鬼畜魔王ランス伝
第103話 「自ら選ぶ道と王」 ハンナの街中にある、レッド軍に同行していたALICE教の工作員との待ち合わせ場所となっている家で、 「どうやら、彼には接触せずに撤退した方が良さそうだな。」 自由都市の反乱から手を引くようにとの指示が隠された宗教番組を見たサルベナオットは溜息をついた。 今の今まで工作員が“獲物”を連れて到着していないと言う事は、目標の確保に失敗した事を暗示していたし、“獲物”無しで今回勧誘しようとしている人物を説得するのは、今まで集めた様々な情報を鑑みるに難しいと判断していたからだ。 待っていた“獲物”の名は運河さより。 彼が説得を試みようとしていた人物の名は篠田源五郎。 このまま説得工作を決行しようものなら、例えゼス王からの依頼で行くとしても法王の指示に反する恐れすらも有り得る……とあっては、このまま予定通り勧誘に行く事は許される話ではない。残念だが、今回は諦めるよりないだろう。 「まあ、彼がリーザスに捕まったらこちらの手で逃がせば良いし、このぐらいの戦場で死ぬ程度の男なら私がわざわざ勧誘する価値も無い。」 と、傲然と取り巻きの前でうそぶく仮面の聖職者は、口の両端をニイッと吊り上げてハンナから退去する準備を整えさせ始めるのだった。 闘神都市。 その地の一角に、戦略・戦術・剣術など軍事技術全般を幅広く教える私塾があった。 地価の安さも手伝って広い敷地を持つその私塾には、かつてリーザス国で将軍にまでなりおおせた塾長の名声もあってか幅広く人が集まっていた。 ……生徒の半分くらいは自前で軍学校を開く余裕の無い小国の将軍や上級士官、そしてその候補生だったりするが。 ついでに言うと、この塾の講師の大半はエクスと一緒にリーザス軍を辞めた白軍の騎士の中でも比較的人にモノを教えるのが得意な連中だったりする。 その私塾の教室の一つで、 「エクス先生! 我々も市民達と一緒に戦いましょう!」 重厚で厳めしい鎧に身を包み、肉厚の刀身の長剣を腰に提げた少女が、師と仰ぐ男の前に今にも腰の物を抜き放ちそうな勢いで詰め寄っていた。 「サーナキアさん。それに皆も落ちついて下さい。」 かつてリーザスがこの闘神都市に侵攻して来た際、最も強硬に主戦論を唱えて防衛軍を率いて戦ったのがサーナキアである。彼女の勢いにつられて、彼女のシンパの数人もエクスに詰め寄ってきてはいるが、流石にその勢いはサーナキアには及ばない。 「私には、今回の戦争に荷担する気はありません。」 それでもエクスの落ち着きぶりは小揺るぎもしない。 「何故ですか、エクス先生! 事と次第によっては幾ら先生でも…」 あまりの自若ぶりに苛立ったのか、『普段は偉そうな事を言っていても所詮は元リーザス軍人だけに祖国に刃を向けるのが怖くて立たないのだろう。』などと顔に大書きしているかのようなサーナキアの眼光に応じて、エクスの眼光も鋭くなる。 「ジオ、ハンナ、ロックアース、レッド、ラジール。今回は、これら5つの都市がリーザスに……いえ、魔王に反乱を企みました。」 益々強まる迫力に、サーナキア以外の面々は実際に数歩後ずさらされてしまう。 サーナキアとてエクスの眼光を真正面から受け止めるので精一杯である。 「では、問題です。魔王の下僕であり最強の魔族である魔人と戦って、彼ら自由都市軍に勝ち目があると思いますか?」 実際に魔人の襲来に立ち向かった経験から言うと、答えは「NO」だとエクスは骨の髄まで思い知らされていた。 また、ここにいる生徒で魔人の脅威について知らぬ者、教えられてない者は一人もおらず、場に気まずい静けさが立ち込める。 答えに窮した生徒達に、更なる問いが被せられる。 「では、私達が参戦したとして魔人を倒せる可能性はありますか?」 あくまで静かな問いかけ。 それはエクスの冷静さを表わしている。 また、 生徒達が問いに沈黙で答えざるを得ない事が、エクスの分析の正確さを証明していた。 ここで参戦したとて、自己満足の無駄死にになるであろうと言う事を……。 「勝算も戦後の展望も無しに戦争を仕掛けるのは無責任でしかありません。」 師の台詞は、サーナキアの肺腑を鋭くえぐった。 かつて、何度も何度も勝算の無い戦いをランスに挑み、自分や部下達に喜ばしくない運命を招き寄せてしまった情景が昨日の事のように脳裏に浮かぶ。 「彼らは、リーザスに…リーザスの背後に居る魔人に…勝てる算段が立たないにも関らず市民を巻き込んで挙兵しました。それは、自らの手で市民を殺すのと大差無い行為に過ぎません。」 過去の自分に対する苦い思いが山盛り一杯こもった言葉の毒に、サーナキアの反論は封じられてしまう。 「それに、もし魔人が戦闘に出て来なかったとしても彼らに勝ち目はありません。彼らは天の時、地の利、人の和という勝つ為の要素全てを欠いているのですから……」 思わず滲み出ていた自虐の色を消し、再び冷静な響きに戻ったエクスの声は、聴衆に染み渡った。 次いで、一つ一つの要素の意味と現状分析を教え始めるエクスの胸の内には、 『どうやら今度は止める事ができたようですね。』 という安堵感が広がっていたのだった。 ランスがリーザス王に即位した時、恩師ペガサスや同僚の将軍達が反乱を起こすのを思い止まらせる事ができなかった忘れてはならない鈍い悔恨の記憶と共に……。 満足に立つ事さえ難しい怪我を負っていたにも関らずじたじたもがいた痛みと極度の緊張から解き放たれた事ですやすやと眠るカオルを、ランスは魔王専用となっている浴場に連れ込んだ。 この魔王専用浴場には、通常“タオル”と称している選りすぐりの美少女や女の子モンスターがランスに使われる事を楽しみに待機しているのだが、今回はカオルと二人で入浴したかったので、彼女らには同席を遠慮してもらっている。 だが、ただで遠慮させた訳ではない。 異次元空間で維持するのに少々骨が折れる程に稼ぎ過ぎてしまった経験値を整理する意味もあって、彼女ら10人を残らず使徒にしてしまったのだ。 使徒化に身体が慣れるまでは迂闊に動かない方が良いのは事実であるし、永遠の若さを意味する使徒化を拒もうと考える娘もいなかった。こうして、ランスはまんまと不満に思う娘を出さずにカオルと二人での入浴を実現したのである。 しかし、10人もの使徒を新たに生み出してなお、ランスが楽々と維持できる量を遥かに超える経験値が手元に残っていたのであった。 「ちっ、何で俺様が他の男が出したばっちいモノを洗わなきゃならないんだ……。」 などとぶつくさ言いながらカオルの身体を手桶に汲んだお湯で湿し始めると、流石にカオルも起き出してきた。 「……ここ……は?」 「ん、起きたんなら丁度良い。自分で身体を洗っておけ。」 たっぷり石鹸の泡がついたスポンジを差し出しながら、のほほんと言うランス。 「え?」 起き抜けで頭の回転が鈍くなっていたカオルは、周囲の状況を上手く把握できていなかった。 「あ、はい。……ありがとうございます。」 それでも何とか礼を言ってスポンジを受け取ると、ベタベタとまとわりつく嫌な感触のモノを一所懸命こすり落とし始めた。 ボディシャンプーをつけて何度も何度も洗い流しているうちに、付着していた生乾きの粘液は一掃でき、石鹸の香りが腐ったイカのような匂いを何とか駆逐した。 目立つ臭気の元を落とし終えたカオルは、ようやく落ち着いて全身の汗や汚れを丁寧に洗い流し始めた。 そうしている最中、 「ランス王。ランス王はどうして魔王などになってしまわれたのですか?」 ポツリと漏れた疑問。 自分でも意識せずに疑問を口の端にのぼせてしまったカオルは、 「知りたいか?」 ランスが返事をしてきた事で、自分が独り言をしていた事を悟って赤面した。 国王の護衛役として育てられた前歴からも、忍者としての訓練を積んだ身としても、恥ずかしい限りの失態であったからだ。 それだけ、カオルがランスという何時の間にか頼もしく感じるようになった存在に庇護して貰う事に戸惑って、いつもの調子を崩していると言う事であるのだが…… 内心自分に喝を入れたカオルは、居住まいを正して頭を下げた。 「はい。お願い致します、ランス王。」 真剣な目を覗き込んだランスは、少々真面目な顔で自分の心情を語り出した。まあ、正確には、その一部であるのだが…… 「先代の魔王は異世界から誘拐されて来てムリヤリ魔王にされてしまった女の子だったんだが、彼女を人間に戻す為には他の誰かが魔王を引き継ぐ必要があってな。……それで俺様が魔王になったって訳だ。」 その回答に、カオルは何となく納得した。 自らがランスのモノにされてから今まで行動をつぶさに観察していた結果、女の子を助ける為であれば火中の栗でも躊躇わずに拾うであろう性格であると理解できていたのだ。 ついでに、そういう選択を迫られた時に普通の人間がするであろう答え…その女の子を見捨てる…という道を選ばなかったランスの姿に、カオルは素直に感じ入っていた。 それでも未だ腑に落ちて来ない点についても聞いてみる。 「どうして、リーザス王の座を捨て、人間界に侵攻なされたのですか?」 その疑問に対する返事は、ある意味回答になってはいなかった。 「そうしなかったらどうなったと思う?」 という反問であったのだから。 しかし、それは、元々頭は良いにも関らず大局的な判断の全てを自分が仕える王に依拠するよう躾られてきたカオルの頭脳を刺激するのに充分なインパクトを持っていた。 今まではランスの行動の動機についてのみ考えてきたカオルは、そう言われて初めて大局的な視点で状況を考察し始めたのだった。 そして、ランスが今までの選択以外の事を行なった場合、客観的に見て被害が増える可能性が高い事に気付いてしまった。 ランス以外の者が魔王になった場合、これほど人間に対して温情を見せる魔王が他に誕生するとは考え難く、当然ながら事態は今より悪化するだろう。 ランスが魔王になった後にもリーザス国王として玉座に君臨し続けた場合、現在までに人間界各地で起こっている事を考え併せると、ゼスとの戦争と頻発する内乱で国が疲弊して魔王の圧倒的な力で恐怖政治を行なわねばリーザス国が滅びる状況まで追い詰められる事さえ予想できる。 さりとて、魔王になった後に魔人界に引っ込んで人間界に不干渉な態度を取った場合、ヘルマンやJAPAN、自由都市諸国を併呑して巨大帝国に育って行く途中だったリーザスは、そのシンボルであり推進力であった国王ランスのカリスマを失って空中分解し、人間界に混沌とした血みどろの戦乱の世紀が到来する恐れすらあった。 客観的に大局を考える事で自分の浅薄さを悟ったカオルは、恥じ入って赤く火照り始めてしまった顔を伏せた。 カオルは『他人から悪く思われたとしても、自らが正しいと信じた道を行く』というガンジーの考え方を一歩も二歩も押し進めて実践しているランスの姿勢に、心までもが傾倒して行くのを止められなかった。 「お、おい。どうしたカオル。」 実は、ランスはカオルがこういう考えに至ると察してああいう反問をした訳ではない。 カオルぐらい頭が良さそうな娘であれば、ああ言えば勝手に色々理由を考えるであろうから、それがぶつけられた段階で上手く言い包めようとしていたのだ。 だから、ランスにとって予想外の反応をしたカオルに、心配そうに詰め寄ったのだ。 その行動は、カオルの心を更に混乱させた。 臣下どころか数多いる妾の一人に過ぎない自分如きを、王たる者がわざわざ心配して下さっているのだ。 「も、申し訳ありませんランス王。私が愚かでした……。」 感激と申し訳無さでハラハラと落涙するカオルが、ランスの力強い腕に抱き寄せられた時、ハッキリと自分がこの偉大な王の庇護下にある事を自覚した。 それは、とても気持ちが良かった。 「がはははは。ま、みんながみんな俺様ほど頭が良い訳無いのは仕方ないから、あんまり気にしないでいいぞ。」 カオルの心情を察した訳では無いものの、気遣いの言葉をかけられるのは嬉しかった。 「それより、俺様はお前が欲しい。」 尻に触れる充血したハイパー兵器の感触が刹那的な快楽の欲求を訴えているだけではなく、自らの全てを捧げよと言われていると解釈したカオルは、 「はい。どのようにも御使い下さいませ、ランス王。」 と、答えた。 表面的には身体を求めているだけなのだろうが、忍者としての観察力と女としての勘で気付いていた。 ランスは自分が抱く女の心をも無意識に求めている事を。 国王の身を守る道具としてでなく…… 従順で便利な道具としてでなく…… 子を産ませる為の道具としてでなく…… SEXの相手としてだけでなく…… ただ自分という存在を求めてくれる事。 それは、カオルに戸惑いと…喜びをもたらしていた。 湯船の中で繋がりハイパー兵器が下腹部で律動する毎に、体内の不快な感触の記憶が洗われていくような心地にカオルは酔いしれていた。 酔いにも似た心地が全身に染み渡るにつれて、カオルの中である衝動がゆっくりとカタチになっていく。 『この“王”の為に役立ちたい。ランス王のモノになりたい。』 と。 それは、長年の躾によって第二の天性となった献身への欲求である。 ……ある意味、他人に大局的な判断を依拠したいという欲求でもあるのだが、今度は自分を任せられると信じられる人間を自分で選んだのだ。 そう考えた途端に身体が更に火照り出し、女としてはまだまだ未熟な技量を駆使して相手を気持ち良くさせる行為に没頭しだす。 「おっ、今日はやけに積極的だな。」 ランスの方でもカオルの心境の変化に気付いたのか耳元で囁くが、それは体内の火を更に激しく燃え立たせる。 結果、カオルはランスが満足するまでに数え切れないほど達し、精神が快楽に呑まれて擦り切れる直前で睡魔の手に引き取られた。 下の口に白濁の聖液を、 上の口に魔剣シィルの刀身についたランスの血を賜って眠るカオルの寝顔は、 新たに得た自分の居場所に満足したのか、安らかな微笑みを浮かべていたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ むう。随分手間がかかった割りには内容が薄いような(汗)。 なお、この話を書くに当たり、闇乃棄 黒夜さん、JD−NOVAさん、辛秋さんに多大な御協力を頂きました。この場を借りて深く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。 この話が、前回、容量の関係で書き損なったネタだと言うのは内緒(笑)。 |
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