由美江編:Lv1「美味しいバイト」
よく晴れた気持ちのよいお昼休みの時間。
僕らの担任、マクスウェル先生が教室に入り何かをキョロキョロ探していた。
「お〜い、○○。ハインケルと由美江を見なかったかね?」
「あ、マクスウェル先生。二人ならたぶん図書室だと…」
「またかね、よく飽きないものだ。すまないがこのプリントを二人に渡してきてくれ」
「わかりました」
僕はクラスメートの高木由美江とハインケル・ウーフーがいるであろう図書室に走った。
なぜ分かるんだって?
この時間帯は、彼女らの「営業時間」だからだ。
僕達男子の間では結構有名だ。しかし女子の間には知られていないかもしれない。
鉄壁の暗黙の了解で守られているのだ。
学園中の女子のブロマイド写真が売られているなどという事は…
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「はーい並んで並んで〜 ついに入荷したよ〜
学園のマドンナ・インテグラ先生の生着替え写真だよ〜 一枚1,000円ね〜 エロエロだよ〜」
「あ、いたいた。やっぱりここだ」
「お〜○○、お前も買いに来たのか?」
「違うよ、はいこれ。マクスウェル先生が渡しといてくれだって」
「さんきゅー。まあここに座れよ。てゆうか手伝え」
居並ぶ顧客から一心不乱に夏目漱石の肖像画をむしり取り、白い封筒を渡すハインケルに代わり、
由美江が僕の手を取り無理矢理席に着かせる。
いつもこうして彼女らの「営業」の手伝いをさせられる。しかも無報酬で。
いくら僕が由美江のバイト仲間だからって、公私混同もはなはだしいと思う。
しかし押しの弱い僕は結局彼女に引きずられて手伝うことになる。
今日はひときわ忙しかった。
流石は学園のマドンナ、インテグラ先生だ。いつもの2倍以上の売上になりそうだ。
昼休みも半ばが過ぎると店じまい。
図書室をなかば公然と私物化している文学部部長ハインケルが内側から鍵をしてしまうからだ。
「いや〜儲かった、儲かった。信じる者は儲かるとはよくいったものだな。
○○の企画が大当たりだ。今日は缶ジュースおごっちゃる!」
ハインケルが札束を10枚つづりでまとめながらニヤついていた。
「人聞きの悪いこというなよ、ただ男子一番人気の先生はインテグラ先生だって言っただけじゃないか」
「似たようなもんだろ。お陰で大儲けなのも事実だし」
金勘定と商品整理、そして売上集計を僕とハインケルに押付けて、由美江は自分だけお弁当を貪り食っていた。
集計が終了し、僕とハインケルもやっと一服する。
「なー○○、お前もインテグラ生着替え写真買わないか。
お前なら特別価格700円で売ってやる。3割引きとは私も剛毅だな」
「やめとけ、○○。バイト仲間のよしみだ。
教えてやるが、着替えちゃいるが期待してる映像とは全然違う」
そういって由美江が一枚の写真を見せてくれた。
インテグラ先生だ。生着替えだ。…教室で上のスーツを脱いで椅子にかけてるだけだが。
「詐欺じゃないか、これ!」
「人聞きの悪いこと言うな。誰が全裸ですなんていった?」
だからここで開封されない様に、糊付けされてたんだ…
みんな歯軋りして悔しがるだろうが、何も文句が言えないだろうなぁ。
ハインケルの文学部部長は世を欺く仮の姿、実は学園の影に君臨する裏女番長で、
相棒の由美江は学園一の武闘派部活、剣道部随一の剣士。
しかも学園の不良たちを束ねる「愉駄」の総番アンデルセンが控えている。
こんなのに正面から挑む物好きは学園広しといえどアーカードくらいだろう。
極悪非道な商売人ハインケルは嬉々として札束を袋に入れ、カバンに仕舞う。
彼女のカバンは普通のと違う。補強されずっしりと重く強固な代物だ。
僕は現場など見たことがないが、一説によると彼女はカミソリだのヨーヨーだのを武器に闘う、
という話が一部でまことしやかに語られている。
でもこの際彼女のするどく放たれる拳と凶悪な補強カバンで充分だろう。
……充分だと信じたい。
「ん〜いつも○○には世話になってるからな。よし! 大サービスだ。
どれでも好きな写真やる! 持ってけ。どれにする?
学園一の巨乳クィーンのセラスか? それとも隠れファンが多いリップ?
さらに濃すぎる奴ら垂涎のゾーリンせんせーのウソなし生着替えもあるぞ。
それともなんだ? シュレ会長の写真で禁断の世界に行くか?」
うれしそうにまくし立てるハインケル。
いつもこんな感じなら、みんなから好かれるだろうに…
その思いがとんでもない一言になって僕の口から飛び出した。
「じゃ、ハインケルの生着替え写真」
がたっ! カターン……
僕の目の前でハインケルがゆで蛸のように真っ赤になって立ち上がり、
僕の後ろで由美江が手にした箸を落とした。
「な、な、何をぬかしやがるっ このバカ野郎がっ!」
ごんっ がっ ぐはっ
あっと言う間に僕の脳天に例の補強カバンが炸裂。
そして倒れこむ僕のみぞおちにハインケルの左ストレートが決まった。
頭が真っ白になり、目が霞む。
僕とハインケルの名を叫びながら、ハインケルを羽交い絞めにする由美江が視界に入った。
それから床に倒れこんだところまでは覚えている。
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頭が痛い… それにみぞおちもずきずきして…次第に痛みが僕の意識を無理矢理叩き起こす。
あれ? ここどこ? なんでベッドに寝てるんだ?
「あ、気付いたか、○○。どうだ、大丈夫かー」
僕の目の前に由美江がいた。ああ、ここ保健室か。
「うん、なんとか。しかし酷い目にあったなぁ」
「自業自得だ。あれでもハイも一応乙女だからな。一応、な。
ああもズバリとセクハラ発言をかまされればぶち切れるだろう。口は災いの元だ」
由美江はベッドの隣にある椅子から立ち上がった。
「今日はもう帰っていいってマクスウェルが言ってたぞ。それからあんまりハイを責めるなよ」
「分かってる、あれは僕も悪かった」
「そういうことだ。じゃ、私は伝えることだけ伝えたから、もう部に帰る。
バイトにはちゃんと来いよ。そんなひどいもんでないって保健の先公も言ってたからな。
休むとイリューシンがうるさいぞ」
イリューシンさんは僕と由美江がバイトしているケーキ屋「かーげーべー」の店長さんだ。
ロシア人で、肌が雪のように白い、ショートの金髪の美人なお姉さんだ。
ただ有能な店長にありがちな高慢なところがあり、正直由美江と相性が悪い。
保健室のドアを開けようと手を伸ばす由美江に僕は声を掛けた。
「ありがとう、ずっと傍にいてくれたんだ」
ちょっとだけ動きが止まったが、すぐに由美江は僕の方に振り向いた。
「馬鹿いうな。私はそんなに暇じゃない。マクスウェルに言われたからここに来たんだ」
保健室のドアが開く。
「なあ、本当にハインケルの写真が…」
「えっ、なに?」
「いや、なんでもない。バイト遅れるなよ」
由美江がするりと保健室から消えた。
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今日は帰っていいとのマクスウェル先生のありがたいお言葉どおりに今日は早退する事にする。
だが凶事は連れ立ってやって来るらしく、学園からあまり離れていないところで、
ルビを振らなくても「不良です! バリバリ気合入ってます! 四露死苦!」
とわかる雰囲気をぷんぷんさせているアホにからまれた。
「よ〜兄ちゃん。おれっちのど渇いたんだわ。ちょっと恵んでクンない?」
「なんで?」
「なめてんのかァ〜おいテメエよォ〜」
まるで何かの儀式のように続く不毛の会話だ。
いつもならお構い無しに無視して通り過ぎる。いざこざは好きではないので、走って。
結構足には自信がある。だが今日はそうもいきそうにない。
そんなピンチな僕に意外な救いの主が現れた。
「ゲァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァー
ちょうどいいっ! この私ものどが渇いていたところだ。一杯所望しようではないか!」
「そうねぇ、私もお呼ばれしていいかしら?」
人生最大の危機を迎えた不幸過ぎる不良君の前後を、不幸の源が二人がかりで囲む。
「で、この自販機は何処を押せば商品が出てくるのだ、ハインケル?」
「さあ、とりあえず思いきり殴ってみたら? 壊れた機械を直す、それが鉄則ってもんでしょアンデルセン」
それもそうだと口走りながらアンデルセンは右手を高く振り上げた。
「いやあのさ、お前にジュース奢ってやるって約束したのを思い出したわけよ。
そしたら運良くここに自販機が転がっててさ」
「…ハインケルの奢りじゃないと思うけど」
「細かいことは気にするな、ぬるくなる前に早く飲め」
顔中アザだらけになった「自販機」が、三本の缶を抱えて直立不動で立っていた。
哀れな「自販機」からもらった缶ジュースを飲んでいたら、ハインケルがちょっとシリアスに話しかけてきた。
「さっきはすまなかったな。少し力が入りすぎた…」
「いや、いいよ。僕も悪かったし」
そういって彼女の顔を覗き込むと、右のほおにガーゼが貼り付いているのに今更気付いた。
「ああ? これか、ちょっとな、ケンカして殴られた。アザになってるんだ」
「誰と、その、ケンカを…まさか」
「違う違う、私ではない。挑まれない限りこれでも女子供には手を上げない主義だ。
いいか? 暴力を振るって良い相手は不良と犯罪者だけだ」
切々と自分の不良美学を語るアンデルセン。
分かっているつもりだ。でなければとうの昔に逃げている。
「これな、由美江に殴られたんだ。お前がぶっ倒れて保健室に運び込まれた直後に」
「ええぇー 由美江にぃ〜」
二人の仲の良さは有名だ。
由美江はいつもハインケルとつるんでいて、剣道部所属なのになぜか図書室にいる。
双子の妹の由美子をハインケルと二人でからかったりしながら。
一部では同性愛関係では、と無責任に噂されたものだ。
そんな由美江が……なぜ?
「由美江な、マジで怒ってたんだ。バイトどうするんだって」
「私が間に入らねば両方が血を見てたな。お陰で見ろ! 体にこんなアザをこさえる結果になってしまった」
天下の往来で突然上半身に着てる物を全部脱ぎさるアンデルセン。
僕とハインケルに出来る事は、他人のふりをする事だけだった。
「ま、よっぽどバイトが気に入ってるらしいな。それとも別のものかな?」
「別のものって?」
「知るかよ。本人に聞いてみろ。今日も行くんだろ、バイト。そこで聞いたらどうだい?
て言うか、お前には這ってでも行ってもらわんと私が困る」
そう言いながらも、ハインケルは何か意味深な笑みを浮べていた。
家に帰り、私服に着替える。
父さんは博多に単身赴任で、母さんはただいま友達と長野の温泉ツアーに参加中。
よって家には一週間ばかり誰もいない。
あ、そろそろ時間だ。もう行かなくちゃ。
#
「いらっしゃいませ〜〜ってなんだ○○か。早く着替えろ、私にばかり働かすな」
由美江が口を尖らせて言う。
彼女とは同級生でクラスメートだが、ここでは僕が少しだけ先輩という事になる。
4ヶ月前、僕がここでレジを打っていると、偶然由美江が来店したのだ。
『あれ? ○○、お前ここでバイトしてたのか?』
当時の僕は、正直彼女のことをあまりよく思っていなかった。
学園最大最強の不良グループとつながりがあり(というより由美江はグループの大幹部だ)
何かあるとすぐに木刀を突きつけて力ずくで押し通す。
闘争の場面はともかく、普段はいたって物静かなアンデルセンや、
要領よく周囲と合わせて自分から揉め事を起こそうとしないハインケルの方がまだマシだ、そう思っていた。
だから彼女がいろいろ細々とバイトの内容とか尋ねてきたときは内心迷惑だったりした。
それから三日後に、イリューシン店長が僕の名前を呼んで新しいバイトの子に引き合わせたときは驚いた。
そこには帽子をちょこんとかぶり、エプロンをしてやたらと胸を強調する、
独特のデザインの制服に身を包んだ由美江がいた。
僕は由美江に、そして彼女の友人達に偏見を持っていたらしい。
由美江は、ケーキ作りは駄目駄目だったが僕が教えてあげた接客とレジ処理は飲み込みが早く、
今では店には無くてはならない人材だ。
そして彼女の友人達に妹の由美子もちょくちょく来店するようになった。
それ以来、あまり不良グループを過剰に意識することは無くなった。慣れ、というのだろか。
「いらっしゃいませ。あ、教頭先生こんにちは」
「こんにちは、○○君。今日は酷い目に遭ったんだってねえ、マクスウェル先生から聞いたよ。バイトもほどほどにね。
ところで店長さんはいるかな? ちょっと頼みごとがあってね」
少佐教頭先生がそうおっしゃるので、
僕は慌てて事務所で書類仕事をしていたイリューシン店長を呼びにいった。
少佐先生はこの店の大のお得意様だ。
一週間に2〜3回の頻度で来店される。帰るときは両手にケーキの入った箱を持って。
甘党なのだろうか、結構な量を注文する。
ただ職員室の先生方や生徒会執行部に振舞ったりすることもあるのだろう。
僕はペンウッド校長がうちのシュークリームを頬張ったり、
シュレディンガー生徒会長がチーズケーキを食べているのを見たことがある。
そう言えば、ペンウッド校長がうちのケーキをいたく気に入ったらしく、
先生方に誕生日にバースデーケーキを送るように、注文してきた。
校長自らではないけど、少佐先生が先生達の誕生日と住所のリストを店長に渡し、
誕生日に突然自宅に届けるように手配してくれだって。
そのときなぜかマクスウェル先生とインテグラ先生の欄だけ空欄だった。
「ああ、彼らのデータだけ不備があってね。今更新中なんだ。
また後日連絡するよ。しかしその間に誕生日が過ぎてなければいいのだがね」
少佐先生は僕とイリューシン店長に笑いながらそう説明した。由美江がまだいないときの話だ。
「私、あいつが嫌いだ。あの話し方、笑い方に虫酸が走る」
「そう毛嫌いするなよ、うちの大事なお得意様なんだから」
由美江が小声で僕にそう話しかけるのをたしなめながらも、僕も心の底で彼女に賛同していた。
なんというか、この人、慇懃な態度の下に他人を見下したところが感じられるんだ。
裏ときヘル:少佐教頭の美味礼賛
少佐がショーウィンドウに並ぶ魅惑的な甘いケーキを眺めながら待っていると、
店の奥からこの店の制服を着た女が出てきた。店長のイリューシンだ。
「あら、いらっしゃいませ教頭先生。お待たせしてすみません」
「いや、そんなに待っていないから気にせずに。何を買おうか選んでいたしね」
「それで今日は何を注文されますか?」
少佐はスーツの内ポケットから一枚のメモを出し、イリューシンに示した。
「この前漏れのあった二人の誕生日が分かったのでね。その連絡だよ。
インテグラ先生とマクスウェル先生。ひとつ派手にビックリさせてあげたいので頼むよ」
意味ありげな笑みを浮べる少佐にイリューシンも片頬を歪ませて応じた。
「それで、イチゴはどれだけ上に乗せますか? あまり多く乗せるとお高くなりますが」
「うん、ここは気張って10個といこうと思うんだ」
「10個!? それはまた盛大な… わかりました先生。私が腕によりをかけて作りまして、お二人にお届けします」
「頼んだよ。あ、代金は月末締めの翌月10日振込みだったね」
「はいそうです」
「結構、二人の驚く顔が楽しみだ。驚けないかもしれないけれど。
あと、イチゴショートケーキにチョコレートケーキ、チーズケーキとパンナコッタ、
シフォンケーキとマロンケーキ、そうそう忘れてはいけないシュークリーム。
以上を各3個ずつほしいね。お持ち帰りで頼むよ」
「毎度ありがとうございます。今日は会議か何かで皆さんとお召し上がりですか?」
「まさか、全部私が一人で食べるのだよ。ここのケーキは本当に美味しいからね。いくら食べても飽きない」
少佐教頭の注文の品を二人で手分けして箱詰めするバイトの仕事を見守りながらも、
イリューシン店長は益体も無い想像に耽った。
学園を手中に収める前に糖尿病で薙倒されるのがオチではないのか、この人はと。
もちろん彼女に少佐の健康を気づかう義理などないので心配などしないが。
#
私立ヘルシング学園教頭執務室。
今日も少佐教頭の側近達が集まり悪巧みの真最中。
室内には派閥の総帥たる少佐と参謀格のドク教諭、ひっそりと佇む大尉教諭に、
生徒会執行部シュレディンガー会長が集まっていた。
教頭のデスクの上には山の様にケーキが所狭しと並べられている。
少佐はドク教諭の淹れたダージリン・ファーストフラッシュのお茶といっしょに、
そのケーキの戦列をスプーンで突き崩していた。
ただの一欠けらをも側近たちにくれてやるつもりは無いらしい。
「で、そのバースデーケーキに悪戯をしようという訳ですね、教頭先生。毒でも入れちゃうんですか?」
物欲しそうに机の上を覗き込みながら、シュレディンガーが発言した。
「人を小アグリッピーナかチェーザレ・ボルジアみたいにいうのはよしてくれないか、生徒会長。
私はそんな無粋なマネはしないよ。
第一考えてもみたまえ、あて先人不明のバースデーケーキなんぞをいきなり口にする様な可愛い連中かね、彼らが。
ご近所の犬猫に最初に振舞うか、もしくは私のところにお裾分けと称して持ち込みかねない」
悪意と偏見で極彩色に描かれた、それが少佐教頭のインテグラとマクスウェルの肖像画だった。
「ではどうするおつもりなのでしょう、教頭の御深慮の一端でも教えて頂く訳には参りませんか」
ドク教諭が3杯目の紅茶を入れながら尋ねる。
少佐はこのかわいいカボチャ頭達に自分の計画の一部を漏らす誘惑に勝てなかった。
「校長選挙の時期も近いからね。
そこで上手くいけばペンウッド校長と目障りな二人をまとめて学園から追放する策を施しておいたのさ。
私の知り合いに、爆破物の取り扱いに関してプロ中のプロがいるんでね、
頼んでケーキの中に仕込んでもらったんだよ。爆弾を」
「ば、爆弾っ〜〜〜!!!」
さらりと過激な発言をする少佐にたいし、理系教諭と生徒会長はハモりながらのけぞった。
「ちょ、ちょっと過激すぎる気がするのですが…」
控え目に、不賛同の意思を述べるドク教諭。生徒会長も引いていた。
「何、大したことはない。せいぜい半径10mが粉々に吹き飛ぶだけだよ。
それに彼らが死ぬと決まった訳じゃない。病院送りですむかもしれないではないか」
論点が完全にずれている。そう大尉教諭は思ったが口にしなかった。
「でも警察が乗り込んできて、大騒ぎになりませんか?」
「君の言うことももっともだ、シュレディンガー君。
しかし、私はそれをこそ望んでいる。調べればすぐに分かることさ。
ケーキを発注し、資金を出して、配達するように指示をしたのが誰かと。
そして私は涙ながらに記者会見場でマスコミにこう語るのさ。
『ペンウッド校長を教育者の鏡と慕っていましたのに、何も知らない私を利用してこんなに恐ろしいことをされていたとは』
とね。そして繰り上がりで私がめでたく校長就任と」
そう上手くいくものか、と思わなくもないが、三人とも納得することにした。
なんといっても、少佐教頭の言動ではずれた事などない。
「それでそのお知り合いはどうなるんですか」
「ケーキが届けられてるころには、真夏のカプリ島でバカンス中さ。もう平和なケーキ屋ごっこには飽きたのだそうだ。
元の国際指名手配のテロリストになるそうだよ。世界同時革命バンザイ!だそうだよ」
「インテグラを吹き飛ばすのは分かりますが、なぜマクスウェルまで」
「それはドク君、インテグラ君が可哀想だからだよ。三途の川も皆で渡れば怖くないだろう?
マクスウェル君が同道してくれるならば、彼女も心強いはずさ」
厚い腹を愉快そうに揺らしながら少佐教頭は苺を一粒口中に放り込み、むしゃむしゃと咀嚼した。
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ときヘルindex
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