「ようやく、『計画』開始だ」
シンジの前に佇む異形――それは、ある科学者の妄執から生まれし『人形』。
――【人造人間エヴァンゲリオン】である。
第二話 『使徒殲滅、奪われしもの』
『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。汝の【怒り】を我が手に、汝の【憤り】を我が手に、汝の【暴虐】を我が手に――』
そこで一旦言葉を切り、ポケットから右手を出す。『爆ぜろ――【憤怒の魔手】――』
変化は劇的だった。
白い世界、何もない世界。
そこには、何もなかった。
一つの【魂】と【心】以外は…。
【心】は泣いていた。
外に出たい、と。自由になりたい、と。
ずっと、ずっと泣いていた。
【魂】は笑っていた。
これで願いは叶う、と。永遠に生きられる、と。
ずっと、ずっと笑っていた。
そして、ソレは唐突にやってきた。
此処に存在しないはずの、【何者かの意識】が。
(………発見♪)
精神世界に【ダイブ】したシンジは、二つの【力】を見つけた。
【心】と【魂】である。
その内一方に接触を試みるが、突然もう片方の【力】が強引に割り込んできた。
(……なッ!?)
強制的に繋がる、イメージ。
――さあ、私の手を取りなさい、一つになりましょう?
そうすればもう何も考えなくてもいいのよ。
何も感じなくてすむの。
さあ、私の手を取って、とって、トッテ。
シンジシンジシンジシンジシンジシンジ……――
『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。具現せよ、我が意思より溢れし【憎悪】よ、我が意思より生まれし【嫌悪】よ、我が意思を形作りし【悪意】よ――』
シンジから生まれし【何か】が、近付いてくる【碇ユイ】に絡みつく。『彼の者に束縛を――【悪夢の牢獄】――』
瞬間、【悪夢】が舞い降りた。
ここにはなにもない。
あるのはわたしと、【いやなやつ】だけ。
【いやなやつ】はずっとわたしをくるしめる。
おさえつけて、もともとあまりなかった【じゆう】を、【いやなやつ】はうばっていった。
わたしはほしかった。
いっしょにいてくれるひとが。
わたしはのぞんでいた。
だれかにふれられることを。
きたのは【いやなやつ】だけ。
ふれるのも【いやなやつ】だけ。
そのあとにきたやつも、【いやなやつ】にふれていって、すぐにかえっていく。
もういやだ、ここは。
もういやだ、【こいつ】とここにいるのは。
わたしはみたい、【ひかり】というものを、【そらという】ものを。
わたしはふれてみたい、【くさき】や【いきもの】に。
わたしは、【じゆう】がほしい――
――【心】は気付いてはいない。
すぐ近くに、自分と接触しようとする第三者の存在に。
(――やっぱり、第一印象ってのは大事だからね。ここは緊張させないようフレンドリーかつ紳士的に行かないと)
こほん、と咳払いを一つするシンジ。
そして、ゆっくりと【心】に触れた。
―――やあ、こんにちは。
―――…………!?
―――ああ、そう警戒しなくていいよ。別に獲って喰うつもりは無いからさ。
―――…………?
―――え、僕が誰かだって? う〜ん強いて言えば【魔導師】にして【人形遣い】だよ。
―――……………??
―――余計分かんない? そうだねぇ、後者はともかく前者を簡単に言うと【君のお願いを叶えに来た不思議なヒト】、かな。
―――………………!?
―――そう。僕は君の願いを聞きに此処へ来たのさ。――さあ、何でも言ってごらん、絶対に叶えてあげるよ。……その代わり、【代価】を支払って貰うけどね。
―――………?
―――【代価】というのは報酬の事。物事はキブ&テイクに行かないとね。僕が言う【代価】とはズバリ――【キミ】の事さ。
―――…………!!?
―――まま、そう警戒しないで。ちゃんとその辺に関しては考えてるから。――【キミ】の望みは確か【此処から出て、自由になりたい】、だっけ? ご心配なく。僕は【キミ】の為に新しい【体】を用意してあるんだ。勿論自由に動けるヤツをね。――その代わり、僕は【キミ】が欲しい。新たな【人形】、【奴隷】、【家族】、【眷属】……ま、言い方は様々だけど、僕や【彼女たち】が【キミ】を求めている事には変わりない。
―――…………………
―――時々僕の【お願い】を聞いてくれるだけで構わないし、ある程度やる事やってくれれば別に束縛したりしないよ………現に【あの子たち】がそうだし(泣)。
―――ま、よく考えてみて。あと、契約したあと二週間以内はクーリングオフ付くから。――あ、それとサービスで【掃除】しといたから、暫く【アレ】は出てこないよ。じゃ、決まったら呼んでね。
シンジと【心】の会話は、終わった。
また、【心】は一人になった。
いったいなんだったんだろう?
なぜ【あのヒト】は【いやなやつ】じゃなくてわたしにふれていったんだろう?
……ものすごくうれしい。
けど、なぜ、わたしがほしいんだろう?
【いやなやつ】はずっとわたしにここにいろといっていた。
【いやなやつ】はわたしはここにいないとかちがないっていっていた。
……わたしはここはきらい。けど、ここからでたわたしには、いみがあるのだろうか。
すくなくとも、【あのヒト】はわたしがひつようなのはわかった。
――だったら、わたしのこたえは、きまっている。
「……成る程、それが【キミ】の答えか」
閉じていた目を開き、シンジは笑みを浮かべそう言った。
喜色満面。
彼の表情がそう物語っていた。
「いいだろう、契約成立だ」
シンジがそう言って取り出したのは、奇妙な形のペンダント。
二重円の中に幾何学的な図形が織り込まれたそれは、小さくもまるで魔法陣のような形をしていた。
中心には、エメラルドグリーンの耀きを放つ、一つの石。
シンジはコアにペンダントを押し当て、【言葉】を唱える。
『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。汝の知恵にて此処に存在しえる物を【変質】せよ、【合成】せよ、【分解】せよ――』
【言葉】に反応し、ペンダントが強い輝きを放つ。
ゥゥオォォォォオオォォォォォンンンンンッッッ!!!!!!
突然の絶叫に、驚き目を覚ますものがいた。
シンジに気絶させられた赤木リツコである。
ふらつきながらも立ち上がり、ぼやける思考に喝を入れつつ、状況を知るべく辺りを見回す。
目に映るものは――
「…………ッ!?」
人間だった【モノ】と、辺りを紅く彩る鮮血。そして、【人形たち】。
込み上げる悲鳴を押し殺し、リツコは冷静に考えを巡らせた。
結果は――
「………勝てるわけ無いわね」
あらかた片付けたのか、動く黒服は存在していなかった。
白兵戦に【NERV】は弱い。
戦闘力の高い保安部がまるでゴミ扱い。
銃を持った一般職員程度では、太刀打ちできないのは目に見えている。
それでも敢行しそうな某飲んだくれ暴走作戦部長も、激痛で気を失っている。
リツコは、何時も通りの冷静な視線で、シンジと初号機を見据える。
雄叫びは止まったものの、耀きは収まっていなかった。
「……一体、何が始まるというのかしら?」
恐怖を抱きつつも、それより強い【興奮】と【好奇心】に心を揺さぶられるリツコ。
彼女は根っからの【学者】なのだ。
リツコの視線は、シンジの行う【儀式】に釘付けとなった。
『汝の力を解き放て――【愚賢なる秘石】――』
瞬間、光は一際輝きを増し、シンジとコアを包み込んだ。『目覚めよ、【六体目】。【魔導】より生まれし【モノ】よ!』
【人形のようなもの】が小刻みに震えだす。
アル『アルちゃんと』
キラ『き、キラちゃんの(///)』
二人『『アイキャッチ座談会〜(ドンドンドンパフパフパフ〜)』』
アル『――と、言う訳でキラちゃんアイキャッチだよ。日本語に直すと『目玉を掴む』ッ!!』
キラ『ちょっと意味が違うような…。――ところでアルさん、何で私たちこんな事をやってるのでしょう?』
アル『それはね〜。これが各種設定説明の名を借りた作者の時間稼ぎで、わたしたちはその司会の為に駆り出されたんだよ〜』
キラ『ちゃらんぽらんですね。…ところで、作者さんはどちらに?』
アル『ん♪ モーツアルトの【鎮魂歌】を聞かせてあげたんだけど、感動疲れしたらしくて眠ちゃった♪』
キラ『……そうですか。ご愁傷様です』
アル『歓声(叫び声?)を上げて聞き入ってくれたんだよ〜。――ま、内輪ネタここまでにして、さそっく説明行ってみよ〜♪』
キラ『まずは基本設定の【魔導学】からです』
魔導学とは……
我々の時代【西暦】以前に栄えた超古代文明より発生したと言われる学問である。
アル『よーするに、今では全く廃れちゃった、古臭いカビの生えまくった学問という事だねッ☆』
キラ『み、ミもフタもないです…』
一説では【魔法学】、【魔術学】、【錬金学】、はたまた【科学】すらも【魔導学】の名残だと言う話も…
アル『ちなみに【魔法】と【魔術】の違いはまた今度ね』
キラ『あるんですか? 今度って』
【魔導学】とは即ち【全て】である。この世に存在する【法則】、【原理】、【因果】など【世界】を形成する様々な要因を理解し、その全てに干渉する術を生み出す事が、【魔導学】の最大理念であり、目的なのだ。
アル『大層な事言ってるけど、現在では過去の遺産をネチネチ弄繰り回すだけだけどね。――あ、シンジはそんな根暗ヤロウとは違うんだよ。シンジは実際に新しい魔導理論とか確立してるし、世界有数の実力者だもんね』
キラ『ああ…マスター……。素敵すぎますぅ』
そして【魔導学】の技術より生まれたのが、俗に(一般に知られていないのにも拘わらず)【魔導宝具】と言い、生物なら【魔導生命体】、武器なら【魔導兵器】と項目分けされている。
アル『ちなみに、わたしたちは【魔道生命体】に当てはまるんだよ』
キラ『ええ、そうです。マスターの快楽の為だけに存在する【生人形】…ああ、幸せです…』
アル『――ありゃ? お〜いキラちゃ〜ん、お〜い』
ピラピラ(キラの顔の前で手を振る音)。
キラ『〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ぽわ〜ん)』
アル『ありゃりゃ、【アッチ】に逝っちゃった。――と、まぁ今までの説明を要約すると、【モノすんごく昔に魔導と言うのが存在してて、シンジがそれを使える】と、言うわけ。分かったかな?』
要約しすぎだ。
アル『つっこみど〜も〜。そんじゃ、今回はココまで。次回は【シンジと人形の出会い】と言う題名だよ♪ 読んで字の如くわたしたちとシンジのファ〜ストコンタクト。もしかしたら外伝くらいに長くなるかもしれないよ、楽しみにしててね!』
キラ『ああ〜、半ズボン時代のマスターも素敵です〜』
アル『キラちゃん、早く帰ってきて(汗)』
――終劇――
「…何か、妙な電波が発生したような……」
気のせいです。
「――ま、いっか。さぁて、リサイクルリサイクル♪」
そう言うシンジの顔には、これでもかと言うくらいの笑みが詰め込まれていた。
「――まずは、害虫駆除♪」
再び、シンジは【愚賢なる秘石】をコアに押し付けた。
――すると、
――――ズブリ――――
シンジの手が、握られていた【愚賢なる秘石】ごとコアに沈んだ。――――ブンッ、ぐちゃ。
【女の形をした何か】がコアから現れ、宙を舞った。
キラぁ――
ぴくり。ガッコォオ…
物々しい音を立てて、扉が開いた。
『――ちぇ、もう終わりかよ』
体中に飛び散った血飛沫を掃いつつ、ぼやくラン。
思ったより黒服が弱かった所為で、欲求不満なのだ。
『う〜ん、あんま大した事無かったね☆』
『ドクニモクスリニモナランブタドモダッタナ』
同じように血飛沫を掃いつつ、楽しそうに言うアル。
サイの方はバリアに護られていたので、汚れの心配は皆無だ。
『ふん。所詮はこの程度か』
キョウは少し不機嫌そうだった。
彼女もラン同様、暴れ足りないのだった。
「ぼやかない、ぼやかない。――これからはもっと暴れられると思うから、機嫌直してよ、ね♪」
不意に虚空から現れるシンジ、そして元初号機とキラ。
『べ、別に不満では無い!』
驚いて顔を赤らめるキョウ。
彼女も、根は純情派なのだ。
『…マタナニカタクランデヤガルナ。アトデハナシキカセロヨ、シンジ』
にんまりと笑うサイ。
企み事や策略が、三度のメシよりも好きなのだ。
ちなみに、シンジに策略や戦略の美学を叩き込んだのは、サイだったりする。
『わ〜い! 楽しみだな〜』
『ヒャッホー!』
喜びの声を上げ、踊り狂うアルとラン。
この二人は、暴れるのが三度のメシと同じくらい好きなのだ。
「ふふ。じゃあ今日はもう帰るから、皆?まって」
言うと同時に、人形たちはシンジに群がった。
ランとサイはシンジのバックの上に座り、アルは左腕、キョウはシンジの頭の上に何時も?まるのだが、元初号機がその場所に居た。
キョウの姿を見て、少し震える元初号機。
キョウはそんな元初号機を見て、ふと表情を和らげた。
そして、元初号機を抱き寄せ、耳元で呟いた。
『…大丈夫だ』
ビクリ、と身を震わせ、キョウを見つめる元初号機。
キョウは、姿勢を入れ替え、元初号機を膝の上に乗せる。
そのまま、元初号機は目を細めて寝息を立て始めた。
『…まるで猫みたいだな』
『そ〜いうキョウちゃんは、まるでお母さんみたいだよ〜』
ぼかッ!
『うるさいッ!』
『ふえ〜ん。キョウちゃんがぶった〜』
茶々を入れるアルに、鉄拳制裁で答えるキョウ。
少しばかり笑顔なのは、【お母さん】役というのも満更でもないようだ。
そんな光景を、シンジは笑顔で見つめていた。
(……これならこの子も、早く馴染めるな)
平和な一場面。しかし――
「――ま、まちなさい!!」
いい場面に水を差す一言。
赤木リツコである。
神秘的なシンジの【儀式】を見て、暫く意識があっちの世界に逝っていたのだが、漸く帰って来られたのだ。
「あ、リツコ女史。僕たちもう帰りますんで、お構いなく」
そう言ってスタスタとケージの出口に向かうシンジ一向。
リツコは尚もシンジたちに向かって叫ぶが、全て無視。
そうこうしている内に、重厚な扉がシンジたちの視界に入る。
固く閉ざされている筈のそれは、キラが少し撫ぜただけで、いとも簡単に開いてしまった。
「――ああ、そうそう」
足を踏み出す直前、シンジは思い出したかのように振り向く。
「【茶番劇】のチケット代と【お土産代わり】のガラクタ代に、表の【使徒】とか言う怪獣、片付けてきてあげますよ」
ニヤリと笑うシンジ。
その笑みは美しく、悪魔よりも邪悪な笑みだった。
リツコが再び何かを言おうとしたその瞬間、シンジたちは扉をくぐり、姿を消した。
「…一体何が起こっているというの?」
一人その場に残され、呆然と呟くリツコだった。
「ん? 碇、どうした。そんなに慌てて」
「…問題無い。そんな事より冬月、本部全域に非常警報を発令だ。奴を第三から逃すな!!」
「…ちょ、ちょっと待て。いきなり何を言うんだ。…それに奴とは一体?」
「……【サードチルドレン】だ」
この会話の数秒後、本部全域に【サードチルドレン】の捕縛、もしくは抹殺指令が下されたのだが、しかし……
「――ん〜。日差しが気持ち良いね」
『イマハヨルダゾ、ボケ』
シンジの脳天気な一言に、サイが冷たいツッコミを入れた。
――シンジたちはもう既に、ジオフロントの外にいた。
実は、ケージの出口とジオフロントの出口をキラの【能力】で直結し、待ち構えているはずの罠や黒服を一切無視で外に直行。ちなみに、現在地は第三の郊外に位置する小高い丘の上である。
『――で、誰が殺るんだ? あの【デカブツ】』
ランの視線の先には、悠然と街中を歩き回る、巨大な【怪物】の姿。
第三使徒【サキエル】である。
『なぁ〜、俺に殺らせてくれよ〜シンジ〜』
不気味なくらい甘えた口調で、シンジにおねだりをするラン。
「うーん。皆はどうしたい?」
シンジの問いに、人形たちは思い思いに答えた。
『メンドクサイカライヤダ』byサイ
『ん〜、パスッ! だって、お腹空いたんだもん』byアル
『すいません、私も疲れてしまって。――申し訳ありません』byキラ
「ああ、キラはいいよ。今日は頑張ってくれたからね。気にしないで、ゆっくり休んでて」byシンジ
『我は……ふむ、正直言って暴れ足りないな』byキョウ
――暫し思案し、シンジは口を開いた。
「ん〜それじゃあ……キョウ、頼んだよ」
『えぇッ!? 何で俺じゃないの!!?』
シンジの決定に、不満気な声を上げるラン。
「……打ち上げ花火は派手な方が良いと思ってね」
そう言って、ニヤリと笑うシンジ。
そんなシンジの笑みを見て、ランは黙り込む。
この顔のときのシンジは危険だからだ。
何年か前に、ランはこの状態のシンジに逆らった事があった。
……待っていたのは………【お仕置き】
その結果、ランは三日間ベッドから起き上がれなかったらしい…
尚この事件の後、不始末を犯した人形たちは、シンジから【お仕置き】という名の罰を受けるようになったそうである。
「…それとも僕に逆らうの、ラン?」
『キョウ、頑張れよ!』
そう言って、キョウの方へにこやかな笑顔とガッツポーズを向けるラン。
しかし、その顔は引き攣りまくっており、リゾート色になっていた。
【お仕置き】とは一体……
『……まったく、お主は…』
ランの変わり身の早さを見て、疲れた顔でキョウはそう言った。
しかし内心では……
(……気持ちはわからんでもないがな)
どうやら、キョウも【お仕置き】にあった事があるらしい。
抱えていた元初号機をキラに預け、キョウはシンジの頭の上から飛び降りた。
とっ、と地に降り立つと、目線をシンジと合わせる。
「――第二封印ぐらいで良いかな」
『――妥当だな』
短い会話を交わすと、シンジは空いている右腕(キラは頭の上に移った)でキョウを抱え上げる。
そして―――
キョウと唇を合わせた。
『んっ…ん…んんっ……』
クチュクチュという粘膜の奏でる音と共に、キョウから艶かしい吐息が漏れる。
――次の瞬間、
――ッカアァッ!!
強い光が二人を包み、辺りを明るく照らす。
しかし光はすぐに途絶え、闇が再び戻る。
そしてシンジの前には――
――一少女が立っていた。
身長はだいたいシンジと同じくらい、白銀の長髪を背中に流し、白地に桜の花びらをあしらった浴衣を着流した、16〜7くらいの美少女。
「――なるべく派手に頼むよ、キョウ」
シンジの言葉を受け少女――キョウ――は両の瞳を開き、答えた。
『――委細承知!』
言葉と共に、彼女の【魔術眼】が輝きを帯びる。
――構成開始――
瞬間、キョウの周囲に無数の文字列が浮かび上がり、円環状に変化しつつゆっくりと廻り始める。『――死んでもらう』
底冷えするような声で言い切る。【――死針の雨(ニードル・シャワー)――】
第三新東京市。
そう名付けられた街中を、【そいつ】は悠然と歩いていた。
――第三使徒【サキエル】――
それが【そいつ】の名前だった。
【そいつ】は何も考えてはいなかった。
この街に来たのも、只単に【存在】を感じたからに過ぎない。
途中で、空を飛ぶ【何か】を撃ち落したりしたのも、纏わり付かれて鬱陶しかったからだ。
【そいつ】は歩みを止めようとしない。
流石に、大きな爆発に体を焼かれた時は、体組織を再生する為動きを停止したが、それでも暫くすると歩き出した。
何故、歩みを止めない――それは、会いたいからだ。
何故会いたいかは、【そいつ】も解らなかった。
ふと、【そいつ】は自分の体に何かが接触したのを感じた。
構わず歩み続けようとする。――だが、
――強い感覚が、体の中を走る。
【そいつ】は思わず動きを止め、更に迫り来る感覚に耐え切れず地に伏す。
その感覚を、【そいつ】は数時間前にも味わっていた。
そう、【痛み】という感覚だ。
爆発よりも鋭い【痛み】が、【そいつ】を襲う。
――そして、【そいつ】は【痛み】の原因を知った。
水滴である。
【そいつ】は、空から降ってくるそれの名前が【雨】という事を知らなかった。
その【雨】の一粒一粒が鋭い針状に変化し、【そいつ】の体を貫いていたのだ。
よくよく見てみれば、そこらじゅうの建物や地面も穴だらけになっていた。
理由さえ解れば如何という事は無い。
【そいつ】は何時も通りに心の壁――ATフィールド――を張り、【雨】を防ごうとするのだった。
『……無駄な事を』
ATフィールドを張ろうとする【そいつ】の姿を遠目に眺めつつ、キョウは呟いた。
『何をしようが、我の術からは逃れられない』
指を空中に踊らせ、最後の【構成】を書き綴る。
文字の環が、更に強い輝きを放つ。
『……安らかに』
わずかな憐憫の情を込めて、キョウは最後の【言葉】を紡いだ。
【――風精の槍(シルフィード・スピア)――】
瞬間、【そいつ】の体の中心にあった大きな紅玉――コア――が弾けた。
『…終わったぞ』
「ん、お疲れ様」
再び両目を閉じ、シンジたちの方へ振り向くキョウ。
シンジは、さわやかな笑みを浮かべ、今日に労いの言葉をかける。
『やっぱり、キョウさんの魔術は凄いですね』
『そ〜だね。これでもうちょっとオンナノコラシイ所があればパーペキなのに…』
ずばこッ!!
『ふえ〜ん』
『聞こえているぞ!』
アルの余計な一言に、半ば本気で鉄拳制裁を与えるキョウ。
結構気にしているのだ。
「まま、二人とも喧嘩しないで。これでもキョウは結構オンナノコラシイよ。特にベッドの中では…ね☆」
『あ、それもそうだね〜。わたしったらうっかりサン☆ ゴメンね、キョウちゃん』
何気に凄い事口走るシンジ。納得するアルもアルである。
『あ、あああああああああるじッ!!? そんな事、大きな声で言うな!!』
顔を真っ赤にして怒鳴るキョウ。
しかし、迫力は全く無くどちらかと言うと、可愛らしい。
『マッタク、ウブナネンネジャアルマイシ。イチイチサワグンジャネェヨ』
『あ〜、暴れ足りねぇ』
毒づくサイと、ダルそうにたれているラン。
この二人、キョウが【サキエル】を片付けている間、暇で暇でしょうがなかったのだ。
ちなみにアルとキラは、元初号機の世話をやいていたらしい。
「んじゃあ、そろそろ帰ろうか」
そう言ってシンジは、ひょい、っとキョウを抱き上げた。
お姫様抱っこと言うやつだ。
『あああああああああああああああああるじぃっ!!??』
真っ赤だったキョウの顔が更に真っ赤になる。
夕日も裸足の赤さだ。
ちなみに左腕にいたアルは、ダッコちゃんよろしく、腕に抱きついていた。
『う〜。キョウさん、ずるいです〜』
『キョウちゃんいいな〜』
羨ましそうにキョウを見つめるキラとアル。
「あははは、二人はまた今度ね。いやぁ、一回やってみたかったんだよね、コレ」
楽しそうに言うシンジ。対するキョウは真っ赤なまま口をパクパクしている。
「さてと、かえろうか。今日のご飯はローストビーフだよ」
『わーい! ローストビーフ!!』
『肉だぁー!!』
口から涎を滴らせ、喜びに震えるアルとラン。
『ガキカ、オマエラ…』
呆れたように呟くサイ。
実は、彼女も心中では喜んでいたりする。
『御箸の持ち方とか、教えてあげますね』
『…………(コクン)』
ほのぼのしい光景の、キラと元初号機。
何時までも元初号機では可哀想である。名前を考えてやらねば…
シンジは夜空を見上げ、優しげな微笑から壮絶な笑みへと、表情を変え、呟いた。
「NERV、SEELE、そして使徒………僕の『暇つぶし計画』の礎になってもらうよ」
クスッ、と小さく笑い、シンジと人形たちはその場を後にする。
一方NERVはと言うと、
髭と電柱は愛しい人の凄惨な姿に卒倒し病院に運ばれ、
無能牛も手首切断の治療(必要あるのか?)の為病院に運ばれ、
金髪マッドは狂ったようにデータを取り続け、
他の職員は今あった出来事が信じられず、呆気に取られていた。
この後、更に退職者が出るのは言うまでも無い。
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます