鬼畜魔王ランス伝
第13話 「ケイブリス死す」 「じゃあ、まず邪魔なケイブリスをぶっ潰す。」 ランスは城の前庭に集めた将兵に向かって宣言した。怒号にも似た歓声がそれに応えて巻き起こる。 「2万で攻める。随行はキサラ、ナギ、メナド、それにカイトだ。サイゼル、マリア、アールコートは留守番。特にマリアは空中戦艦の建造をやっておけ。エンタープライズなんぞ資材代わりに分解してかまわん。」 口々に承諾の返事が返る。拒否する者は誰もいない。 「あ〜あ、また留守番か。」 「お前が俺様を除いて最も速く飛べるからな。伝令代わりに偽エンジェルナイトを10体借りてくぞ。」 「おっけーっ。まあ、しょうがないか。」 「では行くぞ! がはははは!」 「おおーっ!!」 総兵力2万の軍がケイブリスの城めがけて行軍を開始する。2万で15万に挑む戦いの割りには全く悲壮感がないのは、やはり魔王の存在が大きいのだろう。意外と整然とした軍列は士気の高さを伺わせる。士気うんぬんというよりも、魔王の絶対的な力に対する崇拝……なのかもしれないが。だが、この軍勢に命知らずにも近づく一つの影があった。 「あんたたち、何な〜のねぇ。」 「おう、ランス様だ。ん、まあ景気付けには丁度いいか。」 あっという間に捕まり、わんわんの交尾スタイルで犯られてしまうケイブワン。 「あ……わたち……発情期でもないのに…なんで?」 「がっはっはっ。それは、俺様が偉大だからだ!」 「……くはっ……かはっ…………」 「ん、もう逝っちまったか。……ボロいな。」 やってる最中に絶命したケイブワンから気を吸い尽くして灰にすると、ランスは行軍を再開させた。ケイブワンは、命に代えて5分の時間を稼ぐ事に成功した。……大して意味はないけど。 「ホーネット様、ケイブリス軍の動きが変です。」 「そう、シルキィ。………確かにそうね。明らかに動きが今までと違うわ。」 「それに、不自然です。」 「そうね。ハウゼル、様子を見て来てもらえるかしら。何か重大な事が起きているかもしれないわ。」 「わかりました。」 シルキィの城にある作戦室からハウゼルが駆け出して行く。 「ふう。この頃リトルプリンセス様からの連絡もないし。うまくやってるのかしら、メガラスは……。」 気苦労の絶えないホーネットであった。 「ぐはっ……大変にゃん。逃げるにゃん。リス様に知らせるにゃん。」 赤の家を守る使徒ケイブニャンは、その任務を放棄してあっさり逃げ出した。まあ、2千の兵力で要害でも何でもない場所を2万の兵から守る……などというのは非現実的なため、ある意味賢いともいえるのだが。……敵が見えてからでは遅かったのだ。 「黒色破壊光線!」 黒い光線が一閃した。そして、その光線が薙いだ場所には何もなくなった。1000体のにゃんにゃんも、家も、そしてケイブニャンも……。ただ、あるのは無残にえぐれた地面のみ。 「よくやった、ナギ。」 ランスに頭を撫でられ気持ち良さそうにしてるナギ。 「ですけど、今のでこっちの事が知られたんじゃ。」 「なに、どの道ばれるんだ。今でもかまわん。」 「残敵の掃討は終わったけど……これからどうするの?」 「そうだな、前進あるのみだ。がはははは。リスなんぞ正面からで充分だ。」 そのまま余勢を駆って一気にケイブリスの城へ攻め上がるランス軍。数こそは2万ながらも魔王自身の陣頭指揮で士気は高い。 一方、ケイブリス側では、 「なに〜い!! 2万ぽっちの軍勢で攻めて来る連中がいるだと〜!!」 「は、はい。」 「ちっ、ケッセルリンクの野郎はどうしてやがる。おい! ケイブワン!!」 「あ……あの……」 「何だ!!」 ケイブリスに睨み付けられた魔物将軍は竦み上がるが、何とか返答する。 「そ、その……ケイブワン様は…まだ……お帰りになっては…」 「もういい!!」 怒号と共に横薙ぎに振るわれた豪腕によって、魔物将軍は壁に貼り付く醜悪な肉片のオブジェと化した。 「野郎ども! 出るぞ!! ちょこざいな連中を皆殺しにしろ!!」 「おおおーっ!!!」 結局、僅かな守備隊を残して全軍が出撃した。総勢15万の大軍である。 両軍は、荒野の途中で対峙した。数量比こそ7対1だが、ケイブリス軍は魔人数の激減により兵を統御しきれていない為、実戦力では半分以下になっている。とはいえ、それでも戦力差は大きい。 だが、それを補って余りある者がいる。魔王だ。 実は、ランスは戦闘自体は自分一人で終わらせるつもりであった。では、何故軍を連れてきたかというと、見物人兼雑用係としてである。 連れて来た軍を後ろに下がらせると、ランスは一人無造作に歩いてケイブリス軍に近づいていった。いつもの不敵な笑顔を浮かべて。 「馬鹿か、あいつは。……よし、バボラ踏み潰して来い。」 「あ〜い〜、わかった。」 ドスドスと小山のような巨体を揺すってバボラが前に出る。だが、その彼は一撃で斬り捨てられた。股下から放たれたランスアタック……炸裂した闘気によって真っ二つにされたのだ。 「な!……なにぃ〜!!」 ランスの前進は止まらない。血刀を振るって前にいる者を斬殺する。15万の軍団の真っ只中を事も無げに歩く。運悪く前にいた者は斬られて道を開ける。そんな事が何度繰り返されただろうか……。 「ヘイ! ユー! キル! デス! キル! デス! イッツ、メイクドーラマ!」 レッドアイのファイヤーレーザーが連射され、周囲の魔物兵を消し炭に変えて行くが、肝心のランスには全く当たらない。……いや、全て切り落とされている。 「おらよっ!」 「邪魔だ。」 大偃月刀で斬りかかったガルティアが左手の裏拳一発で吹き飛ばされる。とっさに剣で受けなければ30m程飛ばされた程度では済まなかっただろう。ただ、さすがに動けなくなったようだ。 「ミーは魔人界一の魔法使いネ。そのミーのマジックが効かないハズないネ。赤色眼魔砲ね!!」 レッドアイは、普段は使っていない闘神の機能の一部を自分の魔力増幅に使い、強力な破壊光線を発射した。だが、その一撃もランスに両断される。 「うざったい。ライトニングレーザー!」 電撃魔法がレッドアイに命中した。レッドアイが寄生している闘神ガンマのボディのあちこちから黒煙が吹き出て機能障害をアピールする。 「ハガガガガ…ガピー……キュゥゥ……」 「残りはてめぇだけだ、ケイブリス!」 いつの間にやらワーグがいません。戦闘を嫌って引っ込んでいるのでしょうか? でも、いつもの事なのでケイブリスは気付きません。いや、目の前の圧倒的な戦闘力を見せた存在以外が見えてないのかもしれません。 「ゲハハハハ! 俺様アタック!!」 ……いや、実は何も考えてないかも。ケイブリスの攻撃はランスの左腕一本で楽々止められてしまった。 「これが最古の魔人の力か……弱いな。」 「グ…ヌォォ……ちくしょう……俺様が……この俺様が……」 「クズはクズらしい態度を取ったらどうだ?」 剣ごと腕を折られる。触手を1本1本切り落とされる。そんな暴虐にみまわれたケイブリスは平伏して頭を地面に擦り付けた。 「んーとりあえず……この偉そうな角でも折っとくか。」 <ベキッ!!> 「ぐはぅぅ。に…人間ごときが……」 「ん…まだ偉そうだなぁ……」 グリグリと首の後ろを踏み躙られる。意図するところは明白だ。 「あーウソですウソです。貴方様は……まるで魔王様のように強いです。ハイ。」 「……がーっはっはっはっ! 馬鹿め。まだ気付いてなかったのか?」 「え? え? えっ?」 「子供だって気付いてるぞ。なっ、ワーグ。」 「ぶぅ、ワーグ子供じゃないもん。」 何時の間にかラッシーに乗ったワーグがランスの隣に出現している。 「て…てめぇ、何時の間に寝返った!?」 「んーと、さっき。」 「きっさまーっ!」 「おい、あんまり騒ぐと俺様の機嫌が悪くなるぞ。」 グリグリが強くなるのを感じて、冷や汗がダラダラ出てきたケイブリスは慌ててフォローする。 「そ、そ、そっ、そんな、めっそうもない。は、は、やだなぁ、冗談ですよ、冗談。」 「おにいちゃん、どうしよっか。」 「ん、ワーグはどう思う?」 「うーん、さっき怒られたから…」 「ごめんなさい、もうしません。許して。お願いです。」 「許してあげてもいいんじゃない?」 「おう、俺様に従うんならな。」 「は、はい。忠誠を誓いますぅ。ね、だから許して。ね、ね。」 その返答を聞いたランスの顔が皮肉な笑みを浮かべる。何やら意地の悪い事を思い付いたようだ。 「ひとついい事を教えてやろう。カミーラを殺したのは俺様だ。」 「な…何だってぇ! 貴様よくも! あんないい女…3000年かけて見つけた俺様の理想の女を……よくも!!」 ケイブリスはランスの足を跳ね除けて立ちあがった。……立ちあがってしまった。 「ほほぅ。手向かいするか。面白え。」 言ったそばから斬っている。足を、腕を、触手を。容赦無く突き刺している。胸を、腹を、顔を。 「ぐはっ……グエッ……ゴフッ……」 後悔したが、既に遅い。刃は骨まで断ち割り、反撃するどころか逃げる事さえままならない事態に陥ってしまった。 「まだ死なねえか。しぶとさだけはいっちょまえだな。」 「……け……ケハッ……お願い…助けて……」 「バーカ、俺様がせっかくくれてやったチャンスも生かせない馬鹿に何度も機会を与えるわきゃないだろ。かわいこちゃんでもあるまいし。」 最早、ケイブリスの躰は上半身だけになっており、それも各所の傷から出血しているといった壮絶な外見になってしまっている。 「ア…ガ、ガ…ガ…ガ……」 「飽きた。死ね。」 止めの一撃は心臓を貫き、ケイブリスの息の根を止めた。その死に様に恐怖したケイブリス軍全軍はランスの下に降ったのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ まだ、ランスにとって強敵と言える程の相手が出てきてません。いずれは出すつもりですが。というか、出ないと面白くないですよね。 |
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