Cover And Talk
「なあゾロ…こいつ…どうしよ」
どしゃ降りの雨の中、扉をひらくとそこにはルフィがいて、まず始めにコイツは困ったような声でそういった。
めちゃくちゃに濡れたルフィの腕の中では、上着に包まれて小さな小猫が震えていた。
「どうしよって…おまえな…」
とりあえずほっとくわけにもいかないので、水浸しのこいつらを部屋に招きいれた。
おれも甘いよな…。
ルフィがシャワーを浴びている間におれは猫のからだをふいてやり、ヒーターの前に陣取って毛布にくるんでさすってみた。
しかし、かなりの間雨に濡れていたらしく、なかなか震えはおさまらない。
「まいったな…」
おそらくルフィのやつがどっかで拾ってきたのだろう。
真っ白の、なんの変哲もない小猫。
それでもこの雨の中、ルフィにほっておくことなどできなかったのだろう。
「…よかったな、お前」
しばらくして、どたばたとルフィがリビングに走ってきた。
「ぞろっぞろっ!ねこねこっ!」
よほど心配とみえて、体をろくに拭かずに濡れたままでタオルを適当にかぶったままのその姿…。
呆然とするおれをよそに、正面にどかっと座り込むと、おれの抱える猫をのぞきこんだ。
「んーーーーーーー?」
なにやら難しい顔で唸るルフィ。
いや、それよりも…
おれとしては、よ・・・
…洗い髪が…。
ぽたり…ぽたり…としずくが床に落ちる。
うなじをつたう。
鎖骨を流れる…。
・・・・・・・・・・・・・・。
…あーヤバイ。
おれは組んだ足の上に猫を置くと、ルフィのタオルをひっつかみ、わしわしとこいつの髪を拭いた。
「…猫ならだいじょーぶだろ。とりあえず体拭いてあっためてたから」
上の空で、手だけ動かして、おれは言う。
ただし、内心の葛藤などは悟らせずに。
「うーー、そうか」
おとなしく髪を拭かせながらコイツは返事をする。
「…それよりなァ、お前体ぐらいちゃんと拭いて来い。着替えも置いといただろ?」
視線を泳がせたまま、そういった。
…理性がもたん。
「だって、きになるだろー」
わかってるよ、てめェが慌てて風呂からあがってきたのは猫が心配だったからだって。
でもな…
「……うしっ、終わり。
…これじゃどっちが猫だよ…。まったく…」
ばさり、とルフィの肩にタオルをかける。
くしゃくしゃのかすかに湿った黒髪とか、すねたようにこっちを見てくるその顔とか…
「ほら、とっとと行って服着て来い」
本能を押さえ込んで、呆れたようにそういったら、コイツはおれをさらに追い詰めた。
「髪だけ?」
「は?!!!」
いや、オイ、てめェ、ちょっとまて。
「体は拭いてくれねェのか?」
すこし首を傾げたその仕草がすげェかわいくて…ってそうじゃねェよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・。
おれは視線を落とす。
ひざの上には白い猫。
確かに猫の体は拭いてやったが。
…あァ?
…落ち着け。とりあえず落ち着け。
待て、マジで。
あー、やべぇ・・・
ちょうどおれがキレかかったそのときに、ルフィはひょいとおれの左耳に口付けると、耳元で、
「冗談だよ」
と、楽しそうに言うと、ししし、と笑いながらバスルームへ去っていった。
・・・・・・・・・。
…あー…ちくしょう。
「…やるじゃねェか、ルフィのくせに…」
思わずもれた言葉も、なんて情けない。
…計算してやってんのか?
…イヤ、そりゃありえねェな。そんなに頭はよくねェし。
…じゃ、ナミか?
…ありえるな。あの女はよけいなことをよくルフィに教える。
…だが…
「やっぱ…無意識なんだろうな……」
まったく手におえない。
これが一番厄介なんだよ。
おれのためいきを聞いていたのは、震えもすこし落ち着いた猫だけだったわけで。