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◆◆記憶に残った夢の個人的な記録◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

〜〜〜  11.水玉模様の白馬  〜〜〜 

 
 その日は一日中薄曇りで、太陽が雲間に隠れて出て来なかった。もうすぐ夕方になろうとしている。
 私は一人で、舗装されていない道を歩いている。右手には波の穏やかな海があり、左手には風に吹かれてゆったりとうねる野原がある。
 道の右端は崖になっていて、あと数メートル進むと道は二手に分かれていた。まっすぐ行く道と、崖を下って海辺へと続く道である。
 私はそのまま真直ぐ歩いていくつもりだった。この先にある海辺の日本料理旅館で夕食の約束をしている。ビジネスディナーという感じでもあり、親しくなったバンドさんたちとの食事会という雰囲気でもあった。バンドさんたちは丁度来日していて、日本料理の海鮮物が食べたいという希望だったので私が予約しておいたのだ。
 いきなりどこからか蹄の音がした。それはものすごい勢いで崖を登ってきているらしい。驚いた私は道に立ちすくみ、恐る恐る右手の崖の方を見ると、大きくて立派な白馬らしきものが身体半分だけ見えたが、急な為に道に上がりきることができずズルズルと滑り落ちてしまい、あっという間に私の視界から消えた。
 あらあら。もう少しで道へと上がれたのに残念ね、と私は思った。映像を頭の中で再生する。さっきの馬はグレーがかった白馬で、腹の横に薄紫の水玉模様があった。
 あの水玉模様、誰かにイタズラされて描かれたのかしら? そんなことを考えていると、再び馬が崖を昇り、同じ勢いで滑り落ちていった。
 馬が必死で崖を登ってくる訳は、どうやら私に用事があるらしいと悟った。どうしても、私に接触する必要があって必死に崖を上っているらしい。他に道もあるのに、必死すぎて考えつかないのだろう。よほど大切で急を要する用事なのだろうか?
 私は崖下を覗き込み、一生懸命に登ろうとしている馬に向かって、
「危ないわ、私が崖を下りていくから、あなたは下で待ってて」と声をかけた。
 海辺に降りていく右の道を進もうとした途端、崖を駆け登ってきた馬が飛ぶようにして道に上がった。そして勢いが良すぎたせいで私の目の前でゴロゴロゴロと回転した。
「ひぇぇぇ〜」と私は悲鳴を上げた。「ちょっと馬さん、骨折したらどうするの?」
 驚いている私に、素早く立ち上がった馬が歩み寄って来る。怪我も骨折もしなかったらしい。筋肉逞しい立派な大きな馬だ。その馬の顔が私に近づく。
「お願いがあるんです」
 馬は人語を喋った。
「お…、お願い……?」と私は言葉を繰り返した。そして必死な馬の姿を思い出し、馬にとってよほど真剣で大事なお願いなのだろうと思うと即座に断れず、話を聞いてみることにした。
「お願いって…、何でしょうか?」
「私は人間になりたいのです」
「は、はあ…、そう…ですか…。でも…」
 でも、私はその方法を知らない。言うとがっかりするだろうか? 馬は言葉を続けた。
「それには、あなたにキスしてもらわなければなりません」
「えっ……?」私は唖然とした。「……冗談でしょう?」
「お姫様にキスされたカエルが王子様になったというお話を知っていますか?」
「童話ですね、でも私はお姫様ではありませんから無理なんじゃないでしょうか?」
「いえ、あなたのキスのチカラが必要なんです」
「チカラ…?」
「お願いします、人間になりたいのです」
 人間になりたい、という馬は元々王子様ではないのだろう…と考えたが、そんなことは別にどうでもよかった。とりあえず私が願いを叶えてやれるのなら、そうしてやりたいと思った。
「キスすればいいんですね、じゃあ手早く済ませてしまいましょう」
 私は数秒でこの馬の用事を終わらせて、料理旅館に向かわなければならない。約束の時間が迫っている。
「あのう…申し訳ないんですが…」と馬はすまなさそうに言った。「一つ問題があります。手早くは済ませられないのです」
「どういうことですか?」
「しばらくの間、キスしてもらわないといけないんです。あなたのチカラが私の中に流れ込んで人間に変化させるエネルギーになるには時間がかかるのです」
「というと、あなたが人間に変わるには、数秒ではなく、長い時間が必要だと?」
「はい」
「どうしましょう、私、料理旅館で人と会う約束をしているんですけど…」
「じゃあとりあえず、あなたに同行します」
「えー……」
 と言いつつも、馬を見捨てるわけにもいかず、約束の時間に遅れるわけにもいかないので、私は馬と一緒に料理旅館へ向かった。
 そして、廊下を挟んだ向こうの和室では、バンドさんたちメンバーが食事会を始めているというのに、私は別の部屋で馬と抱き合ってキスしているのだった。
 うまくキスできないので、馬の首に手を回さなければならなかった。それでもなんとかキスを続けていると、馬の首が短くなり、人間のような髪の毛が生えてきた。それは綺麗なピンク色をした毛だった。
 バンドさんたちの部屋も私のいる部屋も、腰の高さくらいの障子張りの窓があり、どちらも開け放たれている。私の位置からはバンドメンバーたちが食事をし始めたのが見えた。向こうから見たら、私がピンク色の髪の毛の男と抱き合ってキスしているようにしか見えないだろう。ずっとキスしているので唇が疲れてきた。
(何の因果で馬とキスなんて…)
 そう思いながらも、指先に触れるピンクの髪は手触りが良かった。
 メンバーの一人が立ち上がって、こちらに向かって歩いてくる。そして側まで来たが、人間に変えるエネルギーをキスで与え続けている私はなかなか途中でやめづらい。
「君が催した食事会なのに、なぜ君は部屋にも来ずに、こんな男とキスしているんだ?」
 メンバーは不機嫌そうに言った。
 私が説明しようとすると、メンバーは馬のピンクの髪を乱暴に掴んで引っ張り、無理遣りキスをやめさせた。
 馬の顔は、もうすでに人間の男の顔になっていた。なかなかの美男子で不精ヒゲも生えていてワイルドな感じだ。
「す、すみません、終わったらすぐそちらの部屋に行きます。もう少し待ってて。この馬、人間に変わってる途中だから…」と私はメンバーに説明しつつ謝った。
 メンバーは馬の首から下を見て両目を見開いた。顔だけ人間の馬なんて、そりゃあ誰でも驚くだろう。
「人間になりたいんですって。それには、私がキスしてあげなきゃいけないらしいの」
 私の言葉を黙って聞いていたメンバーは、やがて落ち着きを取り戻して言った。
「おまえは…、フン、なるほど。こういう顔の人間になるのか」
 そう呟いたメンバーの顔には冷たい薄笑いが広がり、手にはなぜか大きなハサミが握られている。
 何をするの、と私が訊く間も無かった。
 メンバーは、ピンクの髪の毛をした男の不精ヒゲを掴んだ。そして、手にしていたハサミでバッサリとヒゲを切り落とした。


【あとがき】馬が可愛かった。グレーがかった白馬で薄紫の水玉模様なんて、本当にいたらいいのに。夢の中のピンクの髪の毛の手触りだけリアルに覚えてますが、美容院でトリートメントしてもらった後のような、しっとりとした感触でした。しかし長い夢で、睡眠をとったにも関わらず、目覚めた時はすでに疲れていました。


(C) Marin Riuno All Rights Reserved

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