきなり呼んでいんだろうかとか、いろいろ戸惑いがあったから。 今俺が繋げているのは、烈兄貴だけど、だけど…それ以上に。 「…れ、つ……」 「ん、なんだ?」 苦しいはずなのに、それなのに、そんなことを微塵も見せずに、烈は唇をぺろりと舐めるような、口付けをした。 「れつ…れつっ、れつっ……」 誰だってそう呼ぶはずなのに。自分だけはその言葉が特別な響きに思えた。 子供みたいに、何度も名前を繰り返して呼んで。そうするたびに、口付けを繰り返して。 自分自身を烈の中に沈めていることも半ば忘れて、抱きしめあった。 「…っ…」 ふと、兄貴が何かを感じたように震えた。 「…烈?」 「……」 苦笑しながら俺を見つめた。どうやら、兄貴の中でまた大きさを増してしまったらしい。 その間にも、柔らかな肉が締め付けて、びりびりとした快楽を生み出してくる。 「めちゃくちゃに、動いていい?動きたい」 「…壊れない程度になら」 「それも、ちょっと無理っぽい」 「そっか…」 今度は、少し困った顔をした。それでも表情は快楽に潤み、とろんとした目で、俺に身を委ねた。 「いいよ、動いても。気絶したら…ちゃんと後始末しておけよ」 「わかった。サンキューな」 二人で見つめあい、少しだけ笑って、舌をを触れ合わせた。 それが、合図だった。 「くっ…うう………うぁ…」 兄貴を揺さぶって翻弄するたびに、声が震えて返ってくる。 すっかり意識は吹っ飛んでいるんだろう。ただただ、快楽に翻弄され、それでも声だけは抑えようとする兄貴は、健気だったけれど、どこか嫌だった。 「声、もっと出してみたらどうだよ?」 「う、き、きこえるからっ…」 「じゃ、聞かせて」 「ああっ…」 胸の飾りを愛撫し、腰辺りをなぞっていくと、背をしならせて仰け反り、微かに涙が零れ落ちた。 もっと、感じてくれればいい。 そんな声の羞恥すら吹っ飛ぶくらいに、脳の隅々まで俺のことしか考えられなければいい。 「ご、ごうっ…」 「…なに?」 「さ……わっ、て」 そういって、かくんと首を振った。 「いいぜ…烈。お前は、俺だけのものだから」 こんなセリフ、ゲームくらいしか言うことないと思ってたんだけどな。 でも間違いなく、今この瞬間の烈は、俺だけのもの。 俺のことだけ考えて、俺のことだけ感じて。俺の身体に、快楽を与えてくれている。 「あ…いや…だ……くうっ…」 びくびくと震える烈のものから、透明な液体が溢れ出す。 「こんなに溢れてて。すっごく感じてるんだな……気持ちいいんだよな」 「ひあっ…!」 感情の暴走により声はほとんど意味を成していなかった。 ぬるぬるなった烈のものに指を絡ませ擦りつけ、解放させようと強制的に。 「う、やっ…ご、ごぉっ…うあっ…ひぃ…」 声は裏返っているのか、高くなる。濡れた髪を振り乱し、口の端から微かに唾液を零して、その眼は快楽におぼれていた。 同意のはずなのに、なぜか強姦しているような気持ちになってしまうのは、ここまで兄貴を堕としてしまったからだろうか。 いつも、みんなを支えてて、笑顔を振りまいて、頼れる「兄貴」だった星馬烈を、女のように抱いてしまったからか。 禁忌である、近親相姦までして。兄貴もそれは知っている。 全部知ってて、兄貴は受け入れている。だけど、ここまで乱れる兄貴を、俺は知らなかった。 混ぜこぜになった感情を振り切るように、俺は腰を振った。 兄貴のものの先端に爪を立て、精を吐くように強要する。 深く自身を突き刺して、抜いて、絶頂まで高めてゆく。 「…うぁ…ご…う……もう、…で……」 切れ切れに、兄貴が泣きながらそう言った。限界だと。 「…うぁっ…」 兄貴の中に包まれた俺が、大きく震えた。 解放される瞬間、ぴったりと身体を重ね合わせた。 包むように抱きしめて、俺自身、解き放たれた快楽に震えながらも、零れていく兄貴の涙を、ゆっくりと舌で拭った。 「ひ…ひぅ…ご……う…」 ひくん、と兄貴の身体が震える。それを繰り返している。あまりにも激しい快楽に、兄貴の意識がないのかあるのか見てわからなかった。 空ろに瞳を開け、こぼれる唾液も、腹にかかった精もそのままに。 「はぁっ…はぁっ……」 ようやく大人しくなった俺自身を引き抜くと、白濁がこぼれていった。 「れつ…?」 ゆっくりと、腕が伸びる。それに吸い寄せられるようにして、身体を抱きしめた。 「……っと、して」 微かな声で、囁いた。そうして、微笑んだ。 「大丈夫なのか?」 「…うん」 普段の兄貴では到底考えられない、お願いだった。 「じゃ、もっとやろうか」 「……」 言葉もなく、ただ身体を重ねた。 ◆ ◆ ◆ 「……」 水の、音がする。 ごぼごぼと絶え間ない。泡の音だ。目を閉じていてもわかる。すごく、温かい。 そうか。風呂に入っていたんだっけ。そして、たぶんうつらうつらとして、眠ってしまったんだ。 「……き」 いま、誰か僕を呼んだのだろうか。 「れ…にき」 声が、明瞭になっていく。知ってる声。泡の音にまぎれていても、はっきりと聞こえる。 「れつあにき」 そうだ。これは、豪の声だ。一番、大切な人の声だ。 「……う…ん…」 目を開けると、真正面に見えたのは、真新しい浴槽の蛇口だった。 浴槽には湯が張られており、ごぼごぼとジャグジーの音がする。さっきの泡の音は、これだったと悟った。 「気がついた?烈兄貴…」 「豪…」 豪は、僕の後ろで抱きしめるような格好で一緒に浴槽に浸かっていた。 お湯そのものは少し温い。それでも温かく感じたのは、豪がずっと背中にいたから。 「とりあえず身体洗って、風呂入れちゃったんだけど…」 そういってぎゅっと抱きしめた。 「…豪……?」 「あのまま、兄貴が目覚めないんじゃないかって思って…すごく不安だった」 「お前…」 「…ごめん……」 首に腕を回して、ぎゅっと抱きしめてくれる。 相当激しくやったんだろうな…。僕が記憶に残っているのは、豪の上にまたがって跳ねて絶頂に押し上げられたときだ。 まだ、身体がしびれてる感じがする。 「大丈夫だって、ちゃんと目開いてるぞ」 「うん…」 まったく、後悔するなら最初からそこまでしなきゃいいのに。 結構こっちも大変なんだからな。 「ま、おかげで悩み事は吹っ飛んだし。またリセットすればいいか…」 「ホント?」 「ああ、だけど…風邪引きそう」 「あ…」 お湯、ちょっと温すぎる。 「まぁ、いいか」 「まぁ、いいよな」 未来なんてない。この禁忌の感情を、それでも楽しんでいる自分がいた。 それは、相手が豪だったから。 「なぁ、豪」 「ん?」 「いつまでくっついてる気なんだよ?」 「ん〜、いつまでにしようかな?」 「このっ…」 「うわっ」 お湯を手でぶっけかて、やっと豪の手が離れた。 それが名残惜しいのは、僕だけの秘密だ。 |
1回濡れた状態でのあれがやってみたかった。というもの。
浴槽迷宮といっているが浴槽には最後しかいってない。
兄弟の家の関係上、風呂場のほうが後始末楽なんじゃないだろうか。。