それなりに広い部屋、しかし置いてある物はシンプルでガラス製扉で閉じられた本棚が2個と、木製の大型デスクが1つ、上には静かに稼
動音を響かせるデスクトップパソコンが鎮座している。床に敷かれた絨毯もそう厚い物ではなく、高級感と言う物を醸し出す品ではない。と、言うかこの部屋の調度品全てに置いて言える事はただ1つ、『質実剛健』それだけだ。

窓は一箇所だけ、デスクの後ろにほぼ壁一面使った其れが填め込まれており、今も柔らかい月光を導き入れている。

其の光に照らし出されているデスクチェアーに座った人物は極めて不機嫌だった、マウスを右手で操作しながらも左手は忙しなく机の表面を指先で突付いている所からも推測するのは簡単ではあるが。

「で? 申し開きはあるのか、二等陸佐」

「失礼ながらma’am! このシンジ様の仕事は完璧でした、申し分ない位で御座います、寧ろ尻の穴を舐めろって感じです」

「寝言をほざくな下品な物言いは止せ! じゃあ此れは何だこの今回の作戦における消費弾薬リストは! 『法儀式済みFresshet shot銀 矢 装 填 弾 50発、Mine thrower地 雷 射 出 銃用法儀式済み弾頭型地雷34発』だと!? 敵の戦力はグール150体に吸血鬼13体、貴様ならばこの消費量1/3も掛からずに殲滅出来る数ではないか!」

トントントントン。叫ぶ間も響く机表面を突付く音。更にリズミカルに、更に力強くなっているのは幻聴なのか。

「其処は其れ、あそこも其れと言う言葉もありますかと言ってみたり。世の中の人々は更なる破壊と過激さを求めてるとの電波をバイオハザード映画から感じました! あ〜Uも見たいですねえ!!!」

トトトトトトトト。更に早く更に威力を増して。

「そんな出所不明な台詞も、貴様の映画論を聞く気もない! 知っての通り法儀式済みの銀を使用した弾薬は、ただでさえ通常弾薬よりも高価なのだ! そして奴等は常にそうした小さな問題も見逃さない、重箱の隅を突付いた上に分解して粗を探すような奴等だ! 

我々を潰そうとしている 奴等に口実を与えるような真似をするなと何度も口を酸っぱくして言ったのを忘れたのか陸佐、それともアンデッドだけに貴様の脳味噌は 蛆が湧いているのか!!! 答えろ!!・・・何を笑っている」

口を押さえて笑っている、体全体を痙攣させるようにビクンビクンと小刻みに揺らしながら笑っている、そして其の口を開いて答えるシンジ。

「いえね、先程の陸将補殿の台詞、個人的につぼだったので赴くままに、自己表現の自由を行使したのですが何か?」

びきぃと致命的な音を立て、突き刺さるアズサの爪。相手は丈夫なオーク材の机だった筈なのだがボール紙か何かのように貫いている。そして突き刺したまま俯いたまま椅子から立ち上がる彼女の顔は下を向いて、表情は見えない。

「シシシシシシシンンンンンジジジジジジジジジジジィィィィィ陸佐アアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

数瞬後。ヘルシング機関日本中央支部ビルは、シンジをその内に招き入れてから何十度目かの爆発音と振動を経験した。





『第壱夜』



女性が一人、アズサの執務室の前を通っている。そして其の瞬間だった、爆音が床を揺るがし、扉に何かがぶち当たる音が聞こえる。何事かと聞き耳をたてる彼女の耳に聞こえて来たのは怒り狂うアズサの怒号と、其れを何とか諌めようとしているのだろうが、其の不穏当な発言のせいで火にニトロを注ぐ結果にしかなっていないシンジの言い訳だった。

彼女―――ヘルシング日本中央支部、経理部第一課所属、井上ミノリ一等陸士―――は首を横に振り、溜め息をつきながら電卓を取り出し、予想されるアズサ執務室の修理費用を計算し始めた。其の素早いほどに慣れた計算から導き出される結論はただ1つ・・・。

アズサの破壊を伴う暴走は此処では日常茶飯事なのだと言う事だ。

「そ、そろそろお互いにしがらみを捨て去って素直に話し合うべきだと思うんだボカぁ!! だからその手の札も後ろで鉄棒を一本足打法で構える鬼も下げるべきです!! 不戦の誓い! No War!! Love&Peace!!」

「此れ以上の発言は貴様の最後を迎える時の状態に関わるぞ? 目を閉じ、耳を塞ぎ口を噤め、其れが今貴様の出来る最良だ」

「何か言ってますよブラザー。そう言って今まで一度も殺し切れて無いお嬢様が何を仰るかと問い詰めウォウ!!」

尻餅をついた体勢から後ろ回り。コンマ何秒の差でシンジの頭が存在していた空間を鉄棒が通り過ぎる。

「命令だ、死ね。反論も拒否も告訴も許さん、貴様はただ今直ぐ私の為に消え失せろ」

「・・・やだぷー」

更に激しい爆発音が響く、今度は鉄棒を撃ち下ろし、床を粉砕したようだ。次の横薙ぎが本棚に命中、だがガラスが防弾強化ガラス使用だった為、中身には何とかダメージが無くて済んだ模様。

つまり此れがアズサが陸将補にも関わらず、質素な作りの部屋を執務室にしているかと言う事に対する答えとなりうる訳だ。何らかの吸血鬼殲滅作戦が行われる度に発生する、シンジの使用した弾丸経費他の出費に切れるアズサVSおちゃらけシンジの馴れ合いと言う名の破壊と言う奴が。









































西暦2000年、セカンドインパクトが人類を襲ったのは周知の事実。更にこの世界を襲った災厄が『吸血鬼製造法ノウハウ流出』という出来事である。

2000年当時、遂にヘルシングは宿敵とも言える少佐率いる『ラストバタリオン』との戦いに明け暮れていた。

そして9月上旬、13課の裏切りにあいながらもアーカード、セラス等の活躍により彼等を地獄の奥底へ送り帰す事に成功する。

その際、少佐は世界各国首脳を軒並み大臣、書記官クラスを吸血鬼化する事によって暗殺する事に成功していた。アメリカ、ヨーロッパ各国は勿論、日本を始めとするアジア列国、アラブ諸国にすらも其の牙は届いていた。

其の混乱を狙うかのように起こったセカンドインパクト。其れによって世界は再び戦乱吹き荒れる地獄の様相を呈する事となる。

更に悪い事には前述の製造法流出が起こってしまったのだ。世界の覇権を握ろうとする各国にとって、人間より強靭で破格の戦闘能力を持つ上に敵兵をグールとする事で、更に戦力強化する其の能力は、正に天恵とも取れる物であった、其の恐ろしさは差し置いて。

各国の紛争に吸血鬼が戦力として投入される様になった時。ヘルシング局長、インテグラル=ファルブルケ=ウィンゲート=ヘルシングは各国の混乱を余所に其の当時、唯一普通に機能してはいるが、事実上、存在しないのと同義の国連に赴き、ヘルシング機関を世界規模吸血鬼殲滅機関として差し出す事を条件に、自分を其の機関のトップに据える事を要求した。

此れには世界各国に点在していた俗に言う『対化物機関』の反対があったが、インテグラルは少佐を殲滅し、世界各国首脳暗殺犯を罰した事を主張し、彼等の反対を退けた。

また、其の当時の国連事務総長アダムスは国連主導による世界政府樹立と言う野望を秘めた人物であり、彼にとって今や現実の疫病を超える災厄となった吸血鬼を殲滅する機関を国連が有する事は、其の野望を達成するに当たって正に渡りに船と言える申し出だった。

そして2001年4月16日、英国国教騎士団『HELLSING』は、国連所属対吸血鬼機関『HELLSING』として新たな産声を上げる事となった。

設立と同時にインテグラルは次の行動に移る、先述の『対化物機関』の吸収である。

自分達とはまた違う形での殲滅法に長けた集団を取り込む事によって、更なる戦力強化を行おうとしたのだ。当然、此れにも多大な反発があったが国連からの資金提供を条件にする事で、ほぼ全ての組織を其の下部に据える事に成功した。

戦乱の時期に置いて資金調達は各組織とも頭を抱える大問題であり、選択の余地が無かったとも言えよう。かのキリスト教直属の13課や埋葬機関ですらも資金調達にテロリストを襲撃するなど、山賊紛いの行為を行っていたという非公式記録すら残ってるのだから其の厳しさが窺える。

こうして数々の組織がHELLSINGの傘下へと下った、名目上は協力体制と言う形だが実質上は支配と同義である、またこの決定に不服をもった構成員の一部が各組織から抜け出したと言う情報もある。

未確認情報ではあるが、かの『首切り判事』アレクサンド=アンデルセンもその内に含まれるとの事である。

この通達は当然、日本の退魔組織にもなされた。天皇家直属『陰陽殿』レベルから、一族全てが化物狩りに特化する『七夜』まで。大抵の小規模組織は反対する理由もないので(仕事口も増えるし、資金も入る)了承したが、日本最大とも言える『陰陽殿』は最期まで抵抗した組織の一つである。

伝統を重んじる三老が徹底拒否の路線を貫こうとした時、このままでは組織を滅ぼすと彼等を失脚に追いやり、自分が長になる事によってHELLSINGとの協力体制整えた三老の孫がいた、それが瑞鳳アズサである。

彼女は持ち前の政治手腕も用い、各支部との連携も取り一斉に蜂起した。三老に抗うだけの力は残されておらず、また実力的にもトップと言って過言ではないアズサの陰陽術を前にして反対をする者はいなかった。

また、現状を見て彼女の判断が正しいと思う幹部が少なからずいた事も彼女には有利に働いたであろう。

とは言え未だに三老を含む一部幹部は未だに彼女の失脚を狙っており、前述の通りシンジの消費癖等を材料に小姑の如くネチネチと毎日のように責めるのだ。

このせいでアズサの不機嫌は毎回シンジの発言と相まって爆発する事となり、更に老人達から責められる理由を自ら作ってる事になるのだが誰も止められないし、彼女自身も止める気はない。

シンジとアズサの付き合いはかなり長く、シンジが吸血鬼と化した場に立ち会ったとも言われているが詳細は不明、彼女も語ろうとしないしシンジに聞くのは時間の無駄であろう。

しかし、シンジが其の心を壊し狂いながらも彼女に従うのは何らかの理由があると思われる。



































「ゼェゼェ・・・好い加減に・・・塵に還れこの吸血鬼が・・・ハァハァ・・・」

「家に帰れば病弱な妹がミーの帰りを待っているね!! そう簡単に死ねないアルよ!」

「貴様何人だ! それに貴様に妹なぞおらんだろうが!!」

「此処にいます! この心の中に・・・って引かないで下さいよぉ〜」

「・・・引くわ普通・・・はぁ、もう良い、疲れた。取り合えず座れ」

疲れた表情で椅子に座りこむアズサ、唯一椅子だけがまともな所が彼女に理性が残っていた証拠であろう。

「はっ・・・あのぉ、椅子は?」

「貴様に椅子などない、其処で正座だ」

「差別だ!! 吸血鬼差別ってどの組織に電話すれば良いんだっけ!?」

「知らんな。其れよりも碇シンジ二等陸佐、貴様に手紙だ、検査の結果爆弾等は仕掛けられてない・・・マア貴様が爆弾ごときで死ぬ訳ないのだから、検査するだけ無駄だがな」

そう言いながらヒョイと手紙を投げるアズサ、手紙はまるで何かの風で運ばれたかのように舞い、図った様に正座したシンジの頭の上へと落ちた。

其れを取り、胸元から出したウサギさんの人形が握りに付いたペーパーナイフで開く、其れを見てアズサがこめかみを揉んだが如何と言う事はない。

「フム、この我輩に手紙とは・・・今度は何処の課のお嬢様かにゃ〜・・・おんや? 恋文じゃないのねえじゃあ一体何・・・カード、クレジットカードに入会した覚えはないよん。続いて写真?・・・趣味じゃないのでお付き合いは遠慮したい〜、って訳でポイ。最後に核心手紙で〜ス!・・・ふむ・・・」

取り合えずじっと見て見る。

「はてぇ?」

逆さまにして見る。

「おう?」

月光に透かして見る。

「ふんぐ?」

ブリッジ、頭と足で体を支えながら読んで見る。

「ほわぁ?」

ポケットから出したウィスキーフラスコの中身で手紙を湿して暫し待つ。

「ぬう! これをカテゴリーA以上の障害と認識する!! と、言う訳でアズサ陸将補、マッチかライターか火炎放射器か炎鬼をお貸し頂きたく候」

「何だか大仰だな、何だ、何も書いてないのか? 取り合えず寄越せ、私が見てみよう」

「はっ」

ズハッと音を立てながら差し出された手紙、アルコール臭くて一寸湿ってる其れを少し嫌そうに受け取る彼女。他に手が無いなら仕方あるまい、マッチでも貸してやるかと思いながら其れを広げて見る。

「・・・ん?」

目を凝らして良く見て見た、一応書いてはあった文章は。いや、此れを文章と言うなら其れは文章に対する侮辱以外の何物でも無いだろう。

其処にはたった二つの単語しか書いてなかった、1つは名前であるからして本文はたった一つの単語。



『来い      

ゲンドウ』



手紙に書いてあったのは其れで全てだった。

「シンジ、此れはもう此れだけではないのか? この単語1つと名前、考えるのも余りに馬鹿らしいが此れで相手と意志の疎通を取れると思っている奴が寄越したな。さて、ゲンドウゲンドウ・・・何処かで聞いた記憶はあるのだがな・・・」

「はてさて、アズサ殿に思い出す事はお任せして、ワタスィーは此れにて失礼させてもら・・・ええと、頭の上の鉄棒を退けてくれるよう鬼に命令して貰えるとすんごい感謝するんですけどぅ!!」

「寝惚けるな。貴様に来た手紙だぞ? 思い出すのは貴様の仕事だろうが、さっさと思い出せ!」

シンジの答え如何では更に床へと減り込ませようと構えるアズサ。

「いや無理」

「即答かっ!! 少しは努力の跡を見せんか」

呆れながらも親指を下に向けて拳を縦に振る、同時にシンジの減り込みも数cm進む。

「あ、思い出しました! 思い出しましたよん!!」

「ほう、言え」

「この前、マナ達と食いに行った中華の店の店長!! 今度良い上海蟹入ったら連絡してくれるって言ってワキャア!!」

今度は中指おっ立てる、床のダメージは致命的な物へとなって行く。

「そろそろ普通に思い出さんと、貴様は床と融合する事になるが良いか? 床板と一体化した吸血鬼、シュールで良いかもしれんな」

「うう・・・じゃアレかしらん、マユミとのプレイに使う大人の玩具、注文してたのが入荷したと言う怪しい主人からのロベルトサントス !!」

「もう良い、貴様は床になれ。床敷きの代わりにしてやろう」

親指で首をかき切る動作、床に入る皹は広がるばかりで後もう少しで抜ける事は請合いだ。

「陸将補〜、其の位にしといて貰えません?」

救いの手はドアの外から、ノックも無しに入って来た少女の2人組みの1人がアズサに声をかける、一寸跳ね気味の茶色がかった髪が活発さを表しているような少女の方だ。

「おおマナ!! 我が天使!! 遂に望んだ助けがこの僕に!! さあ手を貸してくれたまい!」

「良いわよシンジ〜♪、貴方が地獄に堕ちる手伝い、し・て・あ・げ・る」

「ホワイ!? 何その仕打ち!! 僕が貴女に一体何を!?」

「私がせっかくプレゼントした服、見事なまでに穴だらけにしたのは誰だっけ〜」

「ハイ! 確率的に那由多/那由多で僕です! なんと!? つまりは100%の可能性で犯人はミーザンス!」

「死ネ」

笑顔のままでシンジの頭頂部に踵を落とす、減り込みは更に肥大する。

「むぅ、今日は紫? マナ・・・君には大人の其れは未だはや・・・ウギョオオオオゥ!!!!!」

「死ね、落ちろ、堕ちて滅びろ」

何が紫かはマナのストンピングが開始した事から想像して貰うとして、そろそろ本気で床が抜けそうなのは如何した物だろう。

今頃は一階下の経理部は響く破壊音と落ちてくる天井の欠片を前に、修理費を何処から捻出するか胃を痛める事になるだろうなと、ふとそれだけ考えるアズサ、しかし止める気は無い。

「はいはい、マナもその辺で止めないと・・・シンジさんも痛いですし、床も抜けて経理の皆さんが泣いちゃいますよ? ね?」

「む〜、マユミがそう言うんなら仕方ないけどさ・・・」

渋々黒髪の長い少女、マユミと呼ばれた彼女の進言にシンジを床に埋め込む作業を止めるマナ、マユミは静かにシンジの元に近づいて行く。

「大丈夫ですか? シンジさん」

「ミーはバリバリOKよマユミ!! 君が女神に見えま〜す」

「そう、良かった無事で・・・だって」

其処でニッコリと慈悲の女神のような笑みをシンジに向ける。

「一気に殺ってしまったら愉しくありませんもの」

言ってる事は凄まじく物騒な女神であるが。

「ノォウ! 今日は厄日DEATHか!? 我が罪状は何でス? マユミ検事殿!!」

「私は検事じゃありませんよ? 罪状は私が今回の任務の時に着て行ってと頼んだ服を着てくれなかった事です」

「だって!! あれってデザインがきる罰ゲーム何だモン!! ガチャピソ!!」

「黙りなさい」

何処からとも無く取り出した広辞苑クラスの分厚い革表紙の本をシンジの頭の上に落として沈黙させる、そろそろ本気で床がやばそうなのだがどうなるのだろう。

「其れよりもアズサ陸将補、先程から名前の挙がってるゲンドウですが・・・」

「何だマユミ三等陸佐、知っているのか」

「ええ、シンジさんの個人データに書いてありましたよ? 確か・・・」

小首を傾げ、顎の下に人差し指を添え、天井を見ながら続ける。

「ゲンドウってシンジさんのお父さん、じゃありませんでしたっけ?」

「「・・・おおう」」

シンジは埋まりながら、アズサは壁に身を預けながら手を1つポンと叩く、双方とも本気で忘れていたようだ。

「そう言えば我が父にもそんな人がいたような気がしたような事もあったり無かったり、もしくは微妙に?」

「自分の父を複数形では語らんだろう、普通。しかしネルフか・・・、確かあそこは非公開組織だったな、国連所属の」

「はい、発案当初はかなり根強い反対があって・・・常任理事国も何国か拒否権を発動させると息巻いていたのですが、何時の間にか肯定派に鞍替えしてしまい、結局可決される事になった曰く付きの組織です。何でも反対国首相が暗殺、もしくはスキャンダルで失墜したとか・・・何にせよ胡散臭い事には変わりありませんね」

アズサの質問にスラスラと答えるマユミ、彼女の知識量はかなりの物らしい。其れを聞いて人事部に内線で連絡を入れるアズサ、おそらくネルフから公式に碇シンジの召喚願が来ているかどうか確かめるのだろう。其れを余所にマナがマユミに後ろから耳打ちする。

「ねえねえ、何でそんなに反対されたの? ネルフって」

其の質問に軽い溜め息で答えるマユミ。

「・・・なによぅ」

「いえ・・・マナさんも、もう少し時事には興味を持たれたほうが良いですよ? 最低限、こうした組織に属してる以上知らないといけない情報、と言った物もありますし・・・」

「其れは否定出来ないけどさ・・・やっぱ、面白くないっしょ? 新聞とか・・・何か頭痛くなって来るし」

「・・・相当ですね。ではマナさん、預言書の中だけで確認されている化け物が何時か攻めて来るので、其の準備の為の組織です。維持して行くだけで数百万単位の人間が飢えに苦しみます。更に費用は各国から其々のGNPに照らし合わせて徴収します。

更にこの組織は基本的に非公開です、研究等で何か新技術が発見されたとしても其れも非公開対象となります。なんて言われて分かりましたと大金出します? 普通」

ニッコリ笑うマユミに、マナも笑いながら答える。

「・・・出すわけ無いじゃない、馬鹿じゃあるまいし」

「ですよね、死んだり色事ではめられて権力の座を追われた人達もそう思ったからこそ反対したのでしょう。結果として身を滅ぼしましたが」

「まともな人間が浮かばれないなんて良い世の中よね、あ〜嫌だ嫌だ。で? やっぱりネルフの連中が何かした訳?」

天井を見上げ、大仰に手を広げるマナに答えるマユミ。

「いえ、恐らくはそれ以上の組織が存在していて彼等を後押ししたのだと私は分析してます。各国を動かせるほどの組織、秘密結社の類が存在していると睨んでるのですが・・・残念ながら未だ確認できてません」

「マユミの情報収集能力に分析能力で分からないなんて相当ね・・・」

残念そうに溜め息を漏らすマユミを気遣うマナ。其処に受話器を置いたアズサから声が掛かる。

「人事部に確認した。正式な召喚状は届いていないそうだ、本当の戦争も経験して無いような、未だ赤子の組織が数百年の歴史を持つ退魔機関の者をこんな紙一枚で呼び出そうとはな。正に笑えない冗談だ、呪詛でも贈ってやろうか」

「其れは良いですね、お止めしませんよ」

「問題ないですね〜、寧ろ式神送って壊滅ってのも良いかも」

「其れは流石にばれやすい、物理的殲滅は避けるべきだ。其れよりもマユミの能力で攻撃した方が効率的で良かろう」

なんとも物騒な会話を続ける女性陣、そして未だに埋まったままのシンジ。そんな彼にアズサが口を開く。

「何時まで潜っている気だ二等陸佐。好い加減に抜け出せ」

「止めてくれなかった人の言う台詞じゃないような〜、よっとぉ」

掛け声軽く、穴から抜け出すシンジ、何とか階下直結は免れたようだ。軽く埃をはたくシンジにアズサの命令が下る。

「二等陸佐、未だ活動中のカズマの部下達が派手に暴れているようだ。掃除して来い、ササッとな」

「ダスキンは100番100番!! 掃除は其方専門ではないでしょうか!」

「言葉通りに取るな、目障りな生き残りを打ち殺せという事だ。明日朝、08:00にヘリを飛ばす、それで第三へ向かえ」

「オウ? 確か手紙に列車乗車券の類が同封されていたようにこの灰色の脳細胞が記憶を!」

「此れの事か?」

そう言ってアズサは机の上に残っていたシンジ宛への手紙を掴み、ヒョイと投げ上げる。其れと同時に発生した炎が其の全てを包み込み、灰が卓上の灰皿の上へと落ちた。其れと同時に彼女の横に脈略も無く現れた紅く燃える炎で出来た獣の様な存在も其の姿を消す、恐らくはアズサの使う式神の類なのであろう。

「あ〜おう、勿体ね〜」

「大した事ではない、そして残党を1匹残らず退治してからで良い。ネルフへ向かって貴様の父に面会して来い、それでHELLSINGとしての面目は立つ、本来なら無視するようなクソ手紙だが、先程のマユミの説明もある、下手に敵に回さない方が良いようだ、『未だ』な」

そう言い放ってニヤリと笑うアズサ。この人は何時かは世界すらも相手にして戦争でもするのではないか、マユミとマナは本気で思う、シンジは相変わらずナニを思ってるか分からないが。

「え〜と、私とマユミは?」

恐る恐る尋ねるマナにアズサは思い出したように答える。

「ああ、お前達2人も付いて行け、この馬鹿は1人で動かすと何をするか分からんからな、一度通常の連絡員では殺されて任務を遂行出来ないと踏んで、コイツを『弓』との連絡員に使ったのだが・・・何がどうなれば街1つが壊滅する事態になるのだ? 其の後でまた幾ら賠償金を払わされたと思う? 日本支部活動資金1ヶ月分だぞ!! 貴様の能力を評価していなければその場で消し炭に変える所だったわ!!」

力の限り机を叩くアズサ、真っ二つに割れる机、当然床に落ちるPC、此れで部屋の中でまともな調度品は彼女の座る椅子だけとなった。

「了解〜、って事は少しはマシな店でショッピング出来るんだ。ここら辺りの店じゃあ一寸ね〜」

早くも第三に思いを馳せるマナ、彼女の趣味はシンジを引っ張っての朝からショッピングだと言うのだから彼女等のポテンシャルの高さが伺える。マユミも首を傾げながらも嬉しそうではある。

「如何したマユミ、嬉しくないのか?」

其れを不思議に思い聞くアズサに首を振り、否定しながら己の疑問を話すマユミ。

「いえ、新刊本が早くに手に入るので嬉しいのですが・・・『弓』、彼女は未だ日本に滞在を?」

「ああ、だが第三の近くではない都市部に駐在中だ。名目は真祖の姫君が未だ城に帰らないから其の見張りだそうだが・・・如何だかな、ま、直接会う事は無いだろうから安心しろ」

マユミの疑問、と言うか不安を打ち消すアズサ、どうやらマユミと其の『弓』の仲は余り良好では無いらしい。

「う〜む、兎に角その生き残りを殲滅した後で涙無しでは語れない再会ショーを繰り広げろと!? なんかむず痒いです神様! そして都市部でお買い物!? 嫌です! 其れをする位なら未だ内戦続くアラブ諸国の何処かへ素っ裸で放り出されたほうがマシですよぅ!」

何だか泣き叫びだすシンジ、余程彼女等との買い物に暗い記憶があるようだ。そんなシンジに忍び寄る影二つ。

「まさか嫌なんて」

「言う筈無いですよね?」

其々がシンジの右手左手を握り、徐々に力を強めるマナにマユミ。

「も、勿論ですお嬢様方!? この私めが断った事が一度でも!? で、ですから其の万力のようなパゥワァーで締め付けるのは止め・・・アゥチ!!」

「一言余計だよ、シンジ。じゃあ後はベッドの中でユックリ話そっか? 最近はマユミと2人で組んでの見張りとかばっかりだったからご無沙汰だし〜、女の子同士ってのもオツだけどやっぱり、ね?」

「はふぅ!? も、問題ないザンス!! 何だか頑張らせて頂きますハイ!!」

何処を如何したのかは分からないが悶えるシンジ、そんな彼を引っ張って行くマナ。マユミが最後まで礼儀正しく敬礼して、歪んだドアを閉めて出て行った。

「ふん、ネルフ、か・・・遂にこの時が来たか」

壊れた机からパイプとそれに詰めるタバコを取り出す、同時にふと目に止まった写真を取り出し眺める、それには2人の女性が写っていた、1人は言わずと知れたアズサ自身、もう1人は優しげな面立ちをした女性、背景の様子からして古都を思わせる。

「此れで良いのかねえ、私にはもう分からないよ。アンタは如何なんだい? 何を思ってあんな事したんだい?」

答えは無い。溜め息交じりにタバコを詰め、火を点けたパイプを咥えるアズサ、其の彼女の部屋に騒々しい足音が近づいてくる。

「司令イイイイイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」

吹っ飛ぶ扉、其れはアズサへと向かうがぶつかる瞬間に現れた筋肉質な腕に弾かれ、彼女に当たる事無く床へ落ちた。扉の所に立っているのは経理部の誰かだと思うが正に怒髪天、毛も逆立ち凄まじい怒気に包まれている。

「何事だ、何かあったか?」

「部屋をぶち壊しておいて言う事は其れですか!! 最後には物置部屋に執務室を移しますよ!! 彼等と話をする度に破壊するのは止めてくださ・・・ひいやあぁぁぁぁ・・・」

怒鳴りながら近づいて来た経理部の彼女だったが、シンジの埋まっていた穴に足を引っ掛け、更に。

「う、嘘おおぉぉぉぉ!!!」

其の振動で危うい均衡を保っていた床が、遂に負けて重力に従う時が来てしまった。欠片と共に落ちていく彼女を気遣わしげに見送るアズサ、確か記憶が確かならば落ちた彼女も吸血鬼だった筈、なら擦り傷で済むだろう・・・等と薄情に結論付け、煙を天井へ吹きつける。

ふと床を見る、其処には先ほどの写真がドアの跳んで来た時に発生した風で落ちたか裏を見せて力無く落ちていた、其処にマジックで何か書かれているように見える。



『1990年

京都にて

瑞鳳アズサ 碇ユイ』



『第壱夜、夜明け』次の夜へ


後書き?

はい、マナとマユミ登場〜、ムサシとケイタは・・・駄目っぽいね、如何したんだろうか。

その内人物設定集とか武器設定とかも作ろうかな、テスト明けくらいに。

ではでは、感想宜しくです。




一路、第三を目指すシンジ一行。

到着と同時に彼等を囲むネルフ関係者と自称する集団。この事実が意味する事とは?

そして父と子の邂逅、起きる悲劇、回避不可能な事象。

次回、『第弐夜、戻レナイ道』

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