「良い夜だな、彼が言う通りこんな夜だ、血も吸いたくなるよねっ」

草を踏み砕く音。

「天には雲壱つ無く、満月は己を映す鏡のよう」

枝を踏み抜く音。

「うん?  ああ、少し月に見とれていたんだ」

何か粘ついた液体を踏む音。

「そう言わない、今夜は本当に良い夜だよ、全てを開放したくなる程に」

肉を踏み潰す音。

「うん、分かってる。既に残りは一人だ、任された仕事はするよ」

骨を踏み躙る音。

「では行こう、最後の狩りの時間だ。逃げ切れるかな? 狐ちゃんは♪」

眼球を磨り潰す音。





『第零夜』



「クソッ!! 何なんだよあれは!!」

必死で走る男、答える者は無く、ただ無常なまでに冷たい月光が彼を照らしていた。とは言え森の中の視界は最悪、1m.先も見えない状況でこの男は全力疾走を続けている、それも常人のフルスピードを遥かに凌駕する速さで。

「信じらんねえ、仲間とグール、あっと言う間にグチャグチャにしやがった! チクショウ! また一からやり直しかよ!!」

仲間、グール、其れが指すものが何か分からない限り、彼の正体もまた分からないと言う事か。男はただただ前を見据えて走り続けた、其の先に何があるか分からないまま。

「お!! へへへ・・・運が向いて来たな」

慌てたように止まる男の靴の下で土塊が削れ、崖を転がり落ちる。森は途切れ、数m.下にはアスファルトで舗装された道が男の視界を横断していた。

「チッと疲れるが歩けば街に着くな・・・そしたらその辺にウジャウジャいる飯にあり付けるってモンだ。そしたらまた仲間やらグールやら増やしてまた旗揚げしてやるよ・・・今度こそ失敗はねぇ!!」

誰とは無く月へ叫ぶ男、答える言葉は皆無、哄笑を遮る者は無し、の筈だったが。

「一寸残念な訂正、君に今度は無いよ、ウン、本当に残念ね〜」

囁くような優しい声、男がギョッと振り向こうと体をよじった瞬間、響く鈍い音。続いて空を切り裂いて襲来した何かが男の右肩に刺さり、一瞬の間を持って爆裂した。

「ヒギイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」

激痛に顔をぐしょぐしょに濡らしながら崖を転がり落ちる男、道路に叩き付けられ、肺の空気が全て抜け落ちる。苦しい息の中、出血を続ける右肩を押さえながら立ち上がる男の視界に何かが舞い降りる。其れこそ羽の様に緩やかに、音も立てずにアスファルトの上へ。

「お、まだ立ち上がるんだね。元気なのは良い事だよ、さ、頑張れ〜♪」

男は微笑みながら右腕を吹き飛ばしてくれた相手を睨み付ける。だが其の姿を確認するにつれ、顔から血の気がひいて行く。

其れは子供と解釈しても可笑しく無い少年だった。其の身をファッション雑誌からそのまま抜き取ったような格好をしているが其の両手に構えた物は余りに不釣合いだ。

右手には古臭いウェスタンカスタムM37、左手にはおそらく先ほど男の右腕を吹き飛ばしたであろう銃が握られていた。ただ其の形は角張っており、シリンダーらしき丸い部分があるが何を弾丸として撃ち出すのかは不明だ。

男は少年の左手に握られた銃に釘付けとなった。別に二挺拳銃はこの世界で珍しい事じゃない、だがこの銃は拙い、余りに拙過ぎる。

この形状の銃を所持し、尚且つ笑顔以外の感情を浮かべる事無く彼等を殲滅して行く存在、冗談にも信じたくなかったが今、確実に其れは男の前に存在している。

「・・・『大口径使いTwo Launcher』・・・

哂う破壊属性Destroy Smiler』だとぉ!?」

其れを聞いた少年は苦笑しながら口を開く。

「あっは〜、其の呼び方は好きじゃないんだよね♪ 出来れば『愛の配達人』とでも呼んでくれないかな? そう、もっと気持ちを籠めてさっ」

其れはもうにこやかに。そんな傍から見たら喜劇としても通用するような会話を続けていた2人を複数の軍用車両のライトが貫く、おそらくは少年の発砲音を聞き付けて駆けつけたのだろう。完全装備で降り立つ兵士の姿を見て舌打ちする男、そんな事にお構い無しで少年は実に愉しげだ。

「そうだっ、自己紹介がまだったね、ま〜色々不本意な名前で呼ばれてるけどさ〜、一応僕にも『碇シンジ』って名前があるんだッ、出来ればシンちゃんなんて呼んでくれないかな? 親しみを籠めてさっ」

ふざけるなと怒鳴りたかった、だが男は見てしまった。そんな馬鹿馬鹿しいほどに明るい底無しトークを繰り広げる少年の瞳の中に確実に渦巻く物を。

それは一片の間違いもなく『狂気』と呼ばれる其れだった。彼は、少年は、哂いながら狂っているのだと。男は確信してしまった。

「何をしている碇シンジ、さっさと任務を全うせんか!」

其のまま時が凍るかと思われたが、意味もなく哂い続けるシンジと男が睨み合っている所に若い女性の声が響く。男が何者かと視線を移すと、黒い軍用コートを羽織った長い黒髪の女性が凛と立っていた、美しい眉はきつい角度を成し、相当に立腹している事を示している。

こんな修羅場に女? そう疑問に思った男だが彼女の肩章を見て驚愕は更に大きくなる、一佐? いや、下手すればもっと上かもしれないそんな大物が何故此処に? 疑問で混乱の極みにある男を余所に会話は進んで行く。

「オゥ? 此れは瑞鳳アズサ陸将補殿!! 先生! 女性の夜歩きは危険だと思います!」

「誰が先生か! マナもマユミも別任務で出払っており、貴様を指揮出来る立場にあるのが私しかおらんのだ! そんな事は如何でも良いからシンジ二等陸佐! 速やかに断罪せよ!」

「Yes ma’am!! え〜と、資料は何処へやったかいナと・・・お? 此れはオペレーターのミキちゃんからの恋文だ、ンでわ此れは? はっずれ〜、飲み屋の請求書じゃないかぁん!! 酷いよマナ! 割り勘だって言っ」

全てを途絶させる銃声、両手を天に向け元気良くホールドアップするシンジ、其の足の直ぐ横にはたった今開いた銃痕がぽかりと黒い穴を見せている、勢いに押されてか男も残った左手を挙げて降伏の意を表している。

無論、そんな事でアズサの機嫌が治る筈も無い事もまた真実だが。

「二等陸佐、この法儀式済み銀弾をこめかみに埋め込むのと、雑魚を浄化するの、どちらかマシか数秒以内に回答を示せ、それ次第で貴様の今後の処遇を決めてくれる」

「ううっ、この職場では一寸したおちゃっぴいも許されないのね!! 訴えてやる! そして勝つ!! もしくはスタッフサービスに電話だ! と、言う訳で其処の中級標準武装に身を固めて、こっちに素敵に呆れてる視線をラブラブビームで送って来る兵士其の一、携帯貸し」

2個目の穴が開く、アズサは哂っていた、それはもう、殺すと言う意思しか読み取れない鬼気迫る哂いで。

「其れが答えと言う解釈で良いのか? 精々抵抗して見せろよ二等陸佐、嬲り殺してやろう」

「あ、あったよ指令書! さあ不肖シンジきゅん! 仕事に生きて3年後に過労死です! 認定宜しく涙!!」

最もクシャクシャに汚れた紙を引き出し、アスファルトの上へ置いて丁寧に伸ばす、却ってボコボコになって汚くなったのに気落ちするのは御愛嬌。

「ん〜と、『式織カズマ、人間年齢56歳』にしては20代だよね、後で若さの秘訣Tell me thanx! 『第三のドラッグ流通経路の5%を預かる程度のチンピラだったが30年前に吸血鬼化、部下も次々と吸血鬼化させ、グールの部隊を使う等して15年前、全ての流通経路を支配するに至る』

ねえ一寸奥さん、この前アンタんとこから買ったエクスタシー、クシャミ出るだけで全然イけなかったんですけど!? クーリングオフ期間っての知ってますか!? 

『以前からHELLSING日本支部が調査していたが調査員何名かがグール化する等、困難を極めていたがマナ三等陸佐、マユミ三等陸佐の活躍により遂に全ての流通経路、アジトの情報が集まったので13日0000時をもって殲滅作戦を実行する。尚、カズマ本人の周りには相当数の吸血鬼が存在すると思われる為、彼の殲滅は此方の最強戦力である碇シンジ二等陸佐を投入する事が妥当と思われる』

最強だっても〜シンちゃん照れちゃう、真っ赤よ〜・・・は〜い親分、ボックンは仕事の鬼になる事をあそこらへんの星に誓います! まる。で、さっき僕が人生について語り合った末に突っ込みを入れたら灰になったのがカズマの部下で、今此処で右手吹き飛ばされて唸ってるアンナイスガイがカズマって事でファイナルアンサー?・・・・・・・・・・・・・・・残念〜!!!」

「俺がカズマだ!!! 勝手に間違うな!」

「何だって! 嘘をついたんだね、み○もんた!!」

「な、何であの顔の濃い司会者の名前が出て来るのかわからねえが・・・そ、其れは置いといてよ。確か今、HELLSINGでは人間、吸血鬼問わず優秀な戦闘要員を募集してたよな。な、なら俺も心を入れ替えて人類の為に戦う事を此処に誓う! だ、だからよ、命だけは助けてくれぇ!!」

そう叫んで土下座する。それに何を言うかと言った視線を送るアズサ達。限定地区とは言え麻薬王として君臨した男が今更心を入れ替える? 命拾いする為の狂言としか思えないし、実際そうであろう。誰もがそう信じて疑わなかった、たった一人を除いて。

「ううっ・・・ひっく・・・ぐすっ・・・」

感動までしたのか涙と鼻水でグシャグシャになった碇シンジがいた、此れにはアズサ以下、何より胡散臭い演技を見せたカズマ本人すら呆れを隠せない。

「ウン、良く決断したよカズマ君! 明日から僕と共に世界の平和と明日の為にスクランブルだ!! さあ一緒に夕日に背を向けてダッシュだよ!」

「背を向けるのかよ!! ってか、嘘だと気付けやあああ!!!」

絶望的なまでに出来た隙をカズマが見逃すはずも無く、半ば絶叫しながらシンジに向かって突進する。

「おや? 元気ねえもうダッシュ? ああ気が早すぎるよカズりん、夕日はまだ出て無いんだから・・・」

まだ何か呟いているシンジの右手からM37を奪い。

「おう、もう使命に目覚めたですか! では早速、吸血鬼の本堂、トランスバニアへクール宅急便で迅速お届け!」

ペラペラ喋る口の中に銃口を突っ込み。

「五月蠅えんだよ、手前はよぉ!!」

「ふもっふ!?」

引き金を引いた。

口腔で火を吹いた銃口から銀の散弾は、吸血鬼に対する十分な破滅をもたらすだけの力を存分に発揮しながらシンジの舌に、顎に、そしてそれらを突き抜けて背骨に、脊髄に、やがては全てをグチャグチャに掻き混ぜて肉片を飛び散らせながら背中へと抜けて行く。

ぬるりと紅く染まった銃を引き抜き、カズマは次に吸血鬼の最大の弱点とも言える心臓に、回転させてコッキングしたM37を当て、躊躇無く引き金を引いた。

轟音。ビチャビチャと生々しい音を立てて飛び散る元、シンジの心臓であったろう肉片、白い欠片は肋骨か背骨か。その結果に満足したカズマはM37を捨て、アズサへと向き直る。

「へへへ・・・あんた等御自慢の最強戦力とやらは舌と心臓吹っ飛んでおっ死ンだぞ? ザマあねえなあオイ」

「全く貴様の言うとおりだ、どのような雑魚に相対しても油断するなと伝えて置いたのにな・・・。また無駄金使いだよ、上に怒鳴られるのは私だと言うのに・・・、後でそれ相応の罰則と言う物を受けて貰わねばなるまいな」

「はっ!? アンタの目は節穴かよ? こいつは死んだんだよ、見たろ? 俺が頭と心臓吹っ飛ばして。いっくら吸血鬼でも此処までされたらもう駄目なんだよ、好い加減現実の話をしようぜ指揮官さんよ」

そう言いつつカズマは辺りを見回す。包囲している武装兵は20名弱、右手を失ったとしても所詮はただの人間、如何とでもなる人数だ、大丈夫、逃げ切れる。そう判断して交渉を開始する、戦わずに逃げられるのなら越した事は無いが。

「良かろう聞いてやる、話せ」

「無意味に偉そうだな・・・何、簡単な事さ、俺を見逃せ。そうしたらあんた等の命までは取らないよ」

「ふん、麻薬を売ってせこく稼いでいた小物が私と対等に交渉する気か。笑える冗談だな化け物、あの世でダマスキノスにFuckしてもらうが良い」

「存外に下品だな姉ちゃん。で? 其れは交渉決裂って事で理解して構わねえのか?」

足に重心を、後一言この女が漏らしたら飛び掛る。犯してしゃぶって腰が抜けるまでFuckして、首筋に突き立てて甘い血を啜ってやる。いや、これほどの上玉、グールにするのは勿体ねえ、順序は逆だ、吸ってから気が済むまで犯しぬいてやる。あの上品ぶった顔が歪むのは見物だぜ・・・。さあ言え、何か一言、それで全てにけりが付く。

「勝手に解釈するが良い、だが先程から貴様の発言から解釈するに何やら勘違いしているようだな。碇シンジが死んだ? はっ、面白いジョークだな、たかだか『頭を吹き飛ばして』『心臓をぶち抜いた』程度であいつが死ぬ? そんな中途半端な雑魚に吾等の中の最強の冠が与えられると本気で思うのか? ヘルシングを舐めるなよ糞虫!!」

「い、一体何を言」

「貴様も貴様だ二等陸佐。何時からそうやって惰眠を貪れるほど偉くなったのだ? さっさと起き上がって任務を全うせんか!!」

「だから貴様!! さっきから一体な「いやね? 仮にも撃たれたりした被害者に対する慰めの言葉なんて、求めるのは罪なんですか? 教えて、ユパ様!」何いいぃぃぃ!!??」

そんな馬鹿な、吸血鬼とはそういう物の筈だ。心臓を打ち抜かれたら灰になる、日の光を浴びたら灰になる、流れる水の上を渡ろうとすると灰になる、銀に弱く、ニンニクに弱く、血を吸わねば滅び去る。そういう物の筈だ滅んだ筈だ、だったら

今、自分の前にいるこいつは一体何なんだ? 何なのだ? 何だと言うのだ!?

「て、手前ぇ・・・一体・・・一体、何なんだよおおお!!」

気が付くと叫んでいた、其れしか出来る事はなかった。

「ん〜とな? こういう時に決める言葉を彼に聞いたような気がしてるんだ、じゃすとあもーめんとぷりーず。・・・そう! 『さあ、未だ腕が?がれただけだぞ掛かって来い! 腕を再構築しろ、使い魔を出せ! 体を変化させろ! さあ夜はこれからだ、お楽しみはこれからだ。ハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハ』ゲフッゲフッ・・・どう? 決まってた?」

何事も無かったかのようにシンジは立っていた、だが確かに砕かれた顎の回りは血に塗れ、未だに肉片がこびり付いてるし、吹き飛ばされた心臓の辺りの服は心臓と共にゴミと化している。だがそれでも、碇シンジは吸血鬼の理を無視して其処に立っていた。

「にしてもこの服、マナからプレゼントされた奴だって、やべえ!! 汚して破ったとばれたら殺されるじゃん! 今度のお仕置きは何だよう〜、この前みたいに法儀式済み鉄の処女Iron Maidenは流石に勘弁勘弁」

おどけながら、右手にこびり付いたかつて自分だったモノを舐め取る。とりわけ大きな肉片を摘み取り、グチャグチャ噛み締め、飲み込む。

「さて? そろそろお楽しみの時間だよ? そ〜、お仕置きの時間ってね♪」

哂っていた。

心の奥底から、とても嬉しそうに。

無邪気に哂っていた。

「ちぃっ!!」

其の笑顔の余りの禍々しさに飛び退りながら先程捨てたM37を拾い、三度発砲に望もうとするカズマ、だが。

Sloooooooowlyyyyyyyyyyyおっそ〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ

目の前でゲラゲラ哂っていた筈のシンジが直ぐ横にいて未だ哂っていて。

「お、そろそろ返してくれね、備品壊すと法儀式済み鞭と聖水混ぜた蝋燭でお仕置きだからさっ」

カズマのグリップを握る左手ごと銃をもぎ取った。

「なああああああああああああああっ!!!あああああああああああああああああああああっ!!」

突如襲い来る激痛に意識が遠くなる、だが失う事は許されず。

「今度は五月蠅いっすよ? 一寸此れでお口にチャック♪」

銃から引き剥がした左手を持ち主の口に押し込んで返す。余りの勢いに歯が折れ、舌に突き刺さるほどの力で。

「グググググググググ・・・・・・」

「お、未だ逃げる気? そう言う時は機動力を奪うお約束」

鈍い音を立ててへし折れるカズマの右膝。膝裏から骨がはみ出し、よろけて仰向けに倒れてアスファルトで擦れまた激痛が。だが未だ終わらない凶宴。

「先ずは末端から削って行きましょう。第一回! チキチキカズマ君毟って何時灰になるか、トトカルチョ大会〜。因みにこの碇シンジはもって5分! ではスタート〜」

同時に両足首を捻り切り。

「まだまだ逝くよ〜♪」

残り両足を少しずつ踏み砕き。

「オ、一寸大きいですね旦那、僕よりビッグ? すっげえムカつくYO! 全てはテクニック! 大きさじゃないやいと遠吠え!」

ジリジリと性器を圧迫し、存分に狂わせてから最後の一踏みを。

「さあ、無免許ですがオペ開始! メス!! 無い!? では使わないで心霊手術に挑戦だ!」

腹の皮膚を剥ぎ取り、腹筋を引き千切り、肋骨を捻り切り、肝臓を握りつぶし、胃を捻り切り、小腸を細切れに、大腸を叩き潰し、腎臓を放り投げ、膵臓を弾き飛ばし、膀胱を踏み砕き、肺を抉り、心臓は最後の楽しみにと早鐘の様に鼓動を繰り返しているのをそっと包み込み、優しく接吻、喉の奥から聞こえて来るのは怨嗟か嘆願か。

続いて両腕。母指対立筋 、母指内転筋、短母指外転筋、あれこれはどんな名前だったっけそうそう短母指屈筋、掌側骨間筋、背側骨間筋、小指対立筋、哂ってる誰が僕が彼がアイツが小指外転筋、豆状骨、舟状骨、三角骨、悶える手足もがれた昆虫のように大菱形骨、小菱形骨、有鈎骨、基節骨、中節骨、末節骨、中手骨、手根骨、優しく細かく。長掌筋、腕橈骨筋、浅指屈筋 、尺骨、橈骨 、撫でる様に労わる様に。三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、上腕骨、ガラス細工のように積み上げたシャンパングラスのように繊細に。

眼球に指を突き刺し捻って抉り出し視神経を穿り耳を噛み千切り指を突っ込み鼓膜を破り鼻を引き千切り無様になった顔を哂いながら鼻腔に指を突っ込みかき回し指に纏わり着く血の感触を楽しみ未だ声を振り絞ろうと足掻く顎に指をかけ一気に引き剥がし溢れだす血を全身に受け余りの楽しさと可笑しさに未だ何も手を付けてない首筋に噛み付き貪る男にしては甘く美味しい薬もやってたろうしタバコに酒もああでもこれはわるくないさいこうださいこうにいいきぶんつきにわらいたくなるくらいさいこうにいいよるで

後頭部に凄まじい衝撃と激痛、涙目で見上げるシンジの視界に映ったのは一人の、否、一匹の怒鬼。鬼は口を開き最後通牒を伝える。

「碇シンジ二等陸佐? 誰が『食事』をして良いと許可を出した? それと? 私は好い加減こんなクダラナイ仕事から解放されて帰りたいのだが!? 其れを邪魔する貴様は何だ、敵か邪魔者か打ち倒すべき悪か」

「選択肢全てが一点を指しておりますSir!! 寧ろ真実は何時も一つ!? 色々と特に著作権がマズそうだし辺りに立ちこめる酸っぱいもんじゃの匂いがキッツいので早々に決着付けますよ畜生!」

拳銃のグリップで後頭部を殴打された事への不満を語る事も許されず、シンジは再び虫の息のカズマへと向かい合う。腕は毟られ内蔵は全て抉り出された、顔の器官も粗方無くしても未だ彼は生きていた。顎も無い口では喋る事すらままならぬ、だが彼の想いはその場にいて茂みに向かって胃の中身をぶちまけている武装歩兵の面々にも分かる物だ、即ち。

『殺してくれ』

「分かってるよ、君の想いは良く分かってるよ」

優しく屈み込み。

「其の想い、願い、叶えて上げる」

そっと心臓に両手を添えて。

「それじゃあカズマ殿、永遠にサヨウナラ、Valhallaで会おう・・・って何処よ!」

一気に引き千切る。そして未だ断末魔の叫びのように鼓動し、血管から血を滴らせシンジを紅く汚す其れを。

「そして君は僕の物、君の全ては僕になる」

シンジは口に入れ、齧る。みじぃと筋肉の引き裂かれる音がして半分は口の中、残り半分は未だ手の中。くちゃくちゃと咀嚼しながら空を見上げる。無慈悲に輝く白銀の月はシンジに何も与えずシンジもまた期待せず。だがしかし其れは確実に美しくて。

「嗚呼・・・本当に今日は良い夜だね・・・」

シンジは哂う。心の底から愉しそうにゲラゲラと。遂に願いが果たされ一瞬で燃え尽き灰となる其の焔に下から照らされた其の顔は。

「だからさあ、もっと愉しもう? 良い夜だよ? 本当に良い夜だ」

何処までも血塗れで、何処までも歪んで見えた。





『第零夜、夜明け』次の夜へ


後書き?

中々難しいねこの残酷描写って言うのは。

しかし如何でしょう? こんなに狂ってしまったシンジは、どんな印象受けたのか是非意見を聞かせて下さい。




シンジに手渡される父からの手紙、其れは狂った心に如何様な反応を齎すか。

第三に向かうシンジの心の中には何が。

次回『第壱夜:誰ガタメニ』

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読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


      

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