進め!? ヘル学電脳研究部「バトル・オブ・電脳研」


西新井は憤慨し思わず口にしてはならない事を口にしてしまった。
「り、理不尽だ! そんなのってあるもんかッ!」
その瞬間室内を埋め尽くす人相の悪い男達が一斉に彼を睨みつけて黙らせる。
「お前らには聞いてない、少し黙ってろ。で、返事は? 電脳研究部寺門部長」
哀れな子羊たちの顔面すれすれで木刀を一閃させて高木由美江は凄んで見せる。
蒼白の表情の子羊たちと正反対に余裕の笑みを浮べる寺門は堂々と言い放った。
「くだらんなあ〜 答えはオンリーワンッ この部室は誰にも譲らん!」
その答えに「侵略者」の総司令官格のハインケルは気分を害すどころか逆に愉快になった。

 #

話は少し遡る。
事の発端はここ私立ヘルシング学園の毎度お馴染みな抗争沙汰だった。
それは昨今のマクスウェル一派の攻勢に権力の牙城が崩され始めた
少佐教頭派のシュレディンガー生徒会長の策謀から始まる。
ある日突如名目上は文学部部長であるハインケルの元に生徒会執行部より召喚状が届く。
渋々生徒会室に出頭してみれば、待ち構えていたシュレディンガー会長が、
「今度図書室の改装と所蔵書籍のリニューアルをすることになったんだ。
そういう訳で一ヶ月以内に部の移転をヨロシクね♪」
と、事も無げに通告してきたのだった。
ハインケルは細く形のよい柳眉を逆立てていた。彼女には生徒会長の思惑が読めるのである。
マクスウェル派の本拠地の感がある図書室を改装の名目で取り上げ、
その活動を著しく制限しようという腹だろう。
そうでなければこんな大事なことを、
文学部顧問たるマクスウェル先生が教員研修中で留守の間に切り出すものか。
だが、本来図書室は生徒会執行部配下の図書委員会の管理管轄下にあり、別に文学部の占有物ではない。
彼女には受諾する以外の選択肢が無かったのだ。

だが本当の戦いはここから始まる。
「それで? 我が文学部は図書室からどこに引っ越せばいいのかしら?」
サングラスをずらし、並みの男子であれば尻込みする眼光で、
可愛い顔に似合わず権謀が多すぎる生徒会長を睨む。
「部室? 書いてるものと言えば官能小説だのやおい本だのな文学部なら
授業終了後のどこか空いてる教室で集まって書けば?」
睨まれてもニタニタ笑いながらシュレディンガー会長は応じた。
「もしくはどこかのクラブと相談して部室を譲ってもらうとか。
そうだねえ、電脳研究部なんて手頃でいいんじゃないかな?」
「そう、じゃあそうさせてもらうわ。それでは失礼する」
颯爽ときびすを返し生徒会会長室を退室しようとするハインケルの背中に、
学園圧倒的多数の女子と一部の男子から熱い支持を受ける会長が言葉を投げかける。
「くれぐれも穏便に頼むよ、君らは余りにも荒事を好み過ぎるからね。僕が何も知らないと思っているのかい?
あんまり図に乗っていると、学園の治安に責任を持つ身として処置をとらないといけない」
一瞬振り返ったハインケルは、ふんッと挑戦的に鼻を鳴らして退室した。
言外に拠点が無くなったお前ら「愉駄」を「風紀委員会」が各個撃破してやる、
とシュレディンガーが示唆しているのが分かったからだ。

自分一人になった生徒会長室で生徒会長は声をあげて笑い始めた。
「アッハハハハッ! こいつは見物だなぁ♪
学園の怖い裏番と学園一二を争うエキセントリックボーイの対決か。
どちらが勝とうが負けようが、僕の勝利に間違いは無いけれど」
「学園の構造改革」を標榜して会長選を制した彼シュレディンガーにとって、
部費をじゃぶじゃぶ使い込む(少なくとも彼はそう信じている)電脳研究部は目下の攻略目標。
裏番長ハインケルと電脳研究部部長寺門は、会長からすれば憎むべき「抵抗勢力」だった。
それが互いの存亡を賭けて一戦交える羽目に陥っている。これが笑わずにいられようか!

シュレディンガー生徒会長がどう思おうと、ハインケルには別の目算があった。
図書室は校舎内にあり、物好きな利用希望者が時々入り込むなど人の目によく晒される。
ところがこれが電脳研究部の部室であれば、まず校舎から少し離れているので人の目を気にせずにすむ。
その上極上のハードウェアがテンコ盛りときている。
お遊びの仲良しクラブにそれらを使わせるくらいなら、
いっそ私が善用してやろうと彼女は決意して手近にいる手勢と
親友高木由美江を招集し、その日の内に電脳研究部を強襲したのだった。

いささかハインケルらしからぬ乱暴な手法と言うべきだろう。
いつもならばまず対象を自派のエージェントを使って情報収集することから始める。
だが今回その手間を省き、そして意外にも手こずっている。
ゲームオタクぐらい脅せば瞬く間に蹴散らせると高を括ったのだろう。
だが、オタクはオタクでも電脳研の寺門部長は並みのオタクではなかった。

話はまた最初に戻る。
「ま、最初からハイハイそうですかと譲ってもらえるとは思っちゃいないわ。
でもね、たかがゲーム遊びの仲良しクラブの為に痛い目見たくないでしょ?」
ハインケルの口調は柔らかだったが、内容は充分に脅迫的だった。
くわッと大きく見開かれた目を血走らせながら寺門部長は応戦する。
「けっ! 芸のない奴だ。なめるなズベ公! オレを何様だと心得る?
生まれて初めて自腹で購入したソフトが『スペランカー』な勇者様だぞ!!」
「す、スペランカーですかッ!? それは確かに凄い…」
思わず感嘆の声をあげた梅田古奈美は由美江に睨まれ亀のように首を縮めた。
部員にガンたれる由美江を睨み返した寺門部長は更にボルテージをあげた。
「オレたちゃ選び抜かれたゲームジャンキーのハイパーエリート様だ!
イカしてステッキーなゲームソフトを手に入れる為なら
親兄弟売り飛ばすくらい呼吸するようにやってのける人でなしの戦闘団よ。
テメーら下賎な不良どもの恫喝に屈すると思ったら大間違いだッッ!」
だが選び抜かれたはずの部員達は内心、
(そんなジャンキーは貴方一人だけですブチョーッ!!)
と叫んでいた。

酔ったように気持ちよく寺門部長は話を続ける。
「よかろう、くだらねえ喧嘩に明け暮れるテメーら北京原人どもに、
部室を賭けて俺様ちゃんが直々に相手してやろうじゃねえか! あ゛あ゛ン゛!?」
せせら笑いながら今度はハインケルが頬杖をつきながら答える。
「相手ねぇ、私は豚を屠殺する趣味はないのよ」
「誰が殴り合いするっつうた? ここは電脳研らしく部長同士一対一でガンシューティングゲーム勝負!!」
「その勝負乗ったッ!! もう後に引くのは許さんからなあ寺門よ、後悔するなよ」
会心の笑みを浮べてハインケルは立ち上がった。
「明日、この時間にここにまた来る。引越し準備でもしながら待ってろ」
「なあハインケル、ひとつこの馬鹿がどれだけ無謀な挑戦をしたか教えてやれよ」
木刀で肩をトントン叩きながら由美江が話しかけた。
「それもそうだな…おい、これ、ゲーセンにあるのと同じだろ?」
ハインケルが指差す先に『ハウス・オブ・ザ・デッド』のソフトがあった。
「そ、そうですけど」
カタカタ震えながら綾瀬由紀が返事した。
「私の腕前を見せてやるよ部長さん、そして心底後悔しな」
ハインケルはそう言ってゲームをスタートさせた。

1P、2P用のガンをおもむろに両手に取ったハインケルは
瞬く間に画面中のゾンビを射殺しまくる。
「す、スッゲ〜! 敵キャラが瞬く間におッ死んでるっ!」
西新井は思わず賞賛の声をあげた。
画面を覗き込んだ他の電脳研の面子も事情を忘れて見惚れていた。
確かに彼らには度し難いゲームジャンキーの資格がある。
凄まじい銃撃が画面ところ狭しに展開されてどんどんステージが進む。
ハインケルの卓越した動体視力に反射神経、射撃センスが炸裂し、
あっという間に全面クリアしてしまった。しかもノーミスハイスコアで…

「今日は調子が悪いな、いつもならノーダメージで最後まで行けるんだが」
そう言いながらもハインケルは満足気にガンを元の場所に戻す。
蒼ざめる電脳研の部員達を見て笑みを溢しかけたハインケルは、
しかし一人悠然と構える寺門部長の顔を見てその表情を引っ込めた。
(何なんだあの余裕は、気に入らない…)
右手を軽くあげて哀れな電脳研の部員に別れの挨拶をし、
ハインケルと由美江にその一党は風を切って日が沈み始めた学園に消えていった。

「ど、どうすんですか部長ッ 滅茶苦茶上手いですよ!」
喰ってかかる梅島奈夢子に寺門部長はあっさりと答えた。
「フフッ なかなか上手いではないか、やるなハインケル!
だがッ明日になれば分かる。奴の、その腕前が命取りだとな!ハハハハハハハッ」
高笑いする寺門部長は懐から携帯電話を取り出す。
「もしもし? オレだ、お前のあんちゃんだよ。ひとつ頼まれてくれ。方法はお前にまかせる……」
寺門部長の眼鏡の奥の瞳が爛々と輝いていた。
そしてその日は無情にもやって来た。

 #

約束の時間までまだ後4時間ばかりあるのに部員総員が部室に集結していた。
「ど、どうしましょ部長〜流血沙汰になる前にトンズラしましょうよ〜」
情けない声と表情で西新井が寺門部長に直訴する。
しかし好物の豆乳を飲みながら部長は動揺する部員達をなだめた。
「心配するな、俺様ちゃんに必勝の策があるし、その為の準備も既にしてある。
部室を守る為にも少しお前らの力を借りるぞ、これは部長命令だ」
「どうしてそこまで自信があるんですか!? ほんの少しでも私達にも教えてください!」
真剣な表情で綾瀬が部長に詰め寄る。
「よかろう、お前達の不安を解消してやるか。
今日のガンシューティングゲーム勝負にアレを使うつもりだ。
我が電脳研究部の至宝、ゲーム業界の奇跡たるあの『デス様』をッ!」
部員総員が寺門部長の高らかな宣言に息を飲み仰け反った。

「た、確かに『デス様』であれば、いや、『デス様』であればこそ、
あのハインケルを打倒できるかもしれません…しかし…」
「しかしなんだ古奈美、遠慮なく言ってみろ」
話の続きを急かす部長に思い切って古奈美はこの計画の欠点を指摘した。
「私はクソゲー大臣の異名をとる部長が『デス様』でハインケルに遅れをとるとは思いません。
問題は、彼女が敗北を認めるかといえば明確にノーとしか言いようが無い事です。
彼女だけでなく、高木由美江や取り巻きの不良共がまた何しでかすか…」
「何を言い出すと思ったらその事か、ならばノープロブレム!!」
飲み干した豆乳パックを握りつぶし寺門は言った。
「そのためにもお前らに動いてもらう。
西新井、綾瀬、お前ら二人はこの手紙をアンデルセンのロッカーに入れて来い。
目立つようにだぞ。それが終わったら部費で一万円やるから、
これで高木由美子をゲーセンなり漫喫なりで適当に接待して連れまわせ」
「わかるな? これでハインケルは孤立する。奴一人がここに来るならばどうとでもなる」
奈夢子がそろそろと手を上げ質問した。
「肝心の由美江対策が無いように思えますが…」
「オレが国際テロリストをモップの柄一本でリタイアさせた、
あのヘルマッシーン対策を怠ると思ったか? 奴には弟の司で対処する。
そのためにも奴の妹の由美子には一時的に行方不明になってもらわねばならん」
今度は古奈美がそろそろと手を上げた。
「あの、部長…私と奈夢子は何をすればいいんですか?」

それまで景気よく作戦を指示していた寺門部長は急にため息をつき、
「お前達にはすまないが、ハインケル撃破後の事後処理に出番だ。
電脳研名物暴れん坊天狗君を展開して奴を成敗する」
気の毒そうに宣告する部長に一瞬立ち尽くして顔面蒼白になった二人は、
しかし諦めたように乾いた笑顔を作った。
「すまんな、お前ら二人には苦労をかける」
いつもと雰囲気から違う寺門部長の殊勝な言葉に古奈美が応えた。
「…いえ、どこまでも部長に付き従う覚悟は出来ていますから、気にしないで下さい」
「あのォ〜字楽先生に相談して止めてもらうわけにはいかないんですか?」
綾瀬にいい雰囲気を阻害された古奈美が短く舌打ちする。
「人死にが出てもいいならそうすればいいさ、オレは勧めもしなければ止めもせん」
「そ、そうですよね! 蝿を落とすために核兵器を使う様なものでしたっ!」
現実を突きつけられて綾瀬は身震いして引っ込んだ。

部員達の顔を一人一人ゆっくり見つめながら、寺門部長は厳かに切り出した。
「よし! それでは総員作戦を展開せよ!」
後々まで電脳研究部の歴史に語り継がれる、
「バトル・オブ・電脳研」「デス様攻防戦」の幕が切って落とされた。

 #

ハインケルは夕刻の校庭を一人で黙々と歩いていた。
(一体何をやっているんだあの馬鹿共は!)
これから電脳研究部部室奪取に兵隊が必要という時に、
突然「愉駄」のメンバーが片っ端にいなくなってしまったのだ。
総番アンデルセンは竹ノ塚とかいう北千住高校の番長に「手紙」で総力戦を挑まれて
ハインケルに断りも無しに配下の者全部引き連れて遠征に出てしまう。

由美江は由美江で約束の集合場所に、
『由美子を探す。悪いが電脳研には今日はいけない。 由美江』
と書いた置手紙を残していた。その理由となった怪文書も一緒に添えて。
『由美江助けてッ! 私、黒の組織の連中に捕まっちゃたのォ〜
このままじゃ私ジンとウォッカにゴーカーン&リンカーンされちゃう〜 由美子』
この怪文書を読んでハインケルは頭が痛くなった。
明らかに小学生が書いたと思われる字で、
しかもその内容たるや携帯電話を近付けたら電波が拾えそうなアレなものだったから。

つまり、一連の混乱を演出したのはこれから彼女が対決しようとする
男の手になるものである事が明白になった。
「上等じゃないか寺門ッ! これで私が退くと思ったら大間違いだ。
私一人でもお前ら如き蹴散らしてくれるっ」
つまり、ハインケルは寺門部長の術中に完全にはまってしまったのだ。

『アローアロー こちら由美江ちゃん迎撃軍団大隊長寺門司でーす。オーイエー
ただいま由美江ちゃん商店街を木刀掴んで走り回ってま〜ス。
自分でもあんなショボイ偽書に引っかかってくれてビックリっす。
僕ちゃんも曹操の軍師やローエングラム朝の軍務尚書ぐらいつとまるかな兄者―――ッ』
「内国安全保障局局長が関の山だな司。相手がジャイアン並の単細胞ゆえの成功だ…
まあよかろう、策がばれたら至急連絡しろ。ターゲットが来たから切るぞ」
携帯を切った寺門部長の目線の先に奈夢子に案内されるハインケルがいた。

「遅かったではないかハインケル。てっきり逃げ出したと思ったぞ」
「宮本武蔵だって待たせて勝っただろう? 故事にならっただけさ」
「そうか? オレには唯単に待ち人に振られて一人寂しく来た様にしか見えないが」
短いが強烈な応酬を交わし、電脳研と文学部の二人の部長は並べて置かれた二台のモニターの前に並んだ。
「勝利条件は唯一つ、サバイバル戦だ。面数もスコアもこの際関係ない。
どれだけ長く生き残れるかが条件だ」
ディフェンス側の特権で条件を設定した寺門がハインケルに説明する。
「まあよかろう、お前がこの部屋でする最後のゲームは一体なんだ?」
「これだ」
古奈美が恭しく手にした桐の箱に収められたソフトを見てハインケルは眉をひそめた。
「『デスクリムゾン』? セガサターンのゲームか…聞いたことが無いな」
「普通のガンシューティングゲームと同じです。
このバーチャガンを使ってください。体力ゲージは3つまでなので気をつけて」
古奈美にバーチャガンを手渡されたハインケルはその玩具の銃口を古奈美に向けた。
「えらく親切だな、今からお前らを叩きだそうとする奴に向って」
虚勢ではない微笑を浮べて古奈美は返事を返す。
「貴女は決して寺門部長に勝てないから」
咥えた煙草に火をつけハインケルは可笑しそうに笑った。
「OK!OK! 今すぐお前らにかけられた変な魔法を解いてやるよ。
さっさと始めるとするか。電源を入れろ!!」

 #

「な、何なんだこれは〜ッ!! 当たらん、さっきから弾が当たらん!」
驚愕の表情で眼前のモニターに繰り広げられる事態にハインケルは思わず叫んだ。
確かに敵キャラに照準を合わせているはずなのに何故か攻撃が当たらない。
三回同時に敵の攻撃を食らうと問答無用で即死する。

「おい! 何でモモンガ撃っただけでダメージを喰らうんだ!」
「あれはモモンガではない、ムササビだ」
「そういうことを聞いてるんじゃなくてってまた死んだぁ!?」
ハインケルのプレイするモニター付属スピーカーからは
『デスクリムゾン』の主人公コンバット越前(好物は焼ビーフン)の
やたら甲高い悲鳴が壊れたラジカセの様に何度も繰り返し響く。
彼女は初回から文字通り秒殺されて一瞬のうちに寺門部長に敗北してしまった。
「おいおいまた全滅かハインケル、いい加減素直に負けを認めろよ」
バーチャガンを奈夢子に手渡して豆乳パックを受け取った寺門は呆れた様に言った。
「ま、まだだ、こんなの納得いくか! もう一回、もう一回だけ勝負だっ」
「無駄だ…もう13回目だぞ」
煙草を床に吐き捨て靴で火を踏み消し、サングラスも外して腕まくりした
ハインケルは寺門の言葉を無視して再び『デスクリムゾン』に挑戦する。

実はペテンにも等しい罠がこのゲームには存在した。
どういう具合か、照準が右下にずれていて、
正確に射撃すればするほど当たらないという信じられない事態を惹起する。
通常存在する敵攻撃を受けた後の無敵時間が全く無いため、
まとめて三回攻撃を受けると即死する仕様である。
恐怖の飛ばせない社名ロゴといい、錯綜したマニュアルの日本語といい、
その筋の通たちから「クソゲーの帝王」「デス様」と呼ばれるに相応しい
ステッキー(寺門部長にすれば、だが)なゲームだったのだ。

そんなことは露知らないハインケルは、
相変わらず正確に照準を合わせて引き金を引くも当然当たらない。
狙えば狙うほど当たらないというジレンマに彼女のプライドはズタズタにされていた。
「おいお〜い、ハイちゃんいつまでやるつもりだ? もうとうの昔に決着は着いてるぞ」
「五月蠅い! 私が勝つまで決着は着かないんだよ! あ、またやられた…」
寺門部長に振り向きもせずに答えて後は黙々とゲームを続けるハインケル。
いつもであれば部長はこの『デス様』の圧倒的パワーに祝福された者を
生温かく見守ってやる所だが、今回その時間は無い。

机の引き出しに仕舞っておいたそれを取り出し両手に掴み、
ゆっくりと彼はハインケルの背後に回った。
「約束を破る悪い子ちゃんには…」
『デス様』に夢中?で背後を取られたことに気付かないハインケルの背中に「それ」を押し当てスイッチを入れる。

「お仕置きシビレステッキ ―――――――――― ッ!!」

ただのスタンガンだ。
「があああッッッッッッ」
バーチャガンを派手に床に落としてハインケルは痙攣しながら気絶した。

「さて…それでは暴れん坊天狗 出撃! 二人とも準備を始めろ」
「イエッサーッ」「らじゃーっす!」
古奈美と奈夢子は張り切って「準備」を開始した。

 #

ハインケル・ウーフーはその今までの人生の中で一、二を争う最悪の目覚めを迎えた。
「ここは… 一体… うん…」
混濁した意識を振り絞り、彼女は自分が今置かれた状況を確認しようとした。
天井からぶら下がった太い鎖、その鎖とつながった手錠、
その手錠に拘束された私の両手……手ぇッ!?
一度に目が覚めたハインケルの目にしたものは冗談のような光景だった。

両手を拘束されて天井から身に何一つ帯びない裸体を、
吊るされた自分の姿を見い出しハインケルは事態の全てを悟った。
「これがお前の趣味なのか? なかなか凝った趣味だな寺門!」
ハインケルの真正面に電脳研究部部長寺門が椅子にふんぞり返って座っていた。
「やっとお目覚めかハインケル? うちの部も部室を賭けて戦ったんだ、
お前も代償として敗者のゴイスーな罰ゲームを受けてもらうぞ。
『ヴァリアブル・ジオ』以来ゲーム業界伝統芸の、
敗者は素っ裸にひん剥かれて謎の白濁液をぶっかけられる、アレをな」
「はッ 私も落ちぶれたものだな…お前ごときに辱めをうけるとは」
足の親指がつくかつかないかという微妙な高さにハインケルは吊るされていた。
これでは、さしもの彼女とて抵抗の仕様も無い。

むっつりと詰まらなさそうに寺門は彼女に返事した。
「おいおい、誤解スンナよ。お前を辱めるのは、
と言ってもお前にまだ恥らう心が残ってればだが、俺様ちゃんではない」
パチンッ! と彼が指を鳴らすと淫靡な刑の執行人たちが登場した。
「古奈美でございますッ」「奈夢子でございますッ」
「電脳研オッパイ星人シスターズでございますッ」
湧いて出てきた二人は腰に天狗のお面を着けている以外は一糸まとわぬ裸体を誇示していた。

進め!? ヘル学電脳研究部「Bugッてハインケルさん」へ


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