〜〜〜　　06.アーティスト村　　〜〜〜

私は外国にあるアーティストばかりが集まって暮らす街に、夫と共に引越していた。 　初めて住むその街を、新しく雇ったメイドさんとご近所探検しながら歩いていると、美味しそうな“お菓子の家”を発見した。壁はクッキーのように茶色い煉瓦で、チョコレートに見立てた色とりどりの丸い飾りが、水玉模様のように埋め込まれている。 「可愛いなぁ」と私が見とれていると、家の中から大柄で銀髪、銀髯のおじいさんが出てきた。彼はなぜか女物の長いスカートをはいている。 「これから買い物に行くのよ。街に出るときは女装するの」と、おじいさんは言い終わらないうちに、私の目の前で、自分の髯をベリッと剥がした。 「えっ、付け髭!?」と驚く私。 「彼は家の中では男、外では女として生活しているの。家では4人の子どものアクターと住んでいるのよ」と、横にいるメイドさんが耳元で囁いて教えてくれた。 　さすがアーティスト、変人が多いらしい。 　そんな感想を抱いて新居に帰った。 　海外の物件のせいか、私たち夫婦の家はとても広かった。 　その時、なぜか家の中をバサバサと白鳥が飛んでいく。我が家は獣道…蝶道…、いや、鳥道か？　 「この街には白鳥が生息しているの？」とメイドさんに訊くと、彼女は頷き、「庭でも飼っている」という。 　そんな会話を聞きつけた夫が仕事部屋から出てきて、 「何、白鳥？　羽根をデッサンしたいから飛んでいるところが見たい」と言う。 　私は庭に出た。そこには鳥篭がたくさんあって、その中の一つにはなぜか蟻がたくさん飼われていた。エサはスイカで、ひときわ大きな蟻がスイカを独り占めしている。他の小さな蟻たちがひもじそうだったので、 「あなたたちにもごはんあげるわね」と、スイカの端を少し取ると、大きな蟻に指をかまれた。 「イテテ」と私は声を上げた。 　何とも食い意地の張った蟻だな…と思いながら、「はい、どうぞ」と小さな蟻たちににスイカの端っこをあげた。 　その隣にある鳥篭はとても大きく、四羽の白鳥がうずくまって眠っていた。 　一匹を籠から取り出すと、白鳥は、 「何か御用ですか？」と人語を喋りながら私の胸に抱かれた。 「寝ているところ、ごめんなさいね。ちょっと飛んでみせてくれますか？」と伺う私。 　白鳥は羽が真っ白で、この世のもとは思えないほど美しく、抱いてみると、とても温かかった。 【あとがき】　お菓子の家がとても可愛らしくて印象的な夢でした。こんな家に住みたい。内装のカーテンもスウィーツ柄、クッションやティッシュカバーとかもケーキの形。 ルームコロンはバニラ。100％本気です。ダーリンに話したら、何と言うだろうか。多分、「嫌だ」と言うだろうなぁ。以前、ピンクの壁の家に住みたい(海外には結構、建ってます。白い窓枠の飾りが砂糖菓子のようでとても可愛いのです)と私が言った時、「ラブホテルみたいだから嫌」とか、「車に乗ったカップルがホテルと間違えて入り口を探すために家の周りをクルクル何周もしたり、間違えて車庫に駐車しそうだから嫌」とか、「嫌、嫌、嫌」と力説されたから…（^^;） …ということで、ダーリンに話してみた。 「お菓子の家に住みたいの」 「ははは、可愛らしいお家なんだろうね」 「一緒に住むでしょ？」 「う、うーん、ははは」 「何よその気の無い返事は。そんな家に住んだら帰って来ないつもり？」 「いや、一応毎日『ただいま』って帰るけど…」 「『けど』って何よ。いいわ、私一人で住むから」 「………。どんなふうにそのお菓子のお家を作るの？　窓はどんなの？　ドアノブはパンの形？」 「窓は普通のガラスよ。ドアノブは…考えてなかったわ。壁はクッキーの形のレンガで、チョコやキャンディを埋め込むの」 「へえ、そう。ゼリーもある？」 「ゼリー…？　そうね、ゼリーも欲しいわね」 「チョコやキャンディやゼリーは何の材料で作るの？」 「う…、そうね、樹脂かしら」 「どうせお菓子の家を作るのなら、リアルに作らないと面白くないよ」 「いいのよ、難しかったら最後の手段、壁に絵を描くから」 「それじゃキチガイの家みたいじゃないか。近所の人にキチガイが住んでると思われるよ」 「な、なんですって…!?　一緒に住むのが嫌なのね。…やっぱり絵じゃ変？　じゃあいいわ、家の庭の隅っこに犬小屋みたいなお菓子の家を建てて、私一人でそこに住むから」 「それじゃキチガイを隔離してるみたいに、近所の人に思われるじゃないか」 「………」 「………」 …というふうに会話はフェイドアウトしました。しょんぼり。