鬼畜魔王ランス伝


   第135話 「魔法王女の孤独な戦い」

 ゼスの西側国境…魔物の世界との境界…を守っていたのが魔路埜要塞ならば、東側…旧リーザス王国との境界…を守っているのがここ“アダムの砦”である。
「こんな所にいたのか、魔想殿。」
 今も未だ魔王の足下に屈していないゼス王国を守る最前線の一つであるここに、リーザスやヘルマンから亡命してきた兵士で編成された傭兵部隊が配備されていた。
「あら、何か急用でも起こったの、ハウレーンさん?」
 荒くれた傭兵の指揮官と言うより見た目も重要視される騎士らしい立ち振る舞いが相変わらず抜けてないハウレーンが珍しく少々息が乱しているのが気になって問う。
「起きたと言うか……先程、魔想殿に王宮まで来ていただきたいとの伝令が来た。」
 返って来たのは、具体的には分からないが何やら気になる要請内容。
 命令と言う訳では無いところが一層好奇心を刺激する。
 脳内で幾つか有りそうな状況を考慮し、志津香が出した結論は……
「そう。分かったわ。」
 ゼス王宮からの招聘に応える事であった。
 良く考えなくても、ここで断れば雇用主の心証を悪くするだろうし、もしも罠だったとしても逃げ切れる自信は十分にある。
 墜落した闘神都市で手に入れた秘術で強化した魔力は、ゼス最強の魔法使いである国王や四天王にも引けをとらない自負を持っているのだ。
 そうと決めれば、やっておかなくてはならない事がある。
「あんたらはこの砦で待機。私が次に命令するまでは、ここにいるハウレーンさんの命令に従って。」
 傍らに控えている2体の聖骸闘将…志津香の配下に収まった闘将部隊と魔法機部隊を統括指揮している個体に、部隊ごと傭兵部隊全体の指揮も執っているハウレーンの指揮下に入るよう命令しておく事である。
「ラ。」
 闘将も魔法機も聖魔教団時代の遺物だけあって基本的には魔法使いの命令しか聞かない兵器なのだが、こんな風に予め命令しておけば一時的に魔法が使えない人間の指揮下に置く事も可能なのだ。
「それじゃ、行ってくるわね。」
 志津香が何故に部隊を置いて登城するのか。
「ああ。後は任せておけ。」
 それは部隊を率いていけば在らぬ誤解を生みかねないという事情もあるが、アダムの砦に駐留してる戦力の中でも最強と目される彼女の配下を迂闊に動かすと砦の防衛力が洒落にならないぐらい落ちてしまうという事情の方が大きかったのだった。



 大陸の南にある故国を後にして魔王主催の美女集めオーディションにバレバレな偽名で潜り込んだ王女様は、慣れない一兵卒としての行軍訓練を終えて自分に宛がわれた個室のベッドに力無くダイブした。
「ったく、30sの装備持って20qの行進だなんて……何考えてるのよ魔王軍は。重い荷物なんて奴隷兵か魔法機に持たせれば良いじゃないのよ。」
 家事には余り自信が無いが戦闘能力には自信があるので魔王親衛隊の方に応募したものの、初日から体力勝負の試験を受けさせられるとは予想だにしてなかったのだ。
 見込みが甘いと言われれば、それまでだが。
「明日は適性検査とか言ってたけど、こんな野蛮な連中じゃどんな無茶な事をやらされるか分かったもんじゃないわね。……少し早まったかしら。」
 少々の無茶は先刻承知ではあるが、ロクに動けないぐらい疲れさせられては計画に差し障りが出てしまう。
「……御側役の方にしときゃ良かったかな。あっちなら、こっちよりは体力使わなくて済みそうだし。」
 家事労働、それも給金が貰えるほどキッチリした“仕事”の訓練でヘトヘトになった御側役希望者達の反感を山盛りいっぱい買いそうな台詞をのたもうた偽名の王女様の耳に無遠慮な声が届く。
「がははは、俺様だ。開けるぞ。」
 ドア越しに聞こえて来た声のきっかり3秒後、しっかりと鍵をかけていた筈のドアがカチャリと音を立てて少々乱暴気味に開かれる。
「え、ちょ……」
 戸口に立っていたのは、にっくき魔王ランスその人。
「ここは……お、マジック・ザザーンちゃんか。何か当たりっぽいな。」
 恐らくはマスターキーでも使われてしまったのだろう。
「マジック・ザーンよっ!」
 そんな推測を立てつつも、口は脊髄反射的に文句を返していた。
 幾ら偽名でも『ザザーン』なんて呼ばれ方をするのは、彼女にしては真っ平なのだ。
「がははは、気にするな。それよりヤルぞ。」
 とはいえ言われる当人でもないランスがそんな細かい事を気にするはずもなく、さっさと話題を自分の関心事へと移す。
「やるって何をよ?」
 それは無論……
「勿論、こういう事だ!」
 会話をしている間にゆっくりと間合いを詰めていたランスが、最後の数メートルを一気に突進してベットに寝転がったままのマジックの上に覆い被さる。
「だ、駄目。待って!(こ、これじゃ準備が!)」
 このオーディションに自分から参加しただけあって確かにそういう事になるのも想定はしていたのだが、こんな風に予告も無く突然迫られると想像もしてなかったマジックの額から冷や汗がどっと噴き出してきた。
「俺様とブレーキの壊れたうし車は止まらないんだ!」
 そう力説する間にも伸びる手が彼女の尻を鷲掴みにし、逞しい胸板が彼女の胸の膨らみを押し潰して嫌悪感をいや増しに増させる。
「わ、私汗臭い……」
 緊張と恐怖で硬くなりロクな身動きもできない中で咽喉の奥から何とか絞り出す何ともささやかな抵抗も、ランスの勢いを殺ぐには至らない。
「ん? そうでもないが。」
 かえって、くんかくんかと鼻など鳴らされてマジックの羞恥心が煽られるだけだ。
「お願い、シャワー浴びさせて。その後なら喜んで抱かれてあげるからっ!」
 このまま押し切られてしまっては当初の計画を実行するどころではなく単に自分の貞操が奪われてしまうだけだと悟って血相を変えたマジックの剣幕に押されたのか、ランスが上半身を起こして少々身を離す。
「……ふむ。ま、良いだろ。その代わり早くしろよ、がはははは。」
 そのままマジックの上から降りてベッドに腰掛けたランスは、鼻の下が伸びた馬鹿笑いで彼女の希望を容認した。
 その方が何かとやり易くなると経験上わきまえていたが故に。

 何とか洗面道具の入ったポーチを引っ掴んでシャワー室に逃げ込んだマジックは、蛇口を捻ってシャワーの音を立てつつポーチの中から一本の薬瓶を取り出した。
 彼女が預かっている塔の宝物庫の中から持ち出してきた魔力を高める秘薬。
『できれば使いたくなかったけど、これ無しで殺れるほど甘い相手じゃないし。』
 魔人レッドアイでさえ彼女とアレックスが協力しても封印し切れなかったのだ。こんな物でも使わなけりゃ魔王に全く歯が立たないだろう事は、マジックには最初から嫌と言うほど分かっていた。
 魔力を高める代わりに何かの副作用が出る薬なのだと聞いてはいたが、どうせ作戦が首尾良く終われば自分が無事に帰れる訳も無く、副作用を心配する必要も無いだろう。
『どうせ私なんかいなくたって!』
 グイと秘薬を一気飲みしたマジックの目は、失恋して自棄になった挙句のヒステリーを秘めて赤々と血走っていたのだった。



 などという事が起こっている頃、ラング・バウ城の別の一室では……
「よう、メナド将軍。元気にしてたか?」
 肌も露わなキンキラな鎧を着た女戦士がリーザス軍仕様の女性士官用鎧に似た赤い鎧に身を包んだ小柄な女戦士に親しげに話しかけていた。
「はい。お久しぶりです、ミリ将軍。ところで、どうしてこちらに?」
 小柄な女戦士は魔人メナド・シセイ、もう一人の女戦士はミリ・ヨークス。
「あ〜、仕事だ、仕事。リーザスからも結構が立候補したヤツがいたんで、軍が護衛する事に決まったんだよ(ま、オレが来たのは品定めのついでってヤツなんだが。)。」
 何の品定めかは言うまでも無い。
 ランスが主催した人員募集オーディションに集まった人間がどんなレベルで、落選する連中にわざわざ手を出す価値が有りそうか否かである。
 そして、ランスに門前払いされた参加者の中から掘り出し物を持ち帰る為でもある。
「そうだったんですか。お仕事、ご苦労様です。」
 そんな思惑など露知らぬ魔人は丁寧に労をねぎらう言葉を紡ぐが、今回の仕事の方ではミリが苦労らしい苦労をしていないのを知らないが故であろう。
「ところで、この後は最終日まで失格者の発表は無いって聞いたんだけど、そりゃ本当かい?」
「はい。でも、どうしてそんな事聞くんですか?」
「そりゃ、帰り道も護衛しなくちゃならんからさ。こちとらオーディションが終わるまでゆっくりと待っていられる身分じゃなくてね。」
 途中で失格にしないのは、どうせ『呼び集めた女の子達とギリギリまで遊びたい』とかいう理由じゃないかと推察し、ミリは彼女らの帰り道の護衛任務にも是非とも志願しようと改めて心に決めた。
 流石に女性に関してはランスの目は冴えていて、ミリが目星をつけていた綺麗所のほとんどを試験参加者ないし枠外採用予定者として確保してしまっていたからだ。
 ……パッと見では然して見栄えのしない宝石の原石みたいな娘を含めて。
「なるほど。それじゃ、お気をつけて。」
 そんな内心など想像もせず右手でピッと敬礼するメナド。
「ああ。じゃあ、またな。」
 その魔人に右手をヒラヒラ振って応えながら、ミリは今回の戦利品…ランスが失格にした連中から選り抜いてナンパした掘り出し物…である“女装の美少年”としっぽりウハウハ楽しむ為に自分に割り当てられた部屋へと帰って行ったのだった。



 そして、視点は再びマジックの部屋に戻る。
「お待たせ……(別に待ってなくても……いえ、あの薬を飲んじゃったからには、さっさとケリをつけた方が良いだろうから、待っててくれた方が好都合だわ。)。」
 などと言いつつガチャリとドアを開けて風呂場から出て来たマジックの目に入ってきたのは、服と鎧を全部脱ぎ捨ててベッドに腰掛けている魔王の姿だった。
「がははは、遅かったじゃないか。俺様の為に肌を磨くのも良いが、あんまり長いとふやけるぞ。」
 しかも、鞘に提げていた剣は鞘に納められたまま壁に立てかけられており、見た目だけなら無防備極まりない姿を晒していた。
「だ、誰があ……」
 思わず『誰があんたの為に』などと言い返しそうになって慌てて口を噤むマジック。
 彼女の立てた作戦では自分がランスにHな事をされるのが必須の条件なので、それを妨げる発言を自分でやらかす訳にはいかないのである。
「がはははは、まあ良い。ところで、その格好で突っ立ってると風邪引くぞ。特別に俺様が暖めてやるから、ここに座れ。」
 言葉面だけなら備え付けられていたバスローブ1枚のマジックを気遣った発言に聞こえない事も無いが、彼が指差してるのが自分の膝の上では説得力に些か欠けていた。
「くっ……す、座ってやろうじゃないの!(お、覚えてなさい! 吠え面かかせてあげるわっ!)」
 だが、本能が危険を幾ら訴えてもマジックに今更後戻りする道は無い。
『私の国を侵略した魔王! 私の幸せを奪った魔王! アンタさえ、アンタさえいなきゃ万事上手くいったのに!』
 そんなモノは既に投げ捨てている。
『冥土の土産に私の純潔をくれてやるから迷わず死になさいっ!』
 悲愴で物騒な決意を内心叫びつつマジックが腰を下ろしたのは、ランスが指定した太股の上ではなく、ヘソの辺りまで反り返った立派なハイパー兵器の上にだった。
「がっ! く…ううっ……」
 しかし、未だ濡れてもいない状態でいきなり挿入を図るのは流石に無理があり過ぎた。
 先端が僅かにめり込んだ激痛と緊張しまくった筋肉、そして魔王の無敵属性の3者の拮抗がハイパー兵器の上に腰掛けた王女様なんて不安定極まりない構図を形成する。
「おいおい、せっかちなヤツだな。そんなに俺様に抱かれたかったのか、がはははは。」
 背中越しにそんな言葉を投げかけられても、マジックに否定できる言葉は出せない。
 そもそも酷い痛みのせいで言葉もロクに出てこない。
「がはははは、なら俺様に任せとけ。たっぷり気持ち良くしてやる。」
 次の瞬間、マジックの首筋に噛み付くランス。
 血を吸われてマジックの気が遠くなった刹那、ハイパー兵器を水際で押し留めていた筋肉の力が緩み、彼女自身の体重によって己が身体を引き裂かれる。
「き、きついのは良いが、ロクに濡れてないから動き難いぞ。ったく。」
 声にならない悲鳴で口をパクパクとさせ意識を繋ぎ止めるのに必死なマジックの身体から流れ出た潤滑油は破瓜の血ぐらいしか無く、ランスが好き放題動くには未だ少々摩擦が大き過ぎる。
「でも、ま、たまにはこういうのも良いか。がははは。」
 しかし、考え込んでいたのも束の間。
 直ぐに腰を上下させて下からマジックを翻弄にかかるランス。
 吸血行為による媚薬効果と痛みに対する身体の防衛反応をアテに、とりあえず動いてみようという結論に至ったのだ。
『……処女にしちゃ血の味が変だったけどな。何か妙な薬でもやってんのかな?』
 微かに疑問が湧くが、腰の動きはそんなのに関係無く激しく動く。
 最近は強姦系のHを意図的に減らしていたので、久々の強姦っぽいHは新鮮なのだ。
『そうだな。このまま、俺様にいきなり突っ込まれるのが大好きな淫乱王女にでもしちまおうか。よし、それが良い。』
 一方、恐怖と敵意と嫌悪感と激痛と振動に翻弄されているマジックの身体の中でも、それ以外の何か得体の知れないモノが蠢き始めていた。
『くっ……あ、駄目……呪文が…紡げ…ない……』
 作戦に必要不可欠な呪文の無詠唱構築…頭の中で複雑な魔法儀式の大部分を擬似的に構築して魔法の威力を高める方法…ができず、それどころか簡単な魔法を発動させる為の精神集中すらおぼつかない。
「こ、こ…うな…ったら……」
 間に合わせも間に合わせな処置だが、魔法で痛覚を誤魔化すしか手は無い。
 このままでは魔王が精を放った直後に発生するだろう隙を突くどころか、ロクに呪文も唱えられぬまま貞操だけ献上してしまうようなモノだからだ。
 しかし、その応急処置は更なる厄介事を引き起こす。
 体内を蝕み始めていた得体の知れない感覚が痛みに替わってマジックの中で荒れ狂いだしたからだ。
「な…に、これっ! い…や……駄目っ……」
 良く分からない暑さが脳を朦朧とさせ、目の前を霞ませる。
「ダメ……ぁ……(呪文……自爆呪文唱えな…きゃ……)」
 得体の知れぬ暗い深淵に誘われて堕ちてゆく意識の片隅で、彼女の作戦の最後のピースである熱い粘液が胎内にたっぷり注ぎ込まれるのを知覚したマジックだったが、彼女の口は彼女の意に沿わず意味のある呪言を紡ぎ出す事はなかった。
 精が残らずすっかり注入され、魔王を傷つける触媒として使えなくなってしまうまで。
 意識を失ったマジックを魔王がオモチャ代わりに弄んでいた事に、目を覚ました彼女自身が気付かされてしまうまで。


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 つう事で、マジックがやられてしまいました。鬼畜王に詳しい人なら既に察しがついてるだろう秘薬の正体や彼女の処遇などは次回以降のお話で。
 しかし、私は現在難敵と戦ってる最中です。
 そう『歪みの主根』で(それかよw)。
 それが終わっても『騎士養成学校』などの強敵が目白押しで、しばらくは執筆に専念できそうもありません。
 読者の皆様、すみません(汗)。次も多分早くは更新できません。

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