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Autumn Night (ver. L)

〜beginning〜

一族の商売はまずまずだ。
王子暗殺には失敗したものの、その後もちらほらと依頼は舞いこんできて、僕は必ずと言って良いほどかりだされた。
仕事がないときは子供達の相手だ。僕は木刀で程良くあしらってやるだけだが、向こうは真剣を手に本気で斬りかかってくるから、一歩間違えれば怪我をする。
腕がなまる暇などはなく、むしろ一層、手際が良くなった。
ただ、人を殺めるとは決まって、脳裏で濃茶の髪が悲しげに揺れて、それだけは僕を悩ませた。
今夜もあれを見るのだろうか――丘の上から屋敷の様子を窺いながら、小さく息をついた。
姫……僕は相変わらず、こんなことをしているよ……。
「帰って早々、あのオッサンもお盛んだねー」
地面から大欠伸が聞こえてきた。
屋敷中が寝静まるのを待ち始めてから、予想以上の時間が過ぎている。ジーンはずいぶん前に、草むらに転がってしまった。
「なるべく女が一緒のところをって指示だ。好都合だろう? 寝たらおいていくからな」
「へぇへぇ。しっかし浮気なんてするもんじゃないねぇ」
難儀そうに身体を起こす相棒を、冷ややかな気持ちで見おろす。お前のは浮気以前の問題だろう、と胸の内で毒づいた。
「そういやリオウ、近々またあれ、やるらしいぜ」
あれ、とは……? こちらに向けられた眠たげな目に、無言で問いかえす。
「王族暗殺。今度は二人ともって話だ」
つかのま、息を止めた。瞬きを含めた、一切の動作を止めた。不用意な反応を見せないため、わざと己を凍らせた。多少の間が空いてしまうのは、この際、仕方がない。
「……王女もか」
「依頼人が焦れてるらしくってな。お姫さんも殺っちまわないと、報酬を削られるんじゃねーかって、心配してるやつがいンのよ」
姫はご機嫌取りのためのおまけか。不快感を紛らわすように溜息をついた。
「誰が行くんだ?」
「関係ないやつに話すわけねーじゃん」
「そうだな。……警備の様子も知っているし、あの二人なら、僕一人で……」
「あー、一人じゃねーんだ」
「なんだ、お前も来るのか?」
「オレじゃねぇ。例の愚図坊だ」
「愚図坊? 冗談だろう?」
「いンや。もう話はついてる」
「ちょっと待ってくれ……長老達はそれでうまくいくと思っているのか?」
「お前がいりゃなんとかなるってことじゃん? 今回は別に、人前で派手にやれってワケじゃねーし。長老達の間にも、いろいろあんだよ」
なんだそれは……。思わず額に手を当てた。ジーンの楽しそうな視線が、ちくちくと突き刺さるのを感じる。
「で、依頼人が誰か、聞かねーのか?」
油断していた。唐突な質問に、頬をこわばらせてしまった。
気づかれたか……? ――さりげない動きで、ジーンに視線を戻す。
僕を見上げてくる目はいつも通りで――考えを読みとれない。
「……とうとう話したくなったのか?」
そんなはずはない、と思いながら、適当な返事で様子を窺う。
案の定、ジーンはのらりくらりと言葉をつなぎはじめた。核心に触れようとしない。
こいつに一度でも依頼人のことを聞こうとしたのは軽率だった。
建国祭前夜の一件を考えれば、大失態だったとさえ言える。
姫はどうだったかと、まるで食べ物の味を尋ねるような口調で聞かれたこともあった。間違いない。僕が依頼人を知りたがる理由を、こいつはすでに、姫と結びつけている。
こんな話題は、さっさと切り上げるに限る。大仰に溜息をついて見せた。
「いいよ、知らなくて。今回は、依頼人が誰かってことより、あの愚図坊をどうやって王宮に連れて入るかのほうが大事みたいだ」
「ああ、それならオレが、いい案を長老達に話しておいた」
「いい案? お前が?」
「おう。お前は眠ってるだけでいいんだ。楽だろ?」
「……ますますやる気が削がれてきたよ」
どうせまともな案じゃない。さわりを聞いただけでぞっとする。そこへ、「長老達は乗り気だった」と駄目押しの一言。僕は……もしかして、死罪に処されようとしているのではないか?
士気は最悪の状態だったが、眼下の屋敷の様子に変化が生じた。ジーンも気づいたらしく、間の抜けた声をあげた。
今は、目先の任務だけを考えよう。
「話の続きは来年にしてくれ。行くぞ」
ジーンが立ちあがるのを待たずに、丘を駆けおりる。


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捏造の旋律

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