セラスとアーカードの関係


セラスは懸命に自転車を漕いでいた。
どうしてこんなんことになってしまったのか。
ただちょっと部活の練習に一生懸命になってしまって、気が付いたら日が暮れていたのだ。
できる限りのスピードで自転車をこぐ。
ヘルシング学園のまわりはお世辞にも治安がいいとは言えない。まあ、学園の中もそうだけど。

自転車についているライトは薄暗い。その明かりの中で、道になにか黄色い線が見えた。
まあただのロープだろうと思って通り過ぎることにした。ところが。
「きゃあっ」
気が付いたら体が中を待っていた。反射的に柔道で鍛えた受け身を取ろうとするも
さすがにアスファルトの上は畳と同じようにはいかない。
「痛ったぁ」
腰をさすりながら起きあがろうとしたセラスの視界に入ってきたのは、
いかにもガラの悪そうな男たちの集団だった。彼らはにやにや笑っている。
うちの学校の生徒じゃない。セラスは反射的に飛び起きて、構えを取った。

彼らは道路に粘着性のあるロープを張って、自転車でここを通りがかる生徒を狙っていたらしい。
暗くてよく見えないけれど、人数は10人近いようだ。
まいったなぁ。自分を守るために気を張りつめる底で、こりゃ勝てないわという気はしていた。
数が多すぎるし、セラスは試合以外で人を殴ったことはない。
そんなことを気にしている場合じゃないんだろうけど、この差は重要だった。
アーカードやアンデルセンの戦いを見ているとよく分かる。試合と実戦は違うのだ。
おまけに彼らは武器を持っている。
普段なら全力疾走で逃げるところだけど、腰は痛いし
彼らは準備万端で待ちかまえていたようで、セラスを完璧に包囲していた。
選択肢はない。やれるだけやってみるしかない。でも…。

…案の定、勝てなかった。
何人かにあざを作り胃の内容物を吐き出させてはあげたけど、
彼らは手にした警棒や木刀でセラスを叩きのめした。
そしてぐったりした彼女を近くにある倉庫へと連れ込んだ。

ガムテープで手を頭の上で縛り上げられる。何をするつもりかはよぉくわかる。
どうしよう。セラスは懸命に瞳を動かし辺りをうかがった。
倉庫の中は缶飲料水のケースらしきものがいくつも積まれていて
それが迷路のようになっている。その奥に連れ込まれたみたいだ。
倉庫自体は吹き抜けで二階分くらいの高さがある。
これなら声は響くかもしれない。

「だれかー!」
声を張り上げたところで、頬を思いっきり殴られた。
それでもセラスは叫び続けた。
「だれか、助けてっ!!」
その頬を立て続けに殴られる。
「黙れ、このアマ」
主犯格らしい男が襟元をつかんで恫喝してきたが、セラスは諦めなかった。
「たすけっ…」
今度は腹を思いっきり殴られる。咳き込んだところで、口にもガムテープを貼られた。
もう叫べない。

「普通は殴られた時点でショックで抵抗を諦めるもんなんだがなあ」
主犯格の大柄な高校生は上着を脱ぎながらそう言った。
首元にチェダース学園の校章がある。やはり治安がいいとは言えない学校だった。
「活きがいいってのも面白いじゃないっすか」
腰巾着らしい小柄な生徒が口を挟む。嫌な顔だ、セラスは思った。
こんな嫌な奴らに私は犯されてしまうんだろうか。
泣きそうになったけど、必死で耐えた。それだけが最後の意地だった。

セーラー服のリボンがむしりとられ、その下にあるボタンも乱暴に剥がされていく。
「ふぐっ、ふぐうっ」
まだ諦めずうめき声を出し続けるセラスの顔の下で、純白のセーラー服は開かれ、
簡易な白いスポーツブラに包まれた大きな胸がまろび出た。
「うっひゃあ、こりゃすげえ」
腰巾着がたまらないといった顔でその胸をつかむ。乱暴にスポーツブラを上に引き上げた。
裸の胸があらわになる。セラスにとっては大きすぎることがコンプレックスでもある胸だった。
それが男達の欲情を誘っている。

「こんな胸でこんな短いスカートで歩いてちゃ、そりゃヤられても仕方ないぜ嬢ちゃん」
主犯格は下卑た笑みを浮かべながら、木刀でセラスの短いスカートをめくった。
白い簡素なショーツがあらわになる。
動きやすさを最優先した体にぴったりフィットする下着だった。
「さっきは散々抵抗してくれたわ、こっちに連れ込んでからも大声は出してくれるわ
 ただで済むとは思うなよ、お嬢ちゃん」
「俺はまだ腹が痛いぜ」
第三の男が合いの手を入れる。
レイプ魔達はニヤニヤと欲情をあらわにした視線をセラスに注いでいた。
おそらく彼らの頭の中ではもうセラスの裸がはっきり浮かび上がっていて
どんな風に泣きながら彼らのものを受け入れるのか、
期待ではち切れそうになっているに違いない。その前に、まずは視姦を楽しんでいるわけだ。

主犯格の男が木刀でショーツの上からセラスの秘所を突っついた。
「まずこれからねじ込んでやろうかぁ?」
「ぐ、ぐぐ」
セラスは必死で身をよじった。ガムテープが緩むことを期待しながら。
さっきの声を聞きつけて誰かが来てくれることを期待しながら。

そして願いは届いた。…まあ、半分くらいは。

「よお、楽しそーなことやってるな、お前ら」
上から聞き覚えのある声が振ってきた。静かで柔らかで、でも存在感に満ちた危険な声だ。
声の主はうずたかく積まれた荷物の上にしゃがみこんで、ニヤニヤと状況を見物している。
セラスは精一杯首を伸ばして彼の方を見た。アーカードの方を。
「いい格好だぜぇ、セラス」
アーカードは心底楽しそうだ。助けてくれる気があるのかないのか、正直なところ分からない。

「なんだお前は!」
主犯格が木刀を構える。
アーカードは滅多に制服の上着を身につけず、
いつもシャツをズボンの外に出して、首元も大きく開けたたルーズな格好をしているのだが、
そのシャツの襟元に刺繍されたヘルシング学園の校章を彼らは見た。
「ヘルシングの奴らか!?」
男達はざわめいて一斉に戦闘態勢を取る。
「ま、確かにここはヘルシング学園のシマだって、アンデルセンなら言うんだろうけどなぁ」
アーカードは相変わらず一人だけのんびりした口調で話し続けている。
「俺はそんなことどうだっていいんだけどな」
体勢もリラックスしきった状況に見える。でも隙はない。
不良達に彼の強さが分かっているのかは不明だ。たぶん分かっていないだろう。
「ただ、声が聞こえたんでね。俺は諦めない女は好きだぜ、セラス」
アーカードはセラスの方を向いてニヤッと笑って見せた。
「助けて欲しいか、セラス?」
セラスは必死でコクコクと首を縦に振る。

「てめえ一人で勝手に話を進めてるんじゃねぇ」
短気な男がアーカードに向かって警棒を投げつけた。
彼は苦もなくそれをキャッチして、逆に倍の速度で投げ返す。
「がっ」
もののみごとに男は倒れた。

「じゃあ俺の女になるか?」

う。セラスは思わず返事に詰まった。アーカードの女好きは有名だ。食い捨てっぷりも有名だ。
レイプされるかわりに札付き不良の女になる?それはなかなかに究極の選択だった。
セラスはこれまでもアーカードに虐められていた女生徒を助けたことが何度かある。
どちらかというと彼のことは嫌いだった。
迷っているセラスの顔を、アーカードは薄笑いを浮かべながら見物している。

数秒間の逡巡のあと、セラスは決めた。
少なくともアーカードは強い。私は彼のそこだけは尊敬している。
力の使い方は間違えていると思うけれど、彼の強さだけは本気で憧れていた。
逆にこの不良共にはなにもない。ただの軽蔑の対象でしかない。
「ふぐっ」
ガムテープの中でもがきながら、セラスはアーカードに向かってうなずいて見せた。
「よし、決まりだな」
アーカードはぽんぽんと手を叩くと立ち上がった。
そしてひらりと猫のように荷物の上から地面に降り立つ。

あとはただ一方的な展開だった。
セラスが叩きのめされた相手が、逆に叩きのめされていく。
アーカードは容赦なく相手の一番弱い部分を攻撃する。
空手では禁じ手である頭への攻撃もためらわない。
何よりも、人を傷つけるということに対してすこしのためらいもない。
セラスは腕を縛られ口にガムテープをはられ、胸を、スカートの下をはだけられた姿勢のまま
彼の戦いを食い入るように見つめていた。

あっという間に10人の不良たちは地面にはいつくばることになった。
アーカードは地面に落ちていたガムテープを拾って、
彼らの足と手と口を手際よく拘束していく。
それからセラスの方に近づいてきて、彼女の口のガムテープを一気に剥がした。
「じゃ、するか」
「ここでですかっ」

アーカードは腕のガムテープもむしり取りながら、あっさりとした口調で言った。
「レイプ魔どもの前でやるって燃えないか?」
「燃えません!」
腕が解放された途端、あわててめくり上げられたスカートを直し
ブラを下げ、セーラー服の合わせ目を手で閉じながらセラスは思いっきり否定した。
「アーカードさん、助けてくれたことは感謝しますけど、約束は守りますけど、
 私はそういう趣味はないですっ!! それにあなたを選んだのは…」
アーカードはつまらなさそうにセラスの前であぐらをかいた。
別にする気がないならそれでもいいや、そんな態度だった。いつだって彼は気まぐれだ。
「…大嫌いな俺を選んだのは?」
ただ、アーカードの黒い瞳はセラスをまっすぐに見つめていた。吸い込まれそうな深い瞳だった。
この人にこんな一面があったなんてと思いながら、セラスは言葉を続けた。
「あなたが強いからです。私は強くなりたいからです」
ふぅんと気がなさそうにアーカードはあたりを見回す。倒れている男達を。
「お前にはもうこいつら程度を倒す力はあると思うがね。
 禁じ手だとか相手への配慮だとか余計な物を捨ててしまえばいいだけだ」
「それは…」
セラスにもよく分かっている。しかしそれは越えてはならない重大な一線だと思っていた。
そのせいでレイプされそうになっても、やはりまだ迷う。

「まあ、やる気がないなら今はいいさ」
アーカードはあっさり言った。
「そのかわりに条件がある」
なんだろう。セラスはごくりと唾を飲み込んだ。

「近いうちに、うちのクラスがどこぞのバカに襲撃される」
「えええーっ?」
「人数は不明だが、まあそれなりに集めているらしい。俺一人では防ぎきれないかもしれん。
 そこでだ、お前が手伝え。そうしたらとりあえずヤルのは先延ばしにしてやろう」
どうしてアーカードがそんな情報を持っているのだろうとか、
一匹狼で他人に無関心のこの人が何故「防ぐ」だなんて言っているのだろうとか、
疑問はつきなかったが、多すぎて咄嗟に言葉には出てこなかった。
「うちのクラスを襲撃するバカを、完膚無きまでに叩きのめせ。分かったか、セラス」
アーカードは一方的に言い切ると、そのまま立ち上がって倉庫から出て行った。
一切の反論も、疑問もゆるさない、そういう態度だった。
セラスはただ呆然とボタンをむしり取られたセーラー服のブラウスを手で握りしめ、
その後を見送っていた。

そして後日。
セラスはアーカードに校舎裏に呼び出された。
「だいたいの襲撃日程が分かった。ここ3日以内だ。相手はバレンタインという兄弟らしい。
 手勢も連れてくるみたいだな。俺はどっちかを相手するからお前はもう片方をやれ」
相変わらず一方的に告げながら、アーカードは腕組みをして不敵に笑った。
「一切の容赦はするなよ。頭だろうが他の急所だろうが狙えるものは狙え。
 二度とそんなバカをする気は起こらないよう、完全に叩きのめしてやれ。いいな?」
「…それを私にしろっていうんですかぁ」
セラスは泣きそうになりながらうつむいた。
あのレイプ未遂の日から時間が経って、ますます迷いは大きくなるばかりだ。
「お前がしないならと他の生徒どもに被害が行くだけのことだ」
アーカードは相変わらず笑いながら言葉を続けて、セラスを追いつめる。
「いい加減あきらめろ、セラス」
そういってセラスの顔の後ろにある壁に手をつき、顔を近づけた。
「お前は俺を選んだんだからな」

そう確かにセラスは選んでしまった。
自分がレイプされることではなく、相手が叩きのめされて重症を負うことを。
この身勝手で危険で容赦のない、底なしの怖さを秘めた男を。
そしてたぶん、数日後には自分の手を汚して、こだわりを捨てて、
クラスのみんなを守ることを自分は選ぶのだろう。選んでしまうのだろう。

アーカードはまた言うだけ言ってさっさと立ち去った。
セラスは目に浮かんでしまった涙を人差し指でそっと拭う。
「セラス!」
遠くから、大切な幼なじみの声が聞こえてきた。
その言葉を聞いて分かった。私は彼を、みんなを守りたい。そう思った。


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