福音という名の魔薬
第弐拾参話「今、ここにいるわけ」 悪の組織の根城に君臨する大幹部が鎮座ましまししていても不思議には思えないぐらいにおどろおどろしい薄暗く広大な部屋……ネルフ本部・司令公務室。 その地下の穴倉に設けられた基地の一室で、2人の男が今日も悪巧みに勤しんでいた。 「冬月、職員家族のガード体制はどうなっている?」 ネルフ総司令の碇ゲンドウと副司令の冬月コウゾウである。 「職員家族の大半が第3新東京市に来る事になったよ。こちらに来られない家族は赤木博士が処置した連中で護衛させている。万全とは言えないが、まあ贅沢を言っては切りが無いからな。」 第3新東京に潜入した敵の工作員のほとんどはネルフに捕まり、その大半がリツコの犠牲となった。冬月は、その犠牲者の中でも洗脳処置と簡単な実験で済んだ者150名あまりを、疎開中などで第3新東京以外に住んでいる本部職員の家族を影から護衛する任務に就けていた。 事実上ゼーレの手先にされている日本政府が当てにならず、これからも当てにできる見込みが無い以上、今のところ彼らに打てる最善…と言うか最大限の手と言える。 「そうか。機密保持はどうなっている?」 「技術情報はできるだけ流出を防がせてるが……外部に発注している物だと隠すにも限界があるし、他のネルフ支部から供給されては打つ手が無い。秘匿レベルがB級以下の兵器のデータは知られていると見るべきだな。」 ちなみに秘匿レベルは、本部仕様のエヴァ・パペットや特殊な科学兵器などはA級、ネルフ本部仕様の装甲車や防護服などがB級、普通の技術だけで作られてる兵器がC級以下という等級分けである。 「……敵が使ってくる確率は?」 「無いとは言えんよ。それに、我々なら使わない兵器を使ってくる可能性もある。」 「陽電子砲か……」 筑波の戦略自衛隊技術研究所で開発中の自走陽電子砲のプロトタイプの事である。 陽電子砲とは反物質である陽電子の粒子束を投射し、命中した場所で対消滅反応を起こして莫大な放射線を発生する凄まじく危険な大量破壊兵器である。 「今のところ、アレに対抗できる通常兵器は無いぞ。それにN2爆弾の事もある。流出技術の産物だけに気を取られていられんよ。」 どちらも旧世紀の核爆弾に相当する戦略兵器であり、幾ら要塞都市とはいえ一撃で都市を滅却できるほどの威力の殲滅兵器を何発も食らっては堪ったものではない。 「対抗手段は開発させている。問題は我々の手の内が知られないかどうかだ。」 しかし、だからと言って諸手を上げて降参する訳にもいかない。 「分かった。防諜体制は強化しておく。」 ネルフ本部こそが人類最後の砦、未来への最後の希望なのだ。 「頼む。」 ゲンドウと冬月は、堅くそう信じていたのだった。 鈴原カスミが身に染みついた癖で男子トイレに入ろうとして一瞬立ち止まり、しかし、血の滲むような特訓の甲斐あって直前で気付いて通り過ぎようとした時、 「ん、なんの騒ぎや?」 中から聞こえて来た音がカスミに溜息を吐き出させた。 「随分と稼いでるそうじゃないか。」 普通なら便所の水を流す音に紛れて聞こえないだろう話し声。 「ちょっと俺達にも分けてくれよ。」 どこにでも棲息している“不良”と呼ばれる人種の声。 「嫌だね。」 そして、理不尽な要求をきっぱりと拒絶する声。 「へっ、てめえなんざヤツがいなけきゃ怖くも何とも無いんだよ。」 しかし、毅然とした態度は不良達の癇に障ったようだ。 「さっさと出すもの出したらどうだ? そしたら手荒な真似しないでやるから。」 もしかしたら、トウジに腕ずくで黙らされて萎縮していた連中が、今まではトウジと仲が良くて手を出せなかったケンスケを襲っているのかもしれない。 集団で恐喝する程度の根性でトウジに対抗できたはずもないが、ケンスケの腕っ節程度が相手ならば充分に勝ち目があると踏む程度の小賢しさは持ち合せているのだろう。 水音に隠れ、ボスリと鈍い音がする。 肉と肉が激しくぶつかる音だ。 「……しゃあない。」 カスミは通り過ぎるつもりだった男子トイレの中にズカズカと踏み込んでいく。 「お、おい!」 あまりに堂々とした態度に止めるのも忘れた入り口付近に立っていた男子は、カスミが閉め切られている個室の一つに向かっているのに気付いて漸く制止する。 「ちょい用事や。すぐ済む。」 しかし、カスミは取り合わず個室のドアの一つの前に立つ。 『使用中か。……まあ、常套手段やな。』 ドアの隙間から髪の毛一本を通し、簡単な構造のカギを髪の毛を動かして開ける。 髪の毛にカギを開けるみたいな作業をさせられるのは、勿論ながらバルディエルの使徒能力のおかげである。 カチャン 扉が内側に向けて開くと、ドアの角が中にいた男の一人の後ろ頭にマトモに命中した。 「てっ!」 そいつが頭を抱えてうずくまったおかげで見えた個室の入り口には、怒りつつも呆れている腕組みした長髪の物凄い美少女。 「な、なん…」 迫力と美貌に飲まれて息が詰まる不良3人組と、彼らに囲まれていた眼鏡の少年。 「なんや、チンケなことやっとんなぁ。……見逃してやるから、とっとと消え。」 鋭い眼光に気圧され、思わず肯いてしまいそうになる不良どもは、見張りをやっていた仲間が少女を後ろから羽交い締めにしたのを見て大いに気を良くした。 「よし! 先にこっちからだ。」 目前の情欲に目が眩んで、 「しっかり抑えてろよ。」 3人の不良少年達は、 「そしたら2番目にやらしてやるからな。」 恐喝されそうになっていた犠牲者を放り出して、のこのこと個室から出て来た。 ……カスミの意図通りに。 「いつまでもくっついてんなや!」 いきなり思い切り上体を前に倒しながらしゃがみこみ、すぐに立ち上がる。 その動作だけで羽交い締めにしてた筈の男子生徒が投げ飛ばされ、カスミを3方から囲もうとしていたうちの左側にいた不良男子にぶつかり、折り重なって倒れる。 ……実は髪の毛で持って強引に剥がして投げたのだが、知らない人間から見れば合気道の技で投げられたようにも見えるかもしれない。 「なにっ!」 驚きで動きが止まった残りの二人の真ん中に駆け込みざま鳩尾に拳を一発ずつ。 外見に見合った程度の力しかこめていない拳は正確に急所を抉り、二人の不良を速やかに悶絶させた。 「ふうっ。」 パンパンと手を叩き、個室の奥に声をかける。 「大丈夫やったか?」 ようやく体勢を立て直したのか、眼鏡の少年がフラフラと個室から出て来る。 「う、うん。」 「これから気いつけえや。ほな。」 ともかくも肯いたのに満足して、カスミは見慣れてるが不本意な戦場から撤退するべく身を翻した。 「あ、待って!」 「いやや。男子トイレなんざに長居しとうないわ。」 礼の言葉が咽喉につかえて出て来ない少年をその場に残して。 第2東京市にある首相官邸の一室。 「この頃の奴等の専横は目に余る!」 「そうだ! 特務権限を嵩に着てやりたい放題!」 「少しぐらい工作員を捕まえたからって指揮権まで奪っていくとは度し難い!」 其処で開かれている本日の閣議は、ネルフに対する欠席裁判の場と化していた。 まあ、首都から遠くない都市一つと周辺地域が治外法権の地と化し、そこを得体の知れない髭眼鏡が率いる組織に占拠されてる現状を考えれば同情するべき点もあるが。 「あまつさえ、オーバーテクノロジーの独占! 許し難い態度だよ。」 「それだけではない。奴等の息がかかった企業からの献金が鈍り始めている。」 ネルフとの取り引きだけで会社が充分経営していけるなら、わざわざ政権政党に過剰な献金をする馬鹿もいないと言う事なのだろう。 「それどころか、その他の企業まで同調して献金を減らし始めている。」 しかも儀礼的な額ながら企業献金は続けられている上、他の企業が便乗して横並びで献金を減らし始めた事もあって、見せしめに制裁を下すにもやり難い事この上ない。 「官庁の連中も民間の天下り先が減らされたと嘆いておったな。」 その退潮傾向は単に政権政党に止まらず、影で日本を支配していた官僚組織の既得権益にすら及び始めていた。 「これでは公益法人を増やすしかないではないか!」 まさに構造改革であるが、それをお題目として唱え続けてきた鯉墨首相が直々に選んだ閣僚が改革に逆行するような発言をやらかしても誰も咎めようとすらしない。 「どれもこれもネルフの奴等のせいに違いない!」 それどころか金権汚職や特権を用いての弾圧に慣れ切って自浄能力を失った腐敗した大臣病患者の群は、自分達の権力を物ともしないどころか自分達の持つ利権を蚕食し始めているネルフに向けて筋違いの憎悪を迸らせる。 「これ以上奴等をのさばらせておくのは為にならん!」 頭が二回りも大きく見える癖っ毛の鯉墨首相が、円卓をドンと叩きながら吼える。 「では、どうするのですか?」 太縁眼鏡に広い額で小ずるそうな目付きな如何にも小役人という風貌の複駄官房長官がオーバーヒート直前の閣僚達と首相に問う。 「事態を正常に戻す為、ネルフ本部の接収を!」 「それはまだ早い。」 大臣の一人の発言を、首相が時期尚早だと即座に否定する。 国連の承認無しにネルフ本部に攻め込んだ場合、事後処理がとてつもなく面倒になってしまうどころか、せっかく血を流して獲得したオーバーテクノロジーを国連に召し上げられてしまう危険が高かったからだ。 火中の栗を拾って骨折り損になるのでは、やらない方がなんぼかマシである。 「潜入工作員を送り込むべきだ。」 「それは慎重にしなければならん。」 再三に渡って失敗が続き、その都度痛い目に遭わされてきたので、流石の鯉墨首相にもようやく慎重さらしきものが生まれてきたようだ。 「奴が手を貸してる企業に圧力をかけてはどうです?」 「そんな事をしたら奴からの献金が減ってしまう。」 ゲンドウから直接・間接に続けられている政治献金は1ヶ月毎に5億円。 迂遠な手を打ってゲンドウを怒らせ献金を止められてしまっては、ネルフが痛みを感じて妥協してくる前に党運営が傾いてしまいかねない。 と言う様に出る片端から否定される意見に閣議は次第に活気を失って、いつもの官僚が作成した答弁書の棒読み大会へと戻り、遂には今後の対応策の立案を国防省に丸投げする事が決まってしまったのだった……。 「あ、あの……」 休み時間、ケンスケが意を決して話しかけた相手は、 「なんや?」 シンジの席を囲む女子の輪から外れて自分の席に座っているカスミだった。 「あ、さっきは…その……ありがとう。助かったよ、正直さ。」 頭を下げるケンスケに向かって手をヒラヒラさせて微笑むカスミ。 「ええって。単なる気紛れや。そんな気にすんなや。」 ……実は単なる苦笑であったのだが、美人と言うのは得なもの。苦笑ですらも魅力的なはにかみに見えてしまったのだ。もっとも、それが本当に得なのかは微妙だったが。 キーンコンカーンコーン キーンコーンカーンコーン かような遣り取りをしてる間に予鈴が鳴り響いた。 「お、そろそろ授業やで。席戻りぃや。」 「あ、うん。」 カスミの顔にポーッと見惚れていたケンスケは、言われて慌てて我に返る。 しかし、また見惚れてしまう。 悪意どころか、そこはかとない好意すらも感じられない事もない態度はクラスの他の女子からは感じられないモノだったし、美少女揃いの2年A組においてすら指折りの美人である。たいていの女の子は被写体と割り切れるケンスケほどの男でも見惚れてカメラを出すのですら忘れてしまうのは仕方が無い事なのかもしれない。 彼とて思春期の少年である事には違いないのだから。 「何しとんのや。先生来てまうで。」 「あ、うん。……ホントにありがとう。」 重ねて言われてようやく本格的に我に返ったケンスケが顔を赤くしながらアタフタと自分の席に帰って行く。 しかし、 「ホンマ変なやっちゃな。何ぞあったん?」 相変わらず自分の事には超がつくほどの鈍感であるトウジ…いや、カスミには事態がどう転がり出したのか良く分かっていなかったのだった……。 その頃、第2東京市は国防省にて、 「では北部方面隊から第7師団、東部方面隊から第12旅団と第1空挺団と第1教導団、中部方面隊から第10師団を投入するという事でよろしいか?」 ネルフ本部を仮想敵に見据えた攻撃計画が着々と練り上げられつつあった。 「陸上部隊はそれで良いとして……航空部隊はどうする?」 「重戦闘機200機と爆撃機30機全部の総力戦だ。」 第3使徒戦に投入された戦力すら上回るほどの大盤振る舞いである。 戦略自衛隊がネルフ本部の戦力を高く評価している証とも言える扱いであった。 ……相手方には決して感謝されはしないだろうが。 「海上部隊は『しおさい』が待機してるぐらいだろう? 相手が箱根の山の中じゃな。」 ちなみに『しおさい』とはアメリカ海軍から購入した中古のオハイオ級原子力潜水艦のうちの一隻の事で、もしもの時に備えて常時N2弾道ミサイルで第3新東京市を狙っている戦略原潜である。 「相手が山城では護衛艦の出番は無いからな。空母でもあれば話は別だが。」 「では、うちの輸送艦で第2師団を運ぶというのは?」 「揚陸作戦抜きなら民間の輸送船を徴用した方が良い。」 こうして攻略作戦は陸上部隊と航空部隊主体で行なう事に決定したのだが、決めるべき事はまだ残っていた。 「参加する部隊はそれで良いとして、問題は指揮官だな。」 そう、指揮官の人選である。 これだけの部隊を指揮・統率できる人間は戦自にも数少ないのだ。 「北部方面隊の丘田陸将か、西部方面隊の館陸将…または、中部方面隊の雄沢陸将……うちではこんなところだな。」 「御自身ではやられないので?」 「責任を取るのは現場の仕事だ。我々は成果だけ貰えば良い。」 腐れ官僚主義に毒された陸上幕僚長の発言に、 「言えてますな。では、こちらも指揮は各航空団の団司令に任せましょう。」 航空幕僚長も大きく肯き同意する。 「で、陸はどうするんだね?」 「館は駄目ですな。ネルフに好意的過ぎる。」 「では雄沢か? あの男も油断ならないが……」 「丘田が良いのでは? ネルフ嫌いの堅物だからな。命令されれば否とは言うまい。」 「では、そうしよう。」 来るべき決戦において数万もの兵士の命を預かるであろう司令官は、このようにして選出されたのだった……。 しかも、具体的な作戦の立案すら司令官に丸投げで委任する事にも決まってしまったのである……。 「あ、シンジ様。今日はどんな御用事ですか?」 竹箒で神社の石段を掃き清めている如何にも巫女という装束を身に着けた同級生の少女が掃除の手を休めて深々と御辞儀をしてきたのに、シンジは居心地悪そうに頭を掻く。 「え……ええと……お守りってある?」 「お守りですか? どんな種類のが要るのですか?」 おずおずと尋ねられた巫女服姿の少女…能代ショウコが、欲しい効能について訊ねる。 モノによっては在庫が無い事も有り得るからだ。 「あ、うん。病気が良くなるようにってヤツなんだけど……。」 「病気治癒ですね。ございますよ。」 幸いシンジが所望しているお守りはちゃんと取り扱っていたので、ショウコの顔が明るくなるが、シンジは申し訳無さそうに肩をすくめた。 「56個も……あるかな?」 結構大量に必要だったからである。 「56個ですか……って、いけない。シンジ様をこんな所に立たせておくなんて、何て失礼を。」 在庫を頭で数え始めたショウコが慌てて再び頭を下げる。 「さあ、どうぞこちらへ。」 そして、竹箒を階段脇に置いて案内しようとする。 「え、えっと……箒、置いてくの?」 「シンジ様を御案内するのに箒を持ったままでは失礼ですから。」 素朴な疑問にさも当然だと迷い無く言い切るショウコであったが、やはりシンジには気になるモノは気になるのである。 「で、でも……やっぱり持ってった方が良いと……」 思わずそれを口に出してしまうと、 「シンジ様がそうおっしゃるなら。」 ショウコはいったんは地面に置いた箒を拾い上げ、左手に携えた。 「では、御案内致します。」 シンジは丁寧に頭を下げてから先導して階段を登って行く少女の後ろ姿を追いかけながら、何故、彼女は以前から自分にここまで礼儀正しく接して来るのだろうと疑問に感じていたのであった……。 学校帰りに暇潰しに寄ろうとしたゲームセンターの前で、カスミは中から漏れ聞こえる無粋な雑音に激しい頭痛を掻き立てられた。 「またかいな。……どうして、こう馬鹿が多いんや。」 溜息を一つ吐き店内に入ると、林立するゲームの筐体の迷路を舞台に1対10の絶望的な喧嘩……もとい、えらく殺伐とした鬼ごっこをしている眼鏡の少年と不良学生達、そして迷惑そうにしていながらも逃げるに逃げられないで途方に暮れている一般客がカスミの視界に入ってくる。 またも騒動にぶち当たったのは、トウジ…いや、カスミとケンスケの行動範囲の多くが重なっていると言う事と、どうやらケンスケが複数の不良グループに目を付けられて追い回されていると言った事情があるようなのだが、そこまではカスミには分からないし、知る気も無い。不良達の目当てが、金なのか、それともケンスケ秘蔵写真のネガなのかと言う、ケンスケが追われている理由にも関心は無い。 ただ、遊ぼうとしていた場所でドタバタ騒がれていると気に障る事この上ないし、回れ右して知らんぷりをできる性格でも無い。 「うっとうしいわ! 外でやれ! 外で!」 騒がしい店内の隅々にまで冴え渡るアルトでカスミが啖呵を切ると、不良学生のうちの半分近くが肩を怒らせてのし歩いて来る。 「何だ、お前!」 そのうちの一人が襟首を掴もうとしてきたので、カスミはそいつの顎を平手で撫でた。 ただし、かなりのスピードで。 「ワイの事はどうでもええ。外に出るのか出ないのか……どっちや?」 平衡感覚を失って床とキスしようと前のめりに倒れる男をバックステップで躱し、カスミはもう一度店内で喧嘩をしている連中全てに警告する。 これ以上面倒をかけるようなら本気でやる、と。 気迫にすっかり飲まれた情け無い不良どもがスゴスゴと出て行くのに合わせて、店の出入り口近くに陣取っているカスミに心配そうな声がかけられる。 「お、おい。大丈夫なのかね?」 「大丈夫や、店長はん。あんな奴等に負けるワイやあらへん。」 それに満面の笑みを返したカスミは、目元を引き締め踵を返した。 それはもう自身たっぷりな歩調で。 まばらな拍手を背に受けて。 店を出たら待っていたのは不良グループ10人だった。 ……のびていたヤツも、どうにか肩を貸して貰って立っていた。 「待たせたな。で、あんたら、ここらで喧嘩に都合良いとこ知っとるか?」 さっそくカスミをおっとり刀で取り囲もうとした不良学生であったが、流石にこうまで言われてすぐさま始めようと言うほどの馬鹿はいなかったようだ。 ……もしかしたら、単に脅えて口火を切るに切れないだけかもしれないが。 「おら、付いて来い!」 先導する一人の後にカスミが堂々とついていくと、その後を残りの不良が歩く。 ……傍目からだと、女王様がお供を連れて歩いているように見えるほどに堂々と。 後ろの連中が携帯電話を駆使して何処ぞに連絡しまくっているのを、そ知らぬ顔で。 「どうぞ、粗茶ですが。」 「あ、ど、どうも。」 神社の境内に建てられた見慣れぬ真新しい木造家屋に案内されたシンジは、上座に座るよう促され、茶菓子を進ぜられ、落ち着かなさげに軽く頭を下げた。 「では、ご所望の物を用意して参ります。こんな粗末な所で申し訳ありませんが、しばらくお待ち下さいませ。」 それを見なかった風で三指ついて頭を深々と下げたショウコに、 「い、いや、その……良い雰囲気の部屋だと思うけど。昔風で、風情があって。」 シンジは慌ててフォローっぽい台詞を何とか口にのぼせる。 「左様ですか。ありがとうございます。そう言っていただけると、こちらとしても御用意させていただいた甲斐もあります。……では。」 改めて礼をしてショウコが退出した後の部屋で、シンジは自分が今どういう状況に置かれているのかを判じかねて何度も首を捻ったのだった……。 「“眠り姫”を仕込まれていたのが12人、“お土産”を持たされていたのが24人、替え玉にすり替えられていたのが11人か。……向こうも色々考えるものだ。」 発令所で青葉から最近移住して来た職員家族の健康診断の中間報告を聞いて、冬月は大きな溜息を吐いた。 ちなみに“眠り姫”と言うのは、ある特定の言葉を聞くと一定の行動を行なったり、仕組まれた別人格が目覚めたりするように催眠暗示を植え付けられると言う処置……もしくは、そういう処置を施された人間を指す隠語で、“お土産”と言うのは体内に埋め込まれて仕掛けられた発信機・盗聴器・リモコン式爆弾などを指す隠語である。 「眠り姫とお土産は赤木博士が処置、替え玉についても10人が本物を救出した後で始末済みです。」 こんな非常にキワドイ会話をわざわざ発令所で行なっているのは、ネルフ職員に日本など各国政府への疑念と警戒心を持って貰う為である。 「残りの1人は?」 「既に殺されていたので救出できませんでした。ただ、事の詳細をマスコミ各誌と国連にリークしましたので、以後は同様の手口の犯行は起こらないと思われます。」 目標を殺してすり替えるという手口で工作員を第3新東京に潜入させようとした某北の大国は、その残虐非道な手口を証拠付きで全世界に公表されて袋叩きに遭った。 見せしめとしては十分な効果であろう。 「そうか。」 それでも、瞑目した冬月の…ファイルバインダーを持つ手が震える青葉の…悔しそうに唇を噛み締めた職員達の憤りや、大事な家族を失った者の悲しみは癒されること無く横たわっていたのだった……。 三方と言われる白木の台の上に広げられた和紙の上に山盛りに載せられたお守り袋を捧げ持ったショウコが戻って来たのは、15分ぐらいも経った頃であった。 「お待たせ致しました。」 音も無く目の前に差し出されたお守りの山を見て、シンジがポケットから財布を取り出しながら訊く。 「ありがとう。……で、これ、幾ら?(これだけ数が多いと、財布の中のお金じゃ足りないかも。ここに来る途中で下ろしてきた方が良かったかな?)」 「とんでもありません! シンジ様からお代を頂くなど。どうぞお納め下さい。」 物凄い違和感に襲われたシンジはとうとう訊ねる。 「え……えっと………何故?」 「何故と申されますと?」 「何故、僕にこうまで良くしてくれるの?」 そう訊ねられ、ショウコは居住いを正して三指をつき、額が床に着くほど頭を下げた。 「もし、よろしければ…シンジ様をこの神社の祭神の一柱として祭らせてはいただけないでしょうか?」 「は…はひ?」 予想外と言うか突飛と言うかな申し出に、シンジの思考がしばしフリーズする。 「もし、承知していただけるのでしたら、ここにあるモノは私を含めてご自由に御使い下さいませ。」 「へ?」 「もっとも私自身は以前よりシンジ様のモノですので、あまり旨みが無いと感じられるかもしれませんが……」 「ちょ、ちょっと待ってよ! いったい、どうしてそんな話に!」 展開の激しさと言うか尋常で無さにうろたえるシンジに、 「先日、父を説得してシンジ様を祭る事を許していただきました。そこでシンジ様の為にこの社を建立してお迎えにあがろうかと思っていたのですが……まさか、シンジ様の方から来ていただけるとは思っていませんでした。」 とっても嬉しそうに弾んだ口調で答えるショウコ。 ……もっとも、説得が成功したのはグラサンをかけた顎鬚の男の暗躍のおかげと言うのも大きいのであろう。ショウコは知らない事であったが。 「……え? って、ことは……ここって僕の為に建てたの?」 「はい。……お気に召しませんでしたか?」 ちなみに建築費の全額は、新たに氏子に加わったゲンドウの寄進から出てたりする。 「いや、嬉しいよ。……ありがとう。」 未だに頭を下げたままのショウコにいざり寄り、抱き上げて目を合わせる。 「……泣いてるの?」 「嬉しいのに、涙が…止まらなくて……」 困り顔で笑い、おまけに涙を滲ませる難易度が高そうな表情のショウコの唇に 「涙、止めてあげる。」 シンジの唇が重ねられ…… 「あ゛」 ……ようとした時、鈍い痺れと痛みがシンジのすねを駆け巡った。 「シンジ様っ!」 「あ、足……痺れた……」 そう。正座から立ち膝に移行したせいで、足が痺れてしまったのだ。 ……シンジが正座に慣れてないのが敗因であろう。 思わず吹き出してしまいそうになるのを必死に堪えるショウコを見て、こんなのも良いかな……とか思いつつも恥ずかしさと痺れで唇を噛み締めるシンジだった……。 「ここでええんか?」 案内された路地裏には、思い思いの武器を持ったガラの悪い男が数十人集まっていた。 「勝ち目があるとでも思ってるのか、馬鹿め!」 明らかに中学生ではなく高校生や暴力系自由業の人間までもがカスミを十重二十重に取り囲む。 「顔に傷つけるなよ、値が下がる。」 顔に傷のある20台ぐらいの男が自分では冷静だと思い込んでる指示を出し、 「おとなしく降参したらよ、気持ち良く天国にいかせてやるぜ。」 大柄な男が下品でとても受け入れ難い提案をする。 「イク、イクってな。」 もう勝った気で下卑た笑いを上げるチンピラどもに向かって、カスミは大きく肩を落として長々と溜息を吐いた。 「あんたらアホか? ワイがんな事聞くと思っとんのか?」 心底呆れて両手を軽く広げたところに、 「やっちまえ!」 路地の前後から鉄パイプを持った4人が殴りかかった。 前から2人 後ろから2人 音を立てて振り下ろされた凶器が両肩と背中に当たる瞬間カスミの姿は一瞬ブレ、ガツンとアスファルトを叩く甲高い音が鳴り響いた。 「「「「グワッ!!」」」」 地面に激突し交差したパイプの先をカスミが4本まとめて踏みつけると、凶器は持ち主の手首をグキッと痛めて引き剥がされる。 「男らしゅうないなぁ。いきなり得物持ち出すんかい?」 たおやかな見た目のお嬢様が事ここに及んでも未だ何事も無かったように笑みを浮かべている姿は、いかつい男が同じ態度を取っているより更なる恐怖を湧き出させる。 圧倒的多数で包囲しているはずのチンピラ達は、早くも激甚な後悔を覚え始めていた。 「ええい! 休ませるな! 相手はたかが女一人だ!」 その恐怖を打ち消すべく怒声を上げると、大柄な男は自らカスミに殴りかかる。 が、自信を持って放った渾身の右ストレートはカスミの右掌でとてもあっさりと受け止められ、逆関節を極められながら横の壁に向かって背負うように投げ飛ばされた。 「ぐへっ!」 上下逆さに壁に叩きつけられた大柄な男は、腕を有り得ない方向に捻じ曲げたままズルズルと地面にずり落ちた。 「野郎! よくも兄貴をっ!」 次の男は大振りのナイフを小脇に抱えて自分諸共吶喊してきたが、カスミはそのナイフを2本の指で挟んで捻って取り上げ、持ち主はさっきの大柄な男に向かって蹴り飛ばす。 「武器の扱いがなってないのう。それに…」 そのナイフをリーダー格らしいのが懐からもたくたと取り出した黒光りする物に向けて投げつける。 と、それ…ロシア製らしき密造拳銃…を綺麗に真っ二つにしたナイフは袋小路の壁に柄まで突き刺さった。 「てめえ、この拳銃が目に入ら……なっっ!!」 惰性でカスミに向けられた拳銃から銃身がズルリと落ち、部品がバラバラと地面に散乱していく。 「そのオモチャが……なんや?」 表情は確かに笑っている。しかし、目は決して笑っていないのにリーダー格は気がついた。……気がついてしまった。 「て、てめえ…こんな事をしてただで済むと……」 それでも虚勢を張る男に、カスミは静かに告げた。 「思うてへんよ。せやけど……次は殺すで。」 ごく当たり前の事を言うような……次からはコーヒーに砂糖を入れると言うのと同じぐらい気負ったところの無い口調で告げられた宣告に、チンピラ達の背筋に寒気が走った。 生存本能と言う名の。 これ以上逆らったら必ず殺されてしまう、と。 全員が、そう確信した。 「ほなな。」 絶望的な敗北感と恐怖に打ちひしがれたチンピラ連中がへたりこむ路地裏から、カスミは悠然と立ち去った。 息一つ乱さぬままで。 そして、 この時の出来事こそが、 第3新東京にその人ありと噂されるスケバン 鈴原カスミの伝説の発祥であった。 まあ、本人にそんな気は毛頭無い……と言うか、ぶっちゃけ迷惑に感じるだろうが。 「とうとう雌雄を決する時が来たようね。」 金の長い髪持つ青い目の少女が、闘気を漲らせる。 「譲る気は無いの?」 応じて、茶色の短い髪したタレ目がちな少女が最終確認をする。 「愚問ね。そっちも無いんでしょ?」 「そうね。」 視線をチラリと横…今回の対峙の原因たるモノ…に向け、再び互いに向け直す。 自らの力を人より多少優れている程度に抑えている総身を覆うATフィールドはそのままに、それぞれが人であった時に鍛えた技の構えを取る。 アスカは右足を心持ち前にして肩幅に開き、両拳を胸の前で軽く握る。 マナは若干猫背気味で両足に均等に体重をかけ、手は握らず腰の高さで構える。 間合いはあって無きようなもの。 互いに互いの姿が目で見えるという事は、すなわち攻撃範囲内だと言うことなのだ。 相手の構えから攻略法を互いに練り始める。 先に動いた方が不利に……いや、負ける。 2人はそう睨んだ。 互いに相手があらゆる攻撃に対処可能な姿勢であると看破したのだ。 それが、いきなり掛け値無し全力のビームを撃つ事だったとしても。 であるからには、その体勢が崩れてしまった方が負けるのは自明の理。 気詰まりのする睨み合いと足捌きでじりじりと変わる位置関係で相手が根負けするのを待ちながら、“力”と“雷”の天使を身に宿す2人の少女は相手を叩きのめすべく己の中の力を練り上げるのだった。 表情にも周囲にも一切悟らせないままで。 「はい、どうぞ。」 シンジがその少女にお守りを渡す事ができたのは、第3新東京の遅い日没よりも更に2時間以上が過ぎた頃合だった。 「ありがとうございます。」 頬を紅色に染めてお守り袋を受け取った日生フブキの肌には2週間前までの幽鬼や亡者を思わせるカサカサした土気色の残滓は無く、健康的な色艶を取り戻していた。 骨すら見えた体付きも女の子らしい丸みというか柔らかさを再び備え、抗癌剤の副作用で抜け落ちていた頭髪も未だ短いながらも生え揃い始めている。 見た目だけで判断すれば、明らかに快方に向かっていた。 「で、今日の約束の方だけど……本当にやるの?」 「はい。シンジさんなら……いえ、シンジさんが良いんです。」 今まで見舞いに来る度にディープキスやらペッティングやらと段々エスカレートしていく“お願い”も、いよいよ行きつく所まで行きつこうとしていた。 「じゃあ、いくよ。」 唇を重ねたシンジは、舌をフブキの口の中で暴れ回らせながら簡素な病人服をはだけて右手を侵入させる。脇腹から背中に、背筋をツツッと撫で上げて首筋に、さらに脇の下を通って慎ましやかな膨らみへと、丹念にゆっくりと右手を滑らせ揉み解す。途中でコリッとした“しこり”があっても気にせず続けると、しこりは直ぐ柔らかい周囲の肉に溶けて無くなる。……膨らみの先端にあるコリコリとした突起以外は。 「ん〜! ん〜っ! んん〜っ!」 そのやらしいしこりを指の腹でうにうにすると激しく身悶えるが、シンジはフブキの頭の後ろに左手を添えて口を封じたまま逃がさない。 「んんんっ!」 口の中で絶叫をこだまさせ爪先までぐったりと脱力した少女の秘密の翳りに、シンジの右手が容赦無く襲いかかる。 「んん〜っ! ん〜っ!」 イッたばかりでこの上なく敏感になっているところにタッチされて羞恥だか抗議だか喘ぎなんだか分からない叫びを上げるが、相変わらず口は封じられたままなので意味を紡ぐ事は出来ない。 くちゅ…くちゅ……くちゅ……… 替わりに秘密の洞穴から染み出してくるヌルヌルとした恥ずかしいよだれが、シンジの指をフブキの身体の正直な本音で湿らせる。 「んっ! んんっ! んっ!」 未発達の襞々をなぞって弄び、何度も何度も小さい極みの波を起こしてフブキの精神を翻弄し、僅かに残っていた理性や羞恥心を押し流す。 「むっ! んぐっ! ぐっ!」 奥まで入れて傷つけないよう、浅く、優しく、丁寧に。 「んん〜〜っ!」 襞をなぞりながら親指の腹で肉芽に触れると、目を大きく見開き手足をパタパタ痙攣させて……パタンとぐったりベットに沈んだ。 呆然と虚空に視線をさ迷わせるフブキから唇を離したシンジは、肉芽を細かく震わせながら舌でうなじを舐めてあげる。 「あっ! はぁっ! いやっ! やっ! ああっ!」 するとフブキは強い刺激に目の焦点をますますボケさせながら甘い悲鳴を迸らせる。 「ここで止める?」 ピタリと手を止め耳元で囁くと、フブキは涙を流しつつ答える。 「やっ! いやっ! もっと! もっとぉ!」 すがりつくフブキから身体を離し、両足を押し開く。 「じゃあ、いくよ。良い?」 「うん、きてぇ……。」 快感でたっぷり蕩けた頭で捻り出した誘いの言葉に甘えて、シンジは怒張した肉槍を不似合いなほど小さな割れ目に突き刺した。 「あ、あああっ!」 大きな大きな苦痛と快感を訴えるひときわ大きな悲鳴が病室中に響き渡る。 しかし、次の瞬間から身を焦がす愉悦に翻弄される嬌声だけに取って代わられた。 シンジのATフィールドと感応し、繋ぎ合わされているフブキの肉の器がシンジ専用にチューンナップされてゆくのだ。 段々とシンジ色に染められていく肉体に引きずられて心が変わってゆき、変わりゆく心のカタチが身体そのものの変化を促し、己があるべき……いや、そうありたい姿へと少しずつ、少しずつ変わってゆく。 ヒトに定められた限界を超え、常識の垣根を超え、劇的なスピードで。 「あっあああああ!!」 そして、シンジの遺伝子を含んだ白い液体を一滴残らず流し込みフブキの子宮を灼いて極みの法悦境に堕とした時、フブキの体内から癌という病魔は残らず駆逐され、新たな病魔が代わりに根深く巣食った。 シンジへの依存という、新たな……そして、治すのが更に難しい心の病が。 ただし、それが不幸なのかどうかは本人だけが決められる事だった……。 両雄…いや、どっちも女性だが…の対峙が始まってから既に2時間。 戦いは互いの精神力を削る神経戦と化しつつあった。 「ねぇ……今回は譲る気、無い?」 休戦と言うより労せず今回の勝利を得ようとするアスカの提案は、 「前回譲ってあげた時の約束、忘れたの?」 マナによって一蹴される。 「うっ……お、覚えてるわよっ!」 僅かに動揺して視線を若干逸らすが、つけ込めるだけの隙は見せない。 「でもアンタ、その後でシンジにねだって御馳走して貰ったじゃない! もう無効よ! それに後でお風呂の順番替わってあげたじゃないの!」 「それとこれとは話が違うんじゃないかな?」 口では勝負がつかないが、さりとて実力行使でも勝負がつくかどうか分からない。 だが、長くなりそうだった夜は唐突に終わった。 「お、美味そうやな。」 気付いていなかった訳では無い。二人とも。 「駄目っ!」 ただ、対処するだけの余裕が無かっただけだった。 「待って!」 それが、致命的な事態を招いた。 2人の制止も虚しく、2人の争いの原因であったシンジ手作りシュークリームの最後の一個は後からやって来たカスミの腹の中に納まってしまった。 「う、美味い! ……こりゃ、センセの手作りやな。」 さっきまで対峙していた2人の視線が絡み合う。 やる? もちろん。 ダンッ! 床を壊れないギリギリまで軋ませ、音の壁をソニックブームが起きないよう歪ませ、人型をした弾丸が部屋の中を舞った。 アスカは右から、 マナは左から、 さっきまでシュークリームが載せられていた皿があるテーブルを廻り込み、 華麗で抜群で完璧なコンビネーションで、 ドグワシッ!!!! 練り上げられ溜め込まれた渾身の力をこめた拳が、 カスミの両頬を挟んだ。 「ぐはっ!」 最強格の物理的パワーを有する2人の使徒っ娘の同時挟撃に、さしものカスミも一撃でのされ、ダイニングルームの床に突っ伏したのだった。 第3新東京市で消費される物資は、主に鉄道やトラックを用いて外部から搬入される。 使徒迎撃要塞都市である第3新東京市の農業・漁業生産力はほとんど無く、工業生産力も一部軍需物資に著しく偏っており、食料品から耐久消費財、果ては新聞や娯楽用品に至るまで外部からの輸入に頼るしかなかった。 「戦自の襲撃だと?」 しかし、とうとうその弱点を突く敵が登場した。 「はい。公式発表ではトラックがテロリストに襲われた事になっていますが、間違い無く戦自の特殊部隊の犯行です。ただし、証拠を掴むのには失敗しました。」 そう、日本政府である。 今回襲われたのは、日重から武器・弾薬・予備部品などを輸送している途中のトラック5台で、車列の前後に位置していた護衛車両4台ごと全滅させられていた。 しかも、ネルフが管轄している地域の外で。 「マスコミは?」 司令席に座るゲンドウの問いに、青葉が答える。 「日本政府が押えているらしく、政府発表に沿った情報しか流しておりません。」 報道管制と物流規制。 丸っきりの戦時体制突入であった。 「そうか……ん?」 実にタイムリーに鳴った電話の受話器を取ると、ゲンドウの鼓膜を聞き慣れてしまった声が震わせた。 「このたびは、まことにお悔やみを申し上げます。ですが、テロに屈してはなりません。尊い犠牲を無駄にせぬた…」 「何の用だ?」 いきなり始まった相手の長広舌を遮り、短く問うゲンドウ。 「なんだね、せっかくこっちが丁寧に挨拶してるのに。不愉快だ。」 そんな態度が癇に障ったのだろうか、電話の向こうの声が不機嫌絶頂になる。 「こちらは色々と忙しい。用事がそれだけなら切らせて貰う。」 しかし、ゲンドウは落ち着いたまま静かに応対する。 「今回のような事件を繰り返さぬ為にも、我々は協力し合う必要があります。」 それを電話越しに読み取って揺さぶりが今回も不発に終わったと察した相手は、演説調で用件を言い切った。……様々な意図と毒刃を背中に隠した言葉を。 「我々に何を期待する気だ?」 「色々な事をです。我々は前向きに話し合う用意があります。」 電話越しに言葉の白刃が激しく切り結ばれ、 「我々にも話し合う用意はある。箱根の旅館には皇室御用達のものもある。一国の首相をお迎えするに相応しい格式だと存ずるが。」 互いに互いの有利になるよう状況を持っていこうと一語一語を慎重に紡ぐ。 「いえいえ。この場合、我々が御招待申し上げるのが筋でしょう。」 ただ、今回はゲンドウよりも鯉墨首相の方が優勢だった。 さすがは政争に関しては歴代屈指の才能を持つ鯉墨首相である。 「よかろう。会談の日時はそちらに任せる。」 例えゲンドウが相手でも、自分が攻める側であれば設定した筋書きを押し通すことも可能な弁舌能力が彼には備わっていたのだ。……はなはだ迷惑な事に。 「お待ちしてますよ。」 ゲンドウの言質を取ったのに満足して首相は電話を切り、発令所に静寂が戻った。 「軍需物資は当面備蓄で何とかしろ。敵は未だ民生物資にまでは手を出して来ないとは思うが、油断するな。」 その静寂を破り、司令席から発令所の隅々まで命令が伝達される。 下手をしたら最後になってしまうかもしれない命令を。 翌日、ゲンドウは第2東京市へと出発した。 後事を冬月に託して……。 「ふ…2人がかりたぁ、卑怯やで。」 砕けた顎の自己修復が終わったカスミは、目を覚ますや否や抗議する。 「アンタがアタシのシュークリームを食べたのが悪いんでしょ!」 が、いちおうは介抱していたアスカの語勢に押されてたじたじと後退る。 そして、マナがカスミには聞き捨てならない事をポツリと呟いた。 「でも……カスミって、ハルナちゃんより反応が鈍いのね。」 「な、なんやて!? ワイやって本気になればお前らぐらいチャッチャと倒せるわい!」 その指摘を挑発と取ったカスミは、売るつもりでは無かった喧嘩を店頭に並べる。 「良いわよ。勝てるもんならね。」 フフンと鼻を鳴らしてアスカが応じた時、コンフォート・マンションの一室は一触即発の空気に包まれた。 「でも、ここでやるのは拙いんじゃないかな?」 ……マナが指摘するまでは。 「「あ!」」 ATフィールドの力を己が発揮できる最強レベルにまで高めようとしていた2人は、間抜けな声を上げて沈黙した。 幾ら何でも、ここで互いの持てる全力をぶつけ合う事は拙過ぎるのだ。 ……周囲への被害を考えたら。 「こ、今回は見逃したるわ。」 捨て台詞で事態を収拾しようとするカスミに、アスカは何事か思いついたようでニヤリと口元に笑みを浮かべて誘いかける。 「じゃ、全力を出せるとこなら良いのね?」 「お、おう勿論や。」 その場所とは…… 「え、えらく凄いとこやな……。」 空気が無いが故に輪郭がくっきりとした風景。 荒涼とした岩野原。 地球から永遠に隠された不毛の大地に4人の美少女が降り立った。 そう、その場所とは、月の裏側だったのだ。 「ここなら思いっきりやれるわ。」 自分の思いつきを得意げに自慢するアスカの一方で、 「ありがとう、チカゲさん。」 マナがここに連れて来てくれた功労者に感謝の意を表わす。 「いえ……」 レリエルの使徒能力で3人をあっという間に月まで連れて移動した矢矧チカゲは、照れからか僅かに顔を紅く染めて俯いた。 4人が普段着で月世界に立っていられるのは、それぞれが強力なATフィールドで身を鎧っているからであるが、別に彼女らならばATフィールドを展開しなくても死ぬような事は無い。……衣類などは駄目になってしまうだろうが。 「で、条件はどうするの?」 「どっちかが降参するか、10カウントダウンってとこでどうかな? コアへの攻撃は禁止って事で。」 見物と言うより審判に回ったマナの提案に、 「それでええで。」 「順当なとこね。」 カスミとアスカが各々らしい台詞で賛成する。 彼女らの自己再生能力をもってすれば、コアさえ無事なら自力でどうにか無傷まで回復できるからだ。……人間なら確実に致命傷になるようなダメージでも。 そして、 地上では危なくてとても出せない彼女らのフル・パワーが解放された。 「始めっ!」 審判役のマナの声が空気ではなくATフィールドを震わせると、ゼルエルとバルディエルの力を継ぐ2人の美少女は、互いの腕を振りかぶった。 『遠い……でもっ!』『ワイの勝ちやっ!』 互いに互いの拳の間合いには少々足りない距離で渾身の右ストレートを繰り出す……かに見えたのだが、その一撃は普通の人間の繰り出せるものではなかった。 カスミの右腕は肘から先が伸びてアスカの左頬に突き刺さり、 その代わり、真っ直ぐ伸ばされたアスカの右手の指先から伸びた爪がカスミの首を貫通していた。 「かはっ」 追い討ちに顔面に向け放たれた光線をカスミは辛うじてATフィールドを盾状に展開して防ぎ、腰まである自分の髪を操ってアスカの長い金髪を掴まえる。 「くっ!」 そして、思い切り投げる。 アスカの身体は地球の6分の1の重力で飛び跳ね転がりながらクレーターの外輪山に激突して止まった。 「よっしゃ!」 早くも声帯を復活させ快哉を叫んだカスミであったが、油断したのかアスカが反撃で撃ち放った強力なビームに吹き飛ばされて砕けて固まった堅い大地をごろごろと無様に転がされてしまう。 「ちょ…ちょっとはやるじゃないの。」 彼女にしては最大限の賛辞を呟きながら、ネルフ本部基地の特殊装甲を18枚まとめて貫通できる光線を連続照射して遠距離攻撃手段が無いカスミを追い詰めて行くアスカ。 至近距離での格闘戦とトリッキーな動きで相手を翻弄する戦法を得手とするバルディエルの使徒っ娘であるカスミが相手を遠くに投げ飛ばした時、勝負の行方は決まった。 アスカの勝ちだと。 「アンタね〜、筋は悪くないんだけど、いかんせん訓練不足だわ。」 トレードマーク“だった”黒いジャージを下着ごと焼き払われてぐったりと月の砂にまみれて横たわるカスミに、アスカが腰に手を当てたポーズで見下ろしながら言う。 「良かったらトレーニングに参加する? 毎朝やってるんだけど。」 そのカスミに自分の上着を着せてあげながらマナが誘うと、カスミは大きく肯いた。 「そやな。……特訓して目にもの言わせたるわ。」 自己修復中で引きつりが目立つ口元に苦笑を浮かべながら。 「今度も負けないわよ。」 勝気な少女を持ち前の負けん気で睨みながら。 守るべき者達から陰湿な攻撃を受け続けている第3新東京市に、 「総員第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意。」 ようやく彼らネルフが本来戦うべき敵が襲来した。 第15使徒である。 「使徒を映像で確認。最大望遠です。」 それは光り輝く翼を広げた鳥の姿をして、高みから下界を見下ろしていた。 「衛星軌道から動きませんね。」 日向が見た通り、降りて来るそぶりを見せずに。 「ここからは一定距離を保っています。」 青葉が報告したことは、実は結構大事であった。 使徒が静止衛星軌道と呼ばれている高度3万6000qの円軌道を地球が自転している方向に沿って飛んでいるのではなく、もっと低い高度に位置しながらも相対位置を正確に保っていると言う人類の科学技術では真似が難し過ぎる行為を容易く行なっているという事であるからだ。 「……ってことは降下接近の機会をうかがっているのか、その必要も無くここを破壊できるのか。」 発令所のスクリーンに映し出された第15使徒の姿から相手の能力を簡単に見積もっているミサトに、日向がぼやく。 「こりゃ迂闊に動けませんね。」 「どの道、目標がこちらの射程距離内に近付いてくれないとどうにもならないわ。エヴァ単独では衛星軌道の敵は迎撃できないもの。」 溜息を隠せないミサトに、カティーが訊ねる。 「エルトリウムは?」 以前、第10使徒迎撃戦に使用した宇宙船エルトリウム号のことを。 「準備中。あと5時間かかるそうよ。」 しかし、度重なる工作員の侵入を考慮して爆発ボルトなどの火成品を取り外し、液体燃料を抜いて保管していた宇宙ロケットは、安全基準度外視の突貫作業でさえ発進可能な状態にするのに5時間が必要なのだ。 ……まあ、元々燃料の注入にはそれなりに長い時間がかかるのは確かなのだが。 それでも実に迷惑な話である。 「なら、すぐに使えるものを使った方が良いな。」 それでは急場に間に合わないとロケット打ち上げ案を捨てたカティーが思いついた対案を口に出そうとしたが、 「あれが良いわね。対宙迎撃用ミサイル。弾頭にLCLを詰めてリモコンで爆破。……何分でいける?」 その方法はミサトも思いついていた。 「3分ちょうだい。」 そして、同じくリツコの方も。 何せ、弾頭部分にLCL散布用の仕掛けを配した衛星軌道攻撃用の大型ミサイルをあらかじめ用意しているぐらいなのだから。 ただ…… 『下手をすれば殺傷力のあるモノで放ったLCLで、果たして上手くいくかどうか……』 今までの使徒戦とは少々勝手が違う散布手段に、カティーは内心不安を抱かずにはいられなかったのだった。 黒雲が空を覆い、雨に濡れる市街地の中、道路の真ん中にある出撃口を割って巨大な人型をした兵器が現れる。 紫色の細身の鬼。 人が作りし、人のカタチを模した巨大なカラクリ人形。 エヴァンゲリオン・パペット。 その初号機。 惣流・キョウコ・ツェッペリン博士が裏死海文書に記されていた技術を援用して開発した巨大ロボット兵器のうち、ゼーレの手に渡らなかった量産試験型の設計図を元に建造された最初の機体の名を継ぐモノが。 それに続き、その傍らにせり上がって来たのはエヴァ・パペットの身長の半分ぐらいもある巨大なミサイルが1発だけ装填された巨大なロケットランチャーだった。 「シンジ君、準備と照準はこちらでやるわ。目標をロックしたら、あなたの想いを届けてあげて。」 しとしとしとしと降りしきる雨の中、半自動操縦モードに設定されている機械の巨鬼がランチャーを手に取り、天の彼方へと狙いを定める。 「はい。」 ミサトの指示に、使徒戦では珍しくエヴァ・パペットのエントリープラグに座っているシンジが緊張した面持ちで精密照準用のスコープを覗き込む。 「目標、いまだ射程距離外です。」 しかし、なかなか近付いて来ようとしない。 照準器の中で三角と三つ星…二つのマークが重なろうとした時、使徒が光り輝いた。 「え?」 いや、光輝いたように見えた。 「うわぁああああああ!」 サーチライトの光の如く初号機パペットの全身に照射されている光線で。 「敵の指向性兵器なの?」 「いえ、熱エネルギー反応無し。」 戸惑い混じりのミサトの質問に、青葉が分析結果を報告する。 パイロットは悲鳴を上げてはいるのだが、機体は一切の損傷を受けているように見えないのだ。 「とにかく体勢を立て直す。ルート67で回しゅ…」 「待って下さい! 今…今逃げちゃ駄目なんだ! うぁわぁぁ!」 カティーが出した指示に口答えしたシンジは、パペットの動作機能をロックしてテコでも動くまいとの構えを見せる。 「心理グラフが乱れています。精神汚染が始まります。」 しかし、それは同時に使徒が放つ光線に無防備に身を晒す事でもあった。 「使徒の心理攻撃……シンジ君の心に興味を持ったというの?」 医学モニターの心理グラフが千々に乱れ、シンジが如何程の精神的苦痛を受けているのかをリツコの目に見えるよう示す。 「リツコ、初号機パペットのコントロール……こっちに戻せる?」 この事態に際してミサトが取った対処方針は、 「可能よ。」 「なら、すぐにやって。その後、初号機パペットは現状の姿勢でホールド。シンジ君の生命維持が限界になったら撤退。……良いわね?」 ぎりぎりまでシンジに任せると言うものだった。 「は…はい。」 「葛城二佐! それではシンジ君が!」 「どの道、私達にはシンジ君を信じてあげる事しかできないわ。最初っからね。それよりマヤ、いざとなったら零号機を衛星軌道上まで空輸して仕留めるわよ。」 ギリッと奥歯を噛み締めつつ出されたミサトの指示に、マヤが肯く。 今回もまたシンジの双肩に人類の命運が載せられたのだ。 ……まあ、迎撃に出たのがシンジだけだと言う時点で決まっていたとも言うが。 夕暮れの朱に染まる電車の中、僕は何故か綾波と向かい合って座っていた。 「あなたは誰?」 いや、綾波じゃないのかもしれない。 「碇シンジ。エヴァンゲリオン初号機パイロット。A計画管理責任者。」 綾波だったら多分聞いてこないだろう事だから。 「それは何?」 「僕にも良く分からない。」 だって、僕より綾波の方が詳しいだろうし。 「何故分かろうとしないの?」 「分かろうとした。……でも色々難しくて。」 分かってるのは、使徒が出現したら僕が出迎えに行かなきゃならない事と、使徒と融合した女の子の世話をしてあげなきゃならない事だけだ。 それが何故かは訊いても教えてくれないけど、やるのは納得してる。 「それは何故? 優しくしてもらえるから?」 綾波の顔をしたヒトが、綾波の姿をしたヒトが問いかけてくる。 素朴だけど鋭い質問を。 「それもある。優しくしてもらうのも、優しくするのも好きだから。」 でも、質問して来てるのは誰なんだろう? 「そう。良かったわね。」 もしかして、使徒…なのかな? 「それに、僕が使徒と何とか仲良くできないと殺し合いになっちゃうらしいし。……そんなの嫌だから。」 もし今話してるのが使徒なら、わざわざLCLミサイル撃たなくても僕が言ってる事が伝わりそうで助かるよ。 ……頭は痛いし、気分も悪いし、気は進まないし…だけど、ね。 「キミはどうしたいの?」 だから、今度は僕から訊いてみる。 「何故そんな事を訊くの?」 「……何故なんだろう。そうしたいから……じゃ、いけないかな?」 何故なんだろう? 何故だろう? 何故? な…ぜ…… 「碇君」 「シンジ君」 「シンジさん」 「おにいちゃん」 「シンジ様」 「御主人様」 「先輩」 「馬鹿シンジ」 僕と一緒にいてくれている人達の顔が次々と現れてくる。 「どうして、なの?」 「どうして一人に決めてくれないの?」 「どうして全員と、なの?」 「どうして?」 「ねぇ、どうして?」 僕と一緒にいてくれている人達の声で次々と訊ねてくる。 どうしてって言われても…… 何時の間にかこんなになってたし、誰かを拒むってのも嫌だったし…… みんなも受け入れてくれたし。 だから…… 「何故なの?」 みんなの姿が消え、目の前に綾波の顔がどアップで現れる。 「だから……」 吐息の熱さにドギマギしながらも、視線をピクリとも逸らせない。 お腹を思い切り殴られた時みたいに鈍い痛みが走る。 あれ、また景色が変わった。 ……どこだろ、ここ。 絵の具で塗り潰したみたいに赤茶けた荒野に林立する真っ黒い石碑。 ……墓碑の群れ。 その一つの前に立っている何故かぼやけて良く見えない人の影は…… 『お前には失望した。』 捨て台詞を僕に叩きつけた人は…… 「父さん……」 3年前のあの時、母さんの墓前から逃げ出した時の父さんだった。 「何故だよ! なんで、こんなもの見せるんだよっ!」 僕が捨てられた…… 僕が父さんが突き付けた無理難題から逃げ出した時の事だ。 『そんな事を聞く必要は無い。』 とても冷たい瞳。 「僕だって、僕だって頑張ったんだ。」 『結果が出なければ価値は無い。』 サングラスの奥に隠された、 「なん…なんで……」 『なんだゴミクズ?』 僕を苛めてる連中と同じ…いや、もっと嫌な視線。 「うわああああああああ!!」 なんで、なんでこんなモノ見せるんだよ! 何でぇ!! 「危険です。精神汚染Yに突入しました!」 その頃、発令所では…… 「エヴァ初号機、心理グラフシグナル微弱!」 状況の悪化に固唾を飲む人々が雁首を並べていた。 「葛城さん! もう、これ以上は!」 日向が抗議の声を上げるが、女性陣は全く動かない。 「まだよ。」 血が滲むほど唇を噛み締め、 手の皮が破れるほど拳を握り締め、 それでも見守り信じる事を選んだ彼女達であった。 幼い日の僕。 『母さんは眠ってしまった。』 11年前の…… 「いつ起きるの?」 記憶の奥底に埋もれていた記憶。 おどろおどろしい液体を見せられた日の……母さんが眠ってしまった……世間では死んだってされてる日の出来事。 「僕は……エヴァを……知ってた?」 その時の父さんは、泣きそうな目をしてた。 『このまま起きないかもしれん。』 「なんで!? ねぇ、なんで!?」 僕も釣られて泣いていた。 『おやすみ、シンジ。ゲンドウさん。』 “眠る”前の母さんは笑ってたのに。 『母さんを…ユイを起こす方法はある。』 「ホント!?」 『だが、シンジ……お前が辛くて苦しい目に遭う。』 顔を伏せ肩を震わせ涙を堪えていた父さんの、 「僕…やるよ。」 背中を押したのは僕だった。 とても重い…息詰まるかと思った沈黙は、次の瞬間終わりを告げた。 『お前は邪魔だ。失せろ。』 何か精神的なショックで数日間寝込んだと聞かされた後、長野の先生に預けられたと何処かの病院のベッドで伝えられた時の前の…… 「そうだ。あの時僕は逃げたんだ。父さんと母さんから。」 僕が今まで忘れていた出来事だった。 そして、 「うわっ! うわあああああ!」 とうとう…… 「初号機心理グラフ限界!」 発令所の方でも決断が迫られていた。 「精神回路がズタズタにされている。これ以上の過負荷は危険過ぎるわ。」 撤退か否かを。 「初号機パペットをケイジに戻して。レイと零号機での迎撃に切り替えるわ。」 だが、その決断は遅過ぎた。 いや、最初から無駄だったのかもしれない。 「緊急脱出装置作動! エントリープラグ射出されます! ……制御できません!」 事態がこう動いてしまえば、ここ発令所から彼女らができることは僅かなのだ。 「使徒、急速下降中! 距離25000!」 空中高くまでロケット噴射で飛び上がったエントリープラグ…シンジが乗る脱出カプセルを正確に追尾した使徒の光線が照射し続ける。 「各砲座射撃開…」 「待って! 迎撃は現状でフリーズ! 志願者を地上に上げて。早くっ!」 日向が普通の戦闘のセオリー通り対空砲火で弾幕を張って使徒の勢いを減じさせようとしたのを遮って、ミサトはシンジ特有の対使徒戦闘の準備を整えさせる。 「零号機はJ装備に換装、急げ!」 エントリープラグの緊急回収の為に零号機にジャンプ用ロケットブースターの装着指示が出されるが、それが開始される前に使徒がくちばしに見えるモノを開いてエントリープラグを咥え、謎の光線を第3新東京のあちこちに降らせてゆく。 第15使徒戦は、明らかに新たな展開へと突入していた。 誰の目から見ても。 “私”は困っていた。 『ああっ…ああああっ!』 ほとほと困り果てていた。 父、アダムに似た気配を持つリリンの事が知りたかっただけなのに、その彼の心の奥底を見せて貰っただけでこうなってしまうとは……。 どうしよう。 今、目の前で私が惹かれた優しくて力強い魂が自責の念に駆られて心を閉じ、死んでしまいそうになっているのを感じる。 私のせいで。 何とかしなくてはなるまい……私の為に。 自然と脳裏に浮かび上がった思いに素直に従い、彼を助けるにはどうしたら良いか悩み始めようとしたところで、答えが既に彼の記憶の中に提示されていたのに気がついた。 私も彼の心を支える一人になれば良いのだ。 抗い難い魅力のそのアイディアに飛びついた私は、地上に探索の手を伸ばす。 まずは、彼と同じく巨大な“鎧”にいるリリンに。 「そう。私は駄目なのね。」 ……駄目だ。彼女は私の手に負えない。 激しい恐怖を覚え、すぐに他を探す。 急がねばならない。 彼の心が砕け、閉じてしまう前に。 「いやああああ! やめてえええええ!」 このリリンは駄目だな。 「やだ、こんなの…こんなの見せないでぇ……」 このリリンも駄目か。 「ぅぅ……ひっく……ぐすっ……」 このリリンも私を棲まわせるには耐えられまい。 困った……。 彼の心の在り様を見れば、自分の為にこの娘達の魂が疵付くのは耐えられまい。 さあ、困った……ん? 「くっ……うくっ……」 このリリンは少し違うようだな。 よし、少し深く見てみる事にしよう。 『お前が男の子だったら良かったのに。』 それが、私が覚えている一番古い父の記憶。 そして何度と無く聞かされた言葉。 先祖代々、男子に継承されてきた神社の神主。 でも、私は女でした。 母が流行病で息を引き取った後は、風当たりがますます酷くなりました。 巫女として働いてみても、 後妻さんと仲良くしてみても、 父が私に向ける目は冷たいままでした。 5年前に父が待望していた弟が生まれた事で、ようやく良い方に変わるかと思ったけれど、単に冷たく当たられる事が無くなっただけでした。 良く言えば自由放任の身となった私は、毎月の小遣いを得る為に巫女の仕事を続ける事を選びました。今は衣食住と学費だけは出して貰えていますが、欲しい物一つ買うにも自由になるお金が手元に無いと何かと不便ですし、幼い頃から慣れ親しんできた神社の空気は嫌いではありませんでしたから。 そんな毎日を送っていた私の前に“あの方”が現れたのです。 奥ゆかしくも神々しい“あの方”が。 恐れ多くもあの方と学び舎を共にしているうち、私の中にある願望が生じました。 あの方にこの身を捧げ、一生お仕えしたい……と。 巫女の仕事をやっていたせいでしょうか? 何故か恋人にして欲しいとか結婚したいと思うより先に、そう想っていました。 だから『シンジ様』と御呼びさせていただいていたのですが、どうやら当時は心を汲み取られるのが得手ではなかったのか、気付いてはいただけなかったようです。 もっとも、本当は私の方から踏み出す必要があったのでしょう。 だから田中コナミさんを始めとするクラスメートの皆様がシンジ様の恋人にして欲しいと言い出した時、私も一歩を踏み出したのです。 私もシンジ様の御傍に仕えさせて欲しい、と。 それからの日々は、とても充実して……素敵な毎日でした。 今では、あれだけ私を冷遇していた父にすら御願いを聞いて貰えるぐらいに家族仲も良くなりましたし、料理や掃き掃除でさえもシンジ様の為だと思えば幸せな気分です。 そうして幸せであればあるほど、私の中の思いは大きくなっていきます。 私の人生を薔薇色に変えて下さったシンジ様に御恩返しをしたい。 数ならぬ身ながらシンジ様を支える力の一つになりたい、と。 だから、平気です。 どんなに苦しくても、 どんなに辛くても、 シンジ様の御為ならば。 私は、シンジ様のモノなのだから。 そう私は選んだのだから。 心の奥底の底までもを隈なく見られても、なおも毅然と自我を保っているリリンの姿を目の当たりにして、第15の使徒と呼ばれしモノはある種の感動を覚えていた。 彼女だ……彼女こそ我が依代に……私を託すに相応しい。 本当は隠しておきたいだろう秘密のことごとくを暴かれても変わらずアダムの気配持つモノを想い続けるリリンを見て、私の方も覚悟を決めた。 『汝、力を欲するか?』 心の声で語りかける。 閉じていたATフィールドを開き、相手の心を読み取るだけでなく、相手にも自らの心を読み取らせる。 「え? どなたですか?」 風を震わせる音では無く、思念を読み取りながら一方的に用件を伝える。 『私は“彼”を傷つけてしまった。私では癒す事ができないが、“彼”に“声”を届ける事のできる“力”はある。この“力”を使って“彼”を助けて欲しい。』 このリリンであれば、私が誰でどういう話になっているか分かってくれるだろう。 「分かりました。」 躊躇は驚くほど少なかった。 ……元々、使徒に取り憑かれる覚悟をしてるのだから、決心が早いのも当然なのだが。 私は“彼”の入った入れ物を慎重に地面へと下ろし、お目当てのリリンに触れた。 自分の身体を構成するATフィールドを制御して物質的な質量を放棄し、受け入れてくれた相手の心の奥底に居を構える。 これで良い。 後は、このリリンが上手くやってくれれば、私は…末永く栄える事ができる。 “彼”の傍らで。 これで良い。 後は任せるとしよう。 私は私の力の権限のほとんどを委譲し、彼女の中で静かに目を閉じた。 気が遠くなるほど長い歳月の間に感じていた孤独に震えずに済むだろう今後の日々を楽しみにして……。 「シンジ様……」 神降ろしの巫女となり、使徒の力と記憶を引き継いだ私が選んだ方法は、シンジ様に私の心を余す所無く見ていただく事でした。 「シンジ様……」 事情を全て知った私には、そうするのが一番に思えましたので。 少なくとも一人の女の子の人生がシンジ様の決断によって救われたのだと。 「……だ……能代…さん……」 エントリープラグとか言うものの手動開閉レバーを捻って非常ハッチを開け、生身のシンジ様の御姿を拝見させていただくと、シンジ様はゆっくりとこちらを振り向いて下さいました。 「はい。御怪我とかはございませんか?」 いつものように無造作に近付いて行くと、シンジ様はのろのろとした動作で席を立とうとなさったみたいですが、シートとプラグスーツを結節している固定具を外し忘れているらしく、なかなか立てません。 「どうして……え?」 私がシンジ様に寄り添える位置に来て初めて気付いてくださったようでした。 私が使徒の力を継いだ事を。 私の心がシンジ様に向けて開けっ広げに晒されている事を。 「シンジ様と出会えて、私は不幸じゃなく……いえ、幸せになれたのです。」 勿論恥ずかしいのですが、隠し事をしてしまったら今のシンジ様を説得するのは難しくなるでしょうから。 「それは全員が私と同じように感じている筈です。ですから、御自分を責めないで下さいませ。シンジ様は私達に良い事をなさって下さったのです。」 一片の曇りも無く言い切った私の瞳を覗き込んで下さったシンジ様のお顔が少しだけ綻んだのを見て、私の頬が何故か熱くなる。 「そう…なのかな?」 「そうです。そういう事を気にしてるのは、多分、シンジ様だけかと。」 そう奏上したら、シンジ様の目が皿の様に丸くなった。 「それに、私は……」 更に、言葉を続ける。 「決めて下さったのが、シンジ様で嬉しゅうございます。」 正直で素直な気持ちを。 「あ…ありがと……」 真っ赤になって俯いたシンジ様の御姿に、私は頬がだらしなく緩んでくるのを止める事ができなかったのでした……。 そういう見方もあったんだ……。 僕は、身体の線がぴっちりと出るプラグスーツを着た能代さんのプロポーションに新鮮さを感じながら、驚きを隠せなかった。 何も隠さず心を見せてくれているのは全裸を晒すよりも恥ずかしいだろうに、相手が僕だからって自分から見せてくれるのがとても嬉しくて面映い気分だ。 落ち込んでなんかいられなかったんだね。 僕には、みんなに手を出した責任もあるんだし。 「ありがとう。」 気付かせてくれて。 「ありがとう。」 僕なんかを選んでくれて。 「抱いて……良い?」 「シンジ様の御好きに。」 僕の傍にいてくれて。 伸ばした右手に触れたおとがいを引き寄せ、唇を唇に重ねる。 唇が触れ合うと同時に心も触れ合うのを感じる。 ATフィールドが互いに互いのカタチを保ちながら、互いに互いの影響を刻む。 背中に回した左手で能代さんの柔らかな身体を僕の身体に押し付け、感じる。 触ってるのか触ってないのか、 舐めてるのか舐めてないのか、 入れてるのか入れてないのか、 僕にも良く分からない。 触れられてるのか触れられてないのか、 舐められてるのか舐められてないのか、 咥えられてるのか咥えられてないのか、 そんな事はどうでも良い。 お互いに気持ち良く、 お互いに支え合う事の方が大切なのだから……。 「うわ……この映像資料も18禁シール貼らないといけませんね。」 濃厚なキスを交えながら肉槍で貫き抉っているショウコのお尻を両手で揉みしだいているシンジを見て、マヤが頬を僅かに赤く染めつつ呟く。 「ATフィールドによる精神領域での愛撫も併用しているのね。羨ましいわ。」 医学モニターに表示されているデータを元に仮説をまとめたリツコも、羨望の眼差しを向けながら傍観に回る。 取り敢えず、情勢が現状のまま推移するなら彼女らの出番は無さそうだからだ。 しかし、まだ忙しい人は別にいた。 「他の志願者の回収、急げ!」 「警戒シフトをRに移行して。」 使徒戦の混乱に紛れて蠢動する連中が起こそうとする被害を阻止する為に、カティーとミサトの指示が発令所の中を飛び交う。 使徒との戦いよりも人との戦いが主軸になり始めているのでは無いかと、発令所に詰めているオペレーター達は、実際に最前線に立つ保安部の職員達は、発令所の指示を館内放送で聞いている一般職員達は思い始めていた。 『何故、我々がこんな仕打ちを受けなければならないんだ。』 と言う憤りと共に。 この状態に慣れてきたら、どうにか分かるようになった。 要は、いつもよりちょっと力加減が微妙になっただけなんだ。 ATフィールドで胸の先をちょんと弾くのも、お尻の穴に人差し指を差し込んでグリグリ弄るのと同じようにできるぐらい自然にできるようになった。 これで、どっかのHな漫画みたいにアレが変形したりしたら便利かも。 ……って、え? 変な事を考えてしまったせいか、なんか僕のアレから妙な感触がする。 ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ… 「あ、あふっ……シ…シンジ…様……っ!」 まるで2つに分かれた上、能代さんの中で勝手に暴れてる様にぐぬぐぬと。 じゅるうっ…じゅぷっ…… 「そ、そっちは…あうっ!」 おまけに、そのうちの1本が抜けて解放されたと思ったら、今度は別の穴へと突貫したらしく凄くキツイ絞め付けを味あわせてくれる。 ど、どうしたんだろう? 僕の身体。 ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ… いよいよ見た目まで化け物になったのかと脅えつつ自分のそれに手を伸ばすと、僕の手は素通りして勃起してる僕のアレを掴めた。別に肉体的に変化している訳じゃなくて、ATフィールドで擬似的に半実体化してるらしいのに、少しだけホッとした。 ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ…ずぶちゃ…じゅぶっ… 「ああっ! ああうっ!」 おっと、そろそろ僕も限界だ。 綺麗な長い黒髪を振り乱して何度も小刻みにイッてる能代さんを見てるうちに僕の中でも色々なものが膨らんでゆく。 愛情に劣情に性欲に保護欲…上手く言えないや。 どぷどぷどぷどぴゅっ! とにかく色んな気持ちが能代さんの中に刺さったままの僕のアレから弾けた。 たっぷりと。 繋がったままの合わせ目から溢れて零れてくるほど。 「一生…お傍…に……」 ぐったりと無防備に身体を預けて来る能代さんの重みを快く感じながら、僕は目蓋を閉じたのだった。 「パターン青、消滅!」 いつもの青葉さんの報告を、遠くなる意識の片隅で辛うじて確認して……。 アラエルと名付けられた第15使徒との戦いが終結してから3時間後。 「どう、シンジ君の具合?」 ミサトはネルフ中央病院に収容されたシンジの容態を聞きに、同病院の中にあるリツコの研究室の分室に顔を出した。 「悪くないわ。第3使徒戦の時の症状より軽いぐらいよ。」 親友の質問に書類から目を離さず答えるリツコ。 いちいち仕事の手を休ませる余裕が無いほど忙しいのだ。 「過労…か。」 ただ、ミサトの方もわざわざ邪魔をしに現れた訳では無い。 彼女の立場からすると使徒戦の主戦力であるシンジの体調を把握しておくのは当然以前の問題である上、通信で訊ねた場合だと取り敢えず情報を伏せておくという事が難しいからである。 「ええ。精神に強いストレスがかかったにしては軽い方よ。どうやら後遺症の心配も無さそうだわ。……肉体的にはね。」 書類の山から新たな書類を引き出して目を通しながらのリツコの報告に、 「それって……」 思わずミサトが口ごもる。 あの戦闘の時にシンジが受けた心理ダメージがどうなっているのかを心配して。 「心の方まではどうにもならないわ。ロジックじゃないものね。」 リツコもそれは心配してはいたのだが、だからと言って科学が作った道具で計測できるようなモノでもない。 「変わんないわね、そゆトコ。……ん? それ何?」 心配でオロオロするよりも先にやっておくべき事はやっておくべきであるとの姿勢に感心と共感を覚えながら、ミサトはリツコが処理している書類が先の使徒戦に関するモノで無いのに気付いて訊ねる。 それが何かと言うと…… 「ああ、これ。シンジ君が担当してる患者のカルテよ。」 特殊病棟に収容されている難病患者達の病状や素行、面会者や指し入れなどを事細かに記した報告書であった。 「シンジ君が担当してるって、何か効果あるの?」 「大有りよ。……と言うか、有り過ぎて落ち込んでる所よ。」 自分で考えた事ながら……と、リツコは左手を額に当て小さく息を吐く。 「どういうこと?」 「シンジ君が話し相手をするようになってから、全員が明らかに回復の兆候を見せ始めていたんだけど……先日から病状がはっきり快方に向かい始めたのよ。」 「へえ、良い事じゃない。」 「ええ。でも、医学の限界を思い知らされたようで…ね。」 シンジによる疾患の治癒効果の目覚しさを見せつけられ、今まで培ってきた医療技術の研鑚が無意味だったと言われたような気になって、勝手に落ち込んでいたのだ。 「なるほど、ね。」 事情を理解したミサトが、ミサトにしては珍しく何と言って良いのか分からないと言う感じの複雑な表情になる。 「だけど、原理の解析は進めてるわ。……真似は出来そうに無いけどね。」 二の句を言い淀むミサトに向けて、吹っ切った笑顔を見せたリツコが苦笑の残滓を引きずりながら話を続ける。 「調査の結果、シンジ君から手渡されたお守り袋の中から微弱なATフィールドが検出されたわ。患者自身の治ろうとする意志が、このATフィールドを触媒にして自らの身体を治したんじゃないかと睨んでるわ。……まだ、仮説に過ぎないけどね。」 お守り袋の中に入れられたシンジの髪に込められた祈りがカギを握っているのだろうと判断していると。まだ、そう決めつけるのは早いとも思ってはいるのだが。 「凄いわね、それ。」 「そうね。もし、本当に御利益があるって分かったら“あの神社”に人が殺到するんじゃないかしら。」 現代医学では治療が難しい病気にですら効果が現れているのだ。 このデータが外部に流出したらと思うと、リツコは全身に鳥肌が立つのを覚える。 「難しいとこね。……碇司令の許可が出るまで部外秘にした方が良いかもね。」 下手をすると日本各地どころか世界各地から重症患者やその関係者がわんさと押しかけて来る可能性があるのだ。 第3新東京市の収容限界すら超えて。 「そうね。碇司令が帰って来たら処置を聞いてみましょう。」 だが、彼女らでさえも知らなかった。 第2東京へと会談に赴いたネルフ総司令 碇ゲンドウが、現在、首相官邸に半ば軟禁されていると言う事実を……。 福音という名の魔薬 第弐拾参話 終幕 ふう。第15使徒戦終結です〜。これで使徒も残すところ2体。話も段々大詰めが近くなって来て、裏設定も色々表沙汰になってきてますねぇ。 今回の見直しと御意見協力は、きのとはじめさん、【ラグナロック】さん、峯田太郎さん、夢幻雲水さん…でした。皆様、大変有難うございました。 |
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