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◆◆記憶に残った夢の個人的な記録◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

〜〜〜  013.ルームメイト  〜〜〜 

 私はルルル♪という気分で鼻歌など歌いながら階段を下りている。
 そこは大勢の学生が利用する学校内の階段だった。どうやら芸術関係の専門学校らしい。私はその学校の一年生の生徒で、それほど真剣に芸術を学んだり、将来芸術関係に就職する気もなく、放任主義の両親の元に育ったアホで世間知らずのお嬢さんだ。着ているフラノのワンピースも灰色のおとなしい型で、黒髪を肩まで伸ばした容姿は地味な感じである。専門学校に合格したのを機に一人暮らしをしたいと願い出て、学校の近くに3LDKほどのマンションを両親に買ってもらった。適当にバイトして適当に学校へ行き、親からの仕送りで適当に暮らしている。そしてすぐにその生活は一人暮らしの淋しさのせいでつまらなくなってしまっている。人生の情熱を傾けるものが何も無いので、そのエネルギーは淋しさに後押しされて恋愛を選んだようだ。
 私は全く面識の無かった同じ学校の男子生徒■君から告白されて一目惚れしてしまい、自分のマンションで一緒に同棲することに決めたのだった。だから私は嬉しくてルルル♪な気分なのであった。
 季節は初冬で、昨日は雪が降った。学校内は来春卒業して就職予定の生徒たちの不安や希望といった様々な喜怒哀楽の感情が渦巻いて喧騒に包まれている。私はその雰囲気に伝染することもなく、恋愛の希望的観測に一人で浮かれていた。
 学校内のホールは、就職活動に使われている。私は用事があってそのホールへ向かうために階段を下り、多くの人とすれ違いながら歩いている。ふと、私は誰かに名前を呼ばれた。
 振り向くと、そこにはS先輩がいた。私はルルル気分の笑顔のまま挨拶をする。
「あ、S先輩。こんにちは」
 先輩は卒業したら芸術関係の仕事に就き、とっても優しいO先輩と結婚して海外へ行く予定だ。アホな私は普段から、とても賢いこのS先輩に世話になっていた。
「海外に行く準備は進んでいますか?」と私は尋ね、しばらく世間話をしていたが、S先輩が急に声の調子を落として私の耳元で囁いた。
「■君と同棲するんだってね」
「えっ」と驚いた私は、すぐに脳裏に■君の綺麗な笑顔が浮かんで思わずエヘヘと笑ってしまった。「どうして知ってるんですか? こういう話は伝わるのが早いですね」
「なんとも急な話だね」
「はい、彼のバイト先がいきなり潰れてしまって、生活困難になって、家賃を払うのも大変らしいので…。私も今住んでるマンションに一人で暮らすのは淋しいから、一緒に住んだら丁度いいかなーと思って」
「■君がそう説明したの?」
「はい」
 S先輩はしばらく何かを考え込んでいたが、決心したように話を切り出した。
「■君のバイト先は潰れてないよ」
「え…?」
「今、同棲している女の子とケンカして家を追い出されそうだから、君のマンションに転がり込むつもりなんじゃないかな…」
「…知らなかったです…」
 頭の中でガーンという擬音にエコーがかかる。
「他にも大勢いるガールフレンドと遊びまわっていて、それが同棲中の彼女とのケンカの原因らしい」
「先輩…詳しいんですね……」
「そりゃ、■君はこの学校でも有名な遊び人だから」
「遊び人……、それも…知らなかったです……」
 私は学校内の他人の恋愛関係などどうでも良いと思っていたので、まったく情報が掴めていなかったらしい。
「君の友達は、君を傷つけまいとして黙っていたのかな?」
「さ…、さあ…?」
 私の女友達は、思いっきり遊び人で学校の外のクラブで遊びまわっているグループと、恋愛にはほとんど興味の無いとても地味なグループの二つに分かれていて、自分の興味の無さもあり、そのどちらからも学校内の男子生徒の噂は伝わって来なかったのだと頭の中で分析した。
「じゃあ…■君は…私に本気じゃなかったんですね…、利用しようとしただけだったんですね…」
 私は眩暈で倒れそうになるのを両脚で踏ん張りながら先輩に言った。
「真実はわからないけど…、友達である君が迂闊な判断や行動で傷つくのは、僕は嫌だと思ってる」
 S先輩は今までたくさんの助言をくれたが、私の私生活に口出ししたり、ああしろこうしろと命令したことは一度も無い。先輩はいつも私を見守っていてくれて、私が困っていると何の見返りもなく何度も助けてくれた。■君のことを私に話したのは、私が人生の道を踏み外しそうで危険と考えた結果なのだろう。
「情報提供ありがとうございました……、もう少し考えてみます…」
 私はさっきまでのルルル♪気分から一気に急降下して、暗く陰鬱な気持ちになってフラフラしながらその場を去った。
 ■君…、数日前、真っ赤な顔をして、しどろもどろになって私に告白した■君…。私の知らない女の子と同棲してたんだ、その子とケンカして住む家が無くなりそうだから、私に嘘の告白をして新しい居場所を確保したんだ…? 私は住宅保険か? 私は騙されて、家も気持ちも身体も提供しようとしていて、見かねたS先輩が止めようとしてくれた…?
 人を疑うってコトを、あんまりしないからなぁ…私は。だからバカなのかー…。すぐ信じてしまうし。人の心を弄ぶのは悪い人のすることだって思って生きてきたけど、騙されないように気をつけて生きてきたわけじゃなかったなぁ。やっぱバカだ…。
 などと考えながら学校を出て家に着くまでの間、歩いていると数人の女の子に「■君を返して!」などと怒鳴られたり泣かれたりして、すっかり辟易してしまった。私は全員に「仲直りすればいいじゃないの」と助言した。
 家に帰って、ベッドの上でゴロゴロしながら私は悩んだ。車で■君を迎えに行く約束をしていて、行くべきか、やめるべきか…。
 ■君は、きっと今頃、彼女と仲直りしたはず…。私はそう考えて、寝てしまった。気付くともう夕方近くて、■君との約束の時間はすでに6時間が過ぎていた。
「おなかすいた…」
 私はスーパーに行くために、車のキイを持ってマンションの部屋を出た。地下駐車場へ下りて車に乗り、エンジンをかける。ふと、■君との待ち合わせの場所の本屋の前を通ってみようという気になった。
 ■君は、そこにいた。6時間も経っていたのに、本屋さんの前で途方に暮れたように立っている。足元に、多分身の回りの物を詰めた大きめのバッグを置いて。
 彼女と仲直りしなかったの? 私は車を停めて■君の前に飛び出した。
 びっくりした様子で■君は私を眺め、それから顔を歪めて泣きはじめた。私はあわてて、「とにかく車に乗って」と彼を促した。
 助手席で、彼はまだ子供みたいに泣いていた。私は運転しながら、
「彼女に叱られたの?」と訊いた。
「本当のこと、言わなくてごめん…。同棲してる彼女がいるって知ったら、僕の気持ちを疑われると思って」
「彼女は■君のこと、まだ好きみたいよ。彼女は私を憎んでると思うわ。仲直りしたら?」
「彼女とは、もうやり直せないんだ」
「あなたは、私の家から出て行く時も、次の女の子に同じことを言うんでしょうね」
 まさか■君が泣くとは思わなかったので面食らってしまったが、頭の中は意外に落ち着いている。住む家の無い人を放り出す趣味もなく…。
「あなたと住んでもいいけど、あなたはただのルームメイトよ」
「拷問だ、好きなのに」
「私を襲ったら、切り落とすわよ」
「自信が…無いよ…」
 彼は拗ねたような困った顔をした。本気なのかどうなのか、私にはわからない。私はバカだから人の本質が見抜けない。このまま家に向かうのも躊躇われたので、ドライブのつもりで山の近くの国道を走った。
「自信が無いなら、一緒に暮らせない」と私が言うと、彼は、
「わかった」と呟いた。
 運転しているとき、ふと、空き地を見つけた。そこには誰も足跡をつけていない雪が、積もったままになっている。
 私は車を停めて、
「足跡つけたい」と空き地の雪を指差した。
 ■君と私は、車を降りて二人でテクテクと雪の上を歩き、足跡をたくさんつけて遊んだ。どちらからともなく手をつないで、ふと立ち止まって振り返り、足跡を眺めた。
「気持ちを受け入れてもらえるまで、僕は行儀良く紳士的に待つよ。ちゃんと家賃も光熱費も半分払う。それから、食事の支度も当番制にして…」
 真面目な顔をして彼が言う。せっかく遊んでいるのに、彼の胸の中は心配事でいっぱいらしい。
「じゃあ今日は、夕飯一緒に作ろうか」
 私が提案すると、
「うん」と■君は笑った。私の好きな、綺麗な笑顔だった。
 騙そうとしてるのかな? それとも──?
 車に戻りながら、「どんな生活になるやら…」と、私は心の中で苦笑いした。

【あとがき】 これが2010年の初夢ですよ(^ω^;)(;^ω^)  情報収集をして、物事の本質を見よ、という警告だったりして。夢の中の田舎の雪景色が綺麗だった。



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