福音という名の魔薬
第拾壱話「瞬間、体、かさねて」 ネルフ本部・制御室。 ここで、リツコはノートパソコン風のMAGIの携帯端末を駆使して『あるモノ』の解析を行っていた。 それは、アスカと共に来日した弐号機パペットの制御コンピュータに組み込まれていたデータバンクである。 『通り一遍のチェック……いえ、少しぐらい腕に覚えのある程度の技術者なら気付かないだろうけど、巧妙に記憶容量が誤魔化されているわ。この圧縮率なら表面上から見える容量の2倍……いえ、5倍以上のデータが隠されていてもおかしくないわ。』 弐号機パペットの制御コンピュータに使われているのはMAGIの一世代前のハードではあるが、ネルフ本部で使われているパペットの機載コンピュータよりも遥かに高級で高性能なものを使っているだけに、MAGIを駆使したとしても下手な手出しは難しい。 何よりも、ここまでの仕掛けをする人間がセキュリティを考えていないとは思えない。 軽やかにキーボードに指を走らせると、鍵盤から流麗な楽の音が紡ぎ出される代わりに対象の固い拒絶の手応えが導き出される。 『……やっぱり閲覧にはパスワードが必要ね。おまけに、間違ったパスワードを連続で3回入力すると防壁を展開してからデータの中身を全消去する仕組みとは……。なかなかやるわね。』 ここまでされてると文字通りのブラックボックスだ。 とりあえず、この制御コンピュータ以外の部品にはネルフ本部側が知らない技術は使われていなかったので元に戻しておいたのだが……。 この中枢とも言うべき機体制御用電子頭脳だけは、予め用意してた替え玉と積み替える事となった。 ……実は、弐号機パペット自体の替え玉まで密かに用意されていたのはネルフ本部の重要機密である。 『パスワードの文字数は不定。……かなり厄介ね。』 ヒントになりそうな数字は幾つか並んでいるものの、字数すら特定できない状態で提示されては気休めにもならない。少なくとも僅か3回で正答に辿り着くには更なる有力なヒントが必要であろう。 紙コップのコーヒーで口を湿して、 「さて、どうしようかしら……。」 そう口に出して呟いた時、リツコの身体は椅子の後ろから抱き締められた。 「少し痩せたかな。」 「そう(拙い相手に見られたわ。後で隠蔽工作しとく必要があるわね。)。」 その腕の主は、加持リョウジ。 「悲しい恋をしてるからな。」 しかしながら、抱かれた事にも作業を見られた事にも囁かれた事にも全く動じていないのか、リツコの鼓動のリズムは全く崩れない。 「どうして、そんな事が分かるの?(加持君のことだから、どうせあの事は既に調べてるでしょうけど……)」 右手の指でリツコの頤を撫でた加持は、そのまま自分の方を振り向かせて見詰め合う。 「それは……涙の通り道にホクロのある人は、一生泣き続ける運命にあるからだよ。」 気障な台詞を口にする加持を、 「これから口説くつもり。……でも駄目よ。怖〜いお姉さんが見ているわ。」 さらっといなすリツコ。 彼女の言う通り、制御室とガラスで隔てられた場所に居るミサトが窓に張りつくようにリツコ達を見ており、本当にする気があったとしても実に気まずい状況である。 鼻息荒くしてズカズカと乗り込んで来るミサトを見てリツコから離れる加持。 「お久しぶり、加持君。」 それを待って尋常な挨拶をするリツコ。 「や、しばらく。」 「しかし、加持君も意外と迂闊ね(わざとかもしれないけど……)。」 言いつつ作業に戻るリツコとさっきまでリツコの飲んでいたコーヒーを極自然に手に取る加持。 「こいつの馬鹿は相変わらずなのよ! あんた弐号機の引渡しが済んだんなら、さっさと帰りなさいよ。」 そして、怒鳴り込む勢いで悪態を吐くミサト。 が、加持はにこやかに応じる。 「今朝、出向の辞令が届いてね。ここに居続けだよ。また三人でつるめるなぁ、昔みたいに。」 「誰があんたなんかと!」 ミサトが心底嫌そうに言い放つ言葉を掻き消すように、ネルフ本部全館に警報が響き渡るのだった……。 余談ではあるが、後で加持がリツコの携帯端末の作業履歴を辿って調査した結果、リツコが極秘にMAGI内のシークレットドキュメント内に格納していた『子猫の写真100選』などという画像データに行き着いて苦笑を浮かべるという一幕もあった……。 ただ、 この一連の様子を監視カメラ越しに見つめるモノが居た事に、 『あらあら、リッちゃんったら面白そうな物を見つけたわね。ナオちゃんが起きられる状態なら調べてもらうのに……。』 幾分不満そうなその人物の呟きがメルキオールの電子の海に浮かんで消えた事に、 ネルフの誰もが未だ気付いてはいなかった……。 カティーを新たなメンバーとして迎えた発令所に、緊張感が満ちる。 ネルフ本部内に敵襲を告げる警報が響き渡ったのだ。 「警戒中の巡洋艦はるなより入電。我、紀伊半島沖にて巨大な潜行物体を発見。データを送る。」 「受信データを照合。」 転送されてきたデータを日向が素早く解析にかける。 「波長パターン青。使徒と確認。」 使徒が確認されたなら、ネルフが採るべき道はただ一つ。 「総員、第一種戦闘配置!」 ゲンドウ不在の発令所に冬月の命令が行き渡る。 第七の使徒との戦いの幕が、今切って落とされたのだ。 「状況は?」 ほどなくして発令所に駆け込んで来たミサトが日向に状況を尋ねるが、それに答えたのは先日まで直属の部下だった日向ではなく、自分の代わりに作戦部長になったカティーの方だった。 「使徒は紀伊半島沖をこちらに向かっている。ここへの予想到達時刻は今日の15:00だ。他に質問はあるか?」 ちなみに、現在時間は10時ちょっと前である。 「上陸予定地点は?」 「確率78%で田子ノ浦から上陸すると予測されている。……まさか、水際で迎撃する気か?」 危惧するカティーに、 「もっちのロン。今回はせっかく最初っから指揮権あるんだから、使わなきゃ損よ。」 大きく肯くミサト。 しかし、カティーはミサトの勢いでは押し切れない。 「今回も従来通りこの第3新東京市で迎撃した方が良い。指揮権と時間的余裕は民間人の避難と威力偵察に使うべきだ。」 「そんな事言ったって、やっぱり先手必勝よ。それに、一回当たって駄目なら退けば良いのよ。ここで迎撃したんじゃ、いきなり後が無くなるわ。」 カティーの拠点防御案に、ミサトは積極迎撃案の利点を持ち出して論破を試みるが、 「前進迎撃をするなら、可動兵力のほとんどを使う必要があるぞ。と言う事は、一度致命的な負け方をすると後が無くなる危険がある。」 カティーは逆に難点を持ち出して説得にかかる。 「くっ! あんたは私が、いえ私達が負けるっていうの!」 「いや、少しでも勝てる確率の高い作戦で戦うべきだと言ってるのだ。……日向二尉。」 と、正論を言いつつ、カティーは自分が立案した作戦計画を語り始めた。 それを分かり易くする為に日向がメインスクリーンを二分割して、その片方に作戦案の図を表示させる。 「まずは、使徒の予想進路上に機雷を散布。」 使徒の予想進路の矢印を塞ぐように粒々のアイコンがスクリーン上に表示される。 「次に、使徒の予想上陸地点に大型航空爆弾を埋めて即席の地雷を埋設したり、付近に無人のロケット砲台を設置して使徒の攻撃方法とATフィールド強度を調査。」 次なる障害のアイコンが駿河湾を邁進する使徒の矢印の行く手を塞ぐが、これもあっさりと突破され、上陸した矢印は3方向に分離する。上陸後に国道1号線を大回りして強羅方面から来るルートと、途中から国道1号線を外れて芦ノ湖を横断して来るルート、そして、黄瀬川沿いを遡り西から山越えをしてくるルートである。……使徒が上陸したのが相模湾であればいつもの強羅ルートを選ぶだろうと予想されているが、駿河湾方面に上陸した場合は地形の関係上侵攻ルートの予想は多少複雑にならざるを得ないのだ。 ちなみに、普通の地雷の代わりに航空爆弾を使うのは、並みの対戦車地雷程度の威力では巨大な使徒相手には全く役に立たないからである。 「これらの威力偵察の結果次第では、この後の迎撃計画は変更する。」 これから話すのは、あくまでも取り敢えずの叩き台だと前置きしてから、カティーは先を続ける。 「ただ、基本的な計画としては、サードチルドレンを囮にして敵の進路を誘導して兵装ビルの火力が集中できる地点に誘い込み、ATフィールドを中和してパペット2機と兵装ビルによる集中攻撃で打撃を与え、セカンドチルドレンの近接攻撃で止めを刺す。」 発令所に居る全員の注目が集まったのを感じながら、カティーは更に続ける。 「これでも使徒が倒せないと判断される場合、即座にサードチルドレンを主軸とした迎撃計画に移行、パペットとセカンドチルドレンはサードチルドレンの援護の下で退却。それと入れ替わりで、既に選抜済みの志願者数名を地上に射出する。」 スクリーンの表示が元に戻るのに合わせて、カティーはミサトと視線を合わせた。 「こちらの作戦は以上だが、葛城三佐、これに代わる成功率の高い作戦案はあるか?」 そういきなり言われても、現状でこれ以上に説得力のある作戦を考える事は…… 「一つだけあるわよ。ちょっち反則だけどね。」 いや、ミサトの切羽詰った時の思考の瞬発力は、やはり常人離れしていた。 「最初っからシンジ君に迎撃を任せれば良いのよ。」 ただ、それは言ってから自分で「しまった!」という類の案だったのだが。 それでは、自分が使徒に復讐する事ができないのだ。 ただ、そんなミサトを救ったのは、皮肉にも論破しようとしていた当の相手だった。 「なるほど。では後は司令部と葛城三佐に任せる。」 作戦部長としての自分の職責は果たしたとばかりに発令所を出て行くカティーを苦々しげに見やったミサトは、国連軍への要請を始めた。 カティーの提案した作戦の通りに……。 「目標は沼津付近に上陸、第3新東京に向けて黄瀬川沿いを侵攻中。」 「国連軍の迎撃に対してATフィールドの展開を確認。MAGIの計算では98.57%の確率でエヴァ・パイロット単独での中和が可能です。」 「敵の攻撃方法は、顔らしき場所から発射される光線と鋭利な刃物状になった腕の2種類が確認されてます。」 青葉がマヤが日向がそれぞれに報告するのを、ミサトとカティーは並んで聞いていた。 「中距離戦と接近戦の両方が可能か……ちょっち厄介かもね。」 言いつつも、得られたデータで攻略法を練り始めたミサトに、 「敵の手札はまだあると思った方が良い。」 ぶっきらぼうに忠告するカティー。 「わ〜ってるわよ、そんな事。」 手をヒラヒラさせて答えるミサトであったが、実はそれでも未だ使徒を甘く見ていた部分があったのを自覚してはいなかった……。 そして、その2時間後。 出撃前の作戦伝達が終わり、シンジとアスカの二人は各種装備品と一緒にリニア方式の地下鉄で地上へと向かっていた。 いつものリニアカタパルトは、今回は緊急展開では無いのでGによる体力負担と電力消費の激しさを考慮してパペットの方だけが使う事になっている。 「あ〜あ。日本でのデビュー戦だっていうのに、どうして私一人に任せてくれないの。弐号機だってミサトに使われちゃうし。」 その地下鉄の客室では、惣流・アスカ・ラングレーが不幸にも同席している碇シンジに向かってぶつぶつと文句を言っていた。 「仕方ないよ。作戦なんだから。」 それを宥めるシンジをアスカが睨み、敵愾心にも似た闘気をぶつけてくる。 「言っとくけど、くれぐれも足手まといになるような事はしないでね。」 もっとも、まだLCL錠剤を飲んでいないので精神的に威圧するぐらいの効果しか無いのだが……。 「う、うん。」 それでも、シンジを黙らせるには充分以上の効果があった。 気まずい沈黙は地下鉄が地上駅に到着するまで続いた。 「なぁんで、あんなのがパイロットに選ばれたの……。」 降り際にアスカが小声、しかもドイツ語でそう呟くまで……。 「目標は予定通り湖尻峠を突破! 絶対防衛圏内に入ります。」 第七使徒イスラフェルと名付けられた巨大生物は、とうとう第3新東京市から見て西側にある尾根を越えてその姿を現した。 「全兵装ビル、準備完了!」 現在稼動可能な全ての兵装ビルが戦闘態勢を整える。 とはいえ、今回はいつもの強羅方面からの侵攻ではない為、実質的に使える兵装ビルの数はそんなに多くない。 「エヴァ・パペット両機、配置に着きました。」 今回、エヴァ・パペット初号機には浅利ケイタ三士が、エヴァ・パペット弐号機には葛城ミサト三佐が搭乗している。 なお、両機とも手にはパレットガン、腰の左右に追加されたハードポイント(武器などを設置できる場所)にはプログナイフを、空いた両肩のウェポンラックにはビームに対して多少の減衰効果が見込めるという事でチャフグレネードを装備している。 肩に装備する物に関しては、煙幕弾……スモークディスチャージャーも検討されたのだが、視覚を封じても使徒の知覚能力はあまり鈍らないとカティーが断言し、没となった。 「エヴァ・パイロット両名、作戦開始位置へ移動。」 電動スクーターと共にシンジが配置に着き、保安部の車で目標地点に送り届けられたアスカが後部トランクから取り出された薙刀状の武器を受け取る。 必要な装備を渡した保安部の車は、すぐにその場を離れる。……居残っていても足手まといになるだけだからだ。 「総員戦闘準備完了! 使徒、目標地点到達まで後3分!」 ネルフ本部にいる全ての要員が使徒の歩みを固唾を飲んで見守る中、 「袋叩きなんて卑怯でヤダな。趣味じゃない。」 一人アスカだけがどこかピントのズレた事を呟いていた。 「私達は選ぶ余裕なんて無いのよ。生き残る為の手段をね。」 それを聞き咎めたミサトが、使徒との戦いを試合か何かと勘違いしてるかのようなアスカのぼやきをやんわりとたしなめる。 「そんな事言って、アタシの弐号機を壊したらミサトでも承知しないからっ!」 「そんな約束できないわ。」 更に勘違いした発言を一言で否定され、 「何ですって!」 頭に血を昇らせるアスカだったが、 「……来たわよ。アスカ、始めて。」 使徒が目の前に来てしまったので、ひとまずは棚の上に上げておく事にした。 「りょーかい。ATフィールド、中和!」 LCL錠剤を口の中に放り込み、拒絶の意志を使徒へと叩き付ける。 ただそれだけで、第七使徒イスラフェルが張った絶対を誇る防御壁……ATフィールドが侵食され、消え去った。 「ナイス、アスカ! 攻撃開始っ!」 言いつつミサト自身も引金を引くと、エヴァ・パペット2機のパレットガンと10基の兵装ビルや丘に偽装していたランチャーから放たれたミサイルの雨、ロープウェイなどに偽装された機関砲座などからの砲火が一気にイスラフェルに浴びせられた。 が、やはり使徒。 ATフィールドを中和しているとはいえ、通常兵器の火力では残念ながらかすり傷ぐらいにしかならない。それでも確実に使徒の足は止まり、微々たるとはいえど痛手を蓄積させ続けている。 「ミサイル攻撃を中止! 砲撃は続行!(これで、爆煙が晴れたら……)」 切り札たるセカンドチルドレンの投入タイミングを計りながら攻撃を続けるミサトは、 「じゃ、そろそろ行くわ。援護してね!」 アスカの独断を止め損なった。 砲火飛び交う中に駆け込むアスカを見て慌てて砲撃中止を命令するミサト。 「行けるっ!」 エヴァの活性化によって得た飛び抜けた運動能力で空中高く、高層ビルに匹敵する使徒の巨体の頭上へと生身のままで……当然ながら巨大化などもせずに飛び上がり、砲火をかわすアスカ。 その手にある大きく振り上げられたソニック・グレイブにアスカのATフィールドが集束していく。 それに伴って中和されていたイスラフェルのATフィールドが回復する。 「ぬぁぁぁぁぁぁ!!!」 気合い一閃。 落下の加重を乗せたアスカの薙刀は、イスラフェルの巨体を展開されたATフィールドごと唐竹割りにした。 「おみごと。」 それを見ていたシンジは思わず賞賛の声を上げ、発令所にも歓声が上がりかける。 「どう、サードチルドレン。戦いは常に無駄無く美しくよ。」 シンジの賞賛が聞こえたのか、気分良く胸を張って自慢するアスカ。 が、両断された使徒を見ても未だ安心していない連中も居た。 「油断するな! 青葉二尉、使徒の反応は!?」 発令所のカティー・ジーベック大尉と、 「気を抜くのは早いわよ! 気をつけて!」 現場の葛城ミサト三佐であった。 「え?」 そして、それを証拠立てるように、両断された使徒は二体に分裂して活動を再開した。 「ぬわんてインチキッ!」 言いつつもミサトは武器庫ビルに出されたスマッシュ・ホークに自機の装備を変更して前に出る。 「ケイタ君、援護して。」 接近戦で使徒の片割れを足止めする気なのだ。 「増えた分は、減らせば良いのよっ!」 次は逆袈裟に斬り上げて使徒を真っ二つにするアスカであったが、 「嘘っ!!!」 確実にコアまで斬り割ったにも関らず、イスラフェルの一体〜仮に“甲”〜が実にあっさりと再生したのを見て愕然とした。 「アスカ! 退いて!」 ミサトはイスラフェルの再生能力を見て現有戦力で普通に倒すのは無理だと瞬時に見抜き、アスカに予定通り撤退するよう促しつつ、自らはチャフ弾をばら撒きながら、もう一体のイスラフェル“乙”に向かって戦斧を振り下ろす。 が、こちらはパペットというほぼ同サイズの兵器での攻撃だというのにATフィールドに阻まれて斬るどころか触れる事すらできない。 とはいえ、時間稼ぎとアスカの退却の援護ができれば上等と思っての攻撃である。使徒の注意を引ければ必要充分で、ダメージは与えられなくても問題は無い。……多少の痛手を与えたとしても、すぐに回復されるのがオチだし。 しかし、あくまで退却しようとせず躍起になって使徒への攻撃を続けるアスカのせいでミサトの計算が狂った。 「聞こえないの、アスカ!? 退却よ! N−3地点に向かって!」 しばらく何とか勘だけでイスラフェル“乙”を食い止めていたミサトであったが、イスラフェル“甲”がアスカに斬られるのに構わず、ミサトの後ろからビームを連発した事によって形勢は致命的に悪化した。 チャフの散乱効果が光線を弱めてくれたおかげでいきなり大破するのだけは避けられたが、それでも体勢が崩されて大きな隙が生じてしまう。 「くっ、しまった!」 すかさずイスラフェル“乙”が横殴りに斬りかかってきたのをスマッシュ・ホークを盾にして防いだものの、次に繰り出されたイスラフェル“甲”の蹴りまでは防げず、弐号機パペットの巨体はお空に舞い上がり……郊外の草原へと落下した。 下半身だけをにょきっと屹立させた間抜けな逆立ち姿で。 「ミサトの馬鹿っ!!!」 そして、それに目を奪われ動きの止まったアスカもまた……。 芦ノ湖岸の浅瀬へと蹴り飛ばされたのだった。 皮肉にも、全く同じやられ姿で……。 「ミサトさん! 惣流さんっ!」 作戦が第二段階に移行したと同時にスクーターで急行したシンジは、二人の敗退に間に合わず歯噛みしたが、自分の今なすべき使命を思い出して腰の拳銃を抜き放った。 が、少しだけ迷う。 『今、二体になってるけど……どっちを撃ったら良いんだろう……。』 でも、迷っていても仕方が無いので両方ともにLCL弾を発射した。 「21番リフトに向かえ。」 そして、インターフェースから聞こえて来る指示に従ってスクーターを走らせる。 ネルフ本部の整備部が心血を注いで整備したシンジの特注スクーターは時速100kmを軽く超す速度で爆走するが、それでも当然ながら使徒を引き離す事は不可能だ。 だがしかし、使徒の方もシンジを無下に傷つけるのを恐れて迂闊に手出しできない。 それならばと今のうちに合体して一体に戻り、改めてシンジを追うイスラフェル。 そんなシンジと使徒の奇妙な追いかけっこは、ある場所で唐突に終わりを告げた。 アダムに似た気配を放つ奇妙なリリン……シンジがいる。 そして、彼に思いを寄せていると思われる女性型のリリンが数体もいる。 そんな場所で。 其処が四方を高層ビルに囲まれ、四角く区切られた交差点である事など、イスラフェルの知った事ではない。 そして、使徒をここまで誘き出したシンジは、 「スズネにミズホさん……それに他の人まで……どうしてここに……」 その場所、21番リフトで待っていた人間が知った顔だったのに気付いて呆然としたのだった。 「今だ! キャプチャー作動! 21番リフト降下!」 発令所でタイミングを計っていたカティーは、使徒がリフトの上に乗るのを待って指令を下した。 四方を囲む高層ビルから電磁シールドが素早く展開され、使徒の巨体をシンジ達ごと中に封じ込める。 「21番リフトをジオフロントまでの途中で停止させろ。」 密室に閉じ込められた格好だが、イスラフェルとしては寧ろ望む所であろう。 暴れ出してリフトを破壊する事も無く、おとなしく捕まったままだ。 「(後は任せるしかないか……)エヴァ・パペット弐号機とセカンドチルドレンの救助、急げ! リフト停止後、21番リフトの装甲シャッターを全部下ろせ!」 こうして、第七使徒迎撃戦は新たな様相へと移ったのだった……。 イスラフェルの一繋がりで三日月状に見えなくも無い両腕の先におざなりに付属している手が、4人の志願者の中から迷わず掴んだのは、秋月スズネの小柄な身体だった。 「キャアッ!!」 覚悟していたとはいえ、いきなり身長40mにも及ぶ巨大な怪生物の手に捕まり、地面から無造作に持ち上げられれば悲鳴の一つも出ようもんである。 次の瞬間、いったいどうやっているのか未だに不明だが、使徒の巨体がスズネの身体に吸い込まれるように消えた。 そのままドサリと前のめりに床に倒れ込んだスズネを、シンジが慌てて駆け寄って抱き起こす。 「大丈夫?」 自分を心配そうに覗きこんでくれる視線に、スズネの身体は場所柄も他人の視線も無視して火照り始めた。 「うん、ありがと……」 「どうして、こんな所に……」 スズネだけに言ったのではない呟きであったが、答えたのはスズネだった。 「こうすればシンジ君の役に立てるってカティーさんに聞いたから……」 意外な事実に驚いて絶句するシンジに、スズネは必死になって弁護する。 「でも、どうなるのかは聞いていたし、秘密を喋らなきゃ断っても良いって言ってくれたし……だから……」 頭が胸に寄りかかるだけでも甘い疼きと幸福感が込み上げてくるのを我慢して、言っておくべき事を言うべく咽喉の奥から言葉を搾り出す。 気を抜くと、意味の無い甘い喘ぎしか漏らせなくなりそうで。 「……みんなも、そうなの?」 「はい、シンジ様。」 「……うん。」 「はい。」 シンジの問いに、シンジの秘書を務めている白石ミズホが、そしてシンジが名を知らない二人の少女がハッキリと肯定する。 あまりにハッキリきっぱり答えられたのに、シンジの目尻から思わず感涙が漏れ出す。 「ありがとう。……ごめん。良ければ、名前、教えてもらえるかな。」 ここまで言ってくれている人なのに、名前を覚えていないなんて……。と、軽く自己嫌悪に陥ったシンジは、名を尋ねてみたのだが…… 「南サオリ……です。」 「清田ヤヨイです。」 その名前には聞き覚えがあった。 「もしかして、トライデントの元テストパイロット?」 「「はい。」」 何の事は無い。書類を処理する際に彼女らの名前も把握していたのだが、名と顔が一致しない状態だったという訳だ。 二人ともマナやスズネとも張り合えるほどの美貌……二昔前の十羽一からげのアイドルグループのメンバー以上の美少女であるのは、別にトライデントのパイロットの選考基準にルックスの項目がある訳ではない。単に、其処の司令官が歪んだ性欲の捌け口にするのに美少女の方を後回しにしていただけである。……後の方が機体の完成度が高くなり、生存率や生存期間が伸びると踏んでの行動であったが、それは残った彼女らが選りすぐりの美少女である事をも意味していた。 手で腕に抱いたスズネのお尻をゆっくりと揉み解しながら、シンジは暗い顔になる。 「……ごめん。思い出せなくて。」 悄然とするシンジを見て罪悪感に駆られ保護欲が湧いてきたのと、シンジのATフィールドの影響下に置かれたのと、スズネが可愛がられている様子を見て興奮してきた二人の少女は、シンジにある方法での謝罪を要求した。 「そう思うなら、私達にもシテ下さい。」 ……この時、使徒戦始まって以来初めてのバトルロイヤルがなし崩し的に開始されてしまったのである。 手回し良く用意されていた大きなマットの上で……。 「まず、スズネを落ち着かせるから待っててくれるかな。」 ひとまず使徒戦を終了させようとするシンジの選択に、あとの3人は不承不承ながらも肯いた。 「ありがとう。」 見た者を陶然とさせる透明な微笑みを投げかけると、シンジはまず腕に抱いた娘を気持ち良くさせる事に集中する。 上着のボタンを2個だけ外して中に手を入れ、Tシャツを捲り上げ、ブラをずらして胸を直接弄り倒す。 下の方は、半ズボンの上から微妙な膨らみの縁をなぞるように指を滑らせて刺激する。時々止めたり力を入れたり緩めたりするのがミソだ。 それだけで、勝手知ったる他人の身体はグニャグニャのフニャフニャになってシンジの手に身を委ねる。 半ズボンを下着ごと膝まで下げ、トロトロと湧き出す泉に後ろから肉槍を突き刺して合体すると、スズネは軽く痙攣して突っ伏した。 「……や……だめ………すごすぎ…て…………」 うわ言の如く呟くが、腰はシンジの腕と肉槍でがっしりと固定され、お尻を高く上げた姿勢のまま動けない。 しかも、ただ固定しているだけで終わるはずもない。 前後に左右に捻りを加えて動き出した事で、スズネは更なる奔流に投げ落とされた。 そうして、さんざんスズネを喘がせたシンジは、込み上げてくる愛しさと気持ち良さの結晶を、何度目になるか誰も数えてはいないだろうスズネの絶頂に合わせてたっぷりと注ぎ入れた。 だが、しかし…… 「パターン青健在!」 今回はいつもと勝手が違った。 発令所で青葉が目を見開きつつ報告し、マヤが驚愕しつつ現状を指摘する。 「目標、2体に分裂しました!」 スズネにそっくりで、でも印象やプロポーションや髪型の違う全裸の女性が出現したのが、監視モニターに映し出されたのだ。 「もう……会えないと思ってたのに……。夢で、夢だけで終わると思ってたのに……。」 その女の子は、そう言ったかと思うと、スズネに覆い被さるように果てているシンジの上から抱きついた。 下に居るスズネごと。 「コトネ……さん?」 自分に抱きついて来た女性を見て呆然となるシンジ。 それはそうだろう。 自分の腕の中で息絶えたはずの少女が目の前にいるのだ。 しかも、生々しい感触すら伝えて。 「え、コトネ? ………コトネ!?」 まどろみから何時の間にやら復帰していたスズネが、驚きに凍りつく。 「あ、秋月さん……足は、あるよね……。」 驚きは、生唾を飲みつつ順番待ちをしていた3人にも波及した。 特に、面識のある2人の少女には、それが似ているだけの別人や偽物で有り得ない事が確かに分かっただけに驚きも一塩だった。 「何で……ここに?」 「分からない……。でも、何故かシンジさんといっしょにいた気がする……。」 要は、あの時からシンジに憑いてきていたのだろう。 そして、一卵性双生児である妹が分離合体能力を持つ使徒と融合したのを契機にイスラフェルに取り込まれたのだと思われる。 ……本当のところはどうだかは分からないが。 「でも、良かった。また、会えて。」 にっこりと笑いかけられたコトネは、それだけでも軽く達して頬を紅潮させる。 そして、言い難そうにもじもじしながら、でもハッキリと言い切った。 「あの……もし、よければ……私を、貰って下さい。」 「え……ええっ!?」 最近迫られるのが増えたとはいえ、まだこういうのに慣れていないシンジは、いともたやすくうろたえてしまう。 「シンジさんのお情けをいただけませんか?」 「う……うん。」 思い詰めた女性の懇願を断るほどの根性はシンジには無く、そのままなし崩しに第二ラウンドへと突入したのであった。 そして、シンジがコトネと共に上り詰め、これでやっと終わったかと思われたのだが、 そうは問屋が卸さなかった。 あっさりとすぐ回復してしまったのだ。 しかも、使徒は未だ健在である。 「パターン青健在!」 再び使徒の撃退に失敗したのをインターフェースに仕込まれた通信機越しに聞かされるシンジ。 「……これでも駄目だなんて……僕は、いったいどうしたら……」 つい弱音を吐いてしまうシンジであったが、周囲の状況が彼が落ち込むのを許してはくれなかった。 「シンジ様、お願いです。抱いて…下さい……。」 ミズホだけでなく、他の二人も食い入るように近くで見入っている。 そればかりか、たまらずに自分で慰め始めていたのだ。 「もう、我慢できません!」 「私達の初めてを奪って!」 程よく鍛えられた若鮎のような肢体がシンジの両側から貼り付くと、ふにゃりとしてコトネの中から抜け出していたシンジの肉槍は再び力を取り戻した。 軍隊暮らしが長かったせいか髪が短めな二人の女の子に代わる代わるキスをして軽くイカせてから、シンジはこの煮詰まってきた状況をどうにかする方法を必死で模索し続けていたのだった……。 「以上が、今回の使徒戦開始後30分あまりまでの様子よ。」 暗くされた作戦会議室の中、映写され続けている映像から目を逸らさず、ミサトは大真面目に言い切った。 「状況は極めて不利だが、幸いにしてサードチルドレンが足止めだけは成功している。」 これはカティーの言。 なお、この場にいるのは冬月、ミサト、カティー、加持、リツコ、マヤの6名。 マヤなどは『シンジ君、不潔……』などと口では言ってはいたが、映写機器を操作しながらしっかりと全部マジマジと観察してたりする。 ちなみに第一発令所では、現在ただいまシンジと使徒の戦いの様子がリアルタイム上映中だったりするので、一時的に18歳未満立ち入り禁止処置が取られている。 「今回の使徒は、分離合体を利用した再生能力を有してると思われるわ。」 リツコが言うが早いか、映像がアスカが使徒を両断したシーン。それと、シンジがスズネやコトネに中出しをしてるシーンに変わる。 「1体の時は分離する事で攻撃を無効化でき、2体の時はどちらかにダメージを負っても相互補完を行なって即座に回復できるようね。」 次に、画面はシンジがスズネとコトネを床に並んで寝かせ、交互に抜き差ししている映像に代わる。 ウグイスの谷渡りと呼ばれている多人数相手の技の一つだ。 しかし…… 「そして、分離している2体が同時に致命的なダメージを受けた場合……」 銀幕にスズネとコトネが合体融合して一人の少女に戻る様子が克明に映し出される。 「1体に戻って回復するわ。」 映像は更に萎えたシンジのものにしゃぶりつく女の子達のあられもない姿を映すが、ひとまずそこで画面が消える。 「まさにパーペキな防御ね。」 ミサトの感想に、ちゃかす加持。 「白旗でも揚げるかい?」 「その前にちょっちヤってみたいことがあるの。」 不敵な笑みを浮かべたミサトは、ついさっき思いついた作戦のアイディアを開陳しだしたのだった。 「何て事してくれんのよ! アタシの弐号機がメチャクチャじゃないの!」 ATフィールドとプラグスーツの生命維持機能のおかげでほぼ無傷で救出されたアスカは、病院のベッドで気がつくや否や作戦会議室に怒鳴り込んで来た。 「それはこっちの台詞よ。どうして命令通り退却しなかったの?」 しかし、首と左腕をギプスで固定したミサトに筋の通った反論をされてバツの悪そうな表情になるアスカ。 「……聞こえなかったのよ。」 不貞腐れて頬を膨らませている様子が、実は単にシンジに後を任せるのが嫌だったという本音を透かし見させている。 「でも、良いことに来てくれたわ。たった今、使徒を倒す為の作戦ができた所よ。」 「ホント!? ……でも、今度もまたサードが倒したんじゃないの?」 「いえ、今回の使徒は手強いわ。シンジ君でも時間を稼ぐのが精一杯なの。」 どうやって時間を稼いでいるかは言わずに、これ以上無いほど真剣な目をするミサト。 「だから、ここで活躍すればシンジ君に恩を売れるし、アスカの優秀さもアピールできるわよ。」 その彼女に弱点とも言うべき個所を刺激されたアスカは、 「やるわ! 何でも言って!」 致命的な一言を言ってしまった。 後戻りのできない道の第一歩となる一言を……。 「さ、入って。」 「せっまい部屋ね〜。これじゃ荷物全部入り切らないじゃない。」 ミサトに連れられ、コンフォート17にあるミサトの部屋に案内されたアスカの第一声はこんなもんだった。 「まぁ、そう言わないの。何ならこっちの部屋も使って良いわよ。」 ミサトがアスカに割り当てた部屋は、かつてシンジが同居してた時の部屋だ。 ここなら家具がそのままなので、その気があればすぐにでも住めるのだ。 「ふ〜ん。ま、ありがたく使わせてもらうわ。」 と言いつつも新たな自室の頼りない引き戸を開け閉めして嘆息する。 「オマケに、どうして日本人って危機感足りないのかしら。良くこんな鍵の無い部屋で暮らせるわね、信じらんない。」 「日本人の身上は察しと思い遣りだからよ。」 そうミサトは言ってアスカの後ろを通り過ぎて行く。 本格的な引越し荷物は後で届けられる手筈なので、アスカは取り敢えず手荷物だけを自室に放り込んでリビングへと向かう。 リビングの壁際の目立たない場所にちょこんと立っていたレイを目敏く見つけたアスカは、あんまりと言えばあんまりな御挨拶をのたまった。 「あら、ファースト、居たの?」 「呼ばれたから。」 こちらも簡潔明快、ついでに愛想も無い返答で済ますレイ。 愛想が無いのは他人との付き合い方が苦手と言うのもあるが、アスカの喧嘩腰の方が理由としてはより有力であろう。 「あんた、今日からお払い箱よ。ミサトはアタシと暮らすの。まあ、どっちが優秀かを考えれば当然の選択よね。」 ここでアスカは天井を見上げて両手を合わせて小首を傾げ、 「ホントは加持さんと一緒の方が良いんだけど。」 夢見るような表情になって言うが……急に頭を振って脳裏に浮かんだ誰かさんの笑顔を振り払う。どうやら、口に出した人物とは別の人物が思い浮かんでしまったのだろう。 「……そう。でも関係無いわ。」 「なんでよ!」 「私が住んでる場所、ここじゃないもの。」 今にも一触即発という状況の中、 「あ、レイもう来てたの。悪いんだけど、他の子達も呼んで来て貰える?」 救いの女神の如く現れたのは、この家の家主である葛城ミサトであった。 手が僅かに湿っているのが彼女が何をしていたのかを暗に物語ってはいるが、あまり深く追求するのは流石に少々可哀想であるので言及はしない。 「了解。」 ミサトの発言を命令と解して出て行くレイを見送るアスカは、さっそくここに連れて来られた理由を問い質しにかかった。 「で、いつ作戦を聞かせてもらえるのよ、ミサト。」 「ん〜、二度手間になるから面子が揃ってからね。」 ミサトが答えを保留していると、ほどなく玄関のチャイムが鳴る……事も無く葛城家のドアが開いた。 「連れて来たわ。」 「こんにちは、ミサトおねえさん。」 「お邪魔します。」 「お邪魔します、葛城さん。」 レイと共に来たのは、隣人関連の少女3人組…ハルナ、ヒカリ、マナ…であった。 もっとも、ヒカリ以外は本当にご近所様なのだが。 「じゃあ、説明を始めるけど……。その前に、みんな、自分を慰めた事ってある?」 いきなりな質問に、良く分かってないレイとハルナ以外の全員の顔が真っ赤に染まる。 「な、な、なによっ!? そんな事関係無いでしょ!?」 いきり立つアスカを意図的に無視して、ミサトは平然と話を続ける。 「どうやらレイとハルナちゃん以外は意味を知ってるようね。実は、今回の使徒はシンジ君だけで撃退するのは不可能っぽいのよ。」 「それが、ど、どうして“そういう事”と関係あるのよ!」 「知っている方が説明する手間が省けるもの。」 根本的に議論が噛み合っていないのを自覚しつつ、ミサトは強引に話を進めて行く。 「今回の使徒を倒すには、分離時における2点同時攻撃しかないわ。でも、シンジ君一人では、とても二人を同時には相手にできない。」 深刻な表情をキリリと引き締め、精悍なと評してもおかしくない真剣な目で一同の目を視線で射抜くミサト。 「それに、この作戦は二人の相手に同じだけの攻撃を加える必要があるわ。だから、レイとアスカ……あなた方二人がやるのよ。」 「なんでアタシたちがそんな事しなきゃならないのよ!」 アスカの反発を予期していたのか、 「それしか、あの使徒を倒す方法が無いからよ。今回の使徒と融合した秋月さんを助ける手段もね。」 ミサトはことさらに落ち着いた声で答える。 その説明でアスカ以外の人間は事情をほぼ全て承知したが、一人アスカだけはシンジの対使徒戦の遣り方を知らない為、顔に疑問符を浮かべる。 「という訳で、アスカとレイには女の子を気持ち良くして同時にイカせる訓練を積んでもらうわ。シンジ君が持ちこたえてくれているうちにね。」 「分かったわ。」 ミサトの言い方から急がないとシンジが危ないかもしれないと感じたレイは即座に承知するが、アスカとしては到底納得できるような内容ではない。 「もっと別の作戦無いの!?」 「無いわ。これが現在最良の作戦よ。MAGIも賛成2、条件付賛成が1でこの作戦を支持してるわ。……他の案では、条件付賛成1までがせいぜいなの。」 「その他の案って何なのよ!?」 「シンジ君ごとN2で焼却する作戦よ。これを実行すればシンジ君は確実に死ぬけど、それでも使徒を倒せる確率は3%を下回ってるわ。」 淡々と言われて、流石に言葉に詰まるアスカ。 「それ以外の作戦の成功率はゼロよ。」 そこで、アスカは目先を変えて攻撃を試みる事にした。 「じゃあ、なんで私達じゃなきゃいけないのよ!」 そう。人選に対する疑問である。 「あなた方が張れるATフィールドが必要なのよ。使徒が張るATフィールドを中和できないと、とても止めまでは刺せないわ。」 「そんなこと、やってみるまで分かんないじゃないのよ!」 唯一納得してないアスカが頑強に反発するが、ミサトを動じさせる事はできない。 「既に普通の人がやっても無理だという結果が出てるわ。」 確実に追い込まれているのを自覚して怯むアスカに、 「何でもやるって言ったのは嘘なの? ここで尻尾を巻いて逃げ出す訳?」 ミサトは止めの言葉を投げつける。 「そんな事言ったって……」 しかし、口を尖らせるアスカはいっこうに首を縦に振ろうとしない。 ただ、そんな躊躇を見逃せるほどにネルフにもミサトにも時間の余裕は無い。 「いいわよ、逃げても。でも、そうしたらセカンドチルドレンは任務を放棄して使徒との戦いから逃げ出したって発表するけどね。」 更に脅迫紛いの追い討ちで挑発されたアスカは、 「わかったわよ! やれば良いんでしょ、やれば!」 ようやく諦めて承諾するのだった……。 まず口火を切ったのはマナだった。 口では渋々承諾したが中々動こうとしないアスカに抱き付いていきなりディープなキスをかましたのだ。 『な、な、な、な……』 目を白黒させている間にうなじに舌を走らせ、耳たぶを甘噛みする。 勿論、いつもシンジに可愛がられる時の定番である胸揉みも忘れないが、自分との明らかな量感の違いにマナは内心大きなダメージを受けた。 『う、おっきい……。で、でも、シンジくんは感度が良くて張りがあるのも良いって言ってくれてるし……。』 良く分からない理屈で自分を納得させつつ、アスカを悦ばせる事に固執する。 そうこうしているうちに何時の間にかレイはハルナと始めており、ヒカリは仲間外れになっているようだ。 が、マナとてそう経験豊富という訳では無いので自分たちのことだけでも精一杯だ。 「ああ、四人とも。自分がヤられて気持ち良いと思える事を相手にしてあげるのよ。」 手探りにも思える睦み合いが、ミサトのアドバイスで指針が見え、激しさが増す。 「ちょ、ちょっと……好きでもないヤツとこんな事シテ平気なわけ!?」 思春期の健康な身体が否応無く感じる快感に流されまいと叫ぶアスカは、 「私は惣流さんのこと、好きよ。」 マナの一言で絶句させられた。 「ハルナちゃんも、洞木さんも、綾波さんも、秋月さんも、葛城さんも好き。」 そして、僅かに身体を離して合わされた真剣な目から視線が話せなくなる。 「そして、誰よりもシンジくんが好き。愛してる。シンジ君の為なら、この命だって惜しくなんかない。」 「か、軽々しく言わないでよ! そんな事!」 しかし、アスカには分かっていた。いや、分かってしまった。 目の前の少女が本気でそう思っている事を。 ATフィールドが触れ合い、中和し合っている状態では強く思った事は相手に筒抜けになるも同然だ。隠しようが無い。 「でも、私じゃ助けられない。だから、私にできることをするの。」 「(アタシともあろう者が圧倒されるなんてあってはならないのよ。アタシは一番なんだから)そうよ。あんたは私の訓練を手伝えば良いのよ。」 アスカの長年の洗脳で擦り込まれた無意味なプライドが歪な居場所を得た時、アスカは相手の胸へと手を伸ばして逆襲を開始したのだった……。 気圧され、動揺し、当惑してる内心を糊塗するかのように。 その頃、シンジの赤黒い立派な肉おしべは、南サオリのまだこなれていないがたっぷりと秘蜜を滴らせる雌花が咲き誇る花園に分け入っていた。 シンジの舌がサオリの口中を貪り、この頃筋肉がついてきた胸で相手の大きめで形が良い乳房を圧迫して刺激する間にも、その右手は隣りに寝ているスズネの秘所に添えられ、喘ぎ声の旋律を繊細なタッチで演奏し続けている。 自分の疲労を考えてか、幾分スローなテンポになってきてはいたが。 少なくとも、シンジからは最初の頃の一気に勝負を決めようとするがむしゃらさは窺がえない。 シンジがスズネとサオリの相手をしている最中、もう一体の使徒…コトネ…の方は、今は清田ヤヨイと白石ミズホが相手をしてくれている。 どうやら、分裂した身体のどちらかをシンジが構っていれば大人しくしててくれるらしいと言うのは、最初の1時間ほどの“戦闘”で判明した。 その後、発令所からはできるだけ時間を稼ぐようにとの指示が出たあとは何も言って来ない。不安にも思ったが、ここは言われた通りにするしかないとシンジは腹を括った。 ……言ってきたのがカティーでなければ、もう少し心配したりうろたえたりするのかもしれないが。 彼女は必要な事を必要なだけしか伝えない。 それに、下手な気休めを言うような性格でもないと、短い付き合いで既に思い知っているのだ。 カティーがそう言う以上は必ず打開策はあるに違いない。 そう信じて腰を動かすシンジであったが、それは未だ彼がどれだけ時間を稼がなければいけないかを知らないからこその信頼であったかもしれなかった……。 粘液質の音が、独特の匂いがミサトの家のリビングを占拠していた。 アスカは忘我の境地でヒカリと下腹部を擦り合せており、レイもまた同じくマナと下腹部を擦り合せて恥ずかしいよだれをダラダラと床に垂れ流していた。 カーペットはもはや交換するしかなかろう。 ちなみに、シンジの家の床は、もう既にほとんどフローリングである。 もう、誰が何回イッたかなど監督役のミサトでさえ把握してはいないだろう。 一度マナの手でイカされてしまって開き直ったアスカは、まるで貪るかのように女性同士の行為に没頭していた。もしかしたら、勢いで流されて浸っている現状に関して無意識に考えまいとしている反動かもしれないが……。 激しく熱烈に愛撫し、決して手を止めようとしない。 それに対して、レイの方はあくまでマイペースでゆったりと相手を感じさせていた。 緩急のついた動作をし、時には焦らすかのように手を止めるのはアスカより他人に可愛がられた経験が多いからであろう。 結果としてレイの相手をしてた方が先に達し、アスカはそれに追いつこうと躍起になってますます引き離されるという悪循環が起こり始めていた。 「ちょっち、みんな休憩〜。」 それに気付いたのは、やはり経験が圧倒的に豊富なミサトが一番早かった。 「アスカだけこっち来て。」 「なんでアタシだけ!?」 行き掛かり上、訓練にはなし崩しで参加させられているアスカではあったが、自分が悪い意味で特別扱いされそうな気配に反発心を強める。 「特別サーヴィスしてあげようっていうのよ。そう固くならないで。」 そう言いつつ、アスカの不意をついて伸ばされたミサトの右手の親指と中指が挟んだ胸の頂きを人差し指でグリグリと刺激すると、たちまちのウチに其処は固く尖ってアスカの脳髄に蕩けるような快感を訴えて来る。 若く健康で順調に発育しているだけではなく、自分の手で自分の身体を一生懸命開発してきたアスカは、自分で思ってるよりも遥かに敏感な身体を所有していたのだ。 ヒカリ達がやってるように優しい愛撫をしてやるだけで、簡単に達してしまった。 「さぁて、これからが本番よ。」 次は一転して胸の膨らみを鷲掴みにして荒々しく揉みしだく。 足の付け根にもいきなり指を突っ込み上下左右に暴れさせる。 「ちょ、ちょっと……ミサト…やだ……痛い………」 そう。アスカが焦って激しくしてる時のやり方だ。 段々刺激を強めたり、時折強い刺激を与えるのではなく、常に強く激しく弄ぶやり方は確実に相手を選ぶ。天性でそういうのを好む素質を備えている者は少なく、調教を施したとしても常に激しく愛されるのを好むようになるより、刺激や虐待に慣れてそういうやり方でも大丈夫になる者の方が多いだろう。 「そう、痛いの。……じゃ、ちょっち弱めにするわね。」 今度は、優しく丁寧な愛撫に不意に強い刺激を混ぜるやり方になる。 と、たちまちアスカはぐったりとさせられた。 「これでレイたちにも分かったでしょ。優しい愛撫に激しい愛撫を混ぜてあげると効果的なの。シンジ君に愛されてる時は、いつもそうでしょ?」 ぼんやりとしてる意識の片隅にミサトの説明が染み渡ると、頭の何処かでなるほどと思う反面、凍りついていた思考能力が戻って来る。 「ちょっと待ってよ! こいつらって全部アイツの愛人!?」 そういえば、そんな事を聞いたような記憶もおぼろげに無いではないが、改めてハッキリと認識させられて絶叫するアスカに平気の平左で答えるミサト。 「あら、アスカ。知らなかったの? この子たち全員シンちゃんが面倒見てる子よ。」 「え……」 驚きで固まるアスカであったが、 「ええっ!!」 理解がようやく追いついて来ると更なる驚きと不快感がアスカを吼えさせる。 「そんなの理不尽よ! 不可解よ! 不愉快よ!」 狂乱するアスカの頬を軽くひっぱたくと、ミサトは優しく諭す口調になる。 「彼女らはね、もうシンジ君無しじゃいられない身体なのよ。」 「何よ、それ!」 複数の相手とそういう関係になるなんて……と、いきり立つアスカと、あくまでも静かに、これ以上無いほど真剣な視線を合わせて言葉を続けるミサト。 「彼女らの身体には、今まで倒してきた使徒が封印されてるの。いえ、憑依してるって言う方が適切かしら。……レイは違うけどね。」 「え?」 思いも寄らぬ台詞に、アスカの怒りは瞬時に治まった。 いや、驚きのあまり怒るどころではないのだろう。 「彼女らに取り憑いた使徒が悪さをしないようにするのがシンジ君の本当の役目。それには、彼女らを支えてあげるのが一番良い方法なのよ。心でも、身体でもね。」 後ろで肯くシンジの恋人連中を見て複雑な表情になるアスカ。 「だから、シンジ君は彼女ら全員の面倒を見てあげてるのよ。ちゃんと全員ケアできているのは褒めても良いわね。」 「だからって……」 当人達が納得済みであるのを誇示されて、幾分怯むアスカ。 彼女には父親が愛人を作ってママと自分を捨てたというトラウマがあり、容易にこの状況を許容できないのだ。……他人の事なのだから、そういう物だと納得してしまえばそれまでな事はアスカにも本当は分かってるのだが。 「それに、シンちゃんたら凄いのよ。そうね、ものの30分もあれば、ここに居る子みんな気持ち良さで失神させてしまえるのよ。残念だけど、私でもそこまでは無理ね。」 ATフィールドで直接A10神経を刺激し、心を柔らかに抱き止める事ができるシンジには、さすがのミサトの経験もその手の攻撃力では及ばない。今の所は耐えたり意識を逸らしたりする技法で一対一の対戦では五分以上の戦績を保ってはいるが、これ以上シンジに巧みになられてはミサトですら堪えるのは難しいかもしれない。 「シンジ君に相手をして貰えると、今まで味わった事が無いぐらいに凄い気持ち良さが味わえるわ。他の男なんて問題にならないぐらいよ。」 加持との記憶と比較して、シンジに大きく軍配を上げるミサト。別に加持が下手なのではなくて(寧ろ、かなり上手い方だ)、シンジが反則過ぎるだけなのだ。 「おにいちゃんの、おいしくてすてき……。」 無邪気に大好物を思い浮かべるハルナであるが、モノがモノだけにやけに色っぽい表情に見える。チロリと唇を舐める舌が、男でなくても変な気分を何故か誘う。 「太くて…長くて…お腹がハチ切れそうで…身体がバラバラになりそう……。」 既にかつての自分が抱いていた『不潔』という認識が完膚なきまでにバラバラにされているヒカリが陶然とした面持ちで呟く。 「碇君といっしょになること……。それは、とてもとても気持ちの良いこと……。」 ナニを想像してるのか、既にあっちの方角へとトリップしてるレイ。 こういう事を考えてる時のレイは、いつもの硬い表情が和らぎ、あどけない童女っぽく見える。 「シンジくんは……いつも真剣に私達を気持ち良くしてくれようと頑張ってくれる。それが嬉しいの。」 自分の嗜好に合わせて耳元で囁いてくれるシンジの努力はマナに届いていた。だから、彼女はいつもシンジの前で乱れ姿を披露させられているのだ。 勿論、嫌では無いが。……顔から火が出そうなほどに恥ずかしいけど。 「ここで頑張ってシンちゃんを助ければ、お礼をたっぷり請求できるでしょうね。それこそ、好きなだけ。」 敢えて想像させる為に言葉を切るミサト。 静寂の中に唾を飲む音がこだまする。 「……でも、アスカが頑張らなかったらシンちゃんは助けられないわ。当然ながらお礼も無しだし、最悪の場合ネルフは5体の使徒を同時に相手しなくちゃならなくなる。」 「だったら、こいつらがやれば良いのよ!」 マナ達を指差すアスカに、根気良く自分の知る限りを説明するミサト。 「理屈は良く知らないんだけど、彼女らが使徒と直接長時間の接触をすると彼女らの方が使徒に戻ってしまう可能性があるわ。MAGIの試算だと50〜80%ぐらい。無視するには危険過ぎる要素だし、今回は其処までしても勝てる確率が無いの。」 「何でよ!」 「其処までは知らないわ。ただ、絶望的に確率が低いという訳ではなくて、0%だと聞いたわ。」 幾ら訊かれても知らない事は答えようが無い。 アスカはミサトが嘘を言っていないと悟り、この件での追求を諦めた。 とすると、脳内で考えることは先程の話に戻ってしまう。 『今まで味わった事が無い気持ち良さ……さっきのよりも!? まさか!?』 マナに押し倒され、ミサトに翻弄されて、既に今までの一人遊びでは知り得ないほどの気持ち良さを味わったアスカは、それ以上の快感を想像するがとても思いつかない。 ただ、大量の生唾が口中に溜まり、ゴクリを喉を鳴らす。 そして、もう一つ。アスカ的には無視できない要素に思い当たる。 『……そういえば、アイツが死んじゃったら、もう“あのハンバーグ”は食べられないんだっけ。』 何をどうやって作り方を会得したのかは推測するよりないが、ママ独自の味を伝えるハンバーグは悔しいがアイツ以外作れない。 「分かったわ。た〜っぷり、お礼して貰おうじゃないの。」 お腹がはちきれそうになるまで作らせようと決意するアスカであったが、その身体の方は主も知らぬ間に期待で汁を滴らせ始めていたのだった……。 使徒発見から一晩が経過した第一発令所で、リツコは各種観測機器相手に嬉々として格闘を続けていた。 調査の対象は、二人の使徒…スズネとコトネ…と、彼女らの相手を何とか続けているシンジである。 なお、第3新東京市の避難勧告はとっくの昔に解除されている。 観測した結果、キャプチャーの電磁スクリーンとリフトの縦穴を現在閉鎖している複数のシャッターを破壊するのに1時間以上はかかるのが判明したのだ。 硬化ベークライトを注入すれば、その数字は倍にも伸びる。 故に、シェルターに民間人を避難させたままでいるのが非合理と判断されたのだ。 公式には 『できるだけ被害を少なくする為、使徒をジオフロントで迎撃・処理する。』 と発表され、更に、 『もしもの時は、市民を優先的に第3新東京自体から避難させるのを確約。』 しかも、 『希望者には使徒撃退が確認されるまで一時疎開を斡旋。』 と約束した上に使徒が地上に出て来るまでの最短予測時間を公表した事で、ネルフの信用度は僅かながらに上昇した。 今回慌てて疎開する民間人が出なかった事が其れを物語っていた。 話を戻そう。 「興味深いわね。ペースを落としてるにしても、休み無く相手していられるなんて。」 食事やLCL錠剤はリフト下側の非常階段から送り込んだ補給部隊で供給してるにしても、睡眠まではそうはいかない。 ちなみに、ミズホ・サオリ・ヤヨイの三人は補給部隊として訪れたカティーと共に既にリフトから離れている。 リツコは眠気覚まし用のカフェイン錠剤も用意して運ばせておいたが、今のところは何とか使わずに持ち堪えているようである。 「若いっていいわね……。」 小声の呟きは、画像に気を取られて作業効率が落ちまくっている助手で後輩のマヤには届いていないようだ。 20歳にも関らず高校入りたてと言っても通用するほどの童顔のマヤと、遂に三十路に手が届いてしまったリツコとでは、下手をすれば親子と言っても信じる人はいるかもしれない。 が、それを指摘するような勇気…いや、無謀さを持ち合わせている人間は総司令のゲンドウを含めて誰もいない。 誰もが自分の命は惜しいのだ。 いや、命を失うだけですむなら儲けモノという状態になりかねないという噂まで密かに蔓延しており、リツコはネルフで『怒らせたら後が怖そうな人ランキング第一位』を堂々キープし続けている。……自慢にはならないが。 画面の中では、体育の授業などに使われる白いマットの上で、シンジがスズネの下の口に腰のモノを食べさせつつ、コトネの差し出す食事を美味しそうに食べている図が展開されていた。時折口移しで食べさせあっているのはバカップルを思わせるが、この光景の汚染力は並みのバカップル(矛盾した表現だが……)を遥かに上回る。 ここまで美味しい画像が延々上映されているというのに、発令所に詰める男性の数はまばらで口数は少なかった。 ここで下手な冗談なぞ飛ばそうものならかなりなひんしゅくものだし、かと言ってこれほど美味しい映像が流れているのを無視して仕事に専念できるほどの人間はそうそう滅多やたらに居るものではない。勿論ながら、興奮して騒ぎ立てたり一人遊びを始めたりするのは論外中の論外である。 いや、誰もが毒気にアテられるのが嫌なのだろう。 発令所に詰めている人員は必要最低限に近かった。 今回の使徒戦が長期戦に突入してるので、交代で休息しているのもあるが……。 そんな発令所の様子をチラと見てから、リツコはシンジのプラグスーツから送られてくるエヴァの活性状況に目を走らせる。 「おかしいわね。今までの理論が正しいなら、5分前にシンジ君のATフィールドはLCL錠剤を飲んでない時の数値になってるはずよ。ありえないわ。」 有り得ないと口に出しつつも、リツコの頭はフル回転して仮説を組み立て始める。 『シンジ君のエヴァが使徒として目覚めた……これは、シンジ君のATフィールドの波長パターンに偏移が見られないから没。シンジ君のエヴァに隠されている未知の能力が目覚めたせい……これは保留ね。では、相手のエネルギーを利用してエネルギー消費を抑えてる……これが一番しっくりくるけど、確証はないわね。』 未知なる疑問に突き当たったリツコは口元だけを笑みの形に歪め、 「……これは、“実験”しなきゃいけないかしら。」 科学的探求心に目を爛々と輝かせたのだった。 その頃、ミサトの部屋では…… 「さて、そろそろ次のステップに行くわよ。タイミングを合わせ易いように音楽を用意しておいたわ。」 初日を女同士での行為の遣り方の習熟に費やした5人の少女達が、新たな訓練へと突入していた。 それは、ラジカセからエンドレスで流れるテンポが良くムードがあると言えなくも無い旋律に攻める側2人が息を合わせて、守る側2人を同時にイカせるという特訓だった。 使徒戦3日目、シンジは遂に眠気に耐えかねてカフェイン錠剤に頼りだした。 流石に疲労も貯まってきたのか動きのキレも鈍ってはきていたが、それでもなおシンジは何とか踏み止まって使徒の足止めという任務をまっとうしていた。 また、レイとアスカはより完璧なユニゾンを目指すべく携帯用MDプレーヤーを用いて普段の生活でも例の音楽をヘッドフォンで聞きっぱなしでいた。 そのせいか、二人の生活サイクルは段々と噛み合い始めていた。 朝の目覚め(二人してマナに叩き起こされる) 朝食の食べっぷり(料理担当はハルナ) 朝の歯磨き そして、 「は、早く出なさいよファーストっ!」 「駄目。まだ終わってない。」 朝の生理現象……。 と、段々決戦の準備は整いつつあった……。 そして、4日目。 シンジはスズネとコトネ、二人の少女の尻に敷かれていた。 姉のコトネは仰向けになったシンジのモノの上に、妹のスズネはシンジの顔の上に腰掛け、送られてくる刺激を楽しんでいる。 今まで寝ないで頑張っていたシンジも流石に辛いのか、半ば朦朧としながらされるがままに任せていた。 既に、彼が寝ていないという証拠は3日3晩張りっぱなしのATフィールドと硬さを失わない肉槍、思い出したように相手を貪る舌ぐらいである。 「そろそろ限界かしら……正直、ここまで持ってくれただけでも儲けものね。」 その様子を発令所でモニターしていたリツコが、プラグスーツから送信されてくる医学的なデータから客観的な判断を下す。 「マヤ、ミサトに連絡して。……半日以内に作戦を開始しないとシンジ君の努力が無駄になるって。」 今回の作戦はシンジのATフィールド下で行なわねばならず、シンジが意識を失ってからでは何もかも遅いのだ。 「シンジ君、もう少しよ。今からそっちに救援が行くわ。」 リツコの声がヘッドセットから聞こえたのか、シンジの右手がのろのろと上がる。 ……口が塞がってるので、言葉では返事できないのだ。 『シンジ君が常人並みの精力ならとっくに腎虚で死んでるわ。やはり、そっち方面も強化されてたみたいだけど、ここまで長時間だと流石に辛いみたいね。』 ユイが開発した初号機の完成度と予想を上回るシンジの頑張りに感心しつつ、リツコは3日前から各国の報道機関や諜報機関などが散発的に続けているMAGIへのハッキングに対して素早く痛烈な反撃を再開したのだった。 その1時間後、アスカとレイは21番リフトの下部に設置されている内部点検用ハッチからシンジ達がいる電磁檻内部へと向かっていた。 勿論ながら、ハッチ手前までは隔壁を一時的に開いて点検補修用のゴンドラに乗って来たので時間も体力もそんなに使っていない。 やはり内部点検用のキャットウォーク(作業用通路)を伝い、通信機で逐一指示された階段を登り、二人は今回の戦場へと小走りに駆けて行く。 そして、現在日本にいない総司令を除く総ての本部要員が戦闘配置に着き、第一発令所に緊張が満ちた。 「二人とも配置に着いたわね。今度は抜かり無いわよ。音楽スタートと同時にATフィールドを展開。後は作戦通りに。二人とも、良いわね。」 最後のハッチの手前で、ヘッドセット経由でミサトの指示が飛ぶ。 「「了解。」」 ハッチのノブに手をかけたアスカが、後ろに続くレイに振り向かず語りかける。 「いいわね。最初からフル稼動、最大戦速でいくわよ。」 「了解。62秒で終わらせるわ。」 アスカもレイもタイプは違えど大パワー型のエヴァ能力者であり、パワーこそ無いが長期戦向きのシンジとは訳が違う。LCL錠剤に封入されたエネルギーだけでは、全力展開したATフィールドをそれだけの時間しか維持する事ができないのだ。 もっとも62秒でケリを着けるなど、普通ならば無理も良いところである。シンジが頑張って下拵えして、後は止めを残すのみというところまでスズネとコトネの二人を追い込んでいてくれたのでなければ……であるが。 「発進!」 号令に合わせてハッチを跳ね上げ飛び出す二人の少女。 キャプチャー内の何処かに仕掛けられていたスピーカーから突如流れ出すアップテンポなメロディ。 「シンジ君、離れて!」 ミサトの命令に応えて転がり離れるシンジ。 後に残された全裸の少女達に、プラグスーツ姿の少女達が襲いかかる。 胸に伸ばされ、尻に伸ばされ、内股へと伸ばされる二人の少女の白魚の如き繊手。 息が合った同調した動き、的確に急所を狙う愛撫を見て、シンジは感心すると共に背筋に嫌な予感がゾクリと這い上がって来たのを自覚した。 このままでは、負けると。 一糸乱れぬ合わせ鏡のような動きの故に。 シンジは、この三日間さんざん二人の相手をしたおかげで、彼女らの身体のことを本人達よりも詳しく把握していた。……激しく愛した場合、コトネの方が感じ方が若干鈍くなるという事を。 仰向けのスズネとコトネの上にアスカとレイが覆い被さり、胸と胸、腰と腰を激しく擦り合わせ始める。そろそろフィニッシュのつもりだろう。 湿った音がする腰を僅かに持ち上げ、肉芽を摘もうとするタイミングに合わせ、シンジは四人の秘密の花園に向けて両手の指を突き刺した。 コトネには右手中指 スズネには左手中指 レイには右手人差し指 そして、アスカには左手人差し指 その指がクリッと捻られた時、美しい四重奏が響き渡った。 不意打ちで与えられた凄まじい快感のせいでグッタリと下の少女にもたれかかり意識を飛ばすレイとアスカを尻目に、スズネとコトネは再び一人に戻り始めた。 それは、刹那の時間。 二人が一人に戻るほんの直前。 アスカとレイの上から間へと覆い被さるシンジは、一人に戻る途中のスズネに向かって最後の力を振り絞って腰を前に突き出した。 湿った音とキツイ絞め付けが、肉槍が狙い違わず命中した事を知らせ、引き金を引かせる。 二つで一つの絶叫が、白濁液が体内で発射される音と混じり合った時、 「パターン青、消滅!」 イスラフェルはようやくスズネの心の奥へと引き退いたのだった……。 「なんて事するのよアンタ!」 着ているプラグスーツにも負けないほど顔を赤くしてカンカンに怒ったアスカは、力尽きて眠っていたシンジの胸倉掴んで引き起こす。 「あ、惣流さん……」 「あ、じゃないでしょ! あ、じゃ!」 物凄い剣幕で詰め寄るアスカに、シンジは満面の笑みを浮かべて 「ありがとう。……来てくれて助かったよ。」 感謝の言葉を口にする。 「どう責任を……え?」 「今度の使徒を倒せたのは、惣流さんが協力してくれたからだよ。ありがとう。」 素直に感謝され、自分の努力を認められ、今度は怒りでなく照れがアスカの顔を真っ赤に染める。 「ふ、ふんっ! アンタにしては良く分かってるじゃない。その通りよ。」 得意げにしてるアスカからレイに視線をずらして、シンジはこちらにも飛び切りの笑顔を贈った。 「ありがとう。……本当に。」 幾分む〜とし始めていたレイの表情は、その一言だけでパッと綻んだ。 「ありがとう。……感謝の言葉。私、嬉しいの?」 両頬を手で抑えて火照りを冷まそうかとしているかのようなレイの前で、シンジの頭がグラリとマットに再び沈んだ。 アスカがもう手を離してたのも一因であるが。 「碇君!」 「シンちゃん!」 「ちょ、ちょっと、しっかりしなさいよ!」 縋るレイ、ヘッドセット越しに叫ぶミサト、今にも再び引き起こそうとする勢いのアスカに、シンジは目蓋を閉じたままかすれた声で囁いた。 「ゴメン。あと、お願……」 「碇君っ!」 最後の力を使い果たしガックリと全身の力を抜いたシンジに取り縋ろうとするレイを、カティーの冷静な一言が制止した。 「待て! 休ませないと死ぬぞ!」 死という単語に反応して、身を竦ませるレイとアスカに、リツコが追い討ちをかける。 「シンジ君は極度の過労と睡眠不足よ。できるだけ静かに寝かせておいてあげないと、本当に命に関るわ。」 ちなみに、スズネ達が反応していないのは、単に彼女らも疲労困憊して深い睡眠に落ちており、カティー達の言葉を聞いていなかっただけである。 「レスキュー部隊をケイジで待機させて。あと、21番リフトの電磁檻は解除、ゆっくりと降下させて。……よろしいですね。」 ミサトが冬月に確認を取りながら事後処理を開始する。 第七使徒との長く苦しい戦いは、こうしてようやく終わりを告げたのだった……。 福音という名の魔薬 第拾壱話 終幕 遂にユニゾン作戦発動! が、薬に相応しく妖しい仕様になっております。いかがでしたでしょうか? なお、今回は、きのとはじめさん、峯田太郎さん、【ラグナロック】さん、闇乃棄黒夜さん、道化師さん、USOさんに見直しへの協力や助言をいただいております。どうもありがとうございました。 |
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます