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◆◆記憶に残った夢の個人的な記録◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

〜〜〜  10.奇妙な国の女王  〜〜〜 

 夢の中で私は、魔法使いとキチガイ科学者と温厚な農民が住んでいるという奇妙な国の女王だった。
 その国は自然の多い田舎という感じで美しい森やに囲まれ、のどかな風景が広がっている。国民は少し変わり者が多かったが性格はおおらかな良い人ばかりであり、私はとても優しい恋人を持ち、幸福に満たされ、何の問題もなく国を治めていた。
 悲劇は突然起きた。恋人が死んだのだ。
 私は100日の間、城の奥深くにある“黒い部屋”に閉じこもって泣いた。窓のカーテンは閉められて薄暗く、壁も床も黒い大理石でできているその部屋は、かつては陽の光あふれ、恋人との思い出がたくさん詰まっている場所だった。隠し部屋にもなっていて、そこへの行き方は、女王である私と死んだ恋人、数人の臣下しか知らない。
 泣き通した100日目の夜、夢の中に恋人が現れて、穏やかな声で言った。
「あなたは女王であり、国を治め、果たさなければならない義務があります。私はあなたの心の中にいつまでも生きているのです、もう悲しまないで。私はいずれ生まれ変わる。再び会いましょう」
 101目の朝、私は恋人の言葉を胸に扉を開けて部屋を出た。悲しんでばかりいられない。悲しいことばかりを思い返しながら生きていては、いずれ心が死んでしまう。私は生きて義務を果たさなければならない。
 100日ぶりに臣下を連れて町を見回っていると、一匹の白い犬が駆け寄ってきて私に飛びついてきた。押し倒さんばかりに前足をかけて、千切れそうにシッポを振って私を見上げている。
 私は小さな悲鳴を上げて踏ん張り、その白い犬を見た。どうやら町を徘徊する野良犬のようだ。私はこの犬のことなど知らないのに、犬は私に良く似た誰かと勘違いしているのだろうか。臣下たちは犬が私に危害を加えないとわかったのか、笑いながらその様子を見ていた。
「何なのですか、この犬は…」と私はよろけながら白い犬と臣下の顔を交互に見た。
 犬は前足を下ろしたかと思うと、いきなり私のドレスの中に顔を突っ込んだので、私はあわてて一歩下がり、ドレスの裾を引いた。すると犬はまた私のドレスの上に前足をかけ、ドレスの中にある私の脚にしがみついて腰を振り出した。
 慌てて逃げようとする私と必死でしがみついている犬の様子を、通り過ぎながら見ていた農民の一人が、
「あ〜んれまぁー女王様、随分とその犬に好かれたもんだぁね〜。もしかして、恋人の生まれ変わりでねぇの?」と、なぜか訛った言葉で言う。
 いくら犬とはいえ、往来でこの情況は少し下品だと私が困った顔をすると、顔色を読み取った臣下たちがすかさず私から犬を引き離した。すると犬はいきなり狂ったような鳴き声を上げた。殴られたりしたわけでもなく、私と引き離されまいと必死に鳴いているらしい。
 犬は側を通りかかった数人の農民に押さえられながら、臣下と共に立ち去る私の姿が見えなくなるまで狂ったように鳴き続けていた。狂人の叫び声にも似ていて、私は少々薄気味悪さを覚え、一度振り向いてからは二度と後ろを振り向かなかった。
 数日後、私は城の中にある私専用の広い図書館で、一人で静かに書物を読んでいた。すると、いきなり扉が開いて一人の若者が私に走り寄って来た。
 私は椅子に座っていたが、若者は私の足元に座り、膝の上にいきなり手を乗せた。
「何ですか、あなたは…、ここは立ち入り禁止ですよ!」と私は机の上で本を閉じながら訊いた。
「僕は、あの白い犬です」と若者は言った。
「犬?」私は驚いて彼を見直し、一体何者なんだろうと訝しく思いながら、「“あの白い犬”って何のことかしら?」と問いかけた。
「この間、道で会ったでしょう、あの時の白い犬です」
「自分のことを…“犬”…だと?」
「うん!」
「信じられないわ。あなた、何処かであの様子をこっそり見ていたのね」
「違う!」
 私は眉をひそめて青年を見た。
「信じて、あの日の女王様のドロワーズ(drawers)は白いコットンで、リボンは菫色だったよ!」
 若者は得意げに言った。
 私はドレスの中にはいていた下着の色を言い当てられて、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。町を見回ったあの日、朝の着替えは一人でしたから私がどんなドロワーズをはいていたのかは私しか知らないことだ。ドレスの中を覗いたあの犬以外は……。
 私の中で、この若者は本当に犬ではないのだろうかという確信のようなものが頭をもたげた。
「そう仮定するとして…」と私は考える。「犬だったあなたを人間に変えたのは誰なのですか?」
「覚えてない。誰かに…何処かに連れて行かれて、朝、道端で目が覚めて…、気づいたら人間になってたんだ!」
「まあっ、何ですって!? 研究目的でも何でも無く犬を人間に変える人がいるなんて。最近はこういうイタズラが増え始めたのかしら。きちんと法律で禁止にするべきだわ!」
 私が一人で憤慨していると、いきなり若者は私の腰に両腕を回して抱きついてきた。
「あなたに会いたかった!」
「離れなさい!」と私は驚いて大声で叱る。
「嫌だ! これは僕の運命だ!」
「どういう事…?」
 次から次へと驚く事ばかり言うこの若者に対して、私は眩暈を感じていた。
「僕はあなたの恋人の生まれ変わりなんだから!」
「バカなことを…」
「僕自身あんまり自覚が無いんだけど、僕の中の魂と細胞がそう言ってる!」
「いい加減にしなさい! 町の往来で腰を振るような犬が、私のあの上品な恋人の生まれ変わりだと言うの!? ふざけすぎだわ、あなた…」
 青年は悲しそうな顔をして、憤慨する私の言葉を遮った。
「死んだ後、何かの間違いでさ、人間に生まれ変わるはずが、犬に生まれ変わっちゃったんだよ!」
 そう言いながら彼が私の手を舐めたので、私はあわてて手を引っ込めた。脳裏に一瞬だけ恋人とのキスを思い浮かべた。恋人は私の手によくキスをしていた。
「犬のように、いきなり人の手を舐めてはいけません!」
「あっ!? 失敗、失敗。なかなか犬の習性が抜けなくって」
「私を騙そうとしているの? だったらやめてちょうだい。まだ恋人の死から立ち直っていないのよ、悪い冗談は許せないの」
「違うよ、信じて!」
「…………。誰かに頼んで、すぐに犬に戻してあげます」
「お願い、側に居させて! しばらくしたら犬の習性も薄れると思うし、あなたの恋人だった頃の記憶をたくさん思い出せる! そしたらあなたも僕を信じられるようになるよ!」
「…………」
 私はしばらく考え、若者に言った。
「ではしばらく側にいることを許しましょう。けれども、もしも嘘だったら…」
「死刑でいいよ。僕が死刑になる可能性はゼロだもの」
 自身満々な顔をして青年は微笑んだ。
 それから青年は私の側を片時も離れなかった。元々酔狂な性格をしている臣下や国民たちは、私と青年を面白がって観察していた。
 しかし私は、青年が“黒い部屋”に一緒に入るのを決して許可しなかった。
 恋人との思い出にひたる為に私が黒い部屋へ行こうとすると、「僕も行く!」と青年はいつもしがみついてきたが、私は同行させなかった。
 ある日、私が一人で黒い部屋いる時、大地震が来た。
 殺風景な部屋の中はそれど被害が無かったが、揺れは思ったより大きかったらしく、部屋の入り口と通路が、倒れた大理石の柱や瓦礫で塞がれてしまった。隙間はあっても通り抜けられるほどの幅も無く、私は誰かが助けてくれるまでおとなしく待つことにした。いずれ臣下たちがやって来るだろう。
 思いがけず黒い部屋に閉じ込められ、再び死んだ恋人との記憶が蘇ってつらくなった。
 その時、崩れた瓦礫の間から一匹の白い犬が飛び出して私の方に駆け寄ってきた。
 ああ、あの青年だ、と私は思った。
「私を助ける為にまた犬になったの?」
 私は泣きそうになりながら両手で犬を抱きしめた。

【あとがき】 ダーリンにこの夢の話を聞かせたところ、「え、何、その犬、ウザいキャラなんだ!?」と、途中で一言感想を漏らしただけでした。私の感想としても、面白くない夢でしたが、またこの次に、“段々と人間になっていく動物の夢”を見たので序章として記しておきました。


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