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「俺達も行くか…花見」

蛮がぽつりと呟いた台詞に、銀次は自分の耳を疑った。

士度とマドカが店を出て行ってから数時間、世界は蒼茫と暮れつつある。一体何が、蛮の心境に変化をもたらしたのだろうか。

「蛮ちゃん、それ本当?」

銀次は隣に座る蛮の顔色を伺うように覗き込んだ。蛮の本心がいまいち掴み取れない。

何故なら、蛮はほんの数時間前まではいくら銀次が花見に誘っても、頑として首を縦に振らなかったのだ。

蛮がイベントごとにあまり興味を示さないことは知っている。しかし、士度とマドカの運んできた、初々しさの残る暖かい春の空気は、そんな蛮の気持ちにも幾ばくかの変化をもたらしたのではないかと思い、銀次は2人が仲良く出て行った後、1時間に渡って蛮を連れ出そうと試みた。

結果、今この場に収まっているということは、銀次の作戦はいずれも成功しなかったというわけだ。

そんな蛮が、何故今になって意向を変えたのか。

「本当に?本当に花見に連れてってくれんの?」

「ああ」

蛮は爽やかな笑顔で頷いた。

「思う存分桜を見物して、思う存分食わせてやるぜ」

太っ腹な蛮の言葉に銀次は目を輝かせた。しかし、嬉しく思うのは確かだが、やはりどこかしっくりとこない。

こんな風に蛮が人好きのする笑顔を見せる時は、何か裏がある。

それ程長くはないが、深い付き合いの中で、銀次は勘と経験から美堂蛮という存在をほぼ完璧に知り抜いていた。

嫌な予感がする時は、大概当たっている。

手がかりを探して銀次がふと視線を転じると、テレビでは今まさに宴もたけなわといった感じの花見会場が中継されており、その中で理性の吹き飛んだ人間達が酒と御馳走に舌鼓を打ちながら饗宴に明け暮れていた。




「こんなことだろーと思った…」

銀次の小さな呟きに、蛮が気分を害したらしく鋭い視線を向けてくる。

「何だ、文句があるのか?言った通り、桜は見られるし飲み食いもできるじゃねーか」

「だってさぁ」

蛮の言い分は理解できる。蛮のこの作戦が、2人の生活水準を考えると、ある意味非常に賢明であることも。

しかし、今、自分達がしていることは、どこからどう見てもあまりにも情けないの一言に尽きるではないか。

銀次の頭上には満開の桜、目の前には酒と様々な食べ物が並んでいる。

そして周囲には、名前も顔も知らない酔っ払った人々。

銀次と蛮は、花見客が酔って判断能力が著しく低下しているのにつけこんで、ちゃっかり宴会の中に紛れ込んでいるのだった。

運悪くターゲットにされた団体は、どこかの大学のサークルといった感じの集団で、いくつも転がる空の酒瓶を見るまでもなくすっかり出来上がっていた。

蛮の狙い通り、“よう、久し振り”“誰だっけ?”“何言ってんだよ、同じ大学だろ”という、非常に曖昧で適当な会話をしただけで、蛮達はいとも簡単に輪の中に入り込むことができた。割と裕福な家庭の子女が通う私立の大学なのだろうか、彼らの用意した酒宴は、大学生が行うにしては中々高級そうな食材が並んでいる。

だからこそ、蛮に目をつけられたのだ。

「蛮ちゃ〜ん」

「変なとこでこだわんなよ、銀次」

「でも…」

第三者として自分達の姿を想像してみると、何だか情けないを通り越して悲しくすらなってくる。もう帰ろう、と涙を溜めた目で訴えかけてみるが、蛮はそれに気付いてもくれない。

「なら、食うな」

「あっ!!俺が取っておいた唐揚っ!!」

「うるせー、食うな」

「ああっ!!俺が最後に食べようと思ってたマグロ〜っ!!」

我が姿を情けなく感じている身としては、ここで怒るのも筋違いであるのだが、奪われれば苛立つのは当然である。しかも食べ物の恨みは他とは桁違いだ。

「酷いや蛮ちゃん〜」

銀次は本当に泣きたくなってきた。せっかくこんな綺麗な桜の下なのに、何故桜を愛でる暇もなくこんな虚しい思いを抱かねばならいのか。

これなら桜などなくても、いつもの喫茶店で他愛のないお喋りでもしていた方が何倍も楽しい。

銀次がそんな気持ちになっているにも関わらず、蛮はまだ違う標的を物色している。

蛇のような目つきは天性のハンターのようだ。

銀次はがっくりと肩を落とした。

蛮を置いてひっそりと席を立つ。

これ以上付き合う気にはなれなかった。

蛮から離れて、場所取りのシートのために狭くなった通路を1人歩く。

途中へべれけ状態のおじさんや若いお姉さん達にからかいまがいの声を掛けられたが、無視して奥へと進んでいった。

そろそろ蛮が、銀次の不在に気付く頃だろうか。あの様子では、もし銀次がいなくなったことに気が付いても、蛮は追ってきてはくれないような気がする。

お互い子供でもないし、たまに別行動をしてみるのもいいかもしれない。どれだけ強い絆を持っていようと、考えを違えることがあって当然だ。違う面を持ち合わせているからこそ、お互いを支えあっていけるものである。

しかし、本音を言えば、こんなに見事な桜の下を、2人で歩くことができなかったのが少しだけ残念だった。




桜の回廊が途切れると、花見客も途絶える。桜の名所で宴会ができる場所とくればどこもそうなのだろうが、花見客はただ騒ぐばかりで主役であるはずの桜をゆっくりと見られる場所は意外と少ない。

桜を見るためには、あの喧騒の中へ戻らなくてはならないわけだが、桜に未練はあっても銀次は戻る気にはなれなかった。

足を止めて溜息をつく。

まだまだ桜は見足りない。

夜空に浮かんだ月を眺めつつ、どうしたものかと思案した所に、桜の回廊から離れた所に1本だけ、大きな桜の木が見えた。盛りとばかりに、枝という枝に薄桃の花を開かせている。ライトアップもされていないのに、そこだけ浮かび上がって見えるのは、月の光でさえもその艶やかさを称えたいと強く望んだからだろうか。

メインの桜並木からは確かに位置がずれているものの、あれだけ大きな桜の木なら1本だけでも見ごたえがあるはずだ。何故誰もあの桜に寄っていかないのか不思議だった。

吸い寄せられるように銀次はそちらへ足を向けた。一歩進むごとに淡い桃色の塊は視界を埋め、圧倒的な存在感を訴えかけてくる。

一つ一つは儚いように見える桜の花だが、1本の木となるとどうしてこれ程の迫力を見せるのだろうか。

「…すっごいや」

銀次の口から、誰に語りかけるでもなく感嘆の呟きが漏れる。

桜のすぐ下に立って見上げると、四方に枝を伸ばしてその全てに花を飾った姿は、まるで夜空を圧する白い闇のようだ。



くきゅ〜るるる〜。



思わず見とれた幽寂の世界を、腹の虫がこなごなに打ち砕いた。

「俺って…こんな時でも花より団子なんだなぁ」

自嘲気味に笑って腹を押さえる。押さえても腹の虫は治まってくれるどころか、ますます空腹を主張してきた。

「あれだけじゃ足りないよな〜、お腹空いた」

「どうぞv」

夢でも見ているのか、目の前に屋台定番のタコヤキとお好み焼きとヤキソバが現れた。

「!!」

何も考えずに反射的に飛びつく。

こんな時の銀次の素早さは、蛮の反射速度に勝るとも劣らない。

その場にしゃがみこんで、思いがけない恩恵を無邪気に喜ぶ銀次の前に、食べ物はどんどん追加されていった。。

「このタコヤキ絶品っ、ヤキソバもできたてだー♪」

「美味しいですかv」

「むちゃくちゃうまいです♪」

「嬉しいですかv」

「はい、お好み焼きも中々どうして良い焼き具合です♪」

「それは良かったですね、銀次君…v」

「あれ?何で俺の名前……………はっ!!」

食べ物を口に運ぶ銀次の手がはたと止まった。

「元気の良い魚は、餌で釣るに限りますね」

「…あ、あの。…えっと」

銀次は背中にとんでもないプレッシャーを感じて身を縮めた。気持ちの悪い冷たい汗が全身からだらだらと流れ落ちていく。心臓が急激に動きを速め、鼓動がうるさい程に頭の中で鳴り響いた。

「どうしたんですか?まだ残っていますよv」

穏やかな声が背後のやや上方から降ってくる。聞き覚えがありすぎて嫌になる、とても優しげな声が。

「いえ…その、あのぅ…」

「貴方のためにわざわざ買ってきたのですよ。遠慮せずに食べてくださいねv」

「はっ…はいぃ、食べますっ。全部食べます〜っ、赤屍さんっ」

ようやく銀次の口から出た名前に、背後の人影―――赤屍蔵人は切れ長の目を更に細めて微笑んだ。

味も何も分からない状態で、とにかく全てを喉の奥へと流し込んだ銀次は、背後の気配を探りつつゆっくりと立ち上がって振り向いた。

「あれ?」

手が届くくらいのすぐ後ろにいると思っていたが、意外にも黒衣の姿は銀次から3歩程離れた所にあった。いつ離れたのだろう、赤屍の与える威圧感には距離など関係ないということか。

「満足しましたか?」

「ごごっ、…ごちそーさまでした」

いつもの黒い帽子に黒いコート、闇に溶けてしまいそうなしなやかな影の中で、目を見張る程白い貌が薄く笑っていた。

非常に嬉しそうに見える所が更に恐怖心を煽る。

それにしても、赤屍はこの姿で夜店のタコヤキなどを購入してきたのだろうか。

本人はそんなことには無頓着だろうが、店を構える人達やその周辺を歩いていた人達は、さぞや不気味な思いをしたに違いない。

背の高い黒づくめで現実感の欠片も見当たらないような男が、夜店で楽しそうにタコヤキを買う。

ただでさえ悪目立ちする赤屍にそんな真似をされた日には、赤屍という存在を知らない一般人でさえ奇妙な顔をするのは勿論のこと、裏社会の人間が見たら失神ものだ。

「赤屍さん…も花見ですか?」

沈黙が恐ろしくて、銀次は思わずどうでもいい話を振ってしまった。赤屍は立去る様子もなく、かといって何か行動を起こそうという雰囲気も感じられない。

「そう思いますか?」

「仕事…ですか」

銀次の怯えた瞳に、一瞬険悪な光が漲った。

もし仕事の途中だとしたら、また人を殺すのだろうか。

「どうせなら仕事の中で会いたかったですね、残念です」

その言葉の裏に含まれる意味を察して、銀次は内心でまた冷汗をかいた。

全然残念じゃない、殺り合うのは2度と御免だ。

銀次はそう心の中で絶叫したが、お互いに仕事を続ける限り無縁ではいられないことくらい承知している。いつかまた赤屍が望んだ通り、命を削り合う時が来るのだろう。

「じゃあ、仕事ではないんですね」

確たる返事をもらうまで、銀次の緊張は解けなかった。

真っ直ぐにこちらを凝視する銀次に、赤屍はいつもの底知れない笑みを浮かべながらゆっくりと近づいた。

一歩近づくたびに、空気が張り詰め、気温が1℃ずつ下がっていくような気さえする。

一目散に逃げ出したくなる気持ちを押さえて、銀次は赤屍を見つめた。

月明かりに照らし出された赤屍は、足下の薄い影などよりもずっと濃い闇を秘めている。この世の闇を凝縮させたなら、こんな生き物を生み出せるのだろうか。

すぐ目の前に迫った細身の長身を、銀次はしっかりと見据えた。勇気と見栄を総動員して、内心の恐怖感を表に出さないように努力する。

視線を合わせたまま、赤屍が少しだけ身を屈めると、細い髪が滑るように流れてきて銀次の鼻先を掠めた。際立つ白い肌と、血の色のような赤い瞳が至近距離に迫る。

「血の匂いがしますか?」

「…いいえ」

「それが答えですよ」

銀次はようやく肩の力を抜いた。

ふわりと離れた赤屍からは何の香りも漂ってはこない。

だが、赤屍の姿を視界に認めるたびに、鮮明な血のイメージが重なる。あるはずのない香りまで嗅ぎ取れそうだ。

「たまたま貴方を見かけたので…ね」

至極普通な言葉と理由に、銀次は複雑な表情をした。

ああは言っているが、赤屍ともあろう者が何の用もなしに外をふらつくとは思えない。仕事中でないというならば、これから仕事に向かう所か、若しくは依頼人と会うことにでもなっているのだろう。

「それにしても何故こんな不釣合いな場所に?」

赤屍の言葉に銀次は首を傾げた。少々寂しい感じのする場所ではあるが、花見をするには十分見事な桜があるではないか。

「なるほど、ご存知ないようだ。先週ここで首を吊った女性がいましてね。それで誰も来ないのですよ」

銀次の表情を見て、本当に何も知らないことを感じ取ったのか、赤屍が実に簡潔に説明してくれる。

無駄な単語は一つもない。抑揚のない声には、事実をただ伝えるだけで、その件に関して何の感慨も持っていないことが伺えた。生命に対する価値観は人によって異なるだろうが、中でもこの男は何の疑いもなく最低ランクに位置づけをするような人物だ。

「そう…なんですか」

「既に死んでいるものを怖れるなど不可解ですが、世間的にはそれが一般的らしい。貴方もそうですか?」

赤屍が言い終える前に銀次は恐れ気もなく桜に近づいた。無垢な若者の行動を歓迎するかのように花びらが降り注ぐ。

「気味悪がったりしないのですねぇ」

「桜のせいじゃないし、こんなに綺麗に咲いてるんだから、見てあげなきゃ可哀想だよ」

真摯な瞳で桜を見上げる銀次を横目で一撫でして、赤屍は帽子の鍔を押さえた。

「さて…、それはどうでしょうか」

「え…?」

背筋が寒くなる程静かに響いた声に、銀次は赤屍を振り返った。

帽子の陰に隠された赤屍の表情は見えない。

可憐な桜の花びらが、銀次にも赤屍にも降りかかる。

不可思議なことに気が付いて、銀次は目を凝らした。

銀次の頭や肩にも花びらが張りついているのに、目の前の人影には全く纏わりつかない。花びらが赤屍を避けているというよりも、まるでそこに何も存在してはいないかのように。

いっそ優美とも言える姿にただならぬ鬼気を感じる。

舞い落ちる桜のせいか、幽玄なその光景は、まるで暗い洞がぽっかりと口を開けたかのような印象を呼び起こし、果てのない闇の淵に取り込まれる錯覚を起こさせた。

銀次の足が、退路を求めるかのようにじりじりと後退を始める。

まばたきすることもできず赤屍を凝視する銀次の前で、死と破滅を導く指先が、僅かに帽子を押し上げた。

口元だけが露になる。

全ての物音が途絶えたような気がした。

赤屍は戦いの姿勢を見せているわけでもない、死を招く冷たい刃をちらつかせているわけでもない。

それなのにただ―――恐ろしい。

死を予感させるのではなく、何か暗いものに侵食されるかのような恐怖。

「こんなことを聞いたことはありませんか?桜の下には―――」

銀次の足は既に動いていた。

「鬼が棲むんですよ」

走り出していたはずなのに、決して大きくはないその声ははっきりと耳に届いた。




全速力で走ると、ものの1分とせずに、大騒ぎの花見会場へと辿り着く。

ほんの数秒が、まるで永劫の時間のように感じられたのは、死神に魅入られるかの恐怖を味わったからだろうか。

桜の回廊から、一人の人物がこちらに向かって歩いてくるのが見て取れた。

白いシャツと、見誤るはずのない独特の髪型、銀次の足が速まる。

「おっ、銀次。てめぇ、今までどこ行っ…って?」

「蛮ちゃんっ!!」

迷子の子供がようやく家に帰り着いた時のように、勢いよく銀次が蛮に飛びついた。

「どわっ!」

勢い余って倒れた蛮の腹に、銀次が頭を押し付ける。

「何だよ、銀次」

周囲の目を気にしつつ、蛮は半身を起こして腹の上に乗ったままの銀次の頭を軽くこづいた。しがみついた銀次の腕はしっかりと蛮の腰に巻かれ、離れようとしない。密着した肌から伝わる体温は、やけに冷たかった。

「怖いもんでも見たか?」

言いながら、蛮には何となく予想がついていた。

銀次がここまで怯える相手などそうはいない。

「話は後で聞いてやる。とりあえず移動するぞ」

好奇心を多分にはらんだ視線が向こうから幾つも飛んでくる。何を邪推しているか分かるだけに、大声で否定したい所だが、今の2人の体勢を考えれば無理からぬことだ。口笛を吹いて囃し立てる者もいれば、女性陣は時折黄色い声を上げながらひそひそと内緒話をしている。

こんなことで話題を提供するのは避けたかった。




桜並木を後にして、人もまばらな夜道を歩く。

駐車場までの短い道のりの間に、銀次は起こった出来事を余すところなく蛮に説明した。余程衝撃を受けたのか、普段饒舌なはずの銀次の説明はたどたどしい。

煙草を咥えて黙って銀次の話を聞いていた蛮が、ようやく口を開いたのは愛車兼住処としているスバルの前だった。

「へえぇ〜、あの赤屍が夜店でタコヤキを買う…そりゃあ、吸血鬼が真っ昼間にスキップして歩いてるより不気味だな。下手な怪談よりぞっとするぜ」

「蛮ちゃん、俺が怖かったのはそこじゃなくて…いや、それも怖かったけどさ」

こうして蛮と軽口を叩いていると、少し気持ちが楽になる。

蛮のいつも通りの表情からは、わざと話を軽い方へ持っていこうとしているのか、それとも本気で気にしていないのか、どちらとも判断がつかない。

「蛮ちゃんは怖くないの?」

ずっと前から聞いてみたかった質問だった。

蛮が赤屍を危険視しているのは確かだが、ひたすら逃げ腰の銀次とは、相手に対する見方が大分異なる。

どうも銀次1人が赤屍を過剰に怖がっているのだ。

「はぁ?この無敵最強の美堂蛮様が、何で赤屍ごときを怖がらなきゃなんねーんだよ」

予想した通りの返事が返ってきた。

何度か対峙しその都度生き残ってきた者の自負か、蛮の言葉には裏付けのない虚勢の影は微塵も見当たらない。

そこからいえば、銀次とて一度赤屍に敗北の苦渋を味わわせたことがある。

しかし、その出来事は銀次に蛮のような自信を与えてはくれず、それどころか、却ってその一件が元で必要以上に赤屍につきまとわれる羽目に陥ったような気がする。

強くなれば、怖れは消せるのだろうか。

それだけのことで、本当にこの感情を越えられるのだろうか。

雷帝降臨ともなれば、銀次は恐怖どころか何も感じなくなるが、それは解決策にはならない。

まだ出口の見えない問い掛けだった。

黙り込んでしまった銀次に、蛮は僅かに肩を竦めた。短くなった煙草を足元に落として踏み消し、俯いたきりの銀次の背中を思い切り叩く。

「いった〜っ」

「相手が誰だろうと、何も怖がるこたぁねーよ」

銀次の目の前で、澄んだ青い瞳が挑発的に笑っていた。

一瞬で迷いが吹き飛んだような気がするのは錯覚だろうか。

「俺らは一人じゃないんだぜ、銀次?」

銀次は目を見開いた。

Get Backersの“s”は1人じゃないって意味なんだ。

昔、蛮が言っていた言葉が鮮明に甦る。

ずっとその言葉を心の中に持ち続けて、真っ正直に実践してきた。

それはこれからも変わらない。

最も単純で、最も大切な、不変の約束だ。

「うん…、そうだね。蛮ちゃん」

少しだけすっきりしたように頷く銀次に、蛮が喝を入れるようにもう一発背中に入れて、2人は笑いあった。



  ここをクリック!!見て損はありません。ステキな赤屍さん。

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