スペルマの海に墜つ

 かつて務めていた役職の名前を、夕菜は思い出せなくなっていた。かわりに彼女は愛する主人の精液の味を覚えこまされていた。
 もう、主人の男根のことが頭から離れない。
 その日も彼女は椅子に座る主人の股ぐらに顔を埋め、むしゃぶりつくように男根をしゃぶっている。
 キャリアウーマン特有のシャープな顔立ちに、それを際立たせている高圧的な縁なし眼鏡。しかし今そのレンズの向こうに映る彼女のつり目はうっとりとほころんでいた。その瞳はファラチオを見て嬉しそうに微笑む主人に向けられている。
 夕菜には、主人が喜んでいるのがまるで自分のことのように嬉しくてたまらない。
 彼と会うまで、彼女はそんな気持ちを体験したことがなかった。
 そもそも二十七才にして才能を認められて会社の重要な役職に就いていた夕菜は、むしろ男性に対して対抗心を抱いていた。男が大半を占める職場の中で人より上に立ち、なおかつさらに上を目指すべく異性のライバルを牽制している立場では、そういった意識を抱くのも当然である。
 そんな夕菜がそれほど歳の違わぬこの主人との出会いは、レイプだった。
 女子トイレにいたところをそのまま押し倒され、荒々しく処女を犯された。肉裂けたような破瓜の痛みに苛まれたのに、夕菜はその時生まれて始めてアクメに達してしまった。それを祝うかのように精液の雨が彼女の乱れた制服に降り注いだ時、夕菜は性の快楽に目覚めてしまった。
 あとは蟻地獄に嵌まった蟻のように溺れていった。何度も何度も主人の逞しい男根に膣壁を抉られ、肛門を貫かれ、口を弄ばれ、胸を漁られた。さらに主人は夕菜に自分のことを「御主人様」と呼ぶように躾け、「お前は俺のチンポにアヘアヘ嬉しそうによがる牝犬だ」と執拗に蔑み続けた。
 その都度、夕菜は何度も何度も絶頂を味わい、余韻に溺れて痙攣する体に主人の精液を浴びた。そんな彼女を、主人はいつも嬉しそうに見つめていた。
 かくして夕菜のプライドは心地の良い音をたてて壊れていった。屈辱も苦痛も敗北感も、彼女の中でセックスの性感に生まれ変わる。快楽で得た幸福感は、そのまま主人への感謝となる。ついには、彼女自ら裸となって主人の男根にひざま付き、マゾヒスティックに調教を志願するようになった。
 最初はいやいややっていたフェラチオも、今ではその舌に主人の男根の形状を覚え込ませるまでになっていた。
(ああ、どんどん熱くなってくる、御主人様のおチンポ……)
 夕菜は興奮に胸を高鳴らせてさらに首を前後に激しく振り立てる。じゅっぽ、じゅっぽと彼女のねちっこい涎の音。それが気になるのか、ときおり夕菜は主人の男根ごと大きな音を立てて涎を啜る。それでもむしゃぶりつく時の涎の音は消えることがない。
 主人の男根の味が愛しくて、美味しくてたまらないのだ。そこからいずれ自分の喉めがけて吹き出すだろう精液のことも考えると、夕菜はますます涎を沸き立たせてしまう。
 彼女の細い指は主人の男根の根元やふぐりを優しくいじらしく撫で回す。
(御主人様ったら、こんなに袋をピクピクさせてる……。そんなに私をじらさないで、一思いにその中身を私の中に……)
 喉奥深く主人の男根を頬張りながら、夕菜の指はふぐりの裏をくすぐる。
「おお、いいぞ夕菜。お前の大好物のスペルマ、どくどく出してやるからな」
 歓喜の声を上げながら、主人はがっちり硬い腹筋に力を入れ、男根の硬度を増す。それは夕菜にとっては甘美なサインであった。
(早くっ、早く――!)
 さらに夕菜は主人の股に顔を埋め、両腕を彼の腰にまわす。柔らかい脇でやさしく挟み込んで。
「おおお、出るっ、出るっうっ!」
 主人の腰がビクンと跳ねる。
 男根はそれ以上に弾んで、はち切れんばかりに膨らんだ亀頭の先から勢い良く精液を噴き出した。
 一滴こぼすことなく、夕菜なそれを口の奥で受け止める。しかしそのまま喉に流し込むようなことはせず、むしろ喉奥で引っ掛けるように精液を口の中に溜めていく。とめどなく放出される精液を男根の根元から絞り出すように唇に力を入れてゆっくりと吸い出しながら、一方で口に溜め込んだ精液の中に舌を泳がせてその味を楽しむ。
(今日の御主人様の精液も、凄く濃くて熱い……舌がとろけそう)
 男根を尿道の中に溜まる最後の一滴まで出し切ると、吸い付きながら男根を口から出し、一歩後ろに退いてくいっと顎を上に向ける。
「くはあっ」
 口に溜めた精液のせいで湿っぽい息を漏らし、夕菜は半開きの唇の奥で舌を動かす。精液を捏ね上げ、自分の甘い吐息とかき混ぜるかのように。
 射精後のけだるさの中で、主人は両膝ついた夕菜の裸体を舐め上げるように見つめる。スレンダーでありながら肉感のある彼女の体に絶妙なバランスを保った大きな乳は、その先をつんと斜め上に固く勃起させている。興奮させているのはそればかりではない、一本一本丁寧に整えられた陰毛もどこか熱っぽく湿っているように見える。
 ときおりちゅぷちゅぷと音をたてて、口の精液を存分に転がしたあと、ようやく顎を引いて口を閉じる。きゅっと唇に力を入れ、口をすすぐ要領でぐちゅぐちゅと精液を暴れさせると、ようやく夕菜はそれを嚥下する。
「ん……うんっ、んはあぁっ……」
 精液を飲み下した後の夕菜は、その体からむんと色気を薫り立たせた。
「今日も御主人様の精液、とても濃くて美味しかったです」
「本当にうまそうにスペルマ飲むよな、夕菜は」
(なぜなら、もうあなたのことに夢中だからです、御主人様)
 想いを言葉にせず、痴態で見せる。夕菜はしおれはじめた主人の男根に再び舌を這わせはじめる。
「おいおい、まだ飲み足りないのか?」
 その問いに夕菜は首を横に振る。
「……御主人様のおチンポが愛おしいだけです」
 そうとだけ言って、今度は自分の巨乳に挟み込んで包み込むと、ゆっくり上下に動かしはじめる。
 彼女の胸の柔らかさを堪能しつつも、主人は意外そうな顔をする。
「自分からパイズリするだなんて、初めてじゃないか?」
 夕菜は何も言わずに、目を伏せていわくありげな照れ笑いの表情浮かべるだけだった。
「何か俺に頼みごとでもあるのか?」
 さっき射精したばかりだというのに、主人の肉銛が再び大きく膨らんで長く伸び始めている。そして熱く燃え盛る。
「御主人様、私はもう、このおチンポの虜です。一生御主人様から離れられません」
 目ばかりでなく、声までもが主人の肉銛にとろけてしまっているかのようであった。胸寄せる両手も、もっと乳房の谷間でその熱を包み込みたいばかりに力が入る。
「考えることはみんな御主人様とのエッチのことばかり。昼も夜も私のアソコがおチンポでズンズンされてるみたいで、いつもたまらなくなるんです。もう以前みたいに仕事できなくなって……数日前に辞表を……」
「数日前って、いつだ?」
「もう私のいやらしい頭は日にちの感覚もないんです……もう私、御主人様の言う通り、すっかり牝になってしまいました……」
 夕菜はたまらなくなって、主人の亀頭にそっと唇を寄せてキスをする。
「ふっ、じゃあ俺が望めばお前はずっと側にいれるということだな……それはそれでうれしいことだ。しかしそんな報告をしたくて自分からパイズリしているわけじゃないだろう」
「……はい」
 それは消え入りそうな返事であった。
(セックス中でも返事ははっきりと、と御主人様に言われてるのに、私……もう体か火照って……)
 男の肉銛に甘く深い吐息をかけて、それでもなお彼女は言う勇気が出ない。
 しかしいずれは言わなければならないことである。だから夕菜は務めていた会社を辞めたのだ。
 あれこれと言葉を考えて、夕菜は意を決して言った。
「御主人様。私を、私を完全に御主人様のものにしてください! ……私、私もう今のような中途半端な関係では我慢できないんです!
 お願いです……結婚して下さい。一生私を牝の虜として可愛がって下さい」
 主人の顔を見ながらであったが、最後には恥じらいのあまりうつむいてしまった。
(――言っちゃった、ついに……)
 何一つ身につけない夕菜の体が胎内からカッと火照る。そればかりでなく、秘唇に熱くぬらぬらとした愛液が沸き出してくるのも感じた。思わずこぼれ出てくるのではないかと胸から離した片手を股間に当てた程だ。
 しかしそれとはうらはらに、夕菜の心中に不安が煙のように立ち篭める。これでもし断られたら、自分は一体どうなってしまうのだろう?
(……でも、捨てられるのはいや。御主人様を体に感じながら一人でいるなんて、絶対いや)
 考えれば考えるほど、ますます夕菜は不安に苛まれる。
 たまらず盗み見ると、主人は全くの無表情で黙ったままだ。
 喜んでいなくてもいいから、せめて軽蔑した顔でもして欲しかった。
「やっぱりこんないやらしいヘンタイ女は、いやですか……?」
 たまらなくなって、夕菜は目にじわりと涙を溜める。
「いいや、アソコからスケベ汁垂らした夕菜は可愛いよ」
 そう言われて思わず夕菜は股間を押さえる手に力を入れてしまった。ねっとりとした愛液が絞り出されてピュピュッと吹き出る。
「それに、今では俺の自慢の牝だ」
 たまらぬ思いに肩をすくめている夕菜の頭を、主人は嬉しそうに微笑みながら優しく撫でる。
「驚きだよ。いつも職場で男に冷たい視線しかくれてなかったお前が、今俺のスペルマおいしそうに飲んで『結婚して下さい』だもんな」
 それから、突然彼は夕菜の前髪を鷲掴みにして、彼女の顔をぐいと自分のそそり立つ肉銛に引き寄せる。
「俺から命令してやる。お前は俺の奴隷妻としてその一生を捧げろ。絶対服従を誓うんだ。いいな!」
「あ……あ」
 掴まれて荒々しく引き回された前髪の痛さなど気にならなかった。夕菜は主人にプロポーズされた喜びでときめく心を爆発させた。とめどなくこぼれる涙に、心底から喜ぶ表情。
「は……はい! ありがとうございます。私、私……御主人様と一緒にいられるなら、とても嬉しいですっ!」
「では早速心を込めて奉仕するんだ。パイズリでな」
「はいっ!」
 ばくばくと高鳴る胸の谷間に主人の男根を沈め、周りを巨乳の柔肉で包み込む。はみ出た亀頭の先に舌を伸ばしながら、両膝立ちの夕菜は体を前後に悩ましく揺する。
 甘い息が弾み、爆発寸前の赤々とした銛先にリズムよく吹きかかる。
「……その顔で、受け止めろ!」
 そう言い放って、主人は夕菜の顔めがけて精液を打つ。打ち続ける。とめどなく打ちたくる。
 みる間に夕菜の顔は白濁とした粘っこい液に包まれる。角々しいデザインの眼鏡もその表裏を精液でねっとりと穢され、青臭い香りが彼女の鼻腔をじわじわと征服していく。
 これからずっと主人の側にいられるという安堵と完全に自分が主人の虜になった喜びが極まって、彼女の表情はすっかり恍惚としていた。
「ごひゅじんしゃま……はぁあ、御主人様ぁ……」
 唇にまとわりついた精液を舌で舐めとり、うわ言のように呟く夕菜の声もほのかに精液の匂いを含んでいた。

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