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Autumn Night (ver. L)

〜ongoing〜

『姫様! 起きていらしたのですね。申し訳ありません、ただ今、明かりを……!』
慌てふためく少年の声を背に、バルコニーをあとにした。
夕食時だったから、あまり姫と言葉を交わす時間はなかった。
それでも身体が軽い。滑稽なほど浮かれている。たいしたことは言えなかったのに。大切なことはなにも言えなかったのに。またもや彼女を泣かせてしまったのに。
ふと違和感を覚えて、目尻に指を滑らせた。まるで寝起きのように、じっとりした感触があった。
最悪だな……いったいいつからこんなだった? ――大声をあげて笑えたら、さぞ爽快だろうに。
平手で額を叩く。頭を振って浮ついた気分を追い払う。動作を付随させても気を静めきれない。重症だ――まだ信じられない、姫が、僕を……。
部外者が酩酊状態で歩きまわれるほど、王宮の警備は笊ではない。適当な闇を見つけて身体を押しこみ、冷たい夜風に望みを託す。
さて……あの馬鹿は、どうしてくれようかな。

城の裏手の雑木林に戻ったときには、夜もすっかり更けていた。
人の気配はあったが、構わず枯葉を踏みしめ、目的の場所へ向かう。がっしりした枝に手をかけ、上を目指す。落ちついてみれば空腹だった。若頭からの差し入れをありがたく頂戴するつもりだった。
「よお、ずいぶんゆっくりだったじゃねーの。すっきりした顔しちゃって、お姫さん、どー……っ」
気安く近づいてくるから、とりあえず拳を放つ。ついでに足を払う。片足で許してやるのは、万が一にもこんなところで死なれたら面倒だからだ。……機嫌がいいからというのも、多分にある。
「リオウちゃんっ……ま、マジでお怒り?」
包みを取りだしてから声がした方を見やると、ジーンは片足で枝にぶらさがって揺れていた。たてた物音の割には、ずいぶん下まで落ちたものだ。
「いやだってホラ、お姫さん、おまえにベタ惚れじゃん? ほっとくのもアレだなぁなんてさぁ……あ、そのパン、懐かしーだろ?」
僕は黙って枝に腰をおろす。ジーンはすぐには体勢を整えず、頭の巻き布を押さえながら喚き続ける。
拳こそかわしたものの、派手に落ちてみせた挙げ句、まるで劣勢の犬が腹を晒すように、無防備な状態を演出し続けている――ジーンは端から怒りのはけ口になるつもりで、待っていたのかもしれない。
「おまえだって、お姫さんのためって思った方が、やる気出るじゃんよ、ンな怒んなって」
「余計なことはするな」
懐から紙を取りだし、投げつけた。ジーンは両手を伸ばし、白布ごとそれを掴み取る。
「とある近衛兵の身上書だ。歳は僕らと同じくらい。左の脛に傷跡がある」
「おっ……さっすがリオウちゃん、実はもう見つけてるんじゃん……こいつの身体、ひん剥いて確かめたのか?」
「馬鹿なこと言うなら、あとはお前にやらせるぞ」
「いや待った、やっぱここは優秀な……」
「その身上書の裏をとってきてくれ。まだそいつと決まったわけじゃないからな。僕はもう少し王宮内を探る」
「いやだから待てって……」
「たいした作業じゃないだろう? 別に急がなくていい。王宮に上がってたかだか二年の下っ端だから、あまり害はないだろうし……担当もジペルディ家だし」
ジーンはげんなりした表情を崩さない。だが目だけは、わずかに真剣みを帯びた。くるりと上体を起こし、枝に腰をおろす。星明かりを受けようと、紙の位置や向きを調整し……やがて、やる気のなさそうな声で了解の意を表した。
「ああでも……少し外の空気も吸いたいな。若頭にもいい加減、挨拶した方がいいだろうし」
ジーンがこちらに目を向け、唇をすぼめる。口笛を吹きだしそうな勢いだ。
「もしかして、やる気満々ってかんじ? お姫さんは偉大だねえやっぱり。そんなに……」
「品のないことは言うなよ、ジーン」
言葉を封じても、下卑た笑声は漏れ聞こえてくる。なにを勘違いしているんだか……勝手にしろ。
もっとも、『やる気満々』なのは事実だ。姫は僕と会うことを望んでくれている。その望みに応えるなら、一族の注意を彼女から逸らしたい。さっさと計画を進めて、連中を混乱の渦に落としこむのがもっとも効果的だ。
ジーンは紙面に視線を戻す。
僕は木の葉の隙間から星を見上げる。
おやすみと、声に出さずに呟いた。
彼女の眠りが、穏やかなものになることを祈りながら。
その眠りに、幸せな夢が届くことを祈りながら。


―end―

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捏造の旋律

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