鬼畜魔王ランス伝

   第25話 「殺戮の嵐」

「おい、帰ったぞ!」
「はーい。ご主人様お帰りなさいれす。」
 ランスはアイスの街にある自宅に帰宅した。それを迎えるのはあてな2号、魔女フロストバインが作った人造生命体である。
「ご主人様、ゴハンにするれすか、お風呂にするれすか。それとも……あてなにするれすか?」
 誰に教えてもらったのか知らないが、怪しげな台詞で出迎えるあてな。だが、しかし、
「ちょっと惜しいが時間がない。急いで引越しの準備をするから手伝え。」
「はいれす。」
 飛行魔法で急行しただけに追跡部隊が追い付くまでには充分に時間がある。しかし、ゆっくりしていては面倒な事になりかねない。リアが抱きついたまま離さないとか、泣き喚いて騒ぐなんて事をされたくはない。てな理由で追跡者を引き離そうなどという魔王は前代未聞であろう。
 だが、残念ながら(?)それは事実だ。加えて、人間界侵攻の予定時期前に派手な騒ぎを起こすのはあまり気が進まないという事情もある。以前にパリティオランを襲撃した時は吸血行為に関する知識の欠如が原因で暴走しかかっていたせいでやらかした行為であって、本来は街の襲撃など行う事なく魔人界に行く予定だったのだ。別にやった事を後悔している訳ではないが、予定を変更させられたのが悔しかったのだ。
 まあ、そういう訳で大規模な激突は避けたいランスである。特にリーザスの統治権の及ぶ地域で激突を起こすのは。後でマリスに交渉の材料として利用されかねないからだ。
 では、何故ここに来たかというと。
「フェリス、俺様のコレクションはしっかり持ったか?」
「ラレラレ石にエロ本に淫具(大人の玩具)に貝殻……はい、全部ありますマスター。」
「ご苦労。シィルとあてなは?」
「はい。売らずに残して置いた強力な武器と防具は一通り持ちました。」
「はいれす。」
 今までの冒険で手に入れた財産……特にイラーピュ(闘神都市ユプシロン)から持ち帰った高級な武器や防具を始めとするアイテムを回収するのが目的だったのだ。そして……
「おい、あてな。俺様はここから引っ越すが付いて来るか?」
「はいれす。」
 あてな2号を連れて行くのが目的であった。
 アイス駐在のリーザス軍が慌てて包囲陣を敷く中、ランスは堂々と屋根を突き破って飛び去った。それはもう派手に屋根を吹き飛ばしながら。
「ああぁぁぁ。あんなに壊して。大丈夫かなぁ。」
 シィルが心配そうな声を出すが、ランスはそんな心配を笑い飛ばした。
「がはははははは。問題無い。大家のジジイはとっくに殺してあるからな。」
「えっ…」
 人間なら顔色が変わるのだろうが、シィルは剣だから外見上の変化はなかった。しかも鞘に収めたままでは見ただけで判断するのは不可能だ。
「俺様に家賃を払えなんて不届きな事を言いやがるから、天国で待ってるばあさんのところまで特別に送り届けてやったわ。はっはっはっ。」
「急に家賃の督促がなくなったと思ってたら……そういう事だったんですか?」
 でも、声を聞くだけで充分トホホな心境なのが伺い知れるぐらい声に力がなかった。
「おう。俺様が心配いらんと言った通りだったろ。がははははは。」
 ランスを疑う者もいたが、特に係累のない爺さんがランスに殺気をぶつけられたせいで心臓麻痺で死んだ事を深く追求する者はいなかったのだ。凶器も毒も特定できない以上、罪に問う事は不可能。アイスの自警団はそう判断し、ランスへの追及を諦めた為に事件をシィルが知らなかった訳だが……知らないままの方が幸せだったかもしれなかった。
 ともかく、ランス一行は魔王領へと意気揚々と引き上げていくのだった。


「うまいっ! おおっ、こいつもいけるっ!」
 サバサバにある料理店サクラ&パスタの席の一つでしきりに歓声を上げているのは、言わずと知れた食欲魔人ガルティアである。
「そんなに褒めてもらうと気持ちがいいわね。それに、そんなに美味しそうに食べてもらえるなら、こっちも作りがいがあるってもんよ。」
 にこにこしながら厨房から出て来て新たな料理の大皿を運んでくるのは、ここのシェフのマルチナ・カレー、身分の上下は気にしない職人肌の料理人である。
 最初、一口食べた途端にありったけの金塊を出してこの金でありったけ食わせてくれと注文して来たガルティアに嫌悪感を感じた彼女だが、余裕のある食べっぷりで出した料理全てを美味しいと言って胃の中に片付けて行く彼を見ているうちにその第一印象は消え失せていた。他の客の分を料理する間も行儀良く待っているのを見ていると、最初にいけ好かない奴だと思ってしまったのが済まなくなる。
「はい、これで最後だよ。」
「ええーっ! そんなのないよー!」
 落胆した子供のような残念顔にマルチナの顔がほころぶ。
「ごめんね。もっと作ってあげたいけど、うちの食料庫がもう空になっちゃって。」
「そんなー。」
「明日もっとたくさん美味しい物食べさせてあげるから勘弁してね、魔人さん。」
「うん、わかったマルチナ。……ええええーっ!」
 ズバリと事実を言い当てられて思わずバラしてしまう当たりガルティアも人がいい。
「そんなに食べる人間なんて、まずいないもの。そしたら魔人って考えても可笑しくないじゃない。」
「そっかー。しゃあないか。」
 皿にまだ残っている料理を泣く泣く諦めて荷物をまとめ出したガルティアにマルチナが声をかける。
「あれ、残ってるじゃない。もしかして美味しくなかった?」
「いや、美味しかったけど。俺っちが店にいると迷惑にならんかい?」
 明らかに無理をしてるっぽいガルティアを見て、マルチナは吹き出した。
「なに言ってるんだい。あたしの客に人間も魔人もないよ。味を分ってくれて他のお客さんに迷惑をかけるような奴じゃなきゃみんなお客さんだよ。」
 店の客もマルチナの味方をするかのように野次を飛ばす。
「そ、そうか……有難うマルチナ。有難う。」
 席に掛け直し、改めて料理をじっくり味わう。
「んんー! 美味いっ!! 最高っ!!」
「ありがとっ。」
「ところで……明日来ても俺っち金無いんだけど。全財産渡しちまったし。」
「くふふっ。ちょっと待ってね。おつり渡したげるから。」
「えっ…」
「あんなにあったら今日みたいな食事一ヶ月間してもまだおつりがくるわよ。気付いてなかった?」
「そっかあ。あんまり美味しいからてっきりそんだけの価値があるのかと思ってたよ。」
「もう、嬉しい事言ってくれるわね……あら?」
 その時、店の入り口を開けて何者かが入って来た。オーダーストップの表示が出ているにも関らず……である。
「すみませーん。もう看板なんですけど。」
「魔の、気配だ。」
「はあ?」
 その男の返答に首を捻るマルチナ。だが、男はちゃんと説明するほど親切でなかった。
「どけ。」
 決して大きくない声と同時にマルチナは店の奥へと突き飛ばされた。テーブルとイスが数セットと客の何組かが巻き添えになる。
「おいっ! マルチナに何しやがんだっ!!」
 ガルティアが男に詰め寄るが、抜き打ちで振り回された黒剣を回避するため飛び退らざるを得なかった。
「ああ、剣は抜いていいよ。でないと僕がどれだけ強くなったか判らないからね。」
 深淵を思わせる狂気の笑みに店内は凍りつくように静まりかえった。しかし、その中でひとりの人物が立ち上がった。薄汚れてしまったコックコートが痛々しい。
「ここは私の店だよ。店内で刃傷沙汰や揉め事を起こすような輩は私が相手になるよ。」
 見るからに全身ボロボロで、けれども暴漢に毅然と立ち向かう姿は感動的と言えた。
 だが、暴漢には通用しなかった。
「邪魔だ。」
 その一言はマルチナが両断された後に呟かれた。噴き出す血潮を浴びて凄惨な姿になった暴漢は、店内にいる全員を見回しニヤッと笑った。
「残念だねえ。こんな所に魔人なんかが居たばっかりにねぇ。」
 その台詞を言い終わる前に、ガルティアの大偃月刀が暴漢に振るわれるが、あっさりと避けられる。
「貴っ様ー! よくも! よくもマルチナをっ!!」
 数合を打ち合って気付いたが、この店内は大型武器を使うガルティアに不利だ。しかもガルティアの方は周りの客を巻き込むまいとしているのに、暴漢は平気で巻き込んで…いや、意図的に巻き込んでいる。さらに、敵の黒剣は何故か絶対防御で守られているはずの魔人である自分に手傷を負わせている。
「貴様が健太郎かっ! みんな逃げろっ! 窓でも何でもいいから早くっ!」
 大好きになったマルチナが守ろうとした店、守ろうとした客たちだから守りたい。ガルティアはその気持ちだけで勝ち目のない戦いを挑んだのである。自分だけが逃げるという選択肢を捨てて。しかし……
「逃がさないっ! ランスアタック!!」
 闘気の爆発が店内で炸裂する。その爆発を剣で受け止めようとしたガルティアがフラフラになるが、剣を正眼に構え直して気合を入れ直す。後ろでは爆発の余波を食らった客達が床に転倒させられている。
「俺っちが押えてるうちに逃げろっ!」
「無駄だっ! ランスアタック!!」
 再度の闘気の爆発が炸裂する。威力の大半はガルティアが躰で抑え込んだが、客達を吹き飛ばすには充分な威力がガルティアのガードをすり抜けてしまう。特に立っていた者は壁に叩きつけられて破裂し、赤い体液を撒き散らして奇妙なオブジェと化す。
「き、さ、ま…」
「ふん。それもこれもランスが…あいつが悪いんだ。恨むならあいつを恨むんだな。はーっはっはっはっはっ。」
 血を見て興奮している暴漢は狂気に駆られているとしか言いようがないが、周りの様子が見えていないかの如くに高笑いを続ける男はどこかイッちまってるに違いない。
 しかし、その状態でも反射的に達人の業を出せるのだからタチは数段悪い。視線を虚空にさまよわせている暴漢に向かってガルティアは己の必殺の一撃を繰り出すが、それが届く前に両腕を刀ごと切り落とされてしまう。コルセットで3匹の使徒を封印してしまっている以上、ガルティアに抵抗する手段は残されていなかった。
 返す刀で腰断され、下半身まで失ってしまったからには尚更に。
「さあ、命乞いするんだ。思いっきり哀れっぽく命乞いしたら助けてあげるかもしれないよ。」
 そいつは、線の細い美青年顔には似合わない獰猛な笑みを浮かべてガルティアを見下ろす。ガルティアも怒りに満ちた瞳で相手の眼を見返す。
 暴漢の剣が次に切ったのはガルティアの両目だった。
「ぐおっ!」
「さぁて、次は目撃者を消さないとねぇ。」
 ここまで派手に騒いでおいて目撃者もくそもないというモノだが、暴漢は気にしない。プチプチと踏み潰し、刺し殺し、切り殺す。
「なんだ。みんなレベル低いんだ。せっかく手に入れた宝石のおかげで才能限界が上がったのに経験値が全然入んないや。」
「き、さ、ま」
「おっと、そうそう。危うく今回のメインディッシュを忘れるところだったよ。」
「きっさまー! 健太郎めー!」
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「いいよ。悪の最後はそうでなくっちゃ。くふふっ、はっーはっはっはっ。」 
 ガルティアの胸を刺し貫くと、その躰は粉のようにさらさらと崩れ、後には彼自身である赤い宝石だけが残る。
「さって、こいつを…」
 健太郎がカオスで赤い宝石を切り裂こうとしても、突き刺そうとしても傷一つつけることが出来ない。
「何でカオスでも……。仕方ない、持っていこう。」
 健太郎がそれ……魔血魂をポケットに入れようとすると頭の中で警告する声が響いた。
「いけません、健太郎様。」
「なんだいニア。天使のくせに魔王の肩を持とうって言うの?」
 それは健太郎と契約したエンジェルナイトのニアの声だった。彼女を召喚するアイテムはまだ見つけてないものの、非常時に助言をする為に体内で待機しているのだ。
「それ……魔血魂は魔王の一部。それを持っていると奴から見つけられてしまう危険性が増します。」
「好都合じゃないか。」
「現状では勝てない事を忘れないで下さい。」
「うるさいな。」
「美樹様がどうなっても良いと? 貴方が失敗したら誰が彼女を助けるのです?」
「ぐっ……わかったよ。捨てりゃいいんだろ。捨てりゃ。」
 健太郎は魔血魂を放り出し、血刀を振りかざすと、集まってきた野次馬と護民兵を切り破るべく店外へと走り出した。
 この日、サバサバを恐怖のどん底に陥れた連続殺人魔は多数の犠牲者を出したあげくに見事に逃げおおせたという。ゼス国の執拗な追跡すら振り切って。


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 いや、やっぱり筆速が早いです。こいつ(健太郎)がからむと。マルチナさんのファンの方、ガルティアのファンの方、そして、健太郎のファンの方ごめんなさい。な話になっちゃいました、今回は。
 実はガルティアって本作の中で2度ほど筆者の魔の手を逃れてるしぶといキャラだったんですが、3度目は相手が悪過ぎましたね。しっかし、死に様すっかり善人モード。
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