ああやっぱりまたこの曲か……――今日初めて聞いたアルバムなのに、曲の終わり方で次にくるタイトルがわかるようになってしまった。
アルバムの所有者はもっと聞き飽きていたらしい。なにも言わずにパネルを操作してディスクを変えた。
流れだしたのは違うアーティストの曲だ。これまたジャカジャカうるさいが、同じものを繰りかえし聞かされるよりはいい。
「動かねーなぁ……」
「ああ……そうだな……」
BGMを変えても会話の内容は変わらない。
陽が傾くばかりで、周囲の景色がまったく変わらないからだ。
スキー帰りの高速道路。絶妙のタイミングで事故渋滞に巻きこまれてしまった。
「なぁリオウ、ハンドルみててくんねぇ?」
「え?」
「オレちょっとしょんべん」
「おい待て」
まともに制止する暇などなかった。
もう我慢できないという主旨の言葉をぎゃあぎゃあと喚きちらしながら、ドライバーはさっさと道路に出ていってしまった。
隣の車のカップルが、硬直した後、笑いだす。退屈を共有する者達にとって、ジーンのあれは良い余興だ。
僕も少々、堪えてはいるが、あいつほど切羽詰まってはいない。
馬鹿が……眠気覚ましだなんだとアイスコーヒーなんかをがぶ飲みするからだ。
三時間の仮眠で滑りまくったあとだから、眠いのはわかる。だが眠気覚ましがほしいなら、ガムでも唇でも噛んでいればいいのだ。
仕方なく、助手席から運転席へと横移動する。サイドブレーキとギアの状態を確認し、シートベルトを締めなおす。
今、いきなり車が流れ出したら面白いのに。次のパーキングまでは五キロ。せいぜい自分の足で走って、余分な水分を一滴残さず、汗で流してしまえ。
しかしこの大渋滞、姫がいたら大変だった。
女性はあまり我慢がきかないらしいし、ジーンのように最終手段に出るわけにもいかない。
選択の幅は狭まるけれど、やはりまた鉄道にしよう……晴天率高めで上級斜面少なめのスキー場、設備と食事がしっかりしている宿、できれば温泉つき……あらかた行き尽くしているが……その前に姫の希望を確認しないと……。
次の予定に考えを巡らせていると、前方車両のブレーキランプが点いたり消えたり、なにやら忙しなくなってきた。少し動きそうだ。
「おいてくぞ……」
投げやりに呟いたとき、助手席のドアがガチャリと開いて、塊が転がりこんでくる。
「いやー助かった助かった。死ぬかと思ったマジで」
じゃあ死ね――胸中で悪態をついた。
家が遠い。
―end―