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Passionate Skiers

(Fate)

ベートーベンの「運命」で飛び起きた。
暗闇の中、枕元で携帯のランプが点滅している。
土曜日の午前一時――無遠慮にもほどがある。
「よおリオウ、スキー行かねぇ?」
応答してみれば、開口一番、やつはそう言った。聞こえてくる音声に、道路の雑音が混じっている。
「……いつ?」
「今!」
「却下」
返答を待たずに通話を打ちきった。……が。
――ピンポーン
十分と経たないうちに玄関のベルが鳴り響いた。
やっぱりこのパターンか……。ジーンのやつ、エントランスのオートロックは、いつもどうやって抜けてくるんだ?
――ピンポーン
「リオウちゃーん、あっそびーましょー」
あの馬鹿、こんな夜中に……! ――早足で廊下を進み、急いで玄関のドアを開けた。
「何時だと思ってるんだ。近所迷惑だぞ」
「大丈夫だって、リオウちゃんのマンション、壁厚いしー」
大丈夫なわけがない。こいつが調子に乗ると、まともなカラオケ部屋にぶちこんでも声が漏れる――マイクなしで。
気休めでしかないが、ひとまず部屋に上げることにした。身振りで入れと告げて、廊下へと退く。
「なんだもう荷物まとまってんじゃん。やる気満々だな」
ジーンの視線の先――廊下の片隅には、用具一式を詰めたスポーツバッグ。玄関には板も、すでに立てかけてある。
やる気満々と言うより、シーズン中はいつでも次の準備ができている。それを引っぱりだしてきただけのこと。
姫は昨日、家族旅行に出かけた。このタイミングでのジーンの誘いは、偶然ではないだろう。運命の音に叩き起こされた瞬間から、こうなる予感がしていた。
「嫌だって言ったら騒ぐくせに。僕はここが気に入ってるんだ。くだらないことで追い出されたくない」
「ここならいくら声をあげても大丈夫だよ、誰にも聞こえやしないからねってか? お姫さんも大変だねぇ。リオウちゃんのエッチ、ケダモノ」
「……おまえ……死ぬか?」
「わーちょっと待った冷静に冷静に! 雪山行って頭冷やそーぜ。そのストックだって、オレなんかよりさらっさらの雪に刺してやった方が喜ぶって」
「……さっさと行くぞ。仮眠の時間がなくなる」

マンション脇の路地に停めてあった冬仕様の車に荷物を積んで乗りこむ。
「場所は?」
「この前と一緒。例の『道なき道』、またやろーぜ」
「なにかあっても助けないからな」
「おまえこそ、お姫さんのマボロシふらふら追っかけて迷子ンなんなよ。ったく、二、三日会えねぇってだけですっげー……」
エンジンの始動音がジーンの言葉に被さる。わずかに遅れてスピーカーが喚きはじめる。
つまらないことを言われた。聞こえなかったことにしよう。
「僕は寝るよ。適当なところで交代する」
「なんだよつれねーな。せっかくあれこれ聞いてやろうと思ってたのに」
「はいはい運転よろしく」
姫への携帯メールを打ちこんで、下書き保存して目を閉じた。送信は朝になってからで十分だろう。長い一日が始まる。

―end?―

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捏造の旋律

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