「・・・目覚めとしては悪くないかな」
目を開けると白い天井が映る、如何やら無事に現実世界へと戻れたようだ。よっと上半身をベッドの上に起こし、腕を曲げて見たり首を回して見たりして、体に異常がないか確かめる、うん、大丈夫そう。
「あら、起きたのね。気分は如何かしら」
ドアが開いてパツ金女性が入って来る、気配は感じてたけどほっといたんだ、ええと確か・・・リツコ、とか言ってたっけ?
「確かリツコさんでしたよね? 違っていたらすいません」
「いえ、間違い無いわよ」
「そうですか、所で何の用でしょう?」
用も無しにこういうタイプの人間が来るとは思えないしね、あるならさっさと終わらせて出てって貰いたいし、寧ろさっさと馬鹿大将と交渉して此処から出ないと・・・そろそろ息が詰まって来るよ。
「検査の続きをと思ったけど其の様子なら大丈夫そうね。後、此れは個人的な質問なんだけど・・・エヴァに取り込まれていた時の事、何か覚えていたら是非聞いて見たいと思って」
ん、自分の欲望に正直だね、興味の赴くままにか・・・、叫びまくった上に人の襟首捕まえてくれた何処ぞのクソ女よりは幾分かマシかな。さて、答えをはぐらかすのは得策じゃないよね、仮にも僕の検査その他をする人間に敵を作りたくないし。
「覚えてるも何も・・・接続された瞬間に何かこう、引き摺り込まれる感じがして・・・其れだけです、気が付けば病室でしたし。取り合えず使徒とやらは倒されたんでしょう? なら問題ないじゃないですか、良く分からなくても」
「使徒が倒されたって良く分かったわね、誰かから聞いた?」
ええ、戻って来た彼に聞きましたよ。鞭による攻撃も物ともせず、派手に暴れ回ってビル群の45%を破壊し、尚且つ最後にコアを齧り取ってS2機関を其の身に収めたと、こんな事口が避けても言えませんけど。
「こうして僕達が会話出来ている事が、其のまま証拠でしょう? 倒されてないなら出来る筈無いんですから」
「そう、それもそうね」
残念、まだまだこの程度の揺さ振り、攻撃の内にも入らないよ。さて、そろそろゲンドウの奴に会いに行きますか、首洗って待ってろよ〜。
「ではゴタゴタで有耶無耶になった契約について話したいのですが・・・ゲンドウ司令は今、話せます?」
「今重要会議中なの、一寸無理ね」
ふん、お爺ちゃん達から絞られてるかな? ま〜アレだけすれば文句の1つも言いたくなるだろうね、知った事じゃないけど。
「ふむ、無理強いしても仕方ありませんね。では何時ごろ会えるでしょう」
「そうね、後一時間もすれば終わるだろうから・・・そうだ、シンジ君、時間潰しと言っては何だけど付いて来て貰えるかしら?」
ん? 何をする気? 実験とか言い出したら即、斬るよ。
「何か面白い事でもあるんですか?」
「面白い、とは言い難いけど・・・必要な事だとは言えるわ」
「つまり?」
「第三使徒戦で重傷を負って、意識不明だったファーストチルドレンの意識が回復して、会話可能なまでに回復したの。此れから共に戦う仲間とのコミュニケーション、無駄じゃないでしょう?」
成る程、如何でも良いが確かに間違ってはいないね。良いでしょう、同行しましょうか。
「分かりました、折角のお誘いですし受けましょう。所で僕の封空剣は・・・」
「ああ、一応この病院は武器携帯許可が無いと携帯出来ない決まりなの。貴方は未だ交付されて無いから諦めて頂戴、大丈夫、此処の警備は万全よ」
こうした組織の警備が万全であった試しは無いけどね、それにどうせ剣の仕組みを探ろうと、必死こいて調べてるんだろ? 無駄な努力だってのに・・・。
「ではその内に交付してもらう事にしましょう。では行きましょうか」
こうしていても仕方ないので付き合う事にしましょう、リツコを促し、先に行かせてドアから出る。
「あらミサト、もう動けるの?」
え゛。
「何とかね、あ〜未だ胃が落ち着かない、フラフープみたいにグルグル回って・・・ってああああああああ!!!!!!!」
うっわぁ、ウザッ!! 同じ病棟かよ!! 分けろよこんな理性の欠片も無い馬鹿以下なんか隔離しても良い!! 僕が許す!!
「アンタ!! なんて事してくれたのよ!!」
誰かが言ってたね、人生を100とするとシクシク泣いて4×9、ハッハと笑って8×8。36と64、足して100、つまり人生は嫌な事36と良い事64で出来てるんだって、全体から見たら良い事が多いんだから頑張れと。うん、僕も良い言葉だと思うよ、実に、ね。
「一寸、聞いてんのこのクソガキ!!」
でもね・・・コイツは如何考えても36の不幸ではおっつかないよ!! 嗚呼・・・何とも最悪な気分だ。
Rock.4『Bottom Argument』
「其の耳障りな怒鳴り声が聞こえないほど、耳は悪くありませんよ・・・。何か用ですか?」
まさか此れ、狙って僕を呼び出したんじゃないでしょうねリツコさん? 視線に露骨なまでの疑問符を込めて送る。それに気付いたか慌てて首を横に振る彼女、ふむ如何やら嘘は無いらしいな、殺す手間が省けて何よりだ。
「・・・ミサト? 貴女まだ寝てた方が良いんじゃない? 医者が内臓も結構傷付いてるって言ってたし」
すかさずフォローですか、貴女はそれなりに信用出来そうですねリツコさん、いや逆にしたら駄目なのかな?
「もう動けるんだから大丈夫よ! そんな事よりアンタ! 人を殴って入院させるなんて、どういう了見よ!」
そんな事も分からないのかね? ただ兎に角邪魔になりそうだから排除しただけだけど? 他にアンタに態々、触る理由ってある? 汚らわしい。
「何か勘違いされてるようですね、軍隊では上官の胸倉掴む事がどうなるか、分からないほど馬鹿なんですか貴女は。組織は違えども階級的には僕の方が遥かに上なんですよ? 聖騎士団は年功序列なんてクソ食らえ、実力のみが口を聞く世界ですからね。貴女みたいなのが指揮出来る立場に就けるほど甘くないんですよ」
「こっのっガキイイィィ・・・」
歯軋りして悔しがってる、そんな暇あるならセミナーでも受けて常識を培って来なよ、マア無理だろうけどね。
「取り合えず・・・僕はこれよりリツコさんとファーストチルドレンに面会して来ます。此れ以上貴女といて体調が悪化したら不味いですので失礼します」
有無を言わせずバカ女から離れる、此れ以上いたら本当に悪化しそうだしね。後ろから「覚えてなさいよ」等と今時、チンピラも使わないような捨て台詞が聞こえるよ、どうせ自分の下に就いたら扱き使ってやるとか少ない脳味噌で考えてるの? はっ、そんなの出来ないように交渉するに決まってるじゃないか。
この数回しか会って無いけど彼女の性格、作戦立案傾向を僕なりに分析してみた。奇を衒う作戦で常人には不可能な事を遣り遂げる・・・其れを見込んでの採用だろう、他にも裏に理由がありそうだけどね。
しかし其れは此方と敵の戦力差がそう差が無いか、もしくは相手が上だった場合のみに必要とされる能力だよね。
既にS2機関も取りこみ、怪しまれないよう数値的にはシンクロ率60〜70%を上下するようにProvidenceには言い含めてある。エヴァの能力も100%引き出せる僕に死角は無い。
初号機のS2機関取り込みは老人方のシナリオには無いはず、凍結を言い渡されるかもしれないがピンチになってしまえば、そんな物はクソ食らえ、あの馬鹿大将の事だから即座に封印解除するだろうね、後で老人方に嫌味を言われようともさ。
凍結するにしろ、しないにしろ。零号機起動もままなら無いこの状況、弐号機が来るのも早まるだろう。しかしこの弐号機のパイロット、映像他の資料が回って来てるけどまあ・・・上手く仕立て上げたね『プライドが高くて其れが崩れると簡単に精神崩壊起こす』予備の依り代としてさ。
日本に来たら間違いなく僕に突っかかって来るね、今からでも容易に想像出来るよ『アタシが一番なんだから!!』とか言ってさ・・・はぁ憂鬱。恐らくあのバカ女も彼女の到着を心待ちにしてるだろうね、自分の言う事を聞く勇猛果敢な手駒が今現在、手元に無いんだから。
「此処よ、シンジ君」
「・・・あ、そうですか、意外と近かったですね」
色々考えてる内に到着したようだ、リツコがドアを開け、先に入る。
「レイ、気分はどうかしら」
「問題ありません、許容範囲内です」
うわ、此処にも髭言語使用者が、呆れを飲み込んでリツコに続き、部屋に入る。殺風景な病室に全身包帯に包まれた蒼髪赤眼の少女が上半身起こして座ってた。ま、それなりに絵になる光景かな?
「そう良かったわ。あ、紹介するわね、彼がサードチルドレンになる碇シンジ君、碇司令の息子さんよ」
この女・・・人が嫌ってる事をズケズケと・・・いつかお礼はさせて貰うよ。言われたレイはじっとこっちを見つめてくる、碇司令の単語に反応したんだろうけどさ・・・結構怖いよ? なんか睨まれてるみたいでさ。
「其れでレイ・・・何かしら、一寸御免なさいね」
急に鳴るリツコの携帯、良し良しあいつが命令通り活動し始めたみたいだね、これでリツコは呼ばれて行く、と・・・。
「悪いけど一寸呼ばれたから行くわね・・・それじゃあシンジ君、後は宜しく」
何を宜しくしろと言うのかねえ。慌てて出て行くリツコの背中を見送りながら後ろのベッドにいるレイの気配を探る。もう僕に興味をなくしたのか窓の外を見ているよう、本当に人形みたいだね・・・。
とはいえこの沈黙は痛い、痛過ぎるよ。何か声かけなきゃねえ・・・ま、当たり障りの無い所から行ってみようか。
「え〜と、綾波さんだっけ?」
「ええ、何」
なんて簡潔な、マア良いや、言いたい事はさっさと言わないとね。
「君、何人目?」
うっわ驚いてる驚いてる。表情無いと思ったけどちゃんと感情表せるんじゃないか、感情は少しは表した方が良いと思うよ? あのバカ女レベルは論外だけどさ。
「な、なんの、事?」
はは〜其れで惚けてるつもり? こんな感情を表さないタイプは一度、ガツンと言ってペースを崩ししてやれば後は軽い物、幾らでも此方の話に乗せてやれる、オカルト宗教にはまるエリートコースまっしぐらのお坊ちゃま、お嬢様にも言える事だね。
さあて、あんなむさ苦しい髭のバカのお人形さんはもう嫌だろう? 僕だったら死ぬね。だから今度は僕が君の持ち主になってあげよう、大丈夫、あいつより大事にしてあげるよ・・・可愛いオニンギョウサン?
「取り合えず・・・座って良いかな? 有難う」
一応断って椅子を出し、座る。彼女は呆然とこっちを見てるだけ、声を出す余力も無いらしい。ま、行き成り核心突かれたら誰でも驚くか。
「で・・・何人目なのかな? 1人目は用済みになった赤木ナオコを始末する為に使用され、2人目は・・・恐らく、第三使徒戦の際に負った傷が元で死んだんだろうね・・・流石に頭蓋骨陥没、肺破裂、内臓破裂一部壊死、複雑骨折32箇所、単純骨折14箇所はきついかな・・・脳にもダメージを負っていたから・・・。早期に見捨てられて投薬死かな? そして今、此処にいるのは暫くの間面会謝絶の形で、体に傷が無いのを誤魔化した三人目・・・、違うかい?」
「違う・・・違う・・・」
「何が違うんだい?」
「1人目だとか、3人目だとか・・・何の事だか分からないわ」
「ふむ、君はそんな事、身に覚えが無い、と言う訳か、成る程成る程・・・ところで暑いの? 大分汗かいてる様だけど、空調効いてるのにね、暑がりかい?」
「い、いいえ」
少しずつ追い詰められて来たかな、そろそろ証拠を突き付けて完全に堕としますか・・・。見に付けていた物で唯一、手元を離れていないのが今僕がしている聖騎士団エンブレムの彫られたシルバー製ペンダント、チェーンはこれ一本で主力戦車一台程度、軽く保持できる物だし外し方も僕以外は知らない、外す努力はしただろうけど・・・ご苦労様、かな?
彼女に目も向けず、トップを弄る、円盤型の其れが真ん中から開き、中身が覗く。開けられた中には青い石が1つ収まっていて、実は此れが情報集積体の一種、情報を逐一収集し、状況に応じて映写機のような役割もする優れものなのだ。ツェップに行った時にちょいと、ね? 深い事を聞くのは野暮だよ?
其れを操作して何気なく空中に映像を映し出す。それに視線を移し、視界に捉えた途端に真っ青になって震えだす彼女、ううん効くねえ。因みに映し出されてるのは彼女が初号機からサルベージされた瞬間から始まる彼女の生い立ちってとこかな? ダイジェストって感じで中々良い編集ッぷりだと思うよ。
エヴァから引き摺り出された半端な魂の持ち主である彼女の人生は最初から最後まで、いや現在進行形か? 何にせよ1人の男の思いのままって奴だね、誰? 無論、碇ゲンドウさ。あ、ナオコに1人目が絞め殺される瞬間が映ってる、3人目の方を見るとわ〜、人って此処まで顔色変わるんだね? あ、正確には人じゃないか彼女。
で、LCL入りシリンダーの中に漂う彼女、上には脳味噌みたいな形の機器、ダミープラグというエヴァを操縦者無しで操るシステム開発中らしいね、出来るならさっさと作ってろっての、なら僕も態々呼び出されなくて済んだのにさ。
お、馬鹿大将と食事してる、う〜わ普通、行き成り分厚いステーキレアで食わせる? きついだろ其れ、あ、吐いた。彼女の肉嫌いはこのせいかね? ん、部屋が変わった、さっき食事していたレストランの入ってるホテル一室か、こんな映像まで残ってるとは・・・MAGI恐るべしだね、今や脅威じゃないけど。
こんな部屋に連れ込んで何する気かねこの男、矢張りナニ? え、おいおいマジですか? 服脱がせ始めて・・・わ〜い、おお〜、そんな事まで! こんな奴の血が一滴でも流れてる事に対して憤りを禁じえませんな、いつか間違いなく絞めるよ。
で、最後は・・・第三使徒戦の際のエントリープラグ内映像か。あ、手の骨折れた、有り得ない方向に曲がってるし。今のは腹打ったな、内臓破裂はこのせいか・・・うわボロボロだね、腕はもがれ、目は潰されて。でも誰も止めないんだね、一部は代わりがいると知ってるから、残りの大半は仕方ない事と割り切ってるから?
「もう・・・止めて!! お願い、止めて・・・」
あ〜らら、泣き出しちゃったよ、流石にショック療法はきつ過ぎたかな? 取り合えず効果は確認できたので映像を消し、そっと立ち上がって彼女の方へ近づく。ベッドに座る、ビクッとしたけど止める気は無いらしい。
泣き止むのを待って最後の一押ししようと思ったんだけど泣き止まないよ、ひょっとして僕、やり過ぎた? ん〜、加減分からなくてねこういうのって、もう少しタフだと思ってたんだけど・・・認識甘かったですか、反省反省。
何時までも泣き止まないのは困るのでそっと抱き寄せて、頭を僕の胸に押し付け、顎の下に来た青い髪を撫でる。何回か震えはしたけど拒否は無い、まあ誰かに縋ってないと耐えられないんだろ、10分位してやっと静かになったけど・・・服が涙でぐしょぐしょだ、後でばれなきゃ良いけどね。
「御免、君がむきになって否定するから手っ取り早く僕が知ってるって証拠、突きつけちゃったけどやり過ぎたかな、本当に御免」
見上げてくる涙目が結構ぐっと来るね、しかしここで押し倒しちゃあ意味が無いので我慢我慢。
「貴方は・・・私を否定しないの?」
「何で?」
予期された質問、全ては僕の予想範囲内。
「私が人間じゃない・・・知ってるんでしょ?」
うん知ってる、知ってる上で君を利用しようとしてるのさ。
「其の事について話、あるんだ。少し長くなるかもしれないけど・・・良いかな?」
一瞬の戸惑いの後、縦に振られた首を確認して話し始める僕、さあ? 此処からが演技力を問われるんだよね〜、ま、頑張りましょう?
「先ずは・・・僕の仕事、知ってるかな」
「聖騎士団としてなら・・・、人類の天敵であるギアを駆逐する事」
「そうだね、で、僕は其の騎士団の副団長。はは、正直な所、身に余る重責なんだけどね」
一寸寂しげに笑う、此処重要よ。
「上の者と言っても現団長の考えでは上に立つ者ほど団員の先頭に立ち、民草の剣となり盾となる事が要求されるんだ、僕も此れには賛成だけどね」
嘘だよ、賛成な訳ねえよ、何で苦労しないといけないんだよ全く。
「そんな戦いに明け暮れる毎日・・・僕はね、そんな時にある噂を聞いたんだ。『とある森の奥に人を殺さないギアがいる』って」
「人を殺さない、ギア?」
信じられなさそうね、流石に少しは常識も知ってはいるのか・・・、それとも僕が来るから騎士団の情報も与えたのか。
「信じられないよね、僕も信じられなかった。でも本当なら凄い事だと思って、僕は其の森に向かう事にしたんだ」
「凄い事?」
だって珍しい物って金になるじゃない? あの時はならなかったけど。
「其れは追々話すよ。行って見ると他の賞金稼ぎなんかも聞きつけて来たみたいでね、かなりの数の人間がいたんだ、其れを全員倒して・・・ほら、彼等を危険な目に合わせたくないからね、官憲としては」
手柄取られたくなかっただけだってね、此処は少し優しさアピール。
「そして最後に僕は出会ったんだ、1人の少女に。結論から言うと彼女が其の人を襲わないギア、嫌、ギアとは正確じゃないな、ギアと人のハーフだったのさ」
「そんな事可能なの?」
核心突くねえ、其れがどういう事か分かって言ってる? 一応、かなりの爆弾発言よその年の女性としては。
「有り得ない事が有り得ないってね、事実存在するのなら可能って事だろうね。向こうも気が立っていたみたいだし、僕も職務を遂行しないといけないから戦わざるを得なかった」
本当は喜々として戦ったんだけどね〜、活動資金が増えるって。
「でもね、戦ってる途中で気付いたんだ。本当に此れで良いのかって、意思の疎通も出来て戦わないという選択も出来るようになっている相手を、ギアの血が混じるからと言って単純に滅ぼして良いのかって」
単純に金にならないと気付いただけなんだけどね、全くもって忌々しい。
「だからね、彼女の身を保護し、信用のある義賊の一人に預けたんだ」
更に言うと、他人に多額の懸賞金渡るのが嫌なだけだったし。それにあの女ったらしのキザ野郎だから必ず手を出すと思ったんだけどなあ・・・甘かったか。
「彼女はね、綾波さん。今では人を襲う事も無く、人も気付かないからだろうけど普通に彼女に接してくれてる。そんな様子を見ていてある事に気付いたんだ、異形の者ともこうやって普通に暮らしていけるんじゃないかって」
行ける訳無いけどね、相当な裏技使わないと。ディズィー? 彼女はほら、見た目はスタイルも良い美少女だし、ね? 人間って所詮外見しか見ないし、「私は内面を重視しますっ!」なんて人道主義をほざいてる人間に限って、一定レベルの外見じゃないとまともに付き合おうとしないしね。
「だから彼女には、人間と一部の偉業の者達との懸け橋になってもらえる、僕はそう思えたんだ」
気付いたのは恥ずかしながら、つい最近だけどね? 僕もまだまだ甘いね〜気付くのが後数日遅かったら間違いなく、失踪に見せかけて殺してたよ〜ははは。
「そう・・・其れと私に何か関係あるの?」
大有りだとも、君もまた僕にとっての体の良いアイドルになって貰うんだからね。
「さっきも言ったかもしれないけど綾波さん、僕は其の相手の生まれが如何あれ否定する事も無いし、避ける事も無い。でも、悲しい事に其れが出来ない人間が多いのも確かだ、人は異物を怖がるからね」
考えてるね、そうそう良く考えてね。
「でも僕なら其れを変える事が出来ると思うんだ。此れは誇張でも幻想でもない、其れをするだけの力が僕にはある。ギアを狩る聖騎士団副団長として、そして今度から始まる人類の敵、使徒と戦う兵器のパイロットとしての僕の地位があれば」
そうだろ? 僕が無理なら誰にだって無理さ、後は此れにMAGIを使っての情報操作、あ、言い忘れてたけど既にオリジナルのMAGIは既に僕の支配下ね。
「だからね、綾波さん。僕は君に協力して欲しいんだ、世界を1つとする為に、あらゆる差別を無くす為に」
そして僕が全てを支配する為にね。
で、彼女の答えを待つ。相当や悩んでるようだね、まあ分からないでもないけどさ。
「僕は君の事を知ってる、でも君を嫌ったり避けたりしないよ。例え此処で断っても其れは変わらない、それだけは言っておくね」
ちゃんと逃げ道も作っておかないと、彼女みたいなのはそういう物が無いと全てを拒絶して閉じ篭りかねないし。
「・・・御免なさい・・・、私には何も無いから、無に還る事しか考えてない・・・分かってるんでしょう? 私の事を調べたのなら」
予測済みな回答、何処までも僕の計算どおりか。
「うん、分かってるよ、君が今一番望んでいる事も全て。でも、其れって本当に幸せなのかな? 他に道は無いのかな? 君が幸せになる。僕と一緒にその道を考えてみない?」
「・・・少し時間を頂戴・・・必ず結論を出すから」
数分考え込んでの結論、僕の予想より遥かに早い決定だね、思ったより簡単に堕とせるかも。
「そうだね・・・話が急過ぎたよね、御免ね、行き成り深刻な決定させようとしてさ」
「いいえ・・・」
「じゃあ、僕は此れで失礼させて貰おうかな、また来るね。そうだ! 今度は何かお土産もって来るよ」
「・・・有難う・・・」
と言ってハッと天井を見る彼女、知ってるよ、隠しカメラでしょ? まあ貴重なチルドレンの病室、あって当たり前だよね。
「あ、大丈夫大丈夫。ダミー映像流すように指示して置いたから、誰も気付いて無いから安心して」
此処でニッコリ笑顔を一発、ふん、顔真っ赤にして窓の外向いちゃったよ初心で分かり易いのって良いよね、利用しやすくてさ。
「じゃあまた綾波さん、お大事に」
返事は無かったけど得た物は大きいと思うよ、さて、最後の一押しの材料がそろそろ来るはず何だけどな・・・お、来た。
「どうも司令、お見舞いですか?」
「・・・何の用だ」
「いえほら、残りの細かな契約条件を決めないといけないでしょう、時間とって貰えますよね?」
「後にしろ」
そんなに早く綾波に会いたい? 碇ユイに似てるから? 大事な道具だから? まあ如何でも良いよ、それに貴方が全てを放り出すような魔法の言葉、其れを僕は知ってるからね。
「そうですか、残念ですね・・・折角碇ユイ、母さんの事に付いて話があるのに」
「何だと」
おやおや、素直過ぎますよ司令殿、てかそんなに顔近づけないで下さい死ぬほどキモイですから。
「聞こえませんでした? 貴方の妻で僕の母、彼女の事について一寸、ね」
ニッコリ笑って返事を待つ、笑顔をユイに似せる事も忘れずにね。は〜はは、少し赤くなってそっぽ向いちゃったよ馬鹿みたい、ん? 「ユイ・・・」ってオイオイ、息子に欲情するんじゃねえよこのド変態がよ〜。
「良かろう、直ぐに時間を取ろう、ついて来い」
そう言ってさっさと踵を返すヒゲ。アレアレ、良いの? 良いのかな?
「あれ? 司令、ファーストチルドレンへの見舞は如何されるんです? 折角来たのに」
「必要ない、順調に回復してるとの報告を受けている。ならば会うだけ無駄だろう」
無駄? へえ其処まで言い切る? 良いのかねえ、本当に。
「ふむ、チルドレンよりも自分の妻の方が大事ですか・・・ま、僕には関係ないですけどね」
「ならば行くぞ、レイよりもユイの情報の方が大事だ」
はっは〜!! 其の一言を待っていた!! きっと貴方なら言ってくれると信じていましたよ流石だよねオトウサン? 僕は内心ニヤリとしながら胸元に忍ばせておいたマイク付き送信機の電源を切る、ま、早い話があれだ、トランシーバーですね。
電波の受けては誰かって? やれやれ、分かってて聞くのかい? 野暮だねえ、当然綾波レイに決まってるじゃないか。受信機をそっと彼女の傍に置いて来たんだよ、だから今の会話、丸聞こえ〜。
どう? 綾波さん、貴女が絆と信じてる相手は全く貴女の事なぞなんとも思っていませんよ? いや、本当は分かってたんだろう、信じたくないだけであってさ。でも大丈夫、僕は捨てないからね、必要な間はずっと守って上げる。ん、いらなくなったら捨てるんじゃないかって?
馬鹿だなあ、捨てたら再利用されちゃうかもだろ? それじゃあ駄目だよ、いらなくなった物は「捨てる」んじゃ無くて「壊す」んだよ、ね? 其れが一番さ。
で、この後アレだ、爺さん交えて色々決めた訳よ。拒否権とか居住地は此方で決めるとか、聖騎士団の仕事を使徒侵攻時以外は優先するからとか、まあ色々ね。
渋ったけどユイの情報ちらつかせたらかなり譲歩したよ、そりゃあもう此方が予想していたよりずっとね、そんなにあの女の情報が大事ですか、ストーカー? ねえ、あんた等ストーカー?
ん? 何の情報だったのかって? まあ取り込まれたる間に碇ユイの意識に軽くだけど触れた、何時かは帰ろうと思ってるように感じたと、ヒゲ達が喜びそうな事を並べ立てただけ、嘘じゃないよ? 何時かは還して上げるから・・・ちゃんとね? クス。
で、数時間後。僕はとある廃墟ビルの中にいた。
ネルフの尾行をまくのなんて朝飯前だし、住居もつてを頼ってダミーまで用意して偽名で住む事にしている、何時かはばれるだろうけどまあアレだ、嫌がらせ?
今此処で何をしているかと言うと、一言で言うと待ち合わせ。ネルフについてMAGIを支配する前、情報を色々と仕入れてくれていた闇組織のボスと会う約束をしてるんだ、次のお願いもしないといけないしね。
お、来たかな? 気配を感じますよ?
「・・・今度は何の用だ碇シンジ、もう其方の出した条件は全て果たしたぞ!! だから約束を守って貰おうか!」
「いやいや、良い仕事してますね〜ですよね。しかし単刀直入ですね、もう少し会話を愉しみませんか? ね? ヴェノムさん」
振り返ると何時の間にか其処に白い長髪を顔に垂らし、其の上に封印の刻印である、目を書いている男が1人、てかこんなの1人で十分だけどさ。でも何か僕したのかな? 髪の隙間から見える目は怒りに染まってるし、はてさて、何に怒ってるのかねえ。
此れはお願いするのに骨が折れそうだよ、ま、良いけどね? どんな手を使ってでも聞いて貰うよ僕のお願い、だってさ、ヴェノム君? 君の価値ってそれ位しかないしね? ね? そうでしょ?
「貴様との会話を楽しむ積りなど毛頭ない、さあ、ザトー様を解放して貰おうか」
やれやれ、未だあの男の事を取り返そうと? もう既に心は自身の闇に食われて残ってないってのにね、アンナ肉人形に何の用があるのやら、あ、もしかしてダッチワイフ? 何にせよ関わりにはなりたくないね。
ザトーONE、禁呪を使用し己の影を自在に操る事によってとある暗殺団のボスにまで上り詰めた。でも結局は己の影に心を乗っ取られてしまったお馬鹿で弱い男、チンピラのままで満足しときゃあ良かったのにねえ、小者が粋がるからさ。
そんなんでも恩義を感じる奴がいるらしいね、其れが今、僕の目の前にいる奴、ヴェノム。何があったか知らないけど盲信の域に達していているのは間違い無し、怖いね〜狂信者って。
其のザトーだけど数年前、ジャスティスが封印された後に僕と団長で追跡、捕獲に成功した。其れまでも影の趣くまま、破壊活動をちまちま起こしてたみたいだけど、それよりもジャスティス封印が優先され、ほって置かれてたんだ。大きな問題の前では小さな問題で発生する被害など無視される、数が多い方が勝つ、世の中の良い所だよね。
でも其のジャスティスも封印され、余裕も出て来た所で団長が次の目標として掲げたのがこのザトー確保。ギアでもないんだしとは思ったけど上に逆らえないのが組織って物、渋々、団長と共に活動を開始した次第、団長と仕事すると気を抜けないから嫌なんだよね〜、他の事には意外と鈍感なのにやる気とか、そういった物に関しては敏感なんだからもう・・・「やる気を出しなさいシンジ!」「もう少し頑張れないんですかシンジ!!」あ〜色々思い出したくもない事まで。
とまあ、紆余曲折と数々の災難に見舞われながらザトーをとある廃墟まで追い込んだと言う訳。災難の内訳はザトーにかかってる賞金を目当てにした鎌使いに紙忍者、妙に人間臭い団長そっくりなロボット、ああ団長にそっくりですねと言ったら号泣しながら首絞めて来たよ、「シンジ!! 貴方に取って私はあのようなブリキ細工と同等に見えるんですか!?」って、いやもう本気で泣いてたねあれ、そんなに嫌? パチモン出るのは有名になった証だと思いますけどね。
それからああ、脳味噌の変わりに杏仁豆腐が詰まってそうな中華女も団長にちょっかい出しに現れましたね、ええ。もう語尾に「アル」を付けるのは萌えでも何でもない、時代遅れの産物だと突っ込みたかったけどもう如何でも良かったよ、団長の目も逸らしてくれたしね。マ、其の位、役に立たないと殺すよ? マジで。
其のせいかどうかは分からないけど僕が先にザトーと接触した、あ、もうエディーとお呼びした方が宜しいかな? ザトーの自我は残ってないわけではあるし。で、まあ2、3話をして僕は彼を倒し、次元牢へ封印した、此れで一応目出度し目出度しなんだけど・・・そうも行かないのが現実だよね、後日、今目の前にいるヴェノム君が奇襲をかけて来た、無論、返り討ちにしたけど。
その時にヴェノム君と取引したのさ、「ザトーを秘密裏に返して欲しくばネルフについて調べろ」ってね。既に次元牢の上とは金銭的繋がりを持ってるから黙って出す事は容易いのよ、流石僕。
「何を黙っている貴様」
おや、色々思いだしてるうちにヴェノム君を無視する形になってしまってたね、いや御免、てか君は寂しがりや? まあザトーの後ろの穴狙ってるのは知ってたけどさ。
「いや、其の前に一寸此れ聞いてくれないかな? 其の件のザトーから言付け貰って来たんだけどね」
「なに!?」
驚く彼にポイと銀色の細長い機械を放る、まあ何処にでもあるICレコーダー、種も仕掛けもないよ、自爆装置は仕掛けなんて呼ぶほどでも無い嗜みだしね、つまり当然? 受け取って、凄い勢いで再生ボタンを押すヴェノム君、オイオイ壊すなよ? 聞けなくなったら如何する気だい、なんかミシミシ言ってるしさ。
『久しぶりだなヴェノム、お前の忠義、碇シンジを通して此処にも届いている』
「・・・勿体無いお言葉です、ザトー様」
震えて感動するヴェノム君、涙を流さんばかりだ。でも頼むから其のど真ん中のでっかいのからは流さないでくれよ?
『さて、私の現状だが知っての通り次元牢への封印となっている。だが其れは表向きで碇シンジの工作により、活動に一切の拘束は無い、流石に牢から出る訳には行かないがな』
「・・・本当に手を回してくれていたのだな、疑ってすまない」
謝ってくるヴェノム君へ手をヒラヒラと振って気にするなと合図を、だって其の程度朝飯前だしね、態々、相手の感触悪くしてもしょうがないし。
『よって、私はこの状況を利用して影の完全なるコントロールを確立しようと思う。だから当分は此処、牢の中で生活する、だが心配はいらない、私は必ず戻ると約束しよう、だからヴェノム、お前には組織を纏めて行って貰いたい、このテープを持って行けば他の奴等も信用するだろう、宜しく頼む。それと、引き続き碇シンジへの協力を頼みたい、誰を使うかの人選はお前に任す、なに、代わりに我々組織への取締りを緩める事を条件付けさせた、悪い話ではない。
では話は此れだけだ、またお前に会える日を愉しみしている、ではな』
声は止まる。ヴェノムは感動に打ち震えて言葉も無い様だよ、でも僕としてはさっさと帰りたいんだけどね、流石に疲れたし。
「と、言う訳なんだけど、引き続き協力頼めるかな? 今の声は本物だし、無理矢理言わせた訳でも無いって事は分かったろう?」
「そうだな・・・良かろう、お前に協力する事を約束しよう、その代わり・・・」
「分かってる、ザトーの方は心配しなくて良いよ、悪いようにはしない」
「礼を言おう碇シンジ。それで次は何をすれば良いのだ、暗殺か?」
あ〜其れも魅力的だよね、髭とか馬鹿っぽい女とか一気に亡くせば僕も楽になるし、でもやった先、どうなるか分からないのに実行に移すのは危ないよね、もう少しネルフの方も取り込んでから行動に移さないと・・・、だからヴェノム君に頼むのは此れ。
「いや、調べて欲しい事があるんだ・・・JAって知ってる?」
「JA・・・日重が開発している対使徒兵器か? まさかこれについて調べろと言うのでは無いだろうな」
少し馬鹿にした感じのヴェノム君、いやいや流石にそんなつまんない事頼まないって。
「まさか、あんな原子炉に手足付けただけの自律式移動核地雷の情報なんて笊だよ笊、民間企業のセキュリティなんてあって無いような物だしね、第一、あんなのの情報いらないよ」
「そうだろうな、では何だ、JAに何か関係しているのか?」
「一応ね、JAって兵器なのに一番出資してそうなところが出資して無いんだよね、何処か分かる?」
「しそうな・・・戦自か」
「御名答」
そう、ネルフを敵視していて尚且つ、使徒に対する兵器をネルフ以上に欲している組織である戦自、此れがJAに対して全く出資していないのだ。あんな欠陥機に出す金は無いと言えば其れまでだがトンデモ兵器を作り続けてきたのもまた軍隊と言う名の組織、ノータッチと言うのは余りに不自然だ。ならばどういう事か。
「成る程・・・戦自が極秘裏の内に、独自の対使徒兵器を開発している可能性がある、そう言う訳か」
「そう、飲み込みが早くて助かるよ、名目上の新しい上司が馬鹿っぽくてさ〜、苦労しそうなだけに理解力ある人って嬉しいね。一応、僕なりに調べてみたけど流石に此れだけしか分からなかったよ、戦自の使途不明の出資金口座、それからプロジェクト名だと思う『TRIDENT』。すまないが後は調べてみてくれ」
そう言って今度はMOディスクを一枚放る、今言ったデータが入ってる奴、ヴェノム君は其れを器用に受け取り、胸元に直す。
「分かった、何か判明したら連絡しよう、他に用は無いな? ではザトー様の事、くれぐれも頼む」
此方がもう無いという事を態度で示すとヴェノム君は踵を返して去って行った、せっかち君だねえ。その彼の姿が消えてから数秒後、僕の後ろに忍び寄る誰かの気配、僕は大して気にする事も無く其の気配の持ち主へ声をかけた。
「何か声をかけてあげれば良かったんじゃない? アンタの事を慕ってくれてる忠実なワンちゃんじゃないか」
「クケケケケ!! ソレハ ホンキデ イッテルノカ? イカリシンジ」
耳障りな高い声、相変わらず五月蝿いね。闇の中からずるりと粘着質な雰囲気を醸し出しながら現れた両目を眼帯で塞いだ全身黒タイツの男、そう、噂のザトー君さ。
「本気も本気さ、今の君にとってはただの赤の他人でも、肉体の元所有者にとっては可愛い部下、ご機嫌取りをしても可笑しくないと思うけどね」
「ハッ、モウ コノカラダノ ヌシハ コノ エディヨ。ザトーノ ヤツノブカ ナド シランネ」
あらら御大層な言われよう、ヴェノム君、いと哀れなりってね。
「まあお互い、上司、部下の事は置いといて・・・。仕事だよ、こいつ等をチャッチャと消しちゃって」
そう言って数枚の写真をザトー、いや、エディとお呼びすべきかな? そのエディ君に放り投げる。其れを肉体の手を使わず、影から伸ばした触手で受け取り、其れと同時にずるりと肉体の肩の所から生えてきた、ガーゴイルとでも言うべき異形の顔の前へ其れを指し示す。
「フム? コレハ ジャーナリスト ト、セイジカ、サイゴハ チュウゴクマフィアノ ボストハナ。キサマモ ナカナカ、ニンキモノ ジャナイカ、ケケケケケ!!」
「不本意なんだけどね、しかしよく知ってるね」
「テレビデ ミタ」
テレビ・・・次元牢に電波入って来たっけ? なんにせよ俗っぽくなった事で。
「ソレデ? コイツラガ ナニヲ シデカシタト イウノダ」
「ジャーナリストは己の正義と言う名の自己満足に、政治家は己の利権と資金調達に、マフィアは己の地位の維持、向上に。動機って奴は違えど目指す所は一つさ、つまりは」
「イカリシンジ、キサマノ ヒミツヲ アバコウト シタワケ ダナ」
そう、エディ君の言うとおり己の身もわきまえず僕の周りを嗅ぎ回った馬鹿な奴らさ、雉も鳴かずば撃たれまい、出る杭は打たれる、つまりはそういう事。僕等が与えてやっている平和を貪る事しか出来ない家畜の分際で、僕の後ろめたい部分を暴こうとする者は後を絶たない、好い加減にして欲しいよ。
「コノ ジャーナリストハ イゼン、ザッシデ キジヲ カイテイタノヲ ヨンダゾ。ナンデモ イマノセカイ、トクニ ヤミト ブンルイサレテイル ブブンヲ シハイシテイルモノガ イル、オドロクベキコトニ ソレハ セカイヲマモルガワノ キカンニ ゾクシテイルモノ ナノダトカナントカ」
「・・・本当に俗っぽくなったねえ、君も。そう、僕も少し油断していたみたいでね、一寸した証拠を握られちゃったんだ。今は出版社に圧力かけて抽象的な表現を使わせてるけど、」
「ダガ、イツソレニ キヅイテ ホカノカイシャニ マワラレデモシタラ コトダ、ソウイウワケダナ。キサマノ テモノビテナイ カイシャモ アルダロウシ」
「そう、本来なら嗅ぎ回ってる奴が消えたら人は好奇心を掻き立てられるから殺したくはないんだけどね・・・情報を握られたからには仕方ない、他の政治家もマフィアのボスも同じさ、証拠諸共消し去って来てくれ、早くしないと君の体にかかっている『保存』の魔術の効果が切れちゃうよ」
そ、今のザトーの体は死に瀕していると言って良い、精神はほぼ死に絶え、影に操られるパペットとなった肉体は後は崩れ行くのみだ、本来ならね。其れを食い止めているのが彼、エディ君の弛まぬ努力と言う奴さ。精神寄生体である彼にとって、未だ確立していないその本体を維持する為には入れ物である肉体、此れが必要だ。
暴れていると思われていた彼の活動は、その肉体を捜す為の行為だったらしい、つまりは暴れて寄って来た強い肉体を持つ者、賞金稼ぎなどの肉体を乗っ取ろうと考えたとか、残念ながらお気に召す物は無かったようだけどね。
そうしている間に肉体のタイムリミットが近付いた、焦った彼の前に立ったのが、同じく追い回す任務にイライラしている僕、シンジだった訳。少し戦いながら声を交わし、そして僕らの利害は一致した。僕からは身を守れる場、肉体崩壊を阻止できる魔術、新たな肉体の候補者差し出し、エディ君からはこうして、僕が動いて殺す訳にはいかない人間の暗殺を依頼している。
ヴェノム君に頼めば良いんじゃないかって? それでも良いけどね、彼もある意味かなり表に顔出しちゃってるからね、特に団長なんかからもマークされてるし、あまり大袈裟に動かす訳にもいかないんだ、意外と使い勝手が悪いんだよ。其処へ行くとこのエディ君は使い易い、暗殺においてだけだけどね。彼は次元牢、脱獄不可能なそれに収監されている、其れが世間の認識、その彼が動いてるとは誰も思わないだろうし。
別に完全に野放しって訳じゃない、さっき言った魔術、此れは僕しか使えないし時限式の物だ、時間が過ぎ、僕が近くにいないか次元牢の中にいないかの何れかでないと、エディ君の肉体はその場で崩れてしまう、正直、もう肉体が限界なのさ。
「ソレニシテモ、ヒトハ ウラヲ アバキタガル イキモノダナ。トクニ シハイサレテイルト イウ タンゴニハ、カジョウニ ハンノウスル、ソンナニ シハイサレルノガ イヤナノカネ?」
うん? 考え事をしていたらエディ君の台詞が聞こえて来る、しかし面白い事を言うね。
「支配されるのが嫌? 面白い事を言うねエディ君、本来、人間は他者から支配される事を望む種族だよ」
そう、其れは間違いも無い事実だ、誰も、僕でも否定出来ない事実、する必要も無いけどね。
「ホウ? ソレハ ハツミミダナ、タイテイハ キラウト オモッテイタゾ、セツメイシテ モラオウカ ソレナリニ キョウミガ ワイタ」
「良いかい? 確かに人は表立ってはそう言うね、支配されるのは真っ平、個人の自由を尊重しろ。小さい所では子供が親に対して勉強をしたくないと反抗する、大きい社会現象では共産主義、社会主義によるテロとかね、人民を政府の圧制、支配から解き放てって、やってる事は子供の駄々と全く同じさ。
でも実際はどうだろう? 生活の中には支配が蠢いてるじゃないか? 其れも人間自身が望んだ状態で。例えば電車の高速化、数分ずれただけで凄まじい事態を引き起こす過密ダイヤ、此れは人間が時間に支配されている証拠だ。もっと速く、もっと近く、時間に対する強迫観念、支配とも取れるその想いが電車を速くした、それによる運転手のダイヤ遅れによって受けるペナルティへの恐怖から事故を引きこすというデメリットすら無視した状態で。
受験戦争、此れだってそうだろう? 人より良い学校へ、そして人より良い会社へ、人より良い暮らしを! 人よりも、誰よりも、もっと、もっと!! 欲望に支配された、いや、嬉々として支配された人間が引き起こす喜劇だよ。人と争わず、仲良く生きろ、其れを説く学校が自身の名誉の為に生徒達を上の学校へ押し込もうとするのもその表れさ。
人はね、そういう生き物なんだエディ君」
両手を広げて力説する僕、結構カッコ良くない? そう、人は支配されたがっている。何かに束縛される事は確かに嫌な事ではある、其れと同時に安心でもあるんだ。鳥は鳥篭に入れられ自由に飛ぶのを禁じられる代わりに、餌と安全が保障される。動物園の動物達もそう、その住処は切り取られた世界になるけど代わりに食事と体調管理が与えられる、敵に追われる事も、明日の食事を心配する必要も無い。
人間もそう、束縛は嫌だと叫ぶ人間は社会と言う組織の歯車になり、その恩恵、おこぼれに与り制限と言う名の安堵を手に入れ、何時しか何を叫んでいたか忘れてしまう。其れを忘れず、自由の為に戦い続けると誓った闘士もまた、結局は世界同時革命などと言うおためごかしに支配され、動き、人を殺す操り人形に成り果てる。
「だから、ね、人は支配されたがってるし今でも支配されている。そう・・・」
「ダカラ、ソノ シハイノ チョウテンニ ボクガタッテ ナニガワルイ、カ?」
「そうさ、僕もまたその支配すると言う観念に支配された哀れな人間の一人、糸も無いパペット。だからどうした? 其れでも僕は上を高みを目指す、実現してみせる、多くの物を手に入れてやる! 其れの何処が悪いと言うんだい?」
分かっているさ、僕の立場だってただの小さな人間に過ぎない事くらい、其れが足掻いて力を手に入れて此処まで来た、それでも気を抜けばその場で終わり、身の破滅。支配観念に突き動かされる人形は、所詮こんなもの、そういう事だ。
「それに、君だって人間らしくなって来たじゃないか」
「オモシロクモ ナイ ジョウダンダナ、ニンゲンゴトキト イッショニ シナイデモラオウ」
途端に不機嫌になるエディ君、ははっ、そんなに一緒にされるのは嫌かい?
「そんなむきになる所、其れもまた人間らしいって言うんだよ、君もまた支配されてるんだねえ、あながち消えたくない願望に、かな?」
「・・・クダラン、モウ イクゾ」
図星、だったかな? 振り向き飛び去ろうとする彼を僕は止めなかった、だってもう時間無いのは事実だしね。
「じゃああれだ、サボる事無く頑張ってね〜。合流地点は例の場所で」
それだけ言って僕は、振り返る事無くその場を後にした。その耳に空を裂く、巨大な何かの翼の音を聞きながら、ね。
うん、ある程度予想してたけどさ、なんて言うのかな、そう、人間ってたとえそうしていても脱力するときって、あるよね、あって良いよね?
「あお帰りなさい、シンジさん、ジョニーさんに言われてお部屋の片付けをしていました。あの・・・如何されたんですか? 入ってくるなり膝を付いて、片手で顔を覆って」
此処は僕が用意した、正確には某義賊のお空の海賊さんに頼んで用意してもらったセーフハウスの一つ。地元のヤクザか何かに用意して貰っても良かったけど、流石にネルフのお膝元でそういう事するほど、僕も自信過剰じゃないよ、彼らの諜報能力を其処まで過小評価はしてない。
だからこうした事態で役に立つのは彼だ、さっき名前の出たジョニー、居合いの達人でもあるクールガイ、がね、まあこう呼んでたら機嫌が良くなるから呼んでるんだけどね。その彼に幾つかのセーフハウスを紹介して貰った、あ、ちゃんと代金は払ってるよ? 借りは作りたくないし、彼も彼で経済状況は厳しいらしいからね・・・それなりに悪党襲って儲けてはいるみたいだけど、クルーのあの食いっぷりを見てる限りじゃ、ね、まあ大きい声じゃあ言えない事だけど。
その彼からセーフハウスの鍵束と住所を書いた紙の入った手紙が来たのはつい先日、その中に『着いたその日にはこのハウスに泊まれよ、俺とお前、男と男の熱〜い約束だぜ?』と書いてあったので其処へ来たのだが・・・いや、反抗してほかの所泊まっても後々困るのは僕の方だし、役に立つコネの機嫌損ねるのはまだ、ね、ほらまたしがらみに支配されてる、って奴かな?
そして今、僕の前で空賊の制服の上からエプロンをつけ、鼻歌交じりに掃除、片付けをしているのは召喚の手紙が来た時に同席していたディズィー、彼女さ。そんな雑務が楽しいのか穴の開いた短パンから顔を出している尻尾もピョコピョコ嬉しそうに踊っている、正直ウザイと思うのは罪なのかね? かと言って無碍にすると色々、後で面倒だからねえ・・・。
ごめん、マジごめん、18禁は未だ私の腕では無理だわ
習作なんかで練習して、それから足します。引き続きシンジの中二病ぶりに期待を
読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます