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Autumn Night (ver. P)

〜1〜

蒼黒の夜空に惹かれてバルコニーに出た。
自室からの明かりに背を向けると、目の前に広がるのは黒ずんだ木立ばかりだ。
あたりに人の気配は感じられない。窓辺が明るいのも私の部屋だけ。
カインはもう寝たのね。一週間、お疲れ様。
頬を風がなでていく。少し肌寒いかもしれない。
石造りの手摺りは、触れるとひんやりしていた。――今の私の心と、どちらが冷たいだろう。
夜空が黒みを増していく。見上げると、雲が月を覆い隠すところだった。
朝はきれいに晴れていたのに、あんな分厚い雲、いつのまに来ていたのだろう。
月明かりを遮られると、木々は輪郭さえ曖昧になった。でもそこにあると知っていれば、見えないことはない。
そこにいると知ってしまえば――見えなくても心は揺さぶられる。
「……リぉ…………ぅっ……」
ずっと一人になりたかった。
一人になって、こんなふうにしゃがみこんで泣きたかった。
今朝、話を聞いてからずっと、平静を装ってきた。
彼が捕らえられたと、牢につながれていると――信じたくない話だった。
面会は許されなかった。
誰もが、重罪人を私と関わらせたくないようだった。
詳細を尋ねても、取り調べが終わるまで待ってほしい、と繰りかえされるだけだった。
どんな状態で捕まったのかすら、教えてもらえなかった。
無事なのかしら?
無事でいられるのかしら?
従順にしなければ、間違いなく手荒い扱いを受ける。私なんかには想像もつかない方法で、自白を迫られる。
次期国王の命を狙ったのだから、当然のこと。首謀者を突きとめるためには、仕方のないこと。わかってる、でも……!
建国祭前夜のあれは、夢じゃなかった。
あの日、私が取引をのんでいたら、こんなことにはならなかったのかしら。
カインは危険な目に遭わず、リオウは王宮に残ってくれて、姉弟そろって宮廷楽士の彼のもとを訪ねていく――そんな日々が続いていたのかしら。
戻ってやり直したい。
イヤだと呟くだけじゃなくて、声を抑えて泣くだけじゃなくて。
せめて――会いたい。
大きく鼻をすすりあげた時だった。
自分のものではない呻き声と、ドサッという物音がした。
誰かいる? 下に落ちた?
目元と頬を手の甲で拭って立ちあがり、手摺りから身を乗りだして下を見た。
……暗すぎてなにもわからない。
明かりを持ってこないと――そう思って振り向いたのと、部屋からの光が遮られたのは、同時だった。
息を吸う、そんな当たり前のことさえできなかった。目の前に現れた人影の、正体に気付くまでは。
「……リオウ?」
雲が流れる。月明かりが蘇る。
黒髪のかかった目元が、頬が、口元が照らし出される。
無表情に私を見下ろすその顔は端正で、傷ひとつなくて。
「無事……」
みっともなく泣き出しそうになった。――と。
「こっちだ!」
「なっなんだこれは!」
「隊長を呼べ!」
下が慌ただしくなった。
次いですぐ近くで、乱暴に窓を開ける音。
「なんの騒ぎだ!」
カインがバルコニーに飛びだしてきた。
私は、誰を一番に守りたかったのだろう。とっさに、リオウを自分の部屋に押しこんでいた。
少し、抵抗する力があった。リオウはどこか、別の場所に身を隠すつもりだったらしい。
真っ向から視線を合わせて、絶対にダメだと意思表示をする。ここなら見つからない。
私が匿う。だからどこにも行ってはいけない、と。
そして、騒ぎに気付いたばかりのような顔で、もう一度バルコニーに出る。
「……なにかあったの?」
「姉上? 不審者が……落ちたらしい。行ってみるよ。姉上は絶対に部屋から出ないで」


不審者……落ちて……。
さっきのあれは……私のすぐそばだった……。
感情的になっている場合ではない。冷静に考えなくては。事態を、わかっていることを、整理しなくては。
静かに、ゆっくりと窓を閉めてから、部屋の中へと振り返った。
一瞬、リオウがそこにいなかったらどうしよう、と不安になったけれど、そんなことはなくて。
全身黒ずくめの彼は、さっきと同じ場所に立ったまま、冷ややかな目で私を見ていた。
捕らえられたと聞いたのに、どうやってここへ来たのだろう。脱獄? それとも捕らえられたのは別人?
なにをしに来たのだろう。狙いはやはり、カインと私? ならばあの不審者は?
私達を殺したいなら、なぜ今、動かないの? 私は彼を見てしまった。放っておくわけにはいかないはず。なによりこんなに無防備で、暗殺には絶好の機会。
なのになぜ……ただ黙って私を見ているの?
「……私達を、助けてくれたの?」
それは、さまざまな可能性がある中で、私が信じたいと思ったものでしかなかった。
返事はない。いくら待っても、リオウの唇は動かなかった。
呼吸の数を数えたくなるほどの間、黙ったまま見つめあって。
先に動いたのは、リオウだった。まるで置物を避けるかのように私の横を素通りしていく――バルコニーの方へと。
「待って」
リオウが足を止める。でもそれはたぶん、私の呼びかけに応えてくれたのではなく、窓が閉まっていたから。
振り向いてもくれない……拒絶されてる?
「……あなたはもう、私との取引を望んではくれないの?」
なんて大それたことを聞いているんだろう。口をついて出た言葉に、自分でおののいた。
でもそれ以外、引き留める術などあるだろうか。
……引き留める術になんて、なるのだろうか。
リオウが私を欲しいと言ったのは、何ヶ月も前のこと。
単なる詭弁だったのかもしれないのに。取引できるだけの価値を、本当に私に認めてくれているかもわからないのに。
リオウの頭が、わずかに動いた。振り向きかけたようにも、俯いただけのようにも見えた。
「……皮肉のつもりですか」
静かな声。滅多に聞くことのなかった、低くて、どこか悲しげな……久しぶりに聞くのが、そんな声だなんて。
「違う、そんなつもりじゃっ……私はっ……」
あなたにここにいてほしいから――それは、言ってはいけないことだったのだろうか。
まるで制止するかのように、背後でドアがノックされた。
「姫様、エミリオです。入っても……」
「待って! ちょっと待って!」
慌ててドアに駆けよって、ノブをつかんだ。
振り返ると、バルコニーへの窓は開いていた。そこにはもう、焦がれた人の姿はなかった。

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捏造の旋律

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