「う〜ん。今日も良い天気だねぇ」
ハハハハと朗らかに高笑いを上げるのは、言わずと知れた世界最悪と名高いテロリスト――【沈黙の人形遣い】シンジ・マリオネッターである。
さんさんと陽光が降り注ぐテラスで、何故か真っ裸で高笑いを上げ続ける。
……常人が見たら、一回病院行けと言われること間違い無しだ。
「――さあ、皆! 今日も張り切っていこう♪」
『『『『『『………………………』』』』』』
――返事は、無し。
当然である。
人形たちは全員、失神していたのだから。
勿論、此方も裸だ。
泡を吹いている者、白目を剥いている者、未だに痙攣し続ける者、など等……化け物並みの耐久力だな、シンジ。
「いや〜、そうでもないよ。徹夜でやってたから頭がかなりハイになってるし、太陽も黄色く見えるし、足腰なんかがくがく震えて立ってるのもやっとなんだよね…」
……苦労してんだなお前も。
「幸せすぎるってのも考えものだね……」
一般のもてない男が聞いたら、暴動起こしそうな発言をするシンジ。
多分お前は、畳の上では死ねないだろう。


第四話   『お屋敷生活 面倒事襲来』


「やあ、おはよう。シルヴァーナ」
「お早うごぜぇます、親分。それに姉御たち」
『わたしたちはついで扱い?』
食事を取るため食堂にやってきたシンジたちを出迎えたのは、一人の女性だった。
赤みが掛かった茶髪を後ろで結び、給仕服――メイド服みたいなもの――を着こなした二十代前半の女性。
きつめの顔立ちだが、かなりの美人だ。
「朝餉は出来ていやす。どうぞ召し上がってくだせぇ」
かなりギャップのある喋り方で、女性――シルヴァーナ・ペンシル――はざっと朝食を並べる。

スクランブルエッグ
トースト
ハムサラダ
コーンスープ
牛乳

今日は洋風だ。
どたどたと、シンジと六体の人形、そしてシルヴァーナが席に着く。
「――では皆さんご一緒に…」

『いただきます』×全員

次の瞬間――食卓に嵐が吹き荒れた

……数十分後。
「毎朝毎朝、ホント懲りないなこの二人……」
食卓の上は、兵どもが夢の後状態だった。
今度は一枚のトーストを奪い合い、気絶しているアルとラン。
…食い物の事となると、何時もこうである。
『シルヴァーナさんも大変ですね……』
「…もう慣れやした」
頭にハムを乗っけたキラの労わりの言葉に、シルヴァーナは疲れた笑みで応じる。
……その背中に、僅かな哀愁を漂わせつつ。
『ところでシルヴァーナ。【その身体】での生活は慣れたか?』
「へぇ、何とか。――まぁ、未だに朝起きて鏡を見るたびに驚きやすけど、いい感じでやすよ。高いところに手が届きやすし、指が使えやすんでいろんな事が出来てめっさ嬉しいんでごぜぇます」
水の中で息が出来なくなりやしたけど、と少し苦笑し、更に言葉を続ける。
「親分と姉御たちには、めっさ感謝感激雨あられなんでごぜぇますよ。親分たちがあっしを拾ってくんなきゃ、今頃あっしは生ゴミと一緒に焼却場行き――この御恩は一生掛けて返させてもらいやす!」
『……別にそこまで熱くならなくても良いのだが…』
炎を背景に拳を握り、滝の如く涙を流し絶叫するシルヴァーナ。
その並みならぬ熱血パワーに、思わず質問を投げかけたキョウも少し引いてしまった。
『……シルヴァーナ、ご飯、美味しい……それに、面白い……』
『アア、ルゥノイウトオリダ。オマエハヨクヤッテルヨ。メシタキ、ソウジ、ヤシキノカンリ……ソレニ、ミテイテヘタナゲイニンヨカオモシロイ』
「……ルゥの姉御、サイの姉御。あっしは芸人じゃないんでやすけどね……」
テーブルでティータイムを楽しんでいるサイとルゥ――ルゥはお茶請けの羊羹を食べているだけ――の一言に、シルヴァーナはがっくりと肩を落としたのであった。
「ふふっ。皆仲良しで、僕嬉しいよ」
パンパン、とランとアルに付いた汚れを掃いつつ、そうのたまうシンジ。
「――じゃぁ、僕は一寸この二人にお仕置きをしてくるから、後は頼んだよ♪」
軽くウインクし、シンジは二人を抱えて奥の部屋に行ってしまった。
――残されたメンバーは全員、顔を青くしていた。
『……お仕置き、怖い、……ちーん、なんまいだー…』
『……ランさん、アルさん……成仏してください』
『……骨は拾ってやるぞ』
『……バカハシナナキャナオラネェガ、サスガニヤツラモコレデコリルダロウ』
「ランの姉御、アルの姉御……立派に御勤め果たしてきてくだせぇ」
口々にそう言う人形たちとシルヴァーナ。
薄情だと言う無かれ。
――下手をすれば、自分までお仕置きされる可能性があるからだ。
それだけは絶対避けなければならないのだ。
――遠くから、声が聞こえてくる。

『――んにゃ? ここ何処?』
『――痛ッてぇ……ん? 何で縛られてんだ、俺たち―――ッて!? し、シシシシシシシンジッ!?』
『ふぇ? ………やっほー、シンジ(汗)。……なんでそんなもの凄い笑顔で仁王立ちしてんの?』
『……おい、何だよソレ。……まさか嘘だろおい、そんなでかいの這入るわけねぇだろ!? 壊れちまうよッ!』
『ねぇ、シンジ? 何でバケツなんか持ってるの、しかも水満タンだし。……答えてよ!? 無言で色々準備しないでよ!』
『すまねぇ、俺が悪かった……だから、それだけは止めてくれ 。―――お願いします、それだけは止めてください!! 御免なさいもう二度としないから止め……ウゴォ!?
『…嫌ぁ、ソレだけはイヤァッ! そこは入れるんじゃなくて出すところだよ……入れないでオネガイだから!! おなかが変になっちゃ――〈じゅぷ〉――ハゥッ!? ……イヤアァァァァァァァッ?!! つ、冷たいいィィィイィッ!!?
『……ハァ…ハァ………ヒィッ!? そこは違――ヒィアァァッァァッァァァッァッッ!!!? と、とげがトゲが後ろにさ、刺さってグリグリきてるルウウウッゥゥゥゥゥゥゥ………御免なさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ… ………』
『……お腹……お腹いたいよぉ…。膨らみすぎてグルグル逝ってるよぉ……もうしないから、もうしないから許して…オネガイ…お腹の中の、全部出させて………何でもするからオネガイ赦しテェ……ヒミャアァァァァァァァァッッッ!!? もう入れるのイヤァ! 破裂しちゃう!! もう入らないから――〈ぐぽぉ〉――アぎゃあッ!? せ、栓しちゃ駄目ェッ!! 大きすぎてちぎれちゃう、チギレチャウよぉッッ!!! …………許して赦してゆるしてユルシテユルシテユルシテユルシテ…………』

――屋敷の中に、一際大きな絶叫が響いた。


『……オーイ、イキテルカー?』
数十分後、叫び声が途絶えたのを見計らって、サイが一番奥の部屋――通称【お仕置き★ルーム】――に顔を出した。
――中では、二体の人形が倒れていた。
『………御免なさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ…………』
『…………許して赦してゆるしてユルシテユルシテユルシテユルシテ…………』
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、壊れたオルゴールのように同じ言葉を何度も呟くランとアル。
部屋の中にはプンッ、と漂う汚物と何とも言えない甘美な臭い。
『…コリャマタハデニヤッタナ…』
部屋の片隅に転がったバケツを一瞥し、呆れたようにサイは呟いた。
――ちなみに、バケツの中にはとてもここでは言えないような数々の【危険な玩具】が入れられていたりする。
『――マ、ミッカモスレバ、モトニモドルダロウ』
シンジは人形たちが傷付く事を嫌っている。
――よって、シンジの言う【お仕置き】とは、苦痛は伴うが肉体的ダメージが少ないのが特徴だ。
――精神的ダメージはかなりあるが。
「――やぁ、サイ。何か用かい?」
何処から出したのか、四角い卓袱台でコーヒータイムを楽しんでいるシンジ。
――周りに在るのが【危険な木馬】とか【危険な水車】とか【危険な巨大棒】とかじゃなかったら、中々様になっている姿なのだが……。
どんな神経してんだコイツ。
「――ああ、そうそう。【お仕置き】はもう終わったから、アルとランをお風呂に入れてきてくれないかな? 二人ともかなり汚れちゃったからね。僕は地下の倉庫に居るから、何かあったら呼んでくれるかな」
『ワカッタ。――トコロデシンジ……』
「――ああ、解ってる。……夜になったらちゃんとサイも【可愛がって】上げるから………それまで我慢しててね☆」
ぞくりとするような、シンジの笑み。
サイは微かに震え、顔を上気させる。
――この部屋の雰囲気が、サイの被虐欲に火を点けたのだ。
『…………ンっ!?』
くちゃり、と淫らな水音がサイのドレスの中から聞こえてきた。
何時の間にか背後に回っていたシンジが、サイの【ダイジナトコロ】に手を入れていたのだ。
「ありゃりゃ、もうこんなに濡れてる……悪い子だね、サイは」
『オレヲコンナニシタノハオマエダロ………―――――ッ!!?』
おどけたシンジに口答えをするサイだが、その言葉は声にならない悲鳴に掻き消された。
シンジが【ダイジナトコロ】に突っ込んだ指の本数を三本に増やし、思い切り掻き回したからである。
凄まじい水音が部屋の中に響き、サイの足元には際限無く溢れる雫により大きな水溜りが出来つつあった。
「ん、何か言った? 駄目だよサイ、言いたい事ははっきりくっきり言わなくちゃ――ねぇ…」
にやにやと底意地の悪い笑み。
更にシンジはサイの肉壷の中を指の腹と爪で掻き乱し、親指の爪でプックリと膨れ上がった陰核を弄び始めた。
『……ン…ァン…くぅン……うン…ンうぅン……ンハァ………!?』
「……ねぇ、サイは如何してもらいたいの? はっきり言ってくれなきゃ、僕、如何して良いのか解らないんだけど?」
指の速度を少し落とし、サイの耳に顔を近づけ、シンジはそう囁いた。
サイは真っ赤な顔で子猫のように喘ぎ続けている。
これでは喋りたくても、喋れない。
「……言ってくれなきゃ、このまま止めるけど」
シンジのその言葉を聞いた瞬間、一気にサイの興奮は冷め、背筋に悪寒が走った。
(…イヤダ。コノママトメラレタラ、オカシクナル!)
『……………………イ…』
顔を更に真っ赤にさせ、吐息のような声を漏らすサイ。
「んん〜? よく聞こえないな〜。――Say in a big voice once again(大きな声でもう一度言ってごらん)?」
ぐちゃぐちゃ、と大きく指を動かしつつ、シンジはこれ見よがしにゆっくりと言った。
『……イカセテクダサイ…』
「何を、如何やってイカせるの?」
焦らすように――実際焦らしているのだが――意地悪く言うシンジ。
しかしそれが、サイの情欲を大きく煽る。
『……グチャグチャニヌレタイヤラシイワタシノセイキヲ、ビンビンニナッタクリトリスヲ、【ご主人様】ノテデコネクリマワシテクダサイ!!』
「――良く、言えました」
サイの叫ぶような言葉に、シンジは優しく微笑み、余っていた左手をサイの胸元に突っ込んだ。
左手は程良い大きさの乳房にちょこんと存在する硬く固まった乳首を、こりこりと二つの指で弄び、下に伸びた右手は、指を四本に増やし根元まで突っ込み、先程とは比べ物にならないぐらいのスピードでサイの肉壷を大きく掻き回す。
そして、余った親指の爪を自己主張して止まない陰核に――突き刺した!
『………ふあぁああああア!!!』
ちょろろろろろ……
びくんびくん、と一際大きくサイは痙攣し、その直後静かな水音が股間から溢れ出た。
「ありゃ……漏らしちゃったみたいだね」
ぬちゃぁ、ともの凄い量の粘液を滴らせつつ、右手をサイの肉壷から引き抜くシンジ。
そして、右手に付いたサイの愛液と尿の入り混じった粘液を――ひと舐め。
「――良い味出てるねぇ」
からっとした笑顔で、シンジはそうのたまった。
こいつの性格……いまいち良く解らん。
『……シンジィ…』
サイの甘えた声に、シンジは無言で顔を近づけ――

「んっ……んぐ……んちゅ……んンっ…」

深い口付けを交わす。
暫しの間互いの舌を貪りあい、離す際には唾液の橋が二人の間に掛かった。
「――さぁて、サイ。僕は君のお願いに答えて上げたんだから、今度は君が僕のお願いに答える番だよ」
そう言ってシンジは、部屋の箪笥からある物を取り出した。
――荒縄である。
「……覚悟完了?」
清々しい顔で、シンジはサイに飛び掛った。


「じゃあ、夜までそれ取っちゃ駄目だよ」
アア、ワカッタ、とサイはランとアルを担ぎ上げ(ちなみに最初から人型です)、フラフラと部屋を出て行った。
サイに何をしたかというと、只単に縄で恥ずかしい縛り方で縛り、服を着せただけである。
……もっとも、歩くたびに【ハズカシイトコロ】が縄で擦れ、かなり大変な事になるのだが…。
それをあっさり受け入れる辺り、サイの趣味嗜好が窺い知れる。
「……夜が楽しみだな」
程無くして、シンジの姿も掻き消えるように部屋から消えたのであった。


「……何か、不思議な気分でやすね」
洗い終わった食器を片付けながら、シルヴァーナは独りごちた。
ふと、自分の手に目をやる。
――少し水に濡れた、雪のように白い手――
つい最近まで、この手が指が一つも無い真っ黒なヒレだったという事も、うっかり忘れてしまいそうだった。
(思えば、親分たちとの出会いが、あっしの運命の分岐点だったんやしょうね……)
――シルヴァーナは、この屋敷に来た日の事を思い出す。

――あっしははっきり言って不幸だった。
何匹かの仲間と共に【研究所】とか言う所に連れて行かれ――そこでの生活はかなり良かったが――ある日、あっしは一人の【未確認生物】に連れて行かれた。
――不幸の始まり――つーか元凶だ。
バクテリアも裸足で逃げ出す悪環境、下手をすれば自分の存在すら忘れてしまうような飼い主、とてもじゃないが食ったら死滅してしまうような【物体エックス】……。
――そんな環境の中、あっしは必死で生き抜いた。
生存本能を最大にしなければ、とうの昔に死んでいただろう。
――ただひたすら、【生きたい!】という思いを胸に、あっしは何とか命を繋いできた。
そんなある日、あっしは腐海からの脱出に成功した。
【未確認生物】が、鍵の掛け忘れ&扉の閉め忘れと言うダブルミスを犯し、あっしは遥かなる無限の大地への逃亡に成功――しかし、

三日で瀕死。

二、三度車に撥ねられ、猫と犬と烏の大群に襲われ、子供に追いかけられ、飯もろくに喉を通らなくなり、ゴミ捨て場に倒れ只死を待つだけだった。
――そこを救ってくれたのが、親分こと【シンジ・マリオネッター】と人形たちだった。
親分たちはあっしを屋敷に連れ帰り、介抱してくれた。
何でもあっしの身体は殆ど死にかけだったらしく、親分のお師匠が昔作ったこの身体――【ほむんくるす】とか言うらしい――にあっしの魂を移植してくれたのだ。
――その代わり、あっしはこの屋敷の管理――所謂雑用役――を申し付けられ今に至るという訳だ。
はっきり言って、今のあっしは――

「……幸せでごぜぇます」
何時の間にか、食器は全て棚の中に収まっていた。
無意識の内に仕事を終えていたのだ。
「――さぁて、次は掃除でごぜぇますな」
ふっ、と微かに笑いシルヴァーナ――旧名温泉ペンギン【ペンペン】――は食器棚の影に立て掛けてあった箒を取り、キッチンを後にした。
その後姿は、正に活気に溢れていた。


――その頃、ルゥは一人屋敷の裏庭に佇んでいた。
心地良い風が吹き、柔らかな緑の香りがルゥを包み込む。
シンジたちが住むこの屋敷は、第二に近い森の中に建っていた。
普通の人間が近付けないよう、少し位相がずれた空間に建っているのだ。
よって、屋敷には主たるシンジが認めぬ限り何人たりともは入れないよう出来ているのだ。
……極偶に、迷い込む人間がいるが、それは例外中の例外である。
少し話がずれた。
木の葉が舞い、風が鳴き、鳥が歌う。
数々の自然の奏でる音の中、ルゥは静かに目を閉じ、身動ぎ一つせず佇む。
――恰も、岩の如く。

……ピクリ、

――暫し経ち、突然ルゥの右腕が動いた。
瞬間、無数の風切り音が四方から同時に響き、何十もの鏃がルゥに襲い掛かる!
――ルゥは慌てず、静かに右腕を虚空に突き出す。

――キィン!

甲高い音と共に、ルゥの右腕を中心に巨大な赤い壁――絶対不可侵領域【ATF】――が出現。襲い来る鏃の雨を全て弾き跳ばした。
全ての鏃を防ぎきると、今度は左手を突き出し、その小さな拳をATFの中心に付けた。
『……フィールド、散撃………【穿紅礫】……!』
拳を大きく引き、渾身の正拳突きをATFに中てる!
転瞬、ATFは無数の破片と成り、凄まじいスピードで辺りへと跳び散らばる。
無数の爆音が辺りの空気を蹂躙し、白煙が蔓延した。
――煙が晴れるとそこには、悠然と佇み続けるルゥの姿が。
あれだけの戦闘と衝撃にも関わらず、ルゥはそこから一歩も動いていなかった。
ルゥの周りだけ、何事も無かったかのように無傷だった。
『――大分力を使いこなせるようになってきたようだな』
焼け焦げた茂みの中から、キョウが出てきた。
無傷な所を見ると、魔術で防御していたようだ。
『凄いです、ルゥさん!』
木の上から、大きな鍵を抱き締めたキラが声をかけてくる。
先程の大量の鏃は、キラの【門】から出て来たものなのだ。
『………ブイ…』
『調子に乗るな』
颯爽とVサインをかますルゥに、キョウは呆れたように叱責した。
『ATFの使役に、ランさんに匹敵する格闘能力……【守護者(ガーディアン)】の称号にピッタリですね』
【守護者】――それは完全な護りと、仇為す者へ鉄槌を与える者。
ルゥに与えられた称号である。
ちなみに、ルゥがATF能力に目覚めた切っ掛けは……某朝の大嵐が原因だったりする。
世の中、何が切っ掛けになるか解らないものである。
『……もう少し……練習…』
『――ああ、解った』
ルゥは一番新しい人形。
故に、一番経験に乏しい。
彼女は必死なのだ。
経験を埋める為に、主の役に立つ為に。
ルゥのそんな心中を察し、キョウは優しく微笑む。
くしゃり、とルゥの頭を優しく撫で、キョウは再び茂みの中へ。
キラは森の中へと消え、【門】の準備を始める。
再びルゥは目を閉じ、攻撃を待つ。
――この訓練は、掃除に来たシルヴァーナのムンクの叫びが上がるまで、続けられたのだった。

「あ、あっしの仕事がアァァァァァァァァァッ!?」


同時刻――第三新東京市、ジオフロント内某所。
そこに一人の人間と、幾つものホログラフィが存在していた。
人間の名は【碇ゲンドウ】、ホログラフィの名は【委員会】…。
「……如何いう事ですか?」
努めて穏やかに、ゲンドウは目の前の映像たちに言った。
……マスクメロンみたく顔中に青筋浮かんでるけど。
『今言ったとおりだよ、碇』
『シンジ・マリオネッター――【沈黙の人形遣い】の一般情報公開は許されない』
「――何故です!? 奴は世界規模の凶悪犯……一般に情報を公開し、追い詰め――」
『それが無理だから言っておるんだ!!』
ゲンドウの言葉を遮り、映像の一人がヤケクソ気味に言った。
『そう。奴にはそんな事をしても無駄。……必要と在らば、国の一つや二つ簡単に消してしまう男だ……その逆も然り。下手に手を出さなければ、目下の危険は免れる』
『それに奴の存在を一般に公表してみろ――世界中パニックになるぞ。その上、奴が今まで破壊してきたのは全て裏世界の施設や組織……表側の人間には決して悟られてはならない物ばかりだ。奴の存在が表に出れば、それらも全て明るみに出てしまう。それだけは避けねばならない』
『――それに奴は、血縁上君の息子でもあるんだろう? 一体如何いう育て方をすればこんな人間になるんだ!? 大体いつもいつも――』
――再び吊るし上げ。

この吊るし上げは、ゲンドウの血管がぶち切れて病院に運ばれるまで続いたとさ。

『――しかし、碇の言う事も尤もだ』
『日本だけでも二百十四箇所、ヨーロッパで六百五十二、アメリカで三百三、中東付近で三百四十七――世界中合わせれば限が無い……』
『――早々に手を打つ必要がある』
締め括るように、議長――キール・ローレンツ――が言う。
――目の前で担架で運ばれるゲンドウを見つつ。
微妙に彼らの顔は笑顔だった。


――その日、エヴァ弐号機パイロット――惣流・アスカ・ラングレー――は不機嫌だった。
使徒戦での無様すぎる姿、少しの役にも立たなかった作戦部長からの罵詈雑言――直後、何処からともなく飛んできた某撲殺天使の持つバットに似た物体が作戦部長を血の海に沈めた――を受け、心身ともに打ちのめされていた。
「……次こそは…」
薄暗い病室の中、布団を頭から被り、蹲っているアスカ。
低い声が、病室に響く。
「……次こそは……使徒を倒してみせる…!!」
――その顔は、闘志と憎悪で彩られていた。


「――零号機の状況調査実験、ですか?」
「ええ、MAGIを使って零号機の現在の状況を調べる実験よ。――尤も動力に火を入れるだけで、動かせないけどね」
リツコの言葉に小首を傾げる童顔の女性――リツコの片腕【伊吹マヤ】――は、パラパラと手元の資料を捲る。
その可愛らしい仕草に、思わずリツコは、クスリと笑った。
「――レイが無事なら、今頃は起動実験に入れたのに……」
はぁッ、と溜息を吐くリツコ。
マヤも、顔を暗くしている。
レイは表向きは昏睡状態となっているが、実際は三人目に移行し、表に出るタイミングを見計らっているのだ(直ぐに出てきちゃ、怪しまれるから)。
この事を知っているのは、NERV三幹部のみである。
故にマヤは、レイが未だに危険な状態だと思い込んでいるのだ。
「――ところで先輩。……コレ、如何しましょう?」
泣きそうな顔でマヤが指差したものとは……ミートソースとイチゴジャムを混ぜたような物体と化した某作戦部長である。
直ぐ傍には、乱杭歯のような棘が幾つも生えた鋼鉄バットが地面に突き刺さっていた。
「ミサトなら直ぐ再生するわよ。……もし駄目ならマヤ。貴方がそのバットを振りつつ、【ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜】と唱えれば問題無しよ」
「私は未来から来たロリロリ撲殺天使じゃありませんッ!!」
滝のような涙を流し、リツコに思い切り突っ込むマヤ。
……しかしマニアックだねあんた等。
――作戦部長が再生できたのは、その日の終わりだと追記しよう。


時は少しばかり流れ、ある日の昼。
シンジは何時もの通りクラスの何人かと昼食を摂っていた。
ちなみに今日の手作り弁当はルゥの作品である。
どうやらキラとシルヴァーナに習ったらしい。
(…うん、初めて作ったにしては結構美味しいな。ちゃんと火が通っているし、焦げすぎてもいない。調味料も間違えていない…一寸クド味だけど。うん、いけるいける)
何処かで聞いたような台詞を心中で呟きつつ、シンジは弁当をかき込むように食べ続ける。
見ていて気持ちのいい、食べっぷりだ。
「――そう言えばシンジ。お前何時も弁当持ってきているけど、自分で作ってるのか?」
そう問い掛けてきたのは、シンジの右隣の席に腰掛けた少年――海部津橋 愁御(あまつばし しゅうご)――である。
見た目は茶髪に目つきの悪い人相という、少しヤンキーが入った少年だ。
そんな彼の趣味は少女漫画収集(どうでもいいっての)。
「――そうそう。実はオイラも気になってたんだな」
左隣に座った少年――貝舵爾 一路(かいだに いちろ)――も、愁御の意見に同意した。
ノッポリとした顔立ちにゴマ粒のようなつぶらな瞳という、性格も絵に描いたような純朴少年だ。
意外にも彼の趣味は賭け事全般(だからどうでもいい)。
「――ん? 僕じゃないよ。作ってるのは――僕の大事な【彼女たち】さ」
「ンなぁにいィィィィィいィィッ!?」
シンジの爆弾発言に、丁度真正面に座っていた少年が立ち上がった。
苦みばしった顔にボサボサ頭、――コレにヨレヨレの背広とシケモクを加えれば昭和ドラマに出てくる刑事が完成するだろう。
中学生にしては、かなりの老け顔だ。
「シンジ、貴様我々を差し置いて女性と付き合っているだとぉ!? ――しかも、その台詞から察するに複数と見た!! 中学生に有るまじき行為……許すマジ!!」
目を血走らせてシンジに食って掛かる老け顔――壱賀瀬 十蔵(いちがせ じゅうぞう)――。
彼の性格を端的に言えば、正義感溢れる熱血漢でアニメオタクである。
趣味は刑事ドラマのマラソン観賞と、蚤の市巡りである(いい加減にしろ)。
「……落ち着け十蔵! 気持ちは解らんでもないが、兎に角落ち着け!!」
「そ、そうなんだな! 十蔵でもシンジには絶対勝てないんだな。全財産賭けてもいいんだな! ――十蔵、死ぬんなら今までの負け分払ってから死んで欲しいんだな」
十蔵を羽交い締めにする愁御と一路。
…何気に一路は酷い事言ってるな。
「離せ愁御、一路! こいつにはモテナイ男の恨み辛み苦しみを少しでも味合わせないと、気が治まらん!!」
「……幸せすぎるのも、考えものだよ壱賀瀬君…」
妙に黄昏た雰囲気を醸し出すシンジ。
何か微妙に疲れた感じだ。
((一体何が……))
シンジの彼女たちに、ちょっぴり恐怖を覚える愁御と一路だった。
「きっさまアァァァァァァッ!! 飽食しすぎて米のありがたみを忘れたこのブルジョワがアァァァッ!! 修正しちゃ――はぅ」
奇妙な声を発し、突然十蔵は倒れた。
いい加減鬱陶しくなったシンジが、延髄に手刀を入れて黙らせたのだ。
僅か二秒の早業だ。
十蔵暴走、シンジが実力を行使。
最近ではもうお決まりのパターンと化しており、誰も騒ぐ奴はいなかった。
「――で、シンジ。正直な話、何人なんだ? お前の彼女」
地に伏した十蔵を軽く無視し、愁御は問う。
――その後ろでは、一路が大きなザルと大量の紙切れを持って、クラスの殆どと言える数の生徒たちの列を捌いていた。

「さて、今回の賭けはシンジの彼女の数当てなんだな。一口二百円なんだな」
「俺、三人で二口」
「本命で二人五口!」
「やっぱりここは大穴で十人に七口!!」
「そんな、シンジ君が……あ、あたし二人で一口」

……見る見るうちに、硬貨で一杯になっていくザル。
中には泣きながら券を買う女子も居た。
……ノリ易いクラスだ。
「――大体これでクラス全員分なんだな。さて、結果発表なんだな」
何処からともなく、重々しいドラムロールが響いてくる。
何時の間にか教室からは光が消え、一つのスポットライトのみが辺りを照らしていた。
――そして、

スポットライトが一際強く輝き、シンジを照らす!

「さぁ、シンジ。――答えは!?」
「ん――六人だよ」
弁当を食べ終わり、持参した湯飲みでお茶を飲んでいたシンジが何気なく答えた。
証拠として、シンジは懐のパスケースから一枚の写真を取り出し、一路に見せる。
――そこには、シンジの屋敷を背景に、シンジと六体の人形(人間形態時)が写っていた。
ルゥが仲間になった記念として、つい最近撮った写真だ。
瞬間――教室が揺れた。
とんでもない大きさの声たちが、空間を揺さぶる。
声の種類は二つ――歓喜の絶叫と、嘆きの絶叫だ。
「はいはい、当たった人には後で配当を渡すんだな。外れた人は、残念また次回なんだな」
一路がそう締め括ると、人の群れはあっという間に散らばり、教室は元の状態へと戻った。
「……しかし、十蔵じゃねぇけど――うらやましいな」
シンジと人形たちの写真を見て、愁御はポツリと呟いた。
「こんな可愛い子が六人も……うらやましいぜ、ホント」
「愁御も人の事言えないんだな。おいら、この前見たんだな。――愁御が従兄妹の李麻(りお)ちゃんと腕組んでデートしてるのを…」
「な、何で知ってんだよ!? ア、アレはそんなんじゃなくてな、李麻が服を選ぶの手伝ってくれと頼んできたからであって――」
「世間一般じゃ、それをでぇとと言うんだな」
愁御のしどろもどろな言い訳を、一言で切って捨てる一路。
シンジは茶菓子代わりにと、そんな二人の漫才をニコニコ顔で見つめるのだった。
――何故かは解らないが、シンジはこの三人と居る事を、楽しんでいた。
シンジは、この三人を結構気に入っている。
このクラスも、同様だ
(これが……【友達】ってヤツなのかな?)
日差しを浴び、おぼろげにそう考えるシンジだった。
そんな麗らかな午後のひと時を、唐突に打ち破る者が――

―――ツカツカツカツカ……

――現れた。

―――ツカツカツカ………バンッ!!

勢い良く扉を開け、そいつは言った。

「――シンジ・マリオネッターって言うのは、どいつよ!!?」

その名は――惣流・アスカ・ラングレー。
シンジは、面倒なのが来たとばかりに、露骨に顔を顰めたのだった。


「――しかし、シンジも面倒なヤツに捕まっちまったなー」
「惣流・アスカ・ラングレー……見た目は良いけど、性格は最悪なんだな…。女の子と縁が有り過ぎるのも、考えものなんだな」
「流石に俺も、あれとのお付き合いは遠慮したい」
シンジがアスカに引き摺られていった後、残った三人は口々にそう言い合った。
実は、シンジの所属するここ2−Bと隣の2−Aは凄まじく仲が悪い。
特に、何気にクラス委員長を張っている十蔵とその友人である愁御・一路の【凸凹三人馬鹿】と、現在行方不明(と思われている)の相田ケンスケと鈴原トウジ、更にはイインチョこと洞木ヒカリを含む【少女と駄獣コンビ】との険悪な関係は、校内では知らない者はいないとまでの評判だ。
十蔵曰く、
『俺としては洞木と鈴原とはあまり争いたくないんだが、あの変態眼鏡だけは許せん!! 盗撮を筆頭に数多の犯罪を犯してきたヤツだけは、この俺の怒りの鉄拳で成敗してくれるわ!!』
との事だ。
この二グループの決定的な軋轢を生んだ事件として有名なのが、【愁御の乱】である。
愁御の従兄妹(兼恋人。本人は否定しているがバレバレだ)が第壱中に入学した直後、彼女の盗撮写真(下着姿)が出回ったのだ。
それに怒り狂った愁御が、犯人のケンスケを襲撃。更に、一応友人のトウジが後先考え無しに乱入し――最後には2−A・B両クラスを巻き込んだ大乱闘に発展したのだ。
ちなみにこの事件の後、事の次第を知った両クラスの女子がケンスケを袋ダタキにしたのは言うまでもない。
勿論、切っ掛けを作った愁御は一週間の停学をくらったが、本人は大して気にしていないらしい(何故ならその一週間、従兄妹の李麻が通い妻よろしく、愁御の家に通っていたからである)。
更にこの後も、色々な事件が続くのだが、容量が足りないので割愛する。
よって、2−A・2−B両クラスの冷戦は、今も続いている(クラス替えないからな)。
――まあ、アスカが例え2−A以外のクラスでも、この三人のアスカへの評価は変わらないだろうが。


――屋上。
そこで睨み合っている一組の男女。
…いや、睨んでいるのは女の方だけだ。
男の方は、飄々とした表情で、女の視線を受け流していた。
女の名は、惣流・アスカ・ラングレー。
男の名は、シンジ・マリオネッター。
――アスカは気付いていない。
既に自分が、【人形遣い】の劇中にいることを。
少しも気付いて、いない。
――先日、アスカはリツコから【沈黙の人形遣い】の事を聞かされた。
曰く、司令の実の息子で、現在はシンジ・マリオネッターと名乗っている。
曰く、世界から危険視されている最悪のテロリストである。
曰く、【暇潰し】と称してNERVの活動を妨害し、自らの力で使徒を倒している。
アスカには信じられなかった。
軍隊でも歯が立たなかった使徒が、一個人に苦も無く倒された事が。
シンジ・マリオネッターの実力が。
信じられなかった――いや、信じたくなかった。
自分の今までの苦労が――今までの人生が覆されそうで。
絶対に、信じたくなかった。
そんな思いを抱き、アスカは登校し、ある名前を耳にした。

『シンジ・マリオネッター』

その名を口にした女生徒に、アスカは詰め寄り、シンジに関する情報を聞き出すことに成功した。

2−Bの転校生。
変わっているが少しかっこいい人。
クラスの人気者。

聞き出せたのはこれくらいだった。
しかし、アスカには十分だった。
昼休みになると同時に2−Bの教室に赴き、シンジを連行。
彼女の目的は只一つ――

「――あんた、消えてくれない?」

シンジの【排除】である。
彼を脅し、この街から退去させるのが、彼女の目的。
それが駄目なら即座にNERVに通報し、文字通り【排除】する。
それが、目的。
愉悦に歪んだアスカの顔。
それは――かの作戦部長の顔に良く似ていた。
一方シンジは――

「――君、意味解って言ってるの?」

若干険を孕んだ口調で、言った。
その顔は、何時も通りの貼り付けたような笑みで、歪んでいた。
シンジはアスカを一瞥し、
「――理由を。教えてくれるかい?」
にっこりと、哂う。
同時に、凄まじい威圧感が空間を支配する。
少し青ざめ、しかしそれでも不遜な態度は崩さず、アスカは得意げに今までの経緯と、自分の目的を話し出した。

――数分で、アスカの独り語りは終わった。

聞き終えたシンジは只一言、 
「――くだらない」
一笑した。
瞬間、アスカの顔は真っ赤に染まり、右手でシンジの胸元を掴み上げた。
「な、何ですって!?」
「くだらないと言ったんだよ」
何か前にもあったような? と思いつつ、シンジはニヤリと哂いそう言った。
……どうやら、トウジとケンスケの事は彼の記憶からは消去されているようだ。
忘れたとも言う。
「――言わせてもらうけど、その【沈黙の人形遣い】とやらが、僕だと言う証拠でも在るのかい? 君は、その人の顔をちゃんと見た事があるのかな?」
シンジの言葉に、アスカは一瞬詰まった。
アスカは、【沈黙の人形遣い】の声も顔も知らなかった。
MAGIに記録された【沈黙の人形遣い】のデータは全て、使い物にならなくなっていた。
写真なども全て消えており、シンジを預かっていたとされている第二新東京市の夫婦も、家ごと【消えていた】(第三に出向く際、シンジがダミー人形に自爆コードを送っておいたからだ)。
故に、アスカ自身は【沈黙の人形遣い】の事を、何も知らなかった。
ちなみに、NERVはシンジの事に気付いているが、手を出さないでいる。
理由は……言わなくても解るだろう。
余談だが、司令・副司令・リツコの幹部からの命令で、ミサトにその事は知らされていない(先走ってNERVが消滅すると洒落にならないから)。
アスカも、校舎を出た直後にNERV保安部からこの事を伝達されるだろう。
ご苦労な事である。
「今度はちゃんと証拠を持ってきてね」
何もいえないアスカを尻目に、シンジはそう言い残して屋上から去った。
残されたアスカは、その背中を憤怒の表情で、睨み続けるのだった。


――その日の夜、再び戦いが始まる。
技術部のみで行われていた調査実験が終了すると同時に、本部の警報が鳴り響く。

第五使徒――【ラミエル】襲来。


『今回のも、かなり奇天烈な格好をしてますね…』
夜空に浮かぶクリスタルな出で立ちの物体――ラミエル――を一瞥し、キラがそう呟いた。
――大きなどんぶりを抱えて(味噌ラーメン)。
『生物らしかぬあの姿……奥の手を持っていると見て、間違い無さそうだな…』
ラミエルを事細かく観察し、キョウは深刻そうに言った。
手に持ったチャーハンの大皿とレンゲが、全てを台無しにしているが。
『ふえ〜ん。お尻がヒリヒリして食欲無いよ…』
『お前はまだ良いよ。俺なんか前と後ろの両方だぞ……食欲が湧かねぇよ…』
『ソウイイナガラオマエラ、ソレデジュウイッパイメダゾ…』
アルとランの隣に築かれた丼タワーを見て、シュウマイをパクつきながらサイがツッコミを入れた。
『……………(モグモグ)』
ルゥは黙って、チャーシューメンを咀嚼していた。
「…まったく君たちは………ん? キョウ、キラ。ほっぺたにオベントついてるよ」
そう言って、シンジは先ずキラのほっぺたに口をつけ、付いたナルトを舐めとり、キョウの口元に付いたご飯粒を舌で舐めとった。
『ま、マスタアぁー!? そんな嬉しけど恥ずかしくてけど何か良いけど何かこれッて新婚さんみたいで……』
無限妄想ループにはまるキラ。
周囲の空間はピンクに変換されていく。
『あ、ああああああるじいぃぃいぃぃッ!? そ、その、取ってくれたのは嬉しいが、やり方がちと嬉しい…そうじゃなくて! は、恥ずかしい……のだ…』
ぷしゅー、と頭から蒸気を吹き出させ、そっぽを向いて赤くなった顔を隠すキョウ。
良かったな、明日の萌え萌え大賞は君の物だ!!
『あぁ、マスター!! 今からでも新婚生活の夜の営みを、私たちの明るい未来の象徴を作りま―――』
何時の間に人間形態になったのか、和服の胸元を大きくはだけさせ、シンジに抱きつくキラ。
B未満のバストを惜しげもなくシンジの腕に押し付ける。
――ちなみに、シンジの顔は微妙に笑顔。
しかし、
『正気に戻れ、この大うつけ!!』
キラの発言を遮り、キョウが何処から取り出したのか巨大なハリセンで、キラの頭をぶっ叩いた。
スパーン! と気持ち良い音が、無人の街に響いた。
『イツノマニカ、キョウノヤツツッコミヤクガテイチャクシテキタナ…』
全くその通りで。
『…最近、キラちゃんの妄想癖もパワーアップしてきたねぇ…』
『前からこういうヤツだぜ、こいつは』
目をナルトにしてぶっ倒れたキラを見ながら、アルとランは呆れたように呟いた。
「……状況解ってやすか? 姉御…」
『………何時もの、事……(モグモグ)』
屋台の主――シルヴァーナ――は、後頭部に大きな汗を流し、ポツリと呟くのだった。
お代わり分の替え玉を茹でながら。
その正面で、独りマイペースに食べ続けるルゥが、シビアに言った。
……緊張感の無いやつら。
「――しかし、何も飯時に出てこなくても……。まぁ、たまには夜空の下で中華を味わうのも、悪くは無いけどね」
「あっしも屋台を使うのは初めてなんで、結構楽しいでごぜぇます」
――屋台がそこ等辺に放置してあった物と言うのは、秘密である(屋台の親父がムンクになったらしい)。
『――で、これから如何するのだ? 主』
肩で息をし、キョウはハリセンを握り締めつつ言った。
「まぁ、取り合えず様子見だよ。…また何かやらかしそうで、とっても楽しみなんだ♪」
シルヴァーナから受け取った焼き餃子を一齧りし、シンジは楽しそうな笑みを浮かべたのだった。


――さて、あれから三十分以上経過し、NERV本部から決戦兵器【エヴァンゲリオン 弐号機】が発進した訳だが……結果から言おう。

負けた。

これでもかって言うくらいに負けた。
つーか、闘ってすらいない。
その理由は、……この会話文を読めば解るだろう。

「――弐号機、発進ッ!!」
「か、葛城一尉!? 勝手にコンソールを弄って――はぁ!? 弐号機射出ポイント、使徒の真ッ正面っ! 距離五mっ!!」
「葛城さん!!? 使徒から近過ぎます!!」
「――え?」
『何考えてんのよ、クオラァァァァ!!?』
「―――ッ!? 目標内部に、高エネルギー反応! 円周部を加速……収束していきます!?」
「避けなさい!!」
「「「「『無茶言うな!!』」」」」×その場の全員(ミサト除く)
「んじゃ、戻りなさい!!
「「「「『無理だと言ってるだろうが!!』」」」」×その場の全員(ミサト除く)
――なんて漫才をやってるうちに、

直撃、そして凄まじい閃光。

ATFで何とか耐えたらしいが、やっとの思いで本部に下げられた時の弐号機は――良い具合に焦げ目が付いて、絶妙にとろけていたらしい。
――直後、赤木博士の振り子打法が、ミサトの頭部に炸裂したのは言うまでも無い。
……手抜きと言わないでください(泣)。


『……うッわぁ〜…』
『……エヴァの姿焼き、一丁上がり………』
屋台の屋根の上で、アルとルゥが呆れ混じりにそう言った。
『…幾らなんでもアホ過ぎじゃねぇか?』
『うむ。阿呆の極まりだな』
ランの問いに、確信度百パーセントで答えるキョウ。
『……アホの極まり…言いえて妙じゃねぇか』
キョウの台詞に、ランはカッカッと笑い、地面を見る。
『いい加減起きろよ…』
そこには、未だに目を回し続けるキラの姿。
どうやら、かなりいい所にクリーンヒットしたらしい。
頭には、ヒヨコと星まで飛んでいた。
……最近良いトコ無いな、キラ。
『マッタク、セワガヤケルゼ…』
ぶつぶつ文句を言い続けつつ、キラの介抱をしているのはサイである。
介抱と言っても、濡れ布巾を頭に置くだけだが。
「……………ωσ☆♪αγ!?!」
シンジは……地面に拳を叩きつけて突っ伏していた。
前回以上にツボだったらしい。
笑い過ぎて、ヒキツケを起こしていた。
「親分、そろそろ頃合じゃねぇでやすか?」
屋台の中から、どんぶりを洗っている最中のシルヴァーナが、顔を出す。
「ん、そうだね」
シンジは瞬時に姿勢を正し、何事も無かったかのようにその場に佇む。
切り替え早すぎ。
「――By the way, will you dance a round dance?――(さて、輪舞を踊ろうか?)」


「……射程距離外からの超遠距離射撃――かね?」
「ええ、それしか方法が在りません。不本意ながら。
震えた声で確認を取る冬月に、一切感情の無い不気味な調子で返すリツコ。
冬月は勿論、サングラスに隠れてよく解らないがゲンドウも、凄まじい勢いで顔から血液が引いていった。
「葛城一尉のお陰で、囮役はデータを取る前に全て全滅……その所為で忙しくて忙しくて。――今のNERVの装備では、これが限界です」
ほほほ、と軽く笑うリツコ。
その目は一切笑っていない。
ちなみに、彼女の着ている白衣は紅く彩られていた。
よく見ると、左手にぶらんとモーニング・スター(血のり付き)をぶら下げているのだが、ゲンドウと冬月は意図的に目を逸らしていた。
「今現在、技術部と整備部で作戦に使う装備の改修を行っており――作戦部から戦自の方へ使いを送りたいのですが……許可を頂けませんか?」
頬に付いたアカイモノをぺロリと舌で拭いつつ、リツコは微笑を絶やさず言った。
「……全く問題無い」
異様な雰囲気のリツコに気圧され、それしか言えないゲンドウだった。
……余談だが戦自への使いは日向マコトに決定。何故なら、作戦部長は頭蓋骨陥没で昏睡中だったからである(二時間で目覚めたけど)。
――愚者たちは獲物を仕留めるべく、砂上に砲台を築く。
狡猾な鴉に、掻っ攫われるとも知らずに。
愚者たちは、準備を続ける。


――さて、どうやら愚者たちの準備はある程度整ったようだ。
地面を掘り続けるラミエルを望む高台に、赤色の鬼が現れる。
前面に覗き窓が付いた巨大な盾と、肩に巨大ライフル――ポジトロン・スナイパー・ライフル――を装備し、戦いに臨む。
彼等の立てた作戦とはこうだ。
――盾の覗き窓からの狙撃。
それだけである。
理論上日本中から集めた(奪った)エネルギーで二発まで撃てる計算だが、ラミエルの加粒子砲の前では盾など気休めにもならないので、事実上一発勝負だ。
何故この作戦になったかと言うと、考え無しの作戦部長が技術部がスタンバる前に、ダミーに爆弾括り付けて特攻させたり、砲台から目茶苦茶に射撃させた挙句神風特攻を命じ……結果、囮役になるはずの戦力は全て灰燼へと帰したのであった。
直後、作戦部長の後頭部にリツコ特製【脳漿ぶちまけドッキリ☆スター君】が飛来したのは言うまでも無い。
――おや、もうそろそろ宴が始まるようだ。
踊ってくれたまえ、木偶人形達よ。


「超弩級加粒子砲……、か。まともに食らったら、流石に【ヒヒイロカネ】でもヤバイか。しかも、盾と砲台を同時に使うなんて反則もいいとこだよ。普通攻撃と防御は同時に出来ない決まりなのにさ……」
既にシンジは【デュラハン】のコックピットに乗り込み、ラミエルのデータを洗っていた。
見た所、ラミエルは正に無敵の一言に尽きる。
凄まじい射程と威力の超弩級加粒子砲及びに要塞並みの強度を誇るATFを装備し、しかもそれらを同時に使ってくるのだ。
攻撃する瞬間にのみATFに小さな穴が開き、そこから加粒子砲を発射してくるのだ。
時間にして、0.02秒。
デュークも真っ青だ
「情報が少なすぎて、技術部もヤケクソなんだろうね。ライフル如きじゃ、ラミエルには到底敵わないのに……MAGIを操作して成功確率をでっち上げたのは僕だけど」
何気にとんでもない事を軽く言い放つシンジ。
「…さて、こっちも準備完了。それじゃ、出来るだけ面白くやられてね、惣流さん♪」
遥か下方に存在する青い点を見下ろし、シンジは無邪気に笑うのだった。


「アスカ、日本中のエネルギーをあなたに預けるわ。がんばりなさい」
『まっかせなさいッ!!』
リツコの言葉に、アスカは威勢良く返す。
『第一次接続開始!!』
『第1から第803区まで送電開始します』

夥しい数の電源や変圧器といった機材が、唸りを上げて稼動し始める。

『電圧上昇中。加圧域へ』
『全冷却システム、出力最大』
『陽電子流入順調』
『第二次接続開始』
『全加速器運転開始』
『強制収束機作動』
『全電力、二子山増設変電所へ』
『第三次接続、問題なし』
『最終安全装置解除』
『撃鉄、おこせ』

 弐号機が、ポジトロン・ライフルの撃鉄を上げる。

『第七次最終接続』
『地球自転誤差並びに重力の誤差修正。+0.0009』
『全エネルギー、ポジトロン・ライフルへ――秒読み開始』

ライフルに凄まじい電力が集束し、電脳は最適な軌道を導き出す。
――しかし、世の中そう上手くは行かないものだ。

「目標に高エネルギー反応!」
「やっぱり、そうくるのね……」
マヤの慌てた報告にも動じず、リツコは冷めて表情でモニターを見つめる。
その視線の先には、円周部にエネルギーを集束させているラミエルの姿。
「構わず発射して!!」
「……それしかないようね」
ミサトの発言を聞き、リツコは小さく肩を竦めた。
そして、カウントは零に達す。
「発射ッ!!」
――二筋の閃光が交差し、うねり、揺蕩い、螺旋狂う。
互いに干渉し合い、ぶつかり合うエネルギーは大きく軌道を乱し、互いの後方へと逸れていく。
地が揺れ、空が鳴き、空間が荒れ狂う。
一瞬全ての音が消え、数拍も置かずに凄まじい轟音が一帯を襲ったのだった。
モニターも大きく掻き乱され、回復した瞬間映し出されたのは……

悠々と空に浮かぶラミエル。

弐号機は……

無様に地に伏していた。

何とか直撃は免れたが、光の奔流は弐号機の右腕を盾とライフルごと吹き飛ばし、闘う術を奪ったのだ。
間髪を置かずに、再び円周部に光が満ちる。
この場に居る誰もが、もう終わりだと言わんばかりに頭を垂れる。
――しかし、

眩き銀の穿光が、ラミエルの円周部に突き刺さる。

溢れ出した雷は辺りを蹂躙し、焼け野原へと変える。
そして、雷天使は地へと墜落したのだった。
…墜落する瞬間、凄まじい電流が地面を伝わり、弐号機へと流れ込んだのは全くの偶然である。
……多分。


「作戦成功♪」
地上から約3万m上空――成層圏と呼ばれる空間――に、シンジはいた。
正確に言うならば、シンジを乗せた【デュラハン 空戦モード】がその空間に浮かんでいたのだ。
この【空戦モード】とは、空中戦が不可能な【デュラハン】に、開発した【空戦パーツ】を装着した姿だ。
【空戦パーツ】の内容は、【特殊形態変化金属 ショゴスマテリアル】製の一対の翼(初代ウイングGの翼を想像してくれるとありがたい)に、大気圏単独離脱も可能な高性能エンジン付きバーニアで構成されている。
これを装着していれば、空中を自由自在に駆け廻る事が出来るのだ。
「慣らし無しのぶっつけ本番だったけど、結構いい感じじゃん♪」
シンジは【デュラハン】が持っている【巨大な紫銀の弓】を消し、満足そうに頷いた。
この弓の名は【見敵必中(サーチ・アンド・ヒット)】。
シンジの持つ七つの【魔導兵器】の内の一つである。
ありとあらゆる遮蔽物を透過し、ありとあらゆる障害を避け、必ず目標に突き刺さるという無敵の矢を放つ【魔導兵器】である。
――反面、一度矢を放つと放った矢が目標に当たるまで次が撃てないという、連射性が皆無な所が弱点だったりする。
ラミエルが感知不能な所からの、超々遠距離狙撃。
これがシンジの立てた作戦である(また大雑把な…)。
「さてと、NERVの醜態も見れた事だし、皆を拾って帰りますか」
待機状態に入っていた翼を広げ、【デュラハン】の姿は大空へと消えたのだった。


その頃……

(……また、また負けた…)

(このままじゃ、あたし役に立てない…)

(いや、役立たずは嫌! 皆が、あたしを見てくれないのは嫌………!)

(駄目よ……このままじゃ駄目…)

(強くならないと……もっと強くならないと……【アイツラ】が殺せるくらいに!!)

(その為なら、何でもやってやる……あたしの邪魔をする奴は…ミンナコロシテヤル

ある少女の胸に、一つの種が宿る。
小さくも、必ず勝利と達成……そして、破滅と災厄を呼ぶ種が。
紅い月が、少女を照らす。
嘲笑うかのように、紅く,アカク。


おまけ
『ま、ますたぁ………。は、激しすぎますぅ……』
「ん? 【未来の象徴】が作れない分、存分に可愛がってあげようと思ってねー」
『ふにゃぁ……しあわせですぅ…』
『ソコナシカヨ、コイツラ……』
既に倒れたキョウ、ルゥ、ラン、アルたちの隣で、サイは失神する寸前、そう呟くのだった。
この三十分後、前と後ろと口合わせて三十発以上も受け止めたキラも、パライソへと旅立った。
……シンジは、ミイラ寸前状態。
翌朝、耳栓をつけて自室で眠っていたシルヴァーナが起こしに来るまで、シンジは干物のままだった。





あとがき
何とか四話目完成…。
皆さん手抜きでゴメンナサイ。
これからも何とか頑張っていくので、勘弁してください(涙)。
さて、第五話ですが、JA編を飛ばして一気に第六使徒まで行こうと思います。
遅れるかもしれないので、気長に待ってください。
ではでは。


修正版あとがき
修正終了。
何とかできました。
…しかし、思ったよりエロくないな。
もう少し、精進します。


読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます



     



Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!