『日本重化学工業共同体開発【JA(ジェット・アーロン)】謎の暴走……か。これもどうせ、NERVの仕業だろうな』
ばさりと読んでいた新聞を折り畳み、キョウ(人間ver)は嘆息した。
何時もの浴衣姿ではなく、おとなしめの青いワンピース姿だ。
『言わずもがな、ってやつです』
興味無さげに、隣にいるキラが言った。
こちらは白いロングスカートに黒のTシャツという、ラフな格好。
『……しかし、何で俺たち――』
『――こんな、所に、居るの……?』
呆れ混じりに呟くのは、ランとルゥだ。
ランは裾を短く切ったジーパンに、ボロボロのTシャツ姿。
ルゥは――何故か作務衣。色は勿論紫だ。
現在人形たちが居る場所は、太平洋のど真ん中。
乗っている船の名は――国連所属艦【オーヴァー・ザ・レインボウ】。
第五話前編 『明かされる事実、三足草鞋と姫君襲来』
「やぁ、楽しんでるかい?」
甲板でだべっている人形たちの元に、飄々とした態度のシンジが現れた。
『……主。何だ、その格好は?』
額を押さえ、キョウは苦虫を噛み潰したような顔でそう問い掛けてきた。
無理も無い。今のシンジの格好は……白い半ズボン、鶴と亀と富士山と鷹と茄子の刺繍が入った毒々しい色合いのアロハシャツ、顔には大きなサングラス、止めにアフロのかつら、その上に麦藁帽子と来たもんだ。
手には勿論ウクレレが。
……誰もコレが世界最悪のテロリスト【沈黙の人形遣い】だとは思わないだろう。
絶対に。
「ん〜? 一寸ファンキーに極めてみたんだけど……似合ってる?」
『……一回、鏡、見て来い…』
サイの影響か、最近かなり達者になってきたルゥのキツイ一言に、シンジのテンションは一気に暴落した。
「……自信のこーでぃねいとなのに…」
シンジは自分の殻に閉じ篭ってしまった。
鬱陶しい事この上ない。
『ルゥさん! 今のは少し言いすぎです!! 私も少し引きましたけど』
グサッ。
『お前も何気に酷いな……。はっきり言って俺も他人の振りしたいけどよ』
グサリッ。
『主……頼むから止めてくれ』
グササッ。
『………離れて、歩いて……』
ズキューンッ。
人形たちの連続コンボに、シンジのハートはズタボロに打ち砕かれた。
――シンジの周りの空気はダークに染まり、シンジは膝を抱えて蹲ってしまった。
「……僕は要らないマスターなんだ…僕は要らないマスターなんだ…僕は要らないマスターなんだ…僕は要らないマスターなんだ…僕は要らないマスターなんだ…僕は要らないマスターなんだ…………」
ブツブツとそう呟き続ける。
……あの格好でこういう事されると……かなり不気味だ。
――人形たちの小一時間の必死な説得が成功するまで、シンジはずっとこの調子だった(【認識阻害】の術で、乗組員はシンジ等には気付いていない)。
――さて、その頃屋敷に残った留守番組は…
『え〜いッ! 十連コンボ〜ッ!!』
「負けねぇでやすよッ! 秘技ッ、波浪ケイホー拳ッ!!」
『イイヒザシダゼ……』
アルとシルヴァーナは格闘ゲームに興じ、サイはトロピカルジュースを飲みつつ日光浴を楽しんでいた。
……いいご身分だこと。
一方、こちらはNERV組――
「3号機の輸送――か。パイロットの選出も済んでないのに全く……こちとら忙しいのよ」
使えん駒には用は無いと言わんばかりに不満をぶちまける無能部長こと、葛城ミサト。
「NERV一の暇人が何言ってんのよ。それに、パイロットの選出ならもう済んでいるわ」
気だるそうに言ったのは、NERV一の苦労人、歩くマッド、第三新東京のホームラン王――など、様々な二つ名を持つ女……その名は赤木リツコ。
今この二人のいる場所は、国連所属艦【オーヴァー・ザ・レインボウ】の甲板。
二人は、輸送中の3号機を確認しに来たのである。
リツコがいるのは、ミサトへの抑止力としてゲンドウと冬月に命令されたからだったりする。
……ご苦労な事である。
「――まじ!? アタシ知らないわよ?」
「…三日も前に書類をそっちに送ったんだけど……まさか、まだ読んでないの?」
凄まじい瘴気がリツコから放たれる。
……周囲の空気がどす黒く染まり、歪みが大きく広がっていく。
何時の間にか、リツコの手には白木の木刀が握られていた。
「や、やあねぇ、リツコ。そんなマジになっちゃって――ジョーダンキツイ……ねぇ、無言で素振りは止めて! なんか目茶苦茶ビュンビュンいってんだけど!? あ、アタシの頭は大リーグボールじゃ……ウガギュペッ!!?」
カキーン!……という音ではなく、肉の潰れる嫌な音と共にミサトの身体は宙を舞い、海へと落ちた。
盛大な水飛沫音とほぼ同時に、紅い飛沫がリツコの身体へと降り注いだ。
……辺りは、血の雨で真っ赤に染まっていた。
「…全く、少しは学習しなさい」
白――ではなく、赤色に染まった木刀を懐に入れつつ、リツコは呆れ混じりに言った。
――その隣で、イチャモンをつけようとしていた軍のおっさんズが顔をリゾート色にしていたのは、言うまでも無い。
『――で、何かこのボロ船に用でもあるのか? 急に引っ張ってきやがって』
「ん〜。正確には、この船の【荷物】に用があるのさ☆」
船内を悠々と歩き、楽しそうな顔でシンジは言った。
その後ろを、人間形態の人形たちが付いてくる。
――ちなみに、今のシンジの格好は極普通の黄色系アロハシャツ。
先程よりはかなりマシだ。……絵柄は鳥兜とチョウセンアサガオという、微妙なチョイスだけど。
「――お♪ 此処だよ」
シンジが足を止めたのは――極平凡な船室の前。
至って普通の、少々ボロイ船室だ。
「そんじゃ……おじゃましま〜す」
キラの能力を使い、いとも簡単に扉を開け、フレンドリーに中に忍び込むシンジ(オイ)。
――しかし、
―――ガチャリ。
扉の中から現れた鈍色の輝きを放つ鋼鉄の獣が、シンジの額に突き付けられた。
「――あ?」
シンジが間の抜けた声を漏らすと同時に撃鉄が落ち、鋼鉄の獣は叫びを上げる。
ビシャリッ、という水音が、廊下に響くのだった。
……ナニモ無い。
……なにも見えナイ。
……ナニモ聞こえない。
……何もカンジない。
……我ハ何だ。
……われは…タリナイ。
……力が……足りない…。
……ダレカ、我に…ワレにチカらを…
「――あ?」
間の抜けた声と同時に重厚な破裂音が金属から発せられ、シンジの頭から大量の液体が流れ出る。
……そう。透明な液体が……。
「……酷いじゃないですか、加持さん」
ずぶ濡れになった頭を振りつつ、シンジは拗ねたように言った。
……これが可愛らしいから始末が悪い。
「ゴメンゴメン。――しかし、油断は禁物だよ、シンジ君?」
手に持った金属製の水鉄砲(紙火薬付き)を手で弄びつつ、部屋の中から一人の男が現れた。
よれたズボンとシャツに無精髭、中途半端に伸ばした後ろ髪を紐で括り、萎びた煙草を口に咥えた全体にくたびれた印象を与える男性。
――名を、加持リョウジ。
「――久し振り。SEELEの研究所以来かな?」
「ええ。かれこれ一年ぶりですね」
副業――NERV諜報員、SEELEの鈴、政府の回し者。
本業―――……
「……景気は如何ですか、【A darkness fox(暗闇狐)】?」
「ぼちぼちさ。――【A marionetteer of silence(沈黙の人形遣い)】」
――――【魔導師】――――
――今此処に、【最悪】と【最狡】が再会した。
舞台は、グルグルと――グルグルと廻り続ける。
果て無き終わりへと向かって、グルグルと。
グルグルと………
「――で、今日は何の用だい?」
掴み所の無い、何処か気の抜けた微笑を浮かべ、加持は目の前の人形遣いと人形たちに問い掛けた。
訊かれてシンジは、出されたコーヒーを飲みながら、若干不貞腐れた感じで返す。
「……解ってるくせに。人が悪いなぁ、加持さんは」
「君よりマシだよ」
ハハハハ、と笑い合う。
気味が悪いくらいフィーリングがバッチリだ。
――人形たちはと言うと……胡散臭そうに二人の様子を眺めていた。
特にキラは、警戒心丸出しで加持をジト目で睨めつけていた。
「……如何したの皆? そんなに怖い顔して」
『……だってシンジよー…』
『うむ。この男は生理的に受け付けられん』
『マスターの所有物である私たちの肉体(人間形態)を、何時もイヤらしい眼で見るんです…』
『……つーか、この、おっさん、誰……?』
一斉にぶちまける人形たち。
一言発せられる度に、加持の笑顔が引き攣っていった。
……眼の端にきらりと光る何かが見えたが、気のせいだろう。
「……そこまで言わなくても」
「あはは、大丈夫だよ。もし加持さんが君たちにナニカしようとしたら……この世に生まれてきた事を後悔させてやるから………ね☆」
「笑顔でそんな恐ろしい事言わないでくれ。死んでもやらないから」
眼が全く笑っていないシンジの発言に、加持は汗ジトでそう言った。
シンジの恐ろしさは、身に染みるほど解っているからだ。
もし世界全部とシンジ、どっちを敵に回す? ――と訊かれたら、先ず間違い無く加持は、
【シンジ君を敵に回すくらいなら、世界全部と喧嘩する方がマシだ】
と、本気で答えるだろう。
――彼は本能で理解しているのだ。
敵に回してはならない者を、真の恐怖を。
狐の字の通り、彼は狡賢いのだ(その頭脳のお陰で、シンジをからかえていると言っても良い)。
「やだな冗談ですよ、加持さん――1μほど」
「ほぼ本気じゃないか」
疲れた表情でそう言い、加持は脇に置いてあった物体をテーブルの上に置いた。
――それは、一つのトランク。
パッと見では解らないよう、巧妙かつ厳重な封印の施されたトランクだ。
中に入っているのは、重要物か、危険物か――はたまた両方か。
「――ほら、これを取りに来たんだろう?」
そう言って、シンジに無造作に渡す。
「……只とは、言わないんでしょう?」
「勿論さ。俺の身の安全と――後、【ソレ】の偽物を用意してくれないか? 流石に、こんなに早く裏切れないんでね。色々準備する物もあるし」
シニカルな笑みを浮かべ、取引を進める二人。
異様な光景だ。
――何故取引がこうトントン拍子で進むかというと、シンジは事前に加持と連絡を取り合っていたのだ。
内容は雑談と――情報取引。
元々加持はある情報が欲しいが為に、裏の業界(魔導を含む)に入った男だった。
ある時、シンジのテロ現場に居合わせ、それが切っ掛けで知り合い現在の関係となった。
それ故に、加持は既にシンジから欲しかった情報――インパクトとそれに関する計画の全て――を貰っていた。
そんな、シンジに借りのある加持が、シンジの頼みを断るわけが無いだろう(後が怖いからというのも理由)。
――例えそれが、どんなにヤバイ頼みでも。
「――ん」
シンジは無言で、それを突き出した。
――新聞紙で包まれた何かの塊。
加持はそれを受け取り、中を検めると、ニンマリと笑う。
「――確かに」
加持はシンジから再度トランクを受け取り、鍵の部分に親指――指紋――を押し付けた。
甲高い合成音と共に鍵は外れ、中から小さい箱が現れる。
加持はそれを取り出し、慣れた手つきでそれを弄る。
箱のパーツを何個か動かした瞬間、カチリという微かな音が響いた。
――そして、蓋と思しき部分に手を掛け、ゆっくりと開く。
中に存在していたのは―――
「――それが、始まりの人間―――【アダム】―――」
シンジの声が、悠然と響く。
その声に反応したかのように、中の物体――透明な物質で固められた奇妙な胎児――の瞳が、ギョロリと動く。
――その場に居た全員が、音に為らない鼓動音を、聞いたような気がした。
……来た。
……きた。
……キタ。
……ヤッと来た。
……ワレに力を与えるモノが
……我ノ主が!
……やっと、ヤット来タッ!
……早く、ワレ二ちからを――我がアルジよッ!!
――――ドクン――――
「…………ん?」
『如何した、シンジ?』
受け取ったアダムを覗き込み、訝しげな表情をするシンジ。
ランがそんなシンジを見て問い掛ける。
「――コイツ、生きてる…?」
「そりゃそうさ。生きていなきゃ、意味が無いよ」
シンジの呆然とした呟きに、加持が何を言っているんだとばかりに返す。
「……しかも、自我が在るみたいだよ」
「―――ッ!? ………まさか…」
肉体の殆どを失い、硬化ベークライトに包まれて尚意識を保っているというのか。
――しかも、この箱には生物に対する様々な魔術式が組み込まれている。
加持は、それらを物ともしないこの生物に、改めて底知れない異常さを感じたのだった。
「――加持さん。この透明な奴、今壊して良いですか?」
「…………マジ?」
「大マジです」
眉一つ動かさず言うシンジに、加持は背中に冷たいもんを感じた。
(危ない橋を渡るのはいいが、俺を巻き込まないでくれ〜!)
心中で、目の幅涙を流す加持だった。
勿論シンジはそんな加持を一切無視し、透明な奴――硬化ベークライト――に指を這わせ、幾何学な図形を描く。
――そして、音も無く透明な防壁は粉々に砕け散った。
【粉砕】の魔術式である。
――そして、粒子と化したベークライトに塗れた【アダム】を、シンジはゆっくりと覗き込む。
――――ドクン――――
『『『『「「―――――ッ!?」」』』』』
――瞬間、巨大な鼓動がその場に居る全員の耳に飛び込んでくる。
そして、間髪を置かずに地の底から響いてくるような不気味な声が、辺りを包みこんだ。
…………時は来たッ!!
急激に、意識が遠くなる。
――シンジと加持が最後に見たものは――――眼を紅く輝かせたアダムであった。
「………此処は、何処だ…?」
シンジが眼を覚ますと其処は―――闇の中だった。
手を伸ばせば闇に飲み込まれ、少しも見えなくなる空間。
闇そのモノと言ってもいい空間だった。
「ラン、キラ、キョウ、ルゥ―――ついでに加持さんッ! 何処に居るのッ!?」
「――ついでは無いだろう、ついでは」
何時の間にかシンジの背後に立っていた加持が、無情に突っ込みを入れた。
「――あ、居たんですか加持さん。――そんな事より、皆はッ!?」
サラリと流すシンジ。
――しかし、その顔には若干焦りが見え隠れしている。
人形たちが、心配なのだ。
「……残念だけど、俺も知らないんだ。恐らくこの空間の何処かに――」
『――居らぬよ。此処には』
「「―――ッ!?」」
突如湧いた声――女子供のような高いモノ――に、シンジと加持は驚きを見せる。
そして、二人同時に声の生じた方向に首を向ける。
――其処には、
『――先ずは礼を言おう。妾に魔力を献上した事に――深く、礼を言おうではないか、最初の主よ』
一人の少女が立っていた。
胸と肩に黒色の鎧甲を装着し、巫女の如き白い儀礼装束を着こなした、蒼い長髪の少女。
――その瞳は、血のように紅かった。
『妾に選ばれた事を、光栄に思うが良い』
そう言って、ニヤリと笑う。
しかし、少しも嫌な感じがしない。
全身から漂う高貴な気配が、その笑みを飾るのだ。
「――主って、俺か?」
『中年は黙っておれ』
いや〜まいったな〜、って具合に照れ笑いする加持を、少女は切って捨てる。
その言葉に加持は自分の殻に閉じ篭り、膝を抱えて地面にのの字を描く始末だ。
―――はっきり言って、目茶苦茶情けない姿だ。
『―――安心するが良い。彼奴らは、元の空間で眠っておる。――汝は、少しも心配しなくて良いのじゃ』
加持を視界から外し、少女は高慢な笑みを浮かべ、言った。
「――なら良いけど。もし嘘だったら………殺すよ?」
――顔から一切の表情を消し、シンジは言った。
その口調は穏やかだが、溢れんばかりの殺気が込められていた。
その気に為れば、目の前の少女など刹那に肉塊と化すだろう。
――しかし、少女はそんなシンジの殺気に少しも臆さず、
『――流石は妾が主に選んだ男よ。別に嘘など吐かんわ。――何故主たる汝に、妾が嘘など吐かねばならぬのだ?』
心外とばかりに、言う少女。
その口調からは、嘘かどうかは解らない。
「――解った、信じてあげるよ。………ところで、君は何者だい?」
軽く肩を竦め、シンジは気軽に言った。
――その目は少しも緊張は消えていないが。
問われた少女は、楽しそうに目を細めた。
『―――名などとうに忘れた。確か、汝等は妾の事をこう呼んでいたな?』
紅い、紅い、紅い瞳が輝きを増す。
そして、人外の少女はある【言葉】を口にするのであった
『―――――【アダム】、と』
「………【アダム】、だと? ―――オイオイ、冗談が過ぎるぜ、お嬢さん?」
少女―――【アダム】―――の言葉を聞き、復活した加持がへらへらと笑い、言った。
――しかし、その瞳には一切の冗談の光が消え、冷徹な色を湛えていた。
謂うならば、獣の瞳。
獲物に狙いを定めた、狐の瞳だ。
『――生憎、妾は嘘と冗談が嫌いでのう。この世に生を受けて以来、一度も嘘を吐いた事が無いのが美徳の一つじゃ』
瞬間、加持は一足飛びに少女の目の前に行き、胸倉を掴み上げる。
――その顔は、怒りと悲しみに歪んでいた。
顔は石榴色に染まり、眼からは微かに涙が流れていた。
「……お前が、お前が、お前があの大災害の引き鉄かあぁぁぁぁぁッ!!!」
「―――加持さん、落ち着いてください」
激昂する加持を、シンジが押し留める。
その声は、一切の感情が欠落してしまったかのように、冷たいものだ。
――この冷静さが無ければ、怒りと興奮に振り回されている加持を止める事が出来ないからだ。
案の定、その声を聞き、加持は冷静さを取り戻す。
――未だに拳は握られたままだが。
『――何が遭ったか知らんが、先ずは妾の話を聞け』
加持の形相とシンジの冷たい気配に少しも臆する事無く、【アダム】は悠々と言い放つ。
――しかしその顔は、真剣その物だった。
『……世界の命運を握るこのふざけた【計画】の歴史を、汝等に教えよう』
「………面白い。聞かせて貰おうじゃないの」
【アダム】の言葉に興味をそそられたのか、シンジはニヤリと笑い、その場に胡坐を掻いて座り込んだ。
加持も、不承不承ながらもそれに習う。
彼も好奇心を擽られたからだ。
『―――少々長くなるぞ』
……そして、【アダム】の長い独白が始まった。
――かつて、この世界には強大な【王国】が存在していた。
その【王国】は大海の中心に造られた人工大陸に本拠地を置き、他の大陸に存在する猿にも等しい先住民たちを、次々と支配していった。
――何時何処で【王国】が生まれ、力を手にしたのかは、誰にも解らない。
あっという間に星全体が、【王国】の支配下に置かれたのだった。
それに伴い、星全体に【王国】の技術が流通し、先住民達は急速的に進化していった。
洞穴から未知の鉱物で出来た居住区、狩りをしないでも手に入る人工食物、あらゆる病を癒すメディカルシステム。
――そして、害敵を徹底的に排除する武力。
それらの技術は、時を刻む毎に発展していくのだった。
――【災厄】を生み出すその日まで、発展し続けたのだった。
「……成る程ね。彼の有名な【魔導文明】、か。全ての魔導の源流たる超古代文明………中々話が壮大になってきたね。―――それで?」
バリボリバリボリ……
煎餅を齧りつつ、気が無さそうにシンジが言った。
『汝等が【使徒】と呼ぶ彼の巨大生命体……あれは、【王国】の造り出した最後の作品にして、最後の兵器。―――あの日、【王国】は世界初の永久機関を造り出した。そして、それ等の機動実験を兼ねて【王国】は一対の生体兵器を造り、組み込んだのじゃ。それが―――』
「【アダム】と【リリス】って訳か。……古代人も迷惑なものを残してくれるぜ」
ずず〜〜
お茶を啜り、心底嫌そうに言う加持。
――ちなみに、今三人が居る所は、空間内に設けられた和室の中だ。
ご丁寧に、お茶菓子とししおどしまで完備されていたりする。
……何時使うんだ?
『……耳が痛いのう。――兎も角、その実験により永久機関はその機能を完全に確立し、【王国】は巨大生体兵器の量産に踏み切ったのじゃ。―――ある一人の女に、踊らされてるとも知らずにのう。』
「「――ある一人の女?」」
【アダム】の言葉に、二人の言葉がシンクロした。
『そうじゃ。―――その女は【王国】の王位継承者の一人じゃった。外面は良いが中身は最悪な女―――しかし、奴は聖母の如き仮面を心に被り、家臣や民たちの心を掴んでおった。……量産計画も、その女の発案じゃった。確か名目は【驚異的自然災害に備えて】だったかのう』
苦虫を噛み潰したような顔で、【アダム】が言った。
思い出すのも嫌だという感じだ。
「………やけに詳しいじゃないか?」
妙に細かい描写に、加持は疑問を抱いた。
――自然とその眼は、疑いを孕み細くなっていく。
しかし次の瞬間、加持の眼は皿のように丸くなった。
『当然じゃ。―――何せ、奴は妾の血を分けた実の妹じゃからのう』
「「…………え?」」
ポロ………パリーンっ!
いきなりの爆弾発言に、シンジは煎餅を落とし、加持は手に持っていた湯呑みを落として割ってしまった。
【アダム】は気にした素振りも見せず、言葉を続ける。
『――妾はこの身体になる前、【王国】の第一王位継承者じゃった。……しかし、奴の計画を防ぐ為に身体を捨て、心魂を封印されていた生体兵器に移したのじゃ。―――奴を追ってな』
遠い目。
遥か昔に思いを巡らす【アダム】の目は、果てしなく遠い何処かを見つめていたのだ。
今はもう無い、遠い何処かを。
「………と言う事は――――【リリス】かッ!?」
――そんな【アダム】のアンニュイな雰囲気をぶち壊す加持。
『その通り。思ったより聡明な中年じゃな、汝は。――奴はプロトタイプである【リリス】と融合し、量産された数百の生体兵器を奪い、反乱を起こしたのじゃ』
言葉とは裏腹に、【アダム】の眼は加持を睨みつけていた。
……その視線を受け、少し震える加持だった。
「ふ〜〜〜〜ん」
ボリボリムシャムシャ……
シンジは我関せずといった感じに、ひたすら煎餅を齧り続けた。
もう既に、二桁に突入している。
『――無論、妾等も抵抗した。幸いにも最新型の生体兵器が十五体残っていてのう、【アダム】と融合した妾はそれらを率いて闘い、何とか勝利した――――しかしッ!』
ぐしゃり。
怒りに震える【アダム】の手が、湯呑みを粉々に握り潰した。
残骸らしき砂が、彼女の手から零れ落ちる。
「……うわ、湯呑みが粒子レベルに……」
それを見て、思わず加持はそう呟いた。
『………追い詰められた奴は、全てを無に還そうと【リリス】を暴走させた。――咄嗟に、開発したばかりの【魔導兵器】で奴の力を中和しようとしたのだが………間に合わなかった。眼が覚めた時には、【王国】は大陸ごと消滅しており、他の大陸―――いや、星丸ごとが【リリス】の力の影響を受け、極寒と化していた。大地と海と空は白く閉ざされ、生き物は悉く死に絶え、僅かに生き残ったものたちも死に掛けていた………もう、あんな光景は二度と見たくない』
ギリィ………
思い切り歯軋りを鳴らす【アダム】
口からは、僅かに血が滲んでいた。
――そんな姿を見て、加持は思った。
(同じなんだな、俺とコイツは)
「……あんたも、【地獄】を見たのか」
【地獄】を体験し、【地獄】を憎悪する。
自分と似たような気配を、加持は【アダム】から感じたのだった。
自然と【アダム】への怒りが、消えていった。
『――【地獄】、か。言い得て妙じゃの。―――その後、妾は傷付いた身体を癒す為、極点に存在する研究施設にて眠りについたのじゃが―――妙な連中に掘り起こされてしまったのじゃ』
難儀じゃ、と呟き、【アダム】は肩を竦めた。
「成る程……SEELEと葛城氏の調査隊か。親子揃って碌な事しないな」
「俺も同意見だ」
全てを悟り、シンジと加持は深く頷く。
【余計なことをする】―――恐らく、葛城家の遺伝子に植え付けられた業なのだろう(果てしなく迷惑だ)。
『全く、おかしな実験をされるわ、妙な子供と同調させられるわで―――凄まじく疲れた。ちなみに力の暴走は、あの妙な子供が【失敗しろ】だとか、【お前なんか死んじゃえ】とかどす黒い思念を送り込み、消耗していた【アダム】の制御ルーチンを完璧に破壊した所為じゃぞ。恨むのなら、その子供を恨むが良い』
……【アダム】の言葉を聞き、加持の目つきが変わった。
加持は知っている。その妙な子供の正体を………
「……ヤバイ、シンジ君。帰国したら真っ先に葛城を殺しに行きたくなってきた……」
「今殺すと面白くないんで、もう少し後にして下さい」
「…………解った」
――すでに、加持の心はミサトから離れていた。
ぶっちゃけ、今は憎んでいる。
加持の中で【殺してやりたい奴ベスト3】入りしているくらいだ(一位はキール・ローレンツ)。
躊躇いなどするはずも無いが、シンジから頼まれると嫌とは言えない。
しぶしぶと、加持は承諾するのだった。
『……話を続けるぞ。力の暴走に関しては、後は汝等も知る通りじゃ。ちなみに、今存在している使徒は古代のプログラム――【リリスの完全破壊もしくはアダムとの合流】――に従っているに過ぎん。【アダム】と使徒の接触で世界が滅ぶなんて話は、全くの出鱈目じゃ―――恐らく死海文書とは、【リリス】かそれの遺志を継ぐ者が、後の世を操る為にわざと誤った情報を残して置いたとみて、間違い無い』
――【アダム】の言葉が終わり、場が静寂で満たされた。
その静寂を、静かな声が破った。
「……SEELEもNERVも【リリス】の操り人形という事か…………面白くない」
バリンッ。
シンジだ。
声と共に極雹の殺気が空間を蹂躙し、卓袱台の上の湯呑みが独りでに割れた。
「し、シンジ君………」
―――加持、そして【アダム】をも威圧するシンジの殺気。
長年の慣れのお陰か、何とか加持は喉から言葉を捻り出せた。
「この僕が、古代の残りカスに踊らされていたなんて………凄く、不愉快だよ」
(め、眼がもの凄く怖い…)
見ただけで命を奪う絶死の魔眼。
そんな言葉を髣髴させる眼差し。
今のシンジは――かなりキていた。
「――気が変わった。【アダム】、君を僕の配下に加えよう―――異存は?」
『……【リリス】を消滅させる事を誓うのなら、特には無い』
言葉を堂々としているが、【アダム】の腰は完全に引けていた。
長い人生経験が無ければ、気絶していてもおかしくは無い。
「誓おう。その代わり、君は今から僕の【奴隷】に為るけど……良いかい?」
『望むところよ』
【アダム】は冷や汗ダラダラだった。
――しかし、同時にシンジの事を心から畏怖していた。
恐怖と愛。それこそが、シンジの魅力。
見返りの無い愛と、相手を支配する恐怖。
【アダム】は完全に、シンジの魅力に嵌っていた。
「―――俺も、全面的に協力させて貰うよ。奴等は、俺にとって最大の仇みたいだからな」
何とか立ち直り、真剣度五割増で加持は言った。
――彼の中に渦巻く憎悪に、火が点いたのだ。
静かな憎悪を燃やす男―――それが彼だ。
「お願いします、加持さん」
キレモードから何時もの状態に戻り、にこやかに言うシンジ。
『――では、奴等の最後を祈って、前祝いと行くか』
にやついた顔でそう言い、【アダム】は虚空から幾本もの酒瓶を取り出した。
和洋中、果実酒蒸留酒発酵酒選り取りみどりだ。
「「のった」」
――数分後、空間では酒盛りが始まった。
―――現実空間。
『………ZZZZZZ…』
『もう食えねぇぜ………』
『マスター、其処は駄目ですぅ……』
『主ぃ、ご慈悲を……』
……現在、人形たちは怪しげな寝言を発しながら熟睡していた。
その上の空間に、【アダム】がプカプカと浮かんでいた。
――唐突に、空間が割れた。
【アダム】を中心に空間が螺旋割れ、中から二人の男が出てきた。
一方は無表情な少年――【シンジ・マリオネッター】
もう一方は顔色が悪い中年――【加持リョウジ】
現れた瞬間、とんでもない威圧感がその場を支配した。
『……うわ……!?』
『のわぁっ!?』
『――きゃあ!?』
『――む!』
瞬時に覚醒する人形たち。
当然だ。
常人ならば一瞬で精神が精神が粉々になるであろうこの殺気に、如何に人形たちでも普通ではいられないからである。
『…あ、主……?』
キョウの背筋が、ぶるりと震える。
畏怖と共に、胸の奥底から途方も無い情欲が湧き上がる。
眼が離せない、息が出来ない、震えが止まらない。
一切の音が耳からシャットアウトされ、自らの鼓動のみが煩いぐらいに響く。
求めるは愛。
純愛熱愛狂愛恩愛渇愛情愛深愛切愛忠愛溺愛無我愛――。
あらゆる愛の衝動が、人形たちを突き動かす。
恐怖が歓喜を呼び、身体がシンジを求める。
意識が天へと昇るような心地。
……普通の人間だったら、文字通り天へと昇って逝ただろう。
現に、加持は胃を押さえて膝をついて蹲っていた。
彼の場合、精神的ダメージが胃に来たのだ。
「……キョウ、キラ、ラン、ルゥ。今から君たちに、命令を与える」
感情を一切廃した、無機質な声。
シンジがマジモードに入った証拠である。
『『『『何なりとご命令を、【人形遣い(マイマスター)】』』』』
瞳に歓喜の炎を宿し、人形たちは跪く。
シンジに仕え、シンジに服従する事こそ、人形たちの存在意義であり喜びなのだ。
「――良し。今から君たちには、僕に代わって此処を襲撃してくる使徒を殲滅してもらう」
淡々と、言う。
人形たちは少しの異も唱えない。
只黙って、シンジの言葉に耳を傾けるのみである。
「急用の為、僕はこれから南極に行く事になった。――キラ。君は僕と一緒に来てくれ。流石に、足無しで南極に行くのは少々無理だからな」
『仰せのままに。マスター』
何時もなら妄想全開で怪しげにトリップする筈なのだが、キラは何時に無く真剣な表情で、頷く。
「一時的に、全員の第二封印を解く。存分に力を揮うがいい」
言って、シンジは先ず近場にいたキラを抱き上げ、唇を奪う。
――ぴちゃぴちゃ、と卑猥な水音が響く中、人形たちは熱に浮かされた瞳でシンジを見つめる。
『……ふわぁ…』
唇が離れ、キラの喉から吐息にも等しい喘ぎが漏れた。
同時に、身体が光に包まれ、キラはその力を覚醒した。
「……さて、次々行くよ」
果て無き肉欲を求める人形たちに向かって、シンジは冷淡に言った。
――止まぬ淫靡な粘膜音、時折漏れるか細い喘ぎ声。
……オイこら(怒)。
「……ラブシーンなら他所でやってくれ」
そう言ったのは、胃を押さえつつ、鞄から取り出した胃薬を瓶イッキで飲んでいる加持。
逆に胃を壊しそうな光景だ。
『………キュルル…』
――そんな光景を、【アダム】は羨ましそうに眺めるのだった。
――その時!
地面が、揺れた。
――いや、此処は船の上だ。揺らされたと言った方が正しい。
意思を持った波が、二度三度と連続して船を揺さぶる。
「……御出でなすったな」
空瓶を握り締め、加持はニヒルに呟いた。
「…ゲーム・スタート」
人形たちに熱烈な口付けを与えつつ、シンジは無表情に、言った。
……ある意味、此処からが最悪の始まりだった。
『ふにゃ〜』
妙に可愛らしい呻きを漏らしてタレているのは……以外にもランであった。
『……無理も無い。流石に我も、まだ抜けた腰が戻らんのだからな………何時に無く、激しい接吻だった(///)』
『……まだ、頭が、ボーっ、とする……(///)』
閑散とした甲板の上で、人形たちは熱に浮かされた顔で、口々に言った。
『――しかし、何時までも呆けていてはいかん。気を引き締めろ、ラン』
『…言われなくたって、解ってるっつーの……』
緩んでいた頬を引き締め、ランはゆっくりと立ち上がった。
――その瞳に、限り無く燃え盛る攻撃的な光を燈して。
【決闘者】は、嘲るかのように、悠然と牙を剥いた。
『それは十全。――さて、我も往くとしようか』
『……戦闘、開始……』
【魔術師】は狡猾な笑みを浮かべ、【守護者】は鷹の如く鋭い眼差しを海中に向けた。
再び、破砕音と共に、海が大きく揺れる。
直ぐ近くを浮いていた船が真っ二つに割れ、海中へと消えていく。
――目標は直ぐ其処まで来ている。
『――で、如何する? 幾ら何でも海ん中に潜んでるヤツを仕留めんのは、少し難しいぜ?』
『先ずは、我が術にてヤツを海中から引き摺り出す。ATFは――ルゥ、お前が無効化してくれ。止めは任せたぞ、ラン』
『……了解…』
『任せとけって』
当然のように返ってくる、返事。
キョウは微笑を以ってそれらに答え、封印されし双眸を開いた。
光り輝く文字が生まれ、世界が白銀の炎に埋め尽くされる。
――構成開始――
『――流石に今回は、【文字】だけでは不十分か…』
空に漂う文字列を指でなぞり、キョウはそう言い、小さく嘆息した。
『ならば――これで』
――【魔術眼】が、一際大きく輝く。
音吐朗々と、人ならざる者の詩が大海へと染み渡り、蒼穹へと吸い込まれて往く。
――境界に潜みし数多の命よ
――我が主の御名に於いて命ず
――今一度、蒼き裁きを此処に。
――蒼き旋渦よ、この世の穢れを螺旋砕け
――轟々たる波涛よ、醜き骸共を貪り尽くせ
――海神よ、今一度汝の鎚を我に貸し与えよ
――この穢れ無き蒼き楽園に巣食う不浄に、錨を振り下ろさん
『……我等が敵に、安息無き重圧を与えよ…』
最後の一小節を呟き、キョウは広げていた右の掌を、海に向け、
『潰れろ。――【海王衝鎚滅(タイダル・プレス)】――】
握り潰すかの如く、力の限り拳を握り締める。
――瞬間、凄まじい轟音が、海中から沸き上がる。
金属が爆ぜるかのような、耳障りな暴音が、辺りを蹂躙する。
何て事は無い。
只単にキョウは海中に存在する水精霊達に働きかけ、使徒の周りの水圧を爆発的に高めただけである。
その威力―――通常の一千五百倍。
生きる潜水艦とも言えるシロナガスクジラも一瞬でお陀仏の、とんでもない重圧だ。
耐えられる物質などこの世に存在するはずも無い。
如何に使徒といえども、この攻撃には耐えられなかった。
凄まじい勢いで上昇を始めていた。
『……来る…』
ルゥが呟いたその時、一際大きく海原が揺れ、水柱が噴き上がった。
水柱の中には、白い肌を持つ、醜悪な魚型の化け物。
第六使徒【ガギエル】である。
『ノコノコ出て来やがったな……後悔させてやるぜ、その浅はかさをな!』
叫び、ランは両手の指と腕を刃に変化させ、大きく跳躍。
今此処に、人形対使徒の戦いの火蓋が、切って落とされたのであった。
――その頃、南極では。
「……随分遠いね。後どれ位なんだい?」
『後もう少しじゃ。この命の湖を越えれば、もう見えてくる』
紅い湖の上で、言葉を交わすシンジと【アダム】。
ちなみに、会話は念話で行っている。
『――マスターッ! 見えてきましたよ!!』
シンジに寄り添うように立っていたキラが、前方に視線を向けたまま、そう叫んだ。
シンジは、ゆっくりとキラの指差した方角へ、顔を向ける。
そこには――
氷の壁に囚われた、禍々しき気配を放つ真紅の魔槍。
「これが最上級魔導兵器――【魔導神器】――の一つ……ロンギヌスか」
『……そう。これが汝の、最強にして最終なる切り札じゃ』
感慨深げに呟くシンジ。厳かに告げる【アダム】。
――極寒の死の国。其処に眠る、絶死の魔槍。
人形遣いは、それを見て、無邪気に――しかし絶対的な恐怖を伴う笑顔で、笑った。
「落とし前は、付けさせて貰うよ♪」
……近い内に日本ごとNERVが消えて無くなるかもしれない。
さて、その頃加持君はと言うと…
「早くヘリを出してくれ! このままじゃ死ぬより恐ろしい目に遭うんだ!! 早くしてくれ頼むから!!」
「で、ですが……」
「ええい、どけ! 俺が操縦する!!」
「む、無理ですよッ!?」
「無理でもやらなきゃやばいんだ! 少しでも時間に遅れたら、罰ゲームが………いやだ、ナマコはもう嫌だあぁぁぁぁッッッ!!!」
……数秒後、凄まじいスピードで加持の操縦する機体はその場を離れた。
実は、シリアスモードから戻ったシンジが暇潰しに、
「加持さん、予定時間より遅れたら――罰ゲームです☆」
と、のたまったのだ。
過去に加持はその罰ゲームを受け……結果、心にどでかいトラウマが。
……加持に幸あれ。
目の前に浮かび上がった白き異形。
【守護者】ルゥは、それを空虚な瞳で睨んだ。
(………対象、ATF、解析…。………解析、完了。……形状、全方位、防御、型……強度、C……現、戦力、では、無効化、困難。…対抗、手段、検索……検索、完了。……中枢、に、攻撃……収束、ATF、による、一点、突破……!)
この間、僅か0.01秒。
演算を終えたルゥは目前の敵に向かい――構えた。
【足踏み】――大地と同一化しているかの如く、悠然と身を大地に置き――、
【胴造り】――重心を安定させ、心気を丹田に送り、魔力を練り――、
【弓構え】――空の手に存在しない筈の弓と矢を携え、脳に必中の過程を幻想し――、
【打起し】――両の手を天に起し、在る筈の無い弓矢に魔力を注ぎ――、
【引き分け】――等しき力で弓を引き分け、幻想と現実の差異を見出し――、
そして【会】――幻想と現実を合わせ、身の内に眠る拒絶の力を引き出し、その身に紅き十字を創り出す!
六節のプロセスを踏んだルゥの手には、紅き弓と矢が存在していた。
全てを貫く、拒絶の矢。
ルゥの全ての力を収束させたこの矢に、貫けぬ物など無い。
後は中てるだけ――いや、もう既に矢は中っている。
幻想は現実と為り、ラインは整った。
其は森羅万象――即ち自然の流れ。
修行により、ルゥはその流れを身を以って感じ取った。
故に、彼女は知っている。
【離れ】と【会】は不離であり、【離れ】は【離す】モノではないと。
――その一撃は、地を穿つ雨垂れが如し。
『……射ち、穿つ……―――【絶紅殺】……ッ!!』
【離れ】――其れ即ち自然為り。一連の流れに置いて、爆発的な力の現れ為り!
風が唸り、天が引き裂かれ叫びを上げる。
紅き閃光は一直線に使徒へと向かい、真っ向からATFにぶち当たる。
一瞬の均衡の後、乾いた音を立てて、砕け散るは紅い光。
――そう、紅き光の壁が。
壁を砕きし閃光は、そのまま的へと―――そう、紅きコアに突き刺さる!
ズブリ、という生々しい音と、カキィィ…ン、という無機物な音とが、交差する。
ピギャアアアアアアァァァァァァァァッッッッッ!!!
甲高い、金属が擦れたような生々しい叫び声が、使徒から発せられる。
――しかし、即死には至らない。
矢はコアの半ばまで突き刺さり、霧散。
死には至らなくとも、その一撃は致命的な損傷を使徒に与えた。
如何に超回復を持つ使徒でも、この一撃を癒すほどの力は無い。
負った傷の所為で、その無敵の防壁も失われた。
――最早、結果は見えた。
『……【残心】…。後、任せた、ラン…』
弓を構えたまま、険しい目つきで、ルゥは呟いた。
その目の先には、鋼の【決闘者】が、使徒に襲い掛かる姿が見えた。
『――随分強くなったじゃねぇか、ルゥ』
天へとその身を躍らせたランは、嬉しそうな顔でそう言った。
妹分の成長に、喜んでいるのだ。
『――お陰で、やり易くなったぜ』
その瞳は、狩人の如き獣の瞳。
敵を狩るべく、刃と化した両手の五指を伸ばし、両の腕を上下に掲げる。
『――龍の顎門に砕かれちまいなッ!! ―――秘技ッ、』
弾丸の如く使徒へと襲い掛かり、上下に振りかぶった両の掌を、使徒の鼻先で交差させる!
――龍の唸り声の如き真空の歪音が、辺りの空気を蹂躙する。
『――龍・刃・吼ゥッッ!!』
裂帛の気合が、使徒の身体を奔り抜ける。
――瞬間、
―――ズル…リ……
使徒の体が縦にずれ、細切りと化していく。
十、百、千、万………最早、肉片は素麺の如き細さと為っていた。
――ランの必殺技の一つ、【龍刃吼】。
十指を以って敵を縦に切裂く技である。
放つ時に生ずる真空音から、この名が付いた。
肉片と化した天使は、そのまま海中に没していく。
近いうちに、魚の餌と為るだろう。
『――任務完了、オールオッケイってか』
サッパリとした笑顔を、天へと向けるラン。
――彼女はそのまま、海へと落ちていった。
キラが戻ってくるまで、ランは海水浴を強制的に満喫していたらしい。
……考え無しである。
一方、艦橋部では…
「「「「………ジーザス…」」」」
艦隊司令を含む殆どの乗組員が、目の前で起こった戦乙女らの戦いに、見惚れていた。
――例外であるNERVのお二人はというと……
「――うふふ。うふふふふふふふふッ!!」
悪魔の如き笑みを浮かべたまま、ノートPCにデータを記録し続ける金色マッドこと赤木リツコ。
その隣では、某マジカルナースも愛用している巨大注射器を頭に突き刺したまま、地面に伏している作戦(無能)部長こと葛城ミサト。
……まともな奴いないのか?
「うフフふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!」
アル『アルちゃんと!』
キラ『き、キラちゃんの!(///)』
二人『『帰ってきた! アイキャッチ座談会〜(ドンドンドンパフパフパフ〜)』』
アル『つー訳で、久々の登場だよ、キラちゃん! つーか本編にもわたしの出番殆ど無いから、凄く久し振りだよね(怒)〜!!』
キラ『あ、アルさん!? 落ち着いてください! もう作者さんは、口では言えない姿に為っていますから!!』
ズガッ バキッ、グシャッ、ビチョ、ゴメシッ、スバキャ、チュドオォォォォォォンンッッ!!!
……暫らくお待ち下さい。
アル『あ〜、すっきりした。じゃ、わたしはシルヴァーナと決着(ゲームの)つけに行くから、キラちゃんあとお願いね♪』
キラ『あ! 待って下さい、アルさん! せめて辺りに飛び散った血飛沫の始末ぐらいして―――あ、もう行っちゃいました……』
キラ『――まあ、そういう訳で後編を宜しくお願いします。後編はマスターが出っずぱり……ウフフフ―――はッ!? ついまた妄想を! ――其れでは皆さん、後編でお会いしましょう……うう、恥ずかしいです……』
血飛沫に塗れた空間から、真っ赤な顔で立ち去るキラ。
中心にある不気味な血肉の塊は一体……
――――終劇――――
あとがき
……おくれてすんまへん。
漸く第五話(前編)お届けです!!
某所での連載もおくれがちな駄目駄目な自分ですが、今後もよろしくお願いします!
引き続き、後編もお楽しみ下さい。
しっかし今回のアイキャッチは錬度が低い……
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます