鬼畜魔王ランス伝

   第19話 「新たなる力」

 決戦から一晩が過ぎた。ランスはケッセルリンクの城に運ばれ、手厚い看病を受けた結果あっさりと本復した。サイゼルとハウゼルもランスの手によって意識を取り戻した。
「おい、お前ら。今回の事は“貸し”だからな。良く覚えとけよ。」
「む…あたし……もう食べらんない……」
「姉さん。そんなお約束のボケを……。すみません、魔王様。」
「いひゃい、いひゃい、いひゃい。」
 ランスが寝惚けたままのサイゼルのほっぺをつねりあげるが、当然痛覚がリンクしているハウゼルも痛い。仲良く頬を押える姉妹。
「目、覚めたか。じゃ、続けるぞ。お前らが破壊神ラ・バスワルドが2つに分割されて生み出されたのは気がついてたか?」
「初耳です……」
「そんな事知ってる訳ないじゃない。」
「そんな事でいばるな。大ダメージを受けたせいかどうか知らんが、封印が解けたもんで俺様が苦労したんだからな。」
「それは……ご迷惑をおかけしました。でも、どうやってそんな状態から私達を助けられたのですか?」
「まあ、バスワルドのエネルギーをお前らごと吸収して分割した。」
「なんか、それって無茶じゃない?」
「そうですか。あの時はそういう事でしたか。」
「おう、そうだ。あ、それと言っておくが、以後は俺様の許可なしには融合できんぞ。合体用の制御中枢……いわゆるバスワルドの関連の事項は俺様の管轄下に置いたからな。」
「え、という事は?」
「そう。以後はお前ら二人の合体だけじゃなくて、俺様と三人での合体も可能だ。」
「合体って……なに?」
「俺様の許可があれば、お前ら二人は融合合体してラ・バスワルドになれる。この時、お前らの息が合ってないと指一本動かせん。」
「あの、えと……」
「また、俺様と合体した場合は、俺様の意志が全てに優先される。お前らは俺様のサポートに回る。つまり、破壊神の力をゲットした魔王になるって訳だ。」
「あの、すみません。」
「ただ、えらく疲れるから合体は長くはできん。」
「ですから……」
「ん……なんだ?」
「合体って何ですか?」
「ん……説明するのも面倒だな。じゃ、広い所へ行くぞ。」
「ちょ…ちょっと……どんな脈絡で。」
「実地でやった方がいいだろ。さあ。」
 サイゼルを引きずるように移動する。それを慌ててハウゼルが追いかけて行く。気軽に引っ張って行っているように見えたが、行き先はちょっと庭先どころではなかった。

 着いた場所は“死の大地”。余程に大規模な範囲の効果でもなければ、文字通り誰にも迷惑がかからない土地。
「がははは。さあ、やってみろ。」
「やってみろったってねえ。どうやるかなんて分かる訳ないでしょ。」
「すみません。詳しく教えていただけませんか?」
「そうだな。抱き合ってキスして、お互いが融けて一つになるとこでも考えろ。」
「一つに……って、そんなお手軽な!」
「俺様が合体の許可を出さんと合体できんのだから、別に問題ないだろ。」
 そういう問題ではないと思ったが、二人はそれは口に出さなかった。
「じゃ、いくよ。」
「あんっ、姉さん。」
 魔王の命令で最愛の女…姉、もしくは妹といちゃいちゃできるとあって、半信半疑ながらも命令通りに抱き合ってキスをする。その二人の躰が溶け合って一つになる。あの時のように。右目が青、左目が紫というオッドアイの金髪の女神へと。
「で、これがどうした訳?」
「ね、姉さん……」
「なに、ハウゼル。耳元……ううん、頭の中で……ええっなにこれっ。」
「これが、合体……ですか? 魔王様。」
「おう。じゃ、さっそくあそこを攻撃してみろ。」
 ランスが指差したのはすり鉢状の穴。かつてホーネットとレッドアイが正面から全力で魔法をぶつけ合った時の名残。
「で、でも……」
「なに躊躇ってるんだ。別に誰に迷惑がかかる訳でもあるまいし。」
「そうね姉さん。やりましょう。」
「うん、ハウゼル。」
「「ヴォイド・アタック!!」」
 バスワルドの手から放たれた黒い球体は、目標地点に命中するとその地点にあった物質を残らず消滅させた。その跡にはスッパリと綺麗に抉り取られた穴だけが残されている。
「自分でやっといてなんだけど……ヴォイド・アタックって何?」
「虚無を操って命中した地点の物質を無に還す魔法だ。魔法抵抗に成功すると消滅しないで済むんだが。知らんで使ったのか?」
「なんか、躰が自然に……」
「ところで、魔王様。何でそんな事までご存知なんです?」
「俺様がバスワルドの一部を吸収したから、それに関する知識も俺様のものになっただけだ。別に不思議な事じゃない。」
「ところで、ハウゼル。あたしの気のせいじゃなきゃ妙に胸がスースーするんだけど。」
「え…えと……きゃ!」
 その両の瞳が見たものは、剥き出しにされた乳房であった。
「「魔王(様)!!」」
「これはどういう事だっ!」
「どういう事だっても……服のデザインまで俺様が知るか。恨むんなら、そんな格好に設定した神でも恨むんだな。」
「「しくしく……」」
 そんなバスワルドの肩をガシッと掴んで引き寄せる者がいた。もちろんランスである。
「やっぱり、表情があった方がいいな。あん時は無表情だったからな。」
「な、なにを……」
「がはははは。“貸し”を返してもらうだけだ。たっぷり味わえよっ。」
 ランスはバスワルドを押し倒してハイパー兵器を突き刺し、激しく腰を動かし始めた。

 30分後……精根尽き果てたといった風情のサイゼル・ハウゼルの姉妹が地面に倒れている。流石に死の大地そのものからは(やってる最中に)移動したが、まだそんなには離れていない。
「うー、死んだー。」
「あ…あの……もしかして……」
「おう。バスワルドとやるのにお前らだけでも合体できるようにした。がははは。」
「あう。やっぱり。」
「で、どうだった?」
「そりゃ、気持ち良かったけど……恥ずかしいよ、あのカッコ。」
「はい、何とかなりませんか魔王様。」
「嫌だ。面倒臭い。それに、お前らが合体してる間、俺様が色々と疲れるんだ。そうそうポンポン使われてたまるか。」
「疲れるってどういう風にです?」
「説明してもわからん。だから、実地でいくぞ。」
「実地ってどういう?」
 サイゼルの問いには答えず、ランスはフェリスを呼び出した。
「フェリス。シィルを持って来い。」
 フェリスは魔剣シィルを持って即座に参上した。
「はい、マスター。」
「おおっ、相変わらず仕事が早いな。」
「恐縮でございます。」
「じゃ、さっそくやるぞ。新しい俺様の力に耐えられるかな、シィル。」
「はいぃ。頑張りますぅ。」
「あ、あのランス? 話が見えないんだけど。」
「もっかい、さっきの要領で行くぞ。」
 抱き合った二人を包み込むように両腕で抱きしめるランス。
「あ…あの……」
「いいから、やれ。」
 何か言いたげにしているハウゼルを制して合体を促す。その姿勢に二人とも覚悟を決めて従う。
 光が溢れた。
 自然界には存在しないはずの“黒い光”が。
 その中から現れたのはひとりの男。
 男は黒き光を纏っている。
 男の右の背にはブルーグレーの翼、左の背にはライトグリーンの翼が生えていた。
 手にあるは桃色の刀身を持つ剣。
 目にあるは強き意志の光。
 口元に浮かぶは不敵な笑み。
 破壊神であり、魔王であるもの……その名は“魔神”ランス。
 地上最強の存在が誕生した瞬間である。

 ランスは背の翼を羽ばたかせ、死の大地へと舞い戻った。その中心たるクレーターの上空へと。
「では、試すぞ。覚悟はいいか?」
「はいぃ。頑張りますう。」
 ランスが気と魔力を高めると、意識の中でサイゼルとハウゼルの悲鳴じみた声が聞こえて来た。
『ふわわ、何これ?』
『しっかり、姉さん。』
『だ、だ、だ、だって、こんなの……』
『これが破壊神の意識だ。ちゃんと抑えるの手伝えよ。自分をしっかり持ってな。』
『はい、魔王様。』
『うげっ、わかったわよ。』
 練り上げられた黒い闘気は、虚無の魔力と重なって更なる黒さを増す。それが、刀身に収束された時、ランスは穴の中心へ向かって急降下した。剣を上段に構え、袈裟掛けに振り下ろす。
「ランスアタック!」
 虚無の気を纏った剣による急降下攻撃は、死の大地の穴の大きさを2倍に広げた。しかし、虚無が命中地点の地面を消滅させたために埃一つ立たなかったのである。
「げ、俺様の事ながら何て威力だ。……で、どうだシィル?」
「はいぃ。普通の時に鬼畜アタック撃つくらい厳しいですぅ。」
「て、事は連打しなきゃいいってこったな。」
「はいぃ。」
 ランスが立ち位置を変える。死の大地の縁から大陸の外側に向かってである。勿論、途中に例の穴がある。
「ど、どういう事ですか?ランス様。」
「まだ、全力出してなかったよなあ……。」
「ランス様……やめましょうよぅ。」
「いや、やる。」
「しくしく……がんばりますぅ。」
 ランスは気を高めるのと同時に、足元の小石を空に向かって蹴り上げる。真上に向かって蹴り上げられたそれが地面に落下する途中で、ランスの最大の必殺技が小石に向かって炸裂する。
「うぉぉぉぉ! 鬼畜アタック!!」
 空中で炸裂した技の威力に耐え切れず小石が消滅しても、なお莫大な破壊エネルギーはいささかも減退せず、拡散しながら突き進む。大陸の端へと表土を削りつつ……いや、消し飛ばしつつ。
 そして、死の大地は薄皮一枚剥された赤土の目立つ荒れた大地へと姿を変えた。真中に開いた巨大な穴だけがかつての面影を残す普通の土地へと。
「ふにゅう……もうダメですランスさまぁ……」
「お、おい! シィル!」
 ランスの手の中で、くてっとしてふにゃふにゃになるシィル。慌てて刀身を確かめるものの、目立った損傷は見当たらないし、柄を握っていると何となく感じられる命の脈動にも異常は感じられない。
「おどかしやがって、こいつ。気絶しているだけなら気絶しているだけだと、ちゃんと言ったらどうなんだ。」
 何となくホッとしたような口調で憎まれ口を叩くランス。しかも、内容は無茶だ。途端に頭の中で笑い声がする。
『くすくす……そりゃ無理よね。気絶してるってのに。』
『姉さん。いくら本当の事でも……』
 笑みを含んだ二人の声に、ランスは怒声にも似た声で答えた。
「えーい、いつまで俺様の中にいやがる! さっさと合体を解くぞ!」
 ランスの背から生えている2枚の翼が分離し、それぞれサイゼルとハウゼルの姿に戻っていく。右翼がハウゼル、左翼がサイゼルだ。
「えー、ランスが合体を解いてなかっただけじゃないか。」
「そ、そんな、いくら本当の事でも、それをズバリと指摘したら魔王様がお困りになられるでしょう? 姉さん。」
「お前、実は酷い事言ってないか? ハウゼル。」
 ハウゼルの額をツツ−ッと汗が伝うが、ランスはそれにかまわずシィルを大事そうに鞘に仕舞った。
「何とかせんとな。俺様が必殺技を撃つ度に気絶されてたんじゃたまらん。」
 だが、すぐにはいい思案が見つからなかったので、気を取り直す。
「まあ、いい。後だ後。俺様がここまで本気にならなきゃヤバイ奴なんてそうそういないだろうしな。それより眼前のウハウハだ。」
 さて、ホーネットにナニしてやろうと色々とあらぬ想像をしながら、ランス一行はケッセルリンクの城への帰途に着くのだった。


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 やっちゃいました(笑)。ネタは『バ○ムク○ス』というより『シンメ○リカル・ド○キング』ですが(全然伏字になってない(笑))。
 ランスが破壊神をやっちゃおうって動機から生まれたこの話は、前の話を書いてる時に突発的に思い付いたものです。……我ながら無茶な事を。
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