さて現在はケージとか言う場所へ、そうエヴァとかがある場所へと向かっている真っ最中。神様にお祈りは? 小便は済ませたか? 部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いする心の準備はOK? 何か違うかな? 覚悟するのはネ ルフの方だけどね。
さて、廊下を歩いてる間に説明しておこうか? 何故こんなに簡単に搭乗受諾した上に自分に不利な事を認めたかを。ん、認めたと言うには語弊があるな、僕は「想像にお任せします」と言っただけ、「はいそうです、組んで金貰って便宜はかってましたゴメンナサイ」なんて一言も言って無いし? あっちが如何解釈したかなんて僕は知らないしね。
其処、せこいとか言うなよ、世界は奇麗事で回ってないんだから。騙して成功した方が正義で騙されて泣きを見るのが悪いんだ、嫌なら君も騙して成功者の側に来れば良い、人道的にとか青臭い事言ってても一生幸せにはなれないよ? 僕は人の幸せより自分の幸福を取るね。
Rock.3『Depth Psychology』
さて、人生訓はこの位にして説明に入ろうか。先ずお山の大将が正当な交渉をする気が無い事など数年前から彼の動向を探っていた僕の目から見たら容易に予想できた、出来ない方が可笑しいとも言うけどね。僕の弱みを握ろうと色々探りを入れて来たのもネルフに潜ませたスパイの報告から知っていたし、僕を甘く見たね大将。
以前言ったとおり、僕も奇麗事だけでこの地位に就いたんじゃない、今だって闇世界を牛耳ってるしね。可能性は低いけど何時かは本当に 弱みを握られるかも知れない、この世に絶対の安全なんて存在しないんだから。
ならば如何するか? 簡単だ、イカサマをすれば良い。実は大将が捕まえて悦に入ってる連絡員は此方で用意した偽者、ただのその辺にいるチンピラ薬中にマインドコントロールを施して自分はBREMENのメンバーだと思い込ませただけと言う落ちさ。
無論、今から調べても背後関係なんか分かるわけ無いよ、本当に道端に転がってたゴミを再利用しただけなんだから。でも此れじゃあ次の弱みを握ろうと躍起になるだろうから、捕まったジャンキーの胸ポケットにそっと銀行通帳と印鑑を。そ、偽名の口座で中には数千万の預金。きっと僕に対しての裏金を渡す為に所持しているのだと思う事だろう。
だ〜がしかし。この口座を開いた奴、売った奴を辿って行くとまあ凄い事になる訳で。関わった人数は三桁には及ぶという代物。全て調べ終わる頃には使徒との戦いも終わってお別れしてる頃、僕を告発する材料は何も残らないって訳、あ、勿論口座作成に関わった三桁は全員苦学生かホームレスか薬中か。裏の繋がりなど皆無と言う奴等のオンパレード、そこから攻めても何も得るものは無い。
更に万が一、調べ上がらない事に切れて、良く調査しないままに僕を告発したとしよう。それで彼等が得る物は彼等自身が告発されると言う皮肉、ただそれだけさ。
どういう事かって? 其の答えは口座作成者調査リレーのゴールにある。其処にあるのはとある企業の登記簿に名前を連ねる者達の名前。とある企業とはマルドゥック機関、チルドレン選出機関と繋がりを持つ77つ目の企業で、其処に連なる名前は碇ゲンドウ、冬月コウゾウ 。そう、追って追い詰めるはずの猟犬達自身の名前って訳。
彼等は弱々しいウサギを追っている積もりで実は、自身の尻尾を追ってグルグルその場で回ってたったという落ち。
彼はポーカーゲームでフルハウスを出し僕は勝てないので下りたと思ってる。其れは間違い彼が手に握り締めている役は僕がイカサマ使っ て配って上げたカードで構成されている。
勝てると踏み込んだ所が彼の墓標の立つ所。知ってるオトウサン? 賭け事にはまらせて目を曇らせる単純な方法。最初の内に小さな勝利を与える事、ただそれに尽きるんだ。チップを積み上げた所で僕の見せる手はストレートフラッシュ。貴方の全てを根こそぎ奪ってあげるよ。
地位も、財産も、貴方が本当に欲しているものも込みで全て、ね。
ずるい? 汚い? オイオイ何度も言わせないでくれよ、この世の中ね、騙される方が馬鹿で敗者なんだよ。みんなも間違わないようにね? 正直は何も産まないんだから。
そして僕は今此処で生きている・・・は大袈裟かな?にしても何? このプラグスーツって言うの。一歩間違えれば全身タイツじゃないか、もう間違ってるという気もしないでもないけど。
制服汚す訳にもいかないから渋々着たけどさ・・・デザインをもう少し考慮して欲しいね、出来ればカトキなんかに頼んで・・・って脱線しちゃったか。
遂に僕はこうしてプラグの中へ。不味いLCLを含みながら集中している真っ最中。エヴァについても当然調べは付いていて、その仕組みも完全に理解しているよ。エヴァには其々、パイロットの近親者が取り込まれており、其れを中継してエヴァ本体の意思と接続し、起動と相成る兵器だ。お世辞にも優秀とは言えない代物だね、口に出しては言わないけど。
さて、此処で重要視されるのがシンクロ率だ。色々細かい講釈抜きに説明すると「マザコン指数が高いほど強い」、こういう事だろう。どれだけエヴァの中に籠められている近親者に縋っているかと言う事が強さとなる訳だ、何なの? この兵器? 乳離れしたら使えないって? 普通逆だと思うんだけど、其処は其れ。あのお馬鹿の大将の治める猿山だ、何があっても気にしない気にしない。
しかしこのままだとシンクロ出来ないと言う事になる、当然、僕はこの中にいる母親なんかに一片たりとも母性も感じないし肉親の情も浮かぶ筈もない。このままでは流石に拙いね、うん、大いに拙い。
シンクロ出来なきゃ動かない、動かなきゃ使徒と戦えない、戦えなきゃ負ける、負けたら流石に拙い事になる。その位は僕だって分かって
るさ、出来ない事を承諾するほど僕は無責任じゃないよ、どうも誤解されがちだけど。ならば如何する、どうやって動かす。答えは一つ、エヴァ自身の意思とのダイレクトシンクロ、此れしかないって事かな。
本来の人間の意思程度では取り込まれるか食い尽くされるかというかのどちらかだろうけど、数多の化け物と戦いきり、幾星霜の戦場を駆け抜けた僕の意思、そう簡単に取り込まれるはずがない、此れは傲慢ではなく自信であり、真理だ。ま、それなりに精神防護法術も施して来たので余程の事がない限り大丈夫だろうけど・・・遺書残していた方が良かったかな? な〜んてね。
現在は禁呪とされている法術の一種、己の影を自由に操る物があるが其れを自分なりにアレンジして、自身と影を繋ぐチャンネルを自身と他の者の意思とを繋ぐチャンネルにするよう変更した、此れで理論上、ダイレクトシンクロは可能なはずだ。あ、僕自身の意思の増幅器代わりとして封空剣は持ち込んでるよ、少々もめたけど些細な事だね。さあ、小声の詠唱もクライマックスだ。
「・・・今此処に吾、彼の者との架け橋を望むものなり
吾が力は彼の者の、彼の者の力は吾の、其れに違いも壁もなく、ただ違うは道だけ也
違えば繋げ、吾等が架け橋、彼の者の血を吾が骨とせよ、吾が肉を彼の息とせよ
繋げ 綱げ 開け 拓け 立て 建て 彼の身を吾が前に晒せ 曝せ
今此処に、吾等の道見ゆる
来い、彼の全てを暴け」
ぐ。なにかがあたまのなかでひらいたきがする。
なんだこれ。なんなんだこれ。よくわからないかんがえがまとまらないなにがどうなっている。
なにかにつかまれたひきずられるにげられないにげられないにげ。
しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ。
あれぼくはだれでなにをしてなにをなすのかなんだったっけ。
わからないどうしてわすれたいみがないからそんなわけない。
だれかのこえがきこえるけどだれなまえをわすれたなまえってなに。
ああもうねむいでもぼくはだれできみはだれ。
だめだもうだめだよくわからないがだめだ。
おやすみ。
―――お休みなさい―――
「・・・っく・・・」
目覚めとしては最悪と言って置こう、空賊団と飲み明かした日の目覚めの次に最悪だ、あれは地獄だった、そう、あれこそが地獄だった。こんなクダラナイ事が浮かぶんだ、今の僕の気分が如何程の物か分かって貰えると嬉しいよ、にしても。
「此処は何処だ?」
腰に手をやり、剣の重みを感じて安心した所で自分の服装が、あの罰ゲーム的全身タイツから聖騎士団制服になっている事に気付く。
「・・・実は使徒襲来はネルフの狂言で、僕にあの変態スーツを着せる事が目的だったとか?・・・幾らなんでも其れは無いよね」
でもそんな考えしか浮かばないよ、てか此処何処? 本当に。見回すと其処が如何にイカレタ世界か直ぐに気付いた、何これ? 何処までも続く空には赤金色の雲が続き、大地は踏み締めると赤い液体がじくじくと染み出して来る、巨大な内臓の上を歩いてる気分だよ、実際血生臭い感じがするし。
さて如何しようかねえと更に見回すと少し先に何かが立っているように見える、あれは・・・。
「樹、かな?」
だと思うんだけどね、幹があって葉っぱみたいなのがもさもさして見える。
「取り合えず行ってみるか・・・、何か分かるかも」
でも一歩進むごとに不快感が増して行くんだよね・・・うわ、何か汁が跳んで制服に染み付いたよ! Goddamn!! Shit!!
「何だこりゃ? 悪趣味な・・・」
其れはそうとしか形容できない物だよ、理科の授業で一度は見た事あると思うけど? 肺を構成している血管だけを取り出した標本か、さもなきゃ教科書に載ってる写真でも良い、あれだよ。
今、僕の前には其れが巨大化して逆さまに突っ立ってる。太い気管が幹で葉や枝に見えたのが細かい血管、それらが無数に生えて絡み合って脈動している。うっげえ、なんちゅうキモさだ。
「ん?」
何かさっきから新しい発見ばかりで嬉しいよ。その幹に何かが埋め込まれている事に気付き、寄ってみる。
「此れは・・・感動の再会、って事で良いのかね?」
もう一緒に暮らしていた事など欠片も覚えてないし、必要もない。見る姿は資料の写真だけで何時も白衣に身を包んでいた。
僕にとっては既に価値の無い物で、感慨も沸かない物が其処にある。
「碇・・・ユイ、か・・・」
正直に言おう、僕は近づきたくもないしそれ以前に見たくも無い。しかしこの状況を打開するには何らかのアクションを起こさねば・・・、なんだか聖騎士団に入ってからこっち、気苦労だけは加速度的に増えてくなあ・・・。
何だかんだ文句を言いながらユイの方へ近づいてみる。彼女は素っ裸で手足の先っぽを肉の壁に埋めて呻き、身悶えている、余り良い気分 ではなさそうだね、知ったこっちゃないけど。
意識は無いみたいで近づいた息子にも気付かない、気付いて欲しくも無いね寧ろ気付くな。肉体年齢は取り込まれた当時のままと推測できる、まさか若さと美貌を保つために取り込まれたのか? だとしたらこの場で首落としてやりたいね。
さて、こいつの夫にしてお馬鹿の大将、碇ゲンドウ殿なら涎垂らしてマスかきそうな光景だけど、あいにく僕に近親相姦の気は無いし、あ
ってもこいつは願い下げ。しかし近づいたら何か起こると思ったんだけど・・・何も起こらんじゃないか、やれやれ・・・。
さてどうしたものかねえとと振り返って見る。
「うおっ!?」
うっわぁ、凄く無様な声出しちゃったよ冷静沈着が売りのこの僕が! しかし振り向いて見たら、目の前に灰色のくすんだローブまとった
何かが突っ立ってたら声出さない? 僕は出すよ。
腰の封空剣に手を当てながら距離を取る、どうやら攻撃して来ない事を確認しながら相手を観察。身長は2m.越しててフードの下は黒い闇がわだかまってて顔が見えない。ローブの長い袖から見え隠れしている手も黒い尖った手甲で包まれてる、この威圧感からすると全身鎧かな?
疲れないか聞いて見たいけど。
だがフード野郎はこっちに対して何のアクションも起こさない、声もかけないし襲っても来ない。と、言うかこっちを見てるかさえ怪しいものだ。仕方ない、ここは一つ友好的にアプローチだよワトソン君、って誰だろね。よし、万国共通のコミュニケーション、声をかけて見ましょうか。
「あのう・・・すいません」
―何―
うっわぁ。地の底から響いてくるようなその低い声は、中々にハスキーで渋いと言っても良いかも知れないけど、如何せん愛想無さ過ぎない? そう思うの僕だけ? ねえ。
「不躾ながら、もう少し普通に喋って頂けると嬉しいんですが・・・」
―程度、如何程―
「・・・僕が喋る位のレベルで・・・」
―了解した、この程度で問題ないか―
「ま、まあその位で結構です、それ以上の愛想を望むのは無駄みたいですし・・・。で、ですね、質問宜しいですか?」
―問題無い―
髭かよ!! 此処に来てまで髭言語!? 何か凄い痛いよ、とても強烈に。
「貴方は誰です?」
行き成り確信を突いて見る、相手が分かればまだ此処の空間の正体が掴めるかもだし。
―分からない―
「いや、分からないって・・・では分かってる範囲で」
―西暦2004年、碇ユイ博士は初号機搭乗実験前にとある要素を初号機に付加した。その結果として殆ど意識など持っていなかったエヴァにその片鱗が見出されるようになった、それが「 」、今貴方の目の前にいる存在の正体、エヴァの意識らしき物―
「・・・「 」? なんて言った? 聞こえなかったんだけど」
―「 」其処に当て嵌まる物は存在皆無、名称とは他者によって付けられ、呼ばれて初めて意味を成す物、他者も存在しないこの世界では無意味な物―
「じゃあ、貴方の後ろにいる碇ユイは?」
―彼女は私を呼ぼうとしなかった、ただ支配しようとする相手に名称など必要性を感じなかったのだろう、意思の疎通もままならぬ相手は
他者ですらない、故に彼女は他者足り得ない―
「あ〜、そういう事ね。で、最初の質問に戻るけど貴方はどういった存在な訳? 分かり得る範囲での情報の開示を求める」
―先ほど述べた通り、碇ユイは自身の搭乗実験前にとある因子をエヴァへ組み込んだ。其れは現在世界を恐怖に陥れ、使徒以上の脅威と目されているモノ、『ギア』と呼ばれる其れの因子を組み込んだのだ―
うっわあ、キてるとは思ってたけど此処まで? ギアに付いてなんて未だに5%も解明されていないのに、意外と博打打だね・・・それとも?
「彼女はギアに付いて何か分かっていたのか? それともただ何となく組み込んだとか?」
―組み込んだ時点で其の95%まで解明済み、独自に解析していた模様―
「しかし其れを世界に公表する事はなかった、と・・・公表していればまだマシなギア対策が成されていたろうにね。何処までも自己中な女だ、ある意味尊敬に値するかもね・・・。で、だ。組み込んだと言う事は何か有益な因子があったと言う訳だな?」
―ギアには元々、人間に服従する因子が含まれている事が判明した、理由は定かではない―
「成る程、其れに彼女は目を付けたって事か・・・しかしそうして何の得が? 例え上手く行ってエヴァを支配出来たとしても僕的には余り考え付かないけど」
―彼女の夢は永遠に存在し続ける事。あらゆる難事を退け、あらゆる外的刺激から耐える。それを持つエヴァは理想となりうる第二の肉体だったと考えられる―
「確かに納得出来るな、では何で彼女は今あそこで貼り付いてるんだ? 如何考えても夢が実現したとは思えない」
―ギアには確かに人間への従属因子が含まれている、だが其れと同時に戦闘生物として、それ以前に獣の本能として組み込まれている筈であろう事を、彼女は予想して置くべきだった。結果として彼女はエヴァに取り込まれ、己の強さを示せなかったのでここでこうして拘束させて貰っている、この「 」を従える程の力を示すその時まで―
「つまり永遠に拘束?」
―それには答えられない、人間の可能性を否定する事は出来ないから。故に彼女も未知数だ―
「あ、そう」
絶対無理だと思うよ、僕でも勝てるかどうか分からない奴だし。ま、確かに彼の言う通り確率は0じゃあないと思うよ? ま〜高くて0,000000001%位? オーナインあるかどうかすら不明だねってか、ハッなんともはや。
執念だけなら彼の言う通りかもしれないな・・・しかし力か・・・どんなモノか興味があるねえ聞いて見よう。
「参考までに、君・・・と言うかエヴァを完全に支配下に置いたとして・・・特典は如何程のモノが?」
―其れは手に入れるまで説明出来ない設定になっている―
「設定? 誰の? 碇ユイ?」
―否定、誰からの設定かは「 」にも与り知らぬ事ゆえ―
「ふ〜ん・・・」
気になるがどうしようもない、聞くとしたら従えないといけないらしいが余り無茶はしたくないし・・・ってそうだよ、どうやったら元に戻れるんだよオイ。
「分かった、でだ。僕としてはそろそろ元の世界に戻りたいんだが・・・戻って良いかな?」
―無論、好きな時に戻るが良い、戻ろうと思うだけで其れは成される、が―
「が?」
珍しいね、始めて自分から意見を述べたような。
―現状で何もせず戻った場合、碇シンジは危機に陥る事になるだろう―
「は? 何でさ」
僕が危機? 有り得ない、有り得ないって。
―エヴァを起動し操縦するには「 」を従えないといけない、従えないとエヴァは起動しない、従って使徒とは生身で戦う事となる、更に碇シンジにはエヴァを起動させないといけない理由がある筈、碇ユイの記憶にある碇ゲンドウの思考ルーチンをシュミレートすれば今、碇シンジがどのような事態にあるかの想像も容易い―
ぐ、痛い所を・・・、確かに神器を使えば使徒も倒せない事もないだろう、しかし条件としては「エヴァを使用して勝つ」事、ならば目の前のこいつを従えなきゃ行けないって事か? 何でこんな事に・・・ん?
「オイ、今お前、笑わなかった?」
―さて、な―
笑いやがったな・・・感情なんて欠片もない振りしやがって・・・。
―私に感情といった意思はなく、あるのは意志のみ、故に不完全。ならば碇シンジよ見事「 」に打ち克ち、「 」の意思となりて「 」を完全とせよ!!―
・・・何だよ、ほんとに意思がないのか? 其の割にはなんとも嬉しそうなんだけどね・・・まあ良い、そんなこと言ってる場合じゃない。悔しいがこいつの言う通り、このまま逃げても何にもならないし・・・何より逃げるなんて最大の屈辱、死んでも嫌だね。
「良いだろう、お前を打ち倒し、跪かせ、僕の手足としてやろう!! 僕は僕の前に立ちはだかる者を何人たりとも許しはしない!!」
―良く言った碇シンジ! では見極めてくれよう、碇シンジが「 」を従えるに足る器か否か! 全てをかけてかかって来るが良い!―
ローブを跳ね飛ばすと下には欠片も光りやしない、愛想もない無骨な黒い鎧が一つ、ただ生きている事を示すかのようにヘルムの中に緑の目が光り輝いているのが見て取れた。
「後悔するなよ黒鎧、大口を叩くだけの力があるか・・・試してやる!!」
On the edge...
シンジ技表『表』 “技名を叫ぶ”“神剣を使う”の2点を省く事もできるが、その場合効果は目減りするので注意。 |
|
---|---|
ゲージ無し技 | |
技名 | 説明 |
空牙(くうが) | 剣で宙を斬った時、その斬撃の線上を真空にしてかまいたち現象を発生させる。付随して起こる強風は空気が押し退けられ真空になった時の余波である。 |
空爪(くうそう) | 剣を振らずに任意の場所にかまいたちを発生させる技。技の特性上、神剣で増幅できないのとイメージがし難い分だけ威力は低いが、その分奇襲効果が高い。 |
空刃(くうじん) | 武器に風の刃をまとわせ、切れ味を増す。シンジほどの能力なら、丸めた新聞紙でもチンピラが振り回す鉄パイプ程度は綺麗に両断できる。 |
空盾(くうじゅん) | 超圧縮された空気の盾を作り攻撃を減殺する防御技。空気の盾とはいえ、拳銃弾程度は楽々止める。 |
舞空(ぶくう) | 空気を踏み締め、空中を歩く技。高度が高くなるほど空気が薄くなるので難易度が上がる。 |
空波(くうは) | 強風による風圧で何かを押して吹き飛ばす技。相手の体勢を崩すとかに良く使う。 |
空波(くうは) | 強風による風圧で何かを押して吹き飛ばす技。相手の体勢を崩すとかに良く使う。 |
空無(くうむ) | 空気の振動を制御して自らの発する音を一切止め、更に気配を消す事で攻撃の目測を誤らせたり、太刀筋を読み難くする奇襲技。ちゃんと術に集中すれば長時間持続させる事もでき、隠密行動に使える。 ただし、騎士団長カイ・キスクの前で使うのは推奨できかねる。 |
空道(くうどう) | 風の細い糸を編み上げ、対象と剣を繋ぐ道とする。空爪、空刃と言った飛び道具を有線誘導する際に使用する技。此れによって命中率は掻き消されない限り100%となる。最大で5本まで展開可能。 |
覚醒必殺技 | |
天竜招来(てんりゅうしょうらい) | 天の竜…すなわち竜巻を発生させる。基本的に、屋外での対集団攻撃用である。 |
牙爪乱舞(がそうらんぶ) | 空牙と空爪のコンビネーション。敵をあらゆる方向から切り刻む。並みの人間にはガードすら不可能。 |
空鎧纏神(くうがいてんしん) | 空気の鎧を纏い、防御と運動補助を行う補助技。水中に濡れずに潜れたりもするのでそれなりに便利。 |
空凪(からなぎ) | 能力やなにかで生み出されたエネルギーを中和する技。単なる運動エネルギーや物体には効かない(銃弾には無効だが、火炎は消せるなど)。ただし、消し切れるかどうかについては能力差が物を言う。 |
射空(しゃくう) | 風をまとった封空剣を相手に向かって音速で撃ちだす。当たれば威力絶大だが外れたら剣を取るまで徒手空拳で戦う事になる。 |
一撃必殺技 | |
空圧絶禍(くうあつぜっか) | 超絶的な気圧を数秒間かけ、直後にそれを0にする恐怖の大技。押し潰されるか、破裂するか……それは相手の強度次第である。 |
殆どの技の発案者、T・Cさんに感謝を
先ずは様子見! どの程度の防御力か調べるとしますか。
「空牙!」
居合の要領で抜刀した線をなぞる様に鎌鼬が発生する、その数5、ほぼ同時に着弾予定。更に空道で既に誘導可能にしているから相手を囲むように射線を変更する。
対して黒鎧は何のリアクションも見せず突っ立っている、これは僕に対する挑戦か? それとも馬鹿にされてる? うっわぁ激しくムカつくよ、そのまま切り刻まれろ!
鎌鼬は何の妨害もされる事なく黒鎧に炸裂し。
「お、おいおい・・・せめて掠り傷くらい付くかと思ったんだけど?」
針の穴ほどのダメージも与えられず霧散し、無害な風となって散る。だが此方も余り効果が無いって事はお見通しさ、流石に何のダメージも負わなかったのには傷付いたけど・・・泣いて無いぞ!!
空道を使って空牙には相手から僕が見えなくなるように設定してある、よってこうやって僕が。
「舞空!」
技を出した後、こうやって足場を作って相手の上へ出て来ている事にも気付くまい。おし、大体此れで黒鎧の一寸後ろ上空に辿り着いた。このまま真っ二つにして差し上げよう、意外と早く決着ついたね〜。
「空刃」
そっと呟き刃に風を纏わせ、切れ味を増す。後は空気の壁を蹴った力を重力に+して突進するだけ! 行くよ!
ここらでアクセルなんかは叫びながら落ちるんだろうな〜奇襲の意味ないじゃん馬鹿だな〜なんて思いながら落ちる、気付いた様だが振り
向くのも避けるのにも全てが間に合わない! 獲った!!
金属が金属を叩く鈍い音が響く。結果から言うと僕の剣は信じられない事に相手の頭部数十cm上で止まってしまっている。しかし、何だそれ反則だよ!!
「其れ、せこくない?」
―何故そう思う、何者かが言ったか? 「 」は『背中から手が生えない』と、誰か証言したのか?―
「し、してないけど・・・嘘だろ!?」
手が、まるで枝でも掴むかのように封空剣の刀身を掴んで止めていた、だが先程言った通り角度的には到底掴む事など出来ない方から打ち込んだのだ。それでも受け止められた、手に、それもなんの予備動作もなく唐突に肩甲骨の上辺りから生えた手によって。
―ふん、この程度か? 見込み違いだと言わせたいのか?―
「うおっ!」
心底呆れた風に、僕を野菜か何かを投げる感じで地面に向かって投げつけやがった。何とか受身を取るけど何時の間にか内臓から石畳に変わっていた地面にぶつかった場所が痛い痛い、チクショウ絶対数倍にして返したる。
「ぬくっ!」
悪寒。それに従い転がって移動する。爆音、飛び散る欠片、空盾を何とか出していたから防げたけど当たっていたら体にめり込んでたよ怖〜。さっき僕がいた場所、今いる所から数m.手前、石畳が砕け散り、凹み、何か重量物が落ちたかのようにクレーターとなっていた。
中心に拳を突き立ててしゃがんでいる黒鎧。背中に手は生やしたままだ。
―避けるか。最低限の危機感受能力はあると認めよう、だがそれでは「 」は倒せない―
「空牙ぁ!!!!!」
さっきより数段力を込めて振り抜く。それに合わせて威力も数倍となった風の刃が黒鎧に向かう、けど矢張り鎧表面で霧散したようだ、けど・・・。
「絶対の防御力、と言う訳でも無いね。さっき攻撃を受け止めた手には全体に皹が入ってるし、今の攻撃で切れ目も入った。本体と生やす
手の強度は変わらない位か」
―ほう、諦めず見極めるか。想いが弱いと言う事は無いらしい―
「当たり前だ! 僕は碇シンジ! 将来は世界の全てを手中に収める男だぞ? 貴様如きに其の野望を、願いを、存在意義を!!」
真上に構えた剣を力の限り振り下ろす。生まれた鎌鼬は先程分かった鎧の強度を考えると腕の1、2本は吹き飛ばせる威力だ。
―ぬぅっ―
溜まらず避ける鎧、だが其の方向も限定されるように攻撃したから、予測済みぃ!!
再びぶつかる鎧と風を纏いし刃。先程と違うのは鎧に当たる度に、確実に其れを削り取って行っているという事だ。
「止められると思うなぁ!!」
叫びに思いを乗せ、刃に想いを乗せ、ただ無心に剣撃を繰り出す。防戦一方の鎧、行ける!!
「このまま消えろ!!」
―成る程、大した攻撃能力、判断能力だ。だが―
新たに脇から生えた腕2本、それが鎧の胸板に手を掛ける。扉のように徐々に開く胸板、何が始まる? と思った瞬間、僕は。
―其の程度で倒せるほどこの「 」、甘くない―
凄まじい衝撃を全身に受けて吹き飛ばされていた。
「げぼぉっ!!」
なんて無様な。だが繕う余裕も無く僕は胃の中の物を吐き出した、精神の世界とは言えきちんと出掛けに食べた食事まで再現してくれてる
らしい、要らないお世話だよこの野郎。
幾ら吐いても治まらず、遂には血反吐まで戻すに至ったよ、胃が傷付いたか? 最悪肋骨も数本持ってかれたな。
―ほう? この大質量突貫攻撃をまともに受けて未だ立ち上がれるとは・・・そうか、寸前で防御したのだな。まさに感嘆するべき反応能力―
五月蠅い、褒めてくれるのは嬉しいが今は聞く余裕が無い、黙ってろ。相手の言うとおり、殆ど脊髄反射の勢いで空鎧纏神を繰り出した。空盾を出していたら今頃は肉塊だ、精神死んだら矢張り肉体も駄目なんだろうね、モーフィアスもそう言っていたし。
しかし防御系とは言え此れでも覚醒レベルの技、消耗も半端ではなく正直な所、足がふら付くよ。一撃必殺など不可能で、後は使えて覚醒一発に小手先技が数発で空っケツ。それで僕は一般人となんら変わり無いレベルへ落ちてしまう。
『裏』を使えば一瞬で片付けられるけれど其の後、戦闘不能になるのが痛い。この後使徒戦が残って無ければなあ・・・ここまで苦労したのって最後に何時だっけ? 団長との訓練? 鍛えてやると本気で切りかかって来た背徳の炎殿との殺陣? ああ思えば幾らでも湧いて来
るよ・・・って僕の人生意外と谷間に張られたタイトロープ? 嫌なこと思い付かせてくれるなあ。
其の想いをくれた相手に向き直る、うげえ、何の冗談ですか此れは。奴が開けた胸板から噴出し、僕を吹き飛ばした物の正体は血管や何だか良く分からない肉の管の集合体だ。其れが濃密に絡み合い、密度を増してさっきの凄まじいまでの突進力を生み出したわけだ、あれは列車10両編制時速300km.の域に達していたね。
今度は其れが黒鎧を覆い、其の姿を大いに変容させる。元になる人型の肩から僕の身長分はありそうな副腕が生えて来てる、無論御丁寧に両肩から。下半身は二足歩行を取り止め、肥大化した腰から生えた節足動物の足のような物が生えて支えている、御丁寧に当たったら胴が真っ二つになりそうな尻尾まで生えている。
腰の前には僕を一呑みに出来るほどの大きさの口が出来るし、背中にはそれら合わせた巨体すら飛行維持可能だろうと思わせる翼が3対、もう戦おうと思う気すら薄れそうだよ、何だよこの理解不能な生物は、ジャスティスですらこんなに出鱈目じゃあなか・・・なんでもない、今の発言は忘れてくれ・・・忘れてくれったら!
―碇シンジが全力を出すと言うのだから、「 」も全力を出すのが礼儀と言う物だろう、未だ肥大化できない事も無いが。不思議そうな顔をしているな? 何故この小さな体からこれほどの巨体を生み出す質量、エネルギーを生み出したのだろうと考えてるのだろうな。忘れていないか?
此処は何処か、そうだ、此処は「 」の世界「 」の中・・・この程度造作も無い事。アンフェアだと思うか? だが其れほどまでに「 」を従え、その能力を手に入れると言う事は此れほどまでに厳しいほど、強大な力を有していると言う事に他ならない。・・・俯いているな、諦めるか?―
「余り舐めるなよこの木偶の坊。僕が諦める? 僕が諦めるのはチップ=ザナフが大統領になった時位だ!! この程度の困難に一々立ち止まってられないね!! とは言え僕に残された力はもう残り少ないのは確かだ、だから・・・」
―むぅ?―
封空剣を持ち変え、槍投げの要領でグリップを握る。残った法力を風に変換し、剣に纏わせ圧縮する。高まれ、もっとだもっと、もっと! 未だ足り無いもっとだ!!
―そうか、其の一撃で雌雄を決するか・・・其れも良かろう。「 」もまた全力で応えようではないか!―
そう言うとあちらもあちらで力を貯め始める、良いさ、どんな攻撃を仕掛けようとも僕は負けない、負けないだけの理由があるから!
「行く、ぞ」
―応―
互いに掛ける声は短く、だが其れで事足りる。もはや台風並みのパワーを秘めた風の槍、其れを思い切り振りかぶり。
余剰エネルギーを羽から放出しながら、腰の口が大きく開き、其処にエネルギーが収束して。
「射 空」
音と衝撃、閃光は剣が飛び出した後で来た。僕が投げたそれは音速を遥かに超えた其れは空気を切り裂き、衝撃波で地面を抉りながら「 」へと飛来する、其の身、貫けとばかりに。
―ぬぅん!! SEVEN DEADLY SINS『Covetousness』!!!!!!―
「 」の腰部口腔から発射された波動もまた突き進み、僕が放った音速の槍を『貪欲』、技の名前そのままに飲み込もうとし、遂に。
―うおおぉおおおおおおおお!!!!!!―
ほぼ2人の中間点で激突する!
―な、なんと!?―
驚愕する「 」、何だよ僕がお前の攻撃如き弾き返せないで吹き飛ぶとでも思ってたのか? 馬鹿か貴様は。この僕が、碇シンジが勝てない勝負をするとでも? 現に一筋の暴風になった封空剣は「 」の攻撃を其の身に受けつつも、確実に奴を貫こうと前進する。
―こ、此処までとは! 本当に先程の攻撃を受けて血を吐きながら地を這いずっていた者の攻撃なのか此れが!! しかし! そう簡単に屈す訳にはいかぬ!!―
偉そうな事言う割には焦ってるじゃないか? 自身の存在も保持出来なくなってるよ。其の腰部から放たれる波動に自身の存在力を与えてるらしく、其の代償として羽が先から塵になって行く、腰を支える足の何本かが砂になる、尻尾に皹が奔り、欠片となり飛び散る、副腕が力なく垂れ、地に堕ちる。
でも僕の攻撃も無事では済まず、確実に風を削られて行く! 其れでも其れを糧に進み続ける封空剣! 後10m.!!
―さ、させぬさせぬさせぬうううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!―
5m.
4m.
3m.
2m.
1m.
50cm.,40,30,20,10,9,8,7,6,5,4,3,2,1・・・・・・0!!!!!
―未だだぁぁぁ!!!!!―
絶叫する「 」の腰に張り付く顔の眉間に剣先が当たり。
こつんと音を立てて。
剣は地に堕ちた。
―ふふ・・・ふふふ・・・ふははははははははは!!!!!!!!!―
「 」に突き刺さる前に全ての風の加護を失い、力なく剣先を石畳へと減り込ませる封空剣。其れを見て勝利を確信した「 」。ボロボロ
になりながらも確実に大地を踏み締めて、立ち続ける。高笑いが鈍く赤い空へと響く。甘い、甘過ぎるよ、敵の生死も確かめずに高笑いなんて三流悪役の負けパターンじゃないか。
―碇シンジ、姿が見えぬな、「 」の攻撃を受けて跡形も無く吹き飛んだか・・・残念だ、彼ならば「 」を従えるに足ると見込んで此処
へと呼び出したのだが・・・見込み違いだったか?―
ハッ、今更遅いんだよ、お前が余裕でそんな馬鹿げた事言ってる間に僕は既にキングを取れる位置まで駒を進めてるんだよ、即ち、この僕自身を。さて? 親切に声をかけて上げましょうかね?
「へ〜そう? 其れは嬉しいね、言質は取ったよ」
―な、何ィッ!!―
ははは! 今頃気付いたのかい? と言うか自分の肩に乗られていて気付かないとは・・・鈍過ぎると思うよ、実に致命的な欠点だね。デカイ体はお飾りか?
―いっ、一体どうやって・・・―
「其れに答える必要ないね、所でそのヘルムの中の緑の光、其れが視界であってまたこの体をコントロールしてる本体だろ? 幾ら変形しても其処だけ弄らなかったしね、なら其処を吹き飛ばせば良いだけだ」
そう言って僕は最後の法力でもって空盾を指先に生み出した。
―先程の射出技で全て使い切ったのではないのか!?―
「賢い人間はどんな時にも、いざって時の為に少しは余力を残しとくもんなんだよ? でさ? この空盾って超圧縮した空気の塊なんだよね」
小さくした空盾ごと、自分の右腕を「 」のヘルムの中に突っ込む、緑の光が漏れ出ていた穴から。
「じゃあ其れをこうした密閉空間で解き放ったら、どうなるかな?」
―っ!? 待て、止め・・・―
「待たない、じゃあ此れで・・・Check Mateだよ糞野郎」
固まった空気は解き放たれ、其の圧力で「 」の頭部は吹き飛んだ。其れは僕と「 」の戦いの終結を告げる号砲にしては少々、物足りないよ、もう少し派手に綺麗じゃないとね。
・・・此れで終わった、のかな?」
念の為に頭の吹っ飛んだ黒鎧の欠片を剣で念入りに刺して崩して粉々にしたけど、起き上がってくる雰囲気はなさそうだ。
「ふはぁぁぁ・・・」
さすがの僕も疲れたよ、剣を鞘に収める気力もなくその場に倒れ込む、あ〜もう駄目、このまま寝ちゃいそう。
―流石、と言うべきなのだと解釈する碇シンジ。良くぞ「 」を一部とは言え討ち破った―
拍手付の賞賛、デモ喜べないね敵が生きてるって事だから。正直な話、力は微塵も残って無いけど倒れたままやられるなんて最後、絶対に嫌だね。
立ち上がって声のした方を見ると、傷一つ無い黒鎧が拍手をしながら立っていた、とは言え金属がぶつかる音しかしないので喧しいだけだけど。
クソどういう事だ? 確かにさっきまで僕に相対していた奴は,僕の足元でこうして屑になってると言うのに、詐欺かオイ。
―何故、「 」が消えて無いか疑問なのだろう。簡単だ、「 」は今のこの世界その物、碇シンジが倒したのは其の世界の一片に過ぎず、「 」はこうして未だ生きている、それだけの話だ―
それだけ? それだけと言い切るかよこの状況で、其れって事実上コイツを倒すのって不可能って事じゃないか!・・・最悪の手段だが「裏」を解き放つ? 此処で死ぬよりマシだよ、良し最終手段を此処で・・・、って、ん?
「何してるんだ?」
―貴方に、服従の誓いを―
何だか良く分からないが、僕が悩んでる間に接近し、僕の前に跪いていた。しかも服従? どういう事だ?
―言葉通りの意味です、貴方は「 」を身事打ち倒した、其れは一部とは言え紛れも無い事実です、戦闘レベルはジャスティスとほぼ同レベルか、それ以上に設定していたにも関わらず―
「つまり・・・僕にお前を従えるだけの資格があると、認める訳か?」
―然り―
ははは・・・そっか・・・本当に・・・疲れた・・・。倒れ込む僕、てか此れ以上もう無理だって。ん、何か心配そうだな鎧、おろおろしている鎧と言うのもキモくて素敵だけど。
そんな鎧がふと僕の上で手をかざす、そしたら全身の疲れと痛みが消える、体にも力が漲る感じだ、これは?
―先程の戦いでの疲労、全てを消去、回復しました。御気分は―
「悪くないよ、有難う。さて・・・君を倒した訳だから君の力は僕の物、それで間違いない?」
―然り―
「じゃあ教えて貰おうか? 僕が手にする力って奴をさ」
―御意。先ずはこの世界でも最先端と思われるあらゆる知識を。碇ユイが初号機を情報のプールとして利用していた物を「 」が更に解析、様々な角度から考察した物―
そう言いながら手渡して来る小さなビー玉位の光る玉、どうすれば良いかと手にとってみたら其のまま僕の手に吸い込まれた、其れと同時に相当量の知識が飛び込んでくる、慌てる僕に「 」が説明する所によると、別に情報は脳内にはいる訳ではないので脳活動に支障は無い、僕が欲しいと思う知識が勝手に脳裏に浮かび上がる仕組みだとか、中々に便利。
―そして得られる力の最たる物三つの武具、一つ目は此れ、『Supremacy King's Armor』―
「 」が渡して来るのは凄まじいほどの銀装飾を施した銀色の全身鎧、かと言って嫌味さは無くあるのはただ荘厳さのみ。鎧は勝手に分解し、僕の体に纏い付く、其れと同時にこの鎧の能力が脳裏に浮かぶ。成る程だから鎧か、悪くないね。
―二つ目、『R e g i o n』―
「 」が自分の後ろを指し示す、見ると驚いた事に先程まで何も無かった空間に凄まじい数の軍隊が姿を現していた。数万なんて甘い物じゃない、数百万、下手すれば千万単位に上るだろう軍勢だ。どれもが黒い鎧に身を包み顔は見えない。
幽鬼のように漏れ出る緑の光がヘルム内に見える所が「 」と共通した所か。歩兵、騎馬兵、弓兵、あらゆる種類の兵が揃い、整列してる様はなんとも壮大だよ、だが彼等は音1つ立てない、馬も嘶かない。感動したのって一体何年ぶりかねえ。
―三つ目、最後になる力はこの剣。『Balmunc』―
そう言って差し出された剣は・・・流石の僕も引くほどの禍々しさを持っていた。幅広の両刃剣、長さも僕の身長と同じ位じゃないかと言う位の長さだ。
刃、柄、握り、埋め込まれている宝玉、全てが黒く、光を反射しない物質で出来ている。受け取ってみると思ったより軽いと言う事は分かったが、それでも受ける威圧感は拭えない。
成る程、こういう能力を持った剣か・・・絶対不可避、此れは良い物だよ。
「此れがお前を手に入れた物が手にする力の全てかな・・・『Providence』?」
―プロヴィデンス・・・其れが私の呼び名ですか―
「そう、『特別な神の導き』『神の恩恵』『天の配剤』『摂理』。君は僕が世界を手に入れる為には必要な存在だ、逆に言えば君を手に入れたと言う事は世界を手にしたも同然って事だからね。まさしく配剤さ、ただ其処にあるのを掴んだのは僕の力だ、それだけは間違いない」
―然り―
相変わらず喋る量少ないね、でもなんか言葉のイントネーションがさっきと比べたら変わったよ? 嬉しいって事かな、まあ唐突に呼んだ訳だけど喜んで貰えて何より。
僕は受け取った物を見に付けたまま『Region』が整列する平地の前の丘の上に立つ。兵士達が其れと同時に地面を踏み鳴らし、剣で盾を叩き、槍で地面を突き、凄まじい音が辺りの空気を揺るがす。数km.先までも聞こえそうな勢いだ。
そして上がる声、弥が上にも僕の気力も高まって行く、もう最高だ、最高にハイって奴さ!!・・・Uryyyとは叫ばないけど。
―オッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッオッ―
其の声に応える為に僕も『Balmunc』を腰から抜き、上に掲げる、更に大きくなる大地を突く音に叫び声、気が付くと僕は哂っていた、心の底から、腹の底から、力の限り哂っていた。
―オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!―
嗚呼間違い無い、僕は世界を手に入れる。
ひとしきり哂った後、僕は『Region』に向かって叫ぶ、何時までも出しっ放しって訳には行かないだろうし。
「今は汝等を還す! 来る時まで今は休め!!『審判の日』まで!!!」
其の声に呼応して叫びながらゆっくりと地に潜って行く兵士達、此れだけの戦力があれば力による世界征服も可能だろうけれど、其れは僕の美学に反する、あくまで世界から身を差し出すようにしないと面白みに欠けるからね〜。
―主よ、外の現実世界では直に5分の時が経とうとしています。この流れだと主での起動をキャンセルし、綾波レイをパイロットとして使用する可能性65%、1分おきに+5%―
なに、そんなに時間経ってないんだ外では、まあ外にいる奴にとっては永遠に等しい5分だったろうね、上では化物が暴れてるのに頼みの綱が動かないんじゃねえ・・・揃いも揃って無駄な事叫んでるんだと思うよ。
「Providence、お前は当然、初号機を動かす事が出来るな?」
―然り―
「では今直ぐ暴走に見せかけて起動し、地上へ向かう振りをしろ。恐らくあの馬鹿の大将の事だ、自分の愛する妻が目覚めたのだと勘違いして、喜々として地上へ送り出すだろうからな。可能なら使徒殲滅中にS2機関も取り込め」
―宜しいのですか、碇ゲンドウを追い込む事になるかと―
「其れが狙いさ。平常心でいられると此方のからくりに気付き易くなる、少々焦って貰うさ。老人ホームのおじいちゃん達にも突き上げら
れて少しは疲労して貰わないとね。S2機関も何時かは取り込む予定だった、暴走に見せ掛けられるのは行幸だ、有難い事だよ本当に」
このままでは綾波レイをパイロットとして使用し、僕の使用価値が下がってしまう可能性がある。そうなったら今後の計画に少々ながら支障を来す、あくまで有用なパイロットを演じてないとね、それに暴走する危険があると責める材料も出来るし。
ゲンドウにとって僕を追い詰める材料は1つだけ、つまり1回しか使えないのだからそう簡単には使えない、此れで使徒戦終了後の交渉が僕に有利に進むって寸法さ、正に良い事尽くめ?
―それで主は何をなさるのですか?―
ん、何かって? ん〜ま〜・・・。
「借りを返す? とでも言うのかな?」
―・・・御意、この空間は主の意のままになりますので如何様にでも。Providenceは此れより使徒殲滅に向かいます、では―
「ん、頑張れ」
褒められると矢張り嬉しいらしいな、御しやすいタイプだ、でもまあ忠犬みたいに尽くされるのも嫌いじゃない、彼とは長い付き合いになりそうだしね。
さて、僕の視線から何処へ行って何をするか、Providenceには理解出来たようだけど・・・はてさて、本人には理解出来まいね。僕はノンビリと歩き、先程の樹の根元まで戻る、Providenceと会った其の樹の下まで。意識を戻すよう命じて置いたからそろそろ起きてるとは思うのだけど。
「ん、ん・・・こ、こ、は?」
「お目覚めですか、好い気なもんですねゆっくり寝てて・・・世界は危機に瀕してると言うのに・・・」
「あ、貴方誰?」
・・・ま〜こんな格好もしてるし月日経ってるしね、分かるわけないとは思ってたけど本当に分からないとは、流石だ見事だ、其れでこそ総てを研究に捧げた女は違うね。
「誰とはつれないですね・・・自分のお腹を痛めて生み出したこの顔の見分けも付かないとは・・・」
「え?・・・も、もしかしてシンジ、なの?」
「そうです、貴方の息子の碇シンジです、カアサン?」
「そう、シンジ・・・立派になったのね・・・」
僕が母と呼んだ其のイントネーション、微妙な違いも読み取れないとは・・・所詮はこの程度か碇ユイ、はは・・・意外と僕もまだまだ甘いのかな? 少しでも不思議に思ってくれないのかと期待してたなんて!
「シンジ、如何したの?」下を向いて少し震えてるから流石に心配になったのかね? 大丈夫、なんともないですよ、僕 は ね?
「所でオカアサン? 貴女ほどの頭脳を以ってすれば自分が消えた後、あの男が、ゲンドウが何をするか容易に予想出来たでしょう? 何らかのメッセージを遺すなり考えなかったんですか? 息子の為に」
「そうね・・・何か出来たのかもしれない、でも信じて。私は未来の
ウルサイ
為にエヴァと1つになったの、
ウソヲツクナ
此れは貴方の為にもやらなければならなかったの!
ダマレ
全ては貴方の未来、世界の未来の為に。
ソ レ イ ジ ョ ウ シ ャ ベ ル ナ
本当よ? だから・・・シンジ? シンジ如何したの?」
きっと僕は哂っていたんだと思う、でも上げた顔を見たユイの面が引き攣った所を見ると相当逝ってる表情してたんだね。だがそんな事は
如何でも良い、此れ以上コイツの戯言は聞くに堪えない。
「黙ってくれます? 此れ以上の戯言は聞きたくない」
だから僕は何の躊躇いもなく、握手をするような気軽さで。
「え?・・・あ゛・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!」
碇ユイの腹部に深々とBalmuncを突き立てた。でも尚、五月蠅くなっちゃったね、失敗失敗。
「少し口喧し過ぎますよ博士? 痛みを和らげる方法くらい知ってるんでしょう? お偉いんですから」
静かになるかと少し剣を捻って見たが絶叫が大きくなっただけだった、ふむマア僕にも間違いはあるさね、気にしない気にしない。
「抜いてえぇ・・・シンジ、お願い抜いてぇ!!!」
其の表現はなんか卑猥ですよお母様? 良いとこのお嬢様なのだからもう少し言葉は選ばないと、ねえ?
「はぁ、抜いても構いませんが其の場合出血多量で数分で死に至りますけど、その前にショック死するかもですね、それでも?」
そう言って引き抜きかける優しい僕、慌てて剣の刃を両手で押さえる彼女、当然のように手からは血が流れ、皮が破れ肉が裂ける、骨にも達しようとしてるのに離そうとはしない、中々見上げた根性だね。
「止めてお願い止めてシンジ!! 何でこんな事するの!?」
何で? 何でと来ましたかお母様? 貴方ほどの天才様がこんな簡単な事も分からない? 僕は呆れながらも一気に剣を引き抜いた。ヒッと悲鳴を上げるが、腹の傷も手の傷も全てが消えているのを見て安堵の表情を浮かべる。甘いね、これから何をされるのか知らずにさあ。
「何でこんな事をと仰いましたね? そんなに知りたいのなら・・・教えて上げますよ!!!」
言うが早いか呆然としている彼女の額に右手を当て、反抗する隙も与えず僕の経験、つまりは記憶を数年分送り込む。此れで僕が受けた感情其の他をダイレクトに数年分、彼女は体験できる訳だ、此方では数分しか経たないけど。
内容? なに、大した物じゃない精々
養父から受けた暴力の記憶
聖騎士団訓練所で訓練生から受けた数々の性的虐待の記憶
騎士団員として上を目指し始めて体を売って上層部に取り入った記憶
男女関わらず穴という穴を嬲られ
突かれ
舐めさせられ
骨が見えるほど鞭で叩かれ
薬のせいで朦朧とした中での行為
人が考え付くだけのおぞましい其の全ての記憶
それだけさ、ね? 大シタコトナイダロ?
・・・おやおや情けないねお母様は。涎垂らして失禁してるよ、まさか感じてるんじゃあるまいね? そうだとしたら大したメス豚の変態って事か、って其の息子じゃないか僕は、なんってこった! 最悪な気分だよ。
そろそろ終わりか・・・なんか蹲ってブツブツ呟いてるよ、一体なんと言ってるのやら。
「御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった悪かった御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい御免なさい許して許して許して御免なさい悪かった御免なさい・・・・・・・・・」
・・・エンドレス? 壊れたテープレコーダーですか貴女は、なんともアナログな事で、せめて音跳びディスクと言ってあげましょう、それに何を勘違いしてるんでしょうかね、僕は全然恨んでなんかいませんよ、寧ろ感謝してるくらい。本当さ。
「オカアサン? 僕は全然貴女の事を恨んではいませんよ? 寧ろ感謝してる位なんです」
後ろから優しく抱きしめる、一瞬ビクットなったが僕が頭を撫でてやると少しずつ大人しくなっていく。恐る恐る振り返ってきたのでにっこり笑顔で返してあげたら何か、嬉しそうに微笑んでますよ、子供ですか貴女。
「そう、だって・・・僕に与えてくれたじゃないですか、快楽を苦痛を怒りを悲しみを悲恋を恐怖を蛮勇を絶望を破滅を執着を妄執を確執を狂気を淫行を死を生を闇を暗黒を虚無を零を!! 世に蔓延る全ての疫病をくれたじゃないですか!! 負の感情と評される其の全てを!!」
あれ? 如何したんだろうカアサンは。僕がこんなにも心からお礼を言ってるのにこの上なく脅えてるのは何故なんだろう。ハハハ、訳が分からないや、誰か教えてくれないかな? 僕の善意が伝わらないなんて・・・なんとも可笑しな話じゃないかね。
「だからカアサン? 貴女にも上げますよこの僕が貴女から貰った物を、この場合はお返しすると言うんですかね? 其れに相手は女性ですから当然三倍返しですよ、嬉しいでしょう?」
そっと体ごと振り向かせて震える頬を優しく両手で挟み、目を見つめる。嗚呼、何故カアサンはこんなにも泣き叫んでいるのか、全くもって訳が分からないね。
「大丈夫、何があっても死にませんし心が壊れて狂ったりしませんから・・・だから存分に愉しんで下さいね?」
首を振りながら抵抗する彼女を優しく、再び肉の樹に埋め込んだ。瞬時に彼女を包む肉の触手、嬌声と悲鳴が聞こえて来る、うんうん愉しんで貰えてるようだね?
良い事をした後は気持ちが良い、後はProvidenceの帰還を待って元の世界に帰るだけ、大丈夫ですよオカアサン、貴女の命は取らないから、何故なら。
「貴女は大事な大事な交渉の道具ですから、存分に愉しんでいて下さいね?」
新たな力も得られて、親孝行も出来て。嗚呼、今日はなんて良い日。
続く・・・
後書きっぽい
あれ? 可笑しいなただの権力に対する亡者だったのにあれ? 何か狂ってませんシンジ君、可笑しいなあそんな積りじゃなかったのに・・・まあ良いか。
次回は交渉と新天地での一夜
Rock.4『Bottom Argument』
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます