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◆◆記憶に残った夢の個人的な記録◆◆

〜〜〜  05.悪霊退治  〜〜〜 

 夢の中での私の職業は、いわゆる“悪霊退治屋”だった。
 依頼があれば、鞄一つで全国どこへでも行く。
 今回の依頼は山奥にある某寺からで、その敷地内に棲む悪霊を退治してほしいというものだった。寺には30人ほどの僧侶がいるのだが、どうやら悪霊は怨念が強くて僧侶たちもお手上げ状態らしく、最後の手段として私が呼ばれたらしい。
 私は寺を目指し、暗い山道を黙々と歩いた。灯りは月明かりだけだ。何も怖くない。心は平然としている。やがて、目の前に長い塀の続く立派な寺が現れた。予定では明日の朝に到着するはずだったが、何時間か早く着いてしまったようだ。
 出迎えてくれた僧侶に早く着いたことを詫びると、「それでは今夜はここに泊まってください。例の悪霊については、明日また詳しくお話しいたします」と穏やかな笑顔で言われ、清潔なお布団の敷かれた和室に案内された。私は礼を言い、ありがたく眠りについた。
 真夜中、若い女性の悲鳴で目が覚めた。耳を澄ますと、その声は一人ではなく、大勢の女性たちが叫び、逃げ惑う足音が響いていた。
 ああ、そういえば…と私は眠たい頭でぼんやりと考えた。部屋に案内してもらう途中、寺には宿泊施設もあり、今夜は丁度女子高生たちが修学旅行で逗留しているのだと、僧侶が話してくれたのを思い出した。
 今、悪霊が出たのだ。
 女子高生たちは、それを見て大騒ぎしている。
 私は眠りを妨げた悪霊に腹を立て、不機嫌になった。こうなったら少し早いが、仕事を済ませてしまおう。決心して居心地の良い布団から出ると、私は感の命ずるままにあるものを目指して、間取りも知らない寺の中を歩き始めた。身体が悪霊に吸い寄せられているような感じでもある。
 不機嫌な私は大股で廊下を歩き、少し乱暴に襖を開けた。そこは50畳くらいの和室だ。そのまま突き進み、また襖を開ける。そこもまた同じように広い和室だ。更に突き進み、確信を持って襖を開けた。
 目の前にあるのは、何畳あるかわからないぐらい広くて薄暗い和室だ。奇妙なことに、部屋の真中に小さな祠があり、灯りも無いのにそれは青白く不気味に光っている。
 歩み寄り、両手で祠の扉を掴むと壊さんばかりの勢いで開けた。
 中には、髑髏が一つあった。
「おまえか」と私は吐き捨てると、それを取り出して、まじまじと見つめた。
 薄闇の中で見る髑髏はとても古いもので、長い年月を感じた。
 この髑髏に悪霊が宿っているのだ。
「人の眠りを邪魔しよってからに」と私は怒った。
 その時、地獄の底から湧いたような、雷鳴に似た声が響いた。
「…俺は…、…ん百年のもの間、恨み辛み……長い時を過ごした…」
 それは、髑髏が喋っているようでもあり、私の側にいる悪霊の声でもあった。
 恨みや辛みの文句や不平不満を延々と喋っている。
 私にはそんなことはどうでもよかった。眠りを邪魔されて文句を言いたいのはこっちだ。私の怒りは沸点に達した。
「やっかましいわッ!」
 私は髑髏を床に叩きつけた。
 髑髏はコロコロとボールのように畳の上を転がっていった。
「いや、ちょっ、ちょっ、ちょっと待て…!」と悪霊は叫んだ。「やめろよ、俺は可哀想なんだ、…ん百年もの間…」などと言って焦っている。
 何百年と言っているのか聞き取れない。おまけに何だその情けない言い訳は? さんざん人を困らせておいて同情しろというのか? 私の怒りは爆発した。「そんなこと、知るか」と叫んで髑髏の側へ歩み、片足だけでグシャグシャと踏み潰した。
 古いせいか髑髏はクッキーみたいに粉々に砕けた。
 足の裏が気持ち悪い…。
 悪霊の気配は跡形も無く消えていた。
 振り返ると、30人ほどの僧侶と、60人ほどの女子高生が「そんな悪霊退治の仕方ってアリ?」という呆れた顔をしてこちらを見ていた。
 私の仕事は完璧だ。
「ハイ、終わりました」と、私は機嫌良く、にっこりと皆に微笑んでみせた。


【あとがき】 夢の中で髑髏を踏み潰した時の足裏の感覚をまだ憶えています。スカスカのメレンゲクッキーでできたような髑髏でした。夫に話すと、「性格がよく出てます」と言われました。某映画監督さんには爆笑されました。


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