犬猫話二つ目。
犬、余裕の巻。そして幸せを噛み締めるの巻。
「わかってるってこと」か・・・(遠い目)
猫扱いか・・・

相変わらず甘い。
容赦なく甘い。


Cure And Take











昨日の雨はどこへいったのか。今日は眩しいほどの快晴だった。
そして、ルフィの拾ってきた仔猫は回復し、・・・いやむしろ、回復しすぎて暴れまわっていた。

暖かな陽の差し込む部屋の中で、ルフィと猫の追いかけっこが続く。
「こらっ!!まてっ!!!」
タオルで拭いた程度では体についた泥を完全にぬぐうことはできなかったため、今ルフィはそいつを洗うべく捕まえようとしているのだが・・・・。
一般的に猫は風呂嫌い。
まったくその通りのようだ。
この猫も、何かを察知したのか必死に逃げ回る。
その光景を見て、おれはなんとなく猫がネズミを追いまわすアメリカのアニメを思い出した。
いや、この場合は追いかけられてるのは猫なのだが。


・・・・あ、写真が落ちた。

・・・・コップが割れた。


「ルフィ、止まれ」
台風が来たかのような自分の部屋に耐えかねて、おれは静かに言った。
ばたばたと猫を追いまわしていたルフィが立ち止まる。
そしてなぜか猫も、棚のうえで止まっていた。
とたんに、水の出ている蛇口を閉めたかのように音がなくなる。
「なんだよ、これは」
別に部屋をめちゃくちゃにされたことはどうでもいい。
そんなのは片付ければいいことだから。
だが、コップが割れたということは・・・。

「あ・・・ごめん!!すぐ、片付けるっ!」
おれの方を見て、慌てたルフィはこの部屋をなんとかしようと、いきなりしたことは、

「・・・いてっ!!!」

・・・・・そうなると思った

割れたコップの片付けだった。
そして案の定、加減知らずにガラスを握り締めたのだ。

ルフィの手のひらに血が滲みだす。
そんなに深くはないだろうが、当然放っておけるはずもなく。
「おい、猫。少しそこでおとなしくしてろ」
おれは棚の上にむかってそういうと、ルフィをひょいと抱き上げた。



「・・・ごめん・・・」
ぽつり・・・とルフィが言った。
ソファの上に座らせて、怪我の手当てをして、コップの破片を片付けて・・・その間中、おれはなにも話さなかったから、コイツはおれがよっぽど怒ってるとおもったのだろう。
実際、怒っちゃいねェが、こういうときはちゃんと怒ったふりをしとかねェと、コイツはまた同じことをするからな。
「まったくお前は・・・。少し落ち着いて行動しろ」
呆れたようにいってやる。
まぁ、落ち着いて行動するルフィってのも、なんだか妙で笑えるが。
「・・・うん・・・」
本当に反省したらしく、ひざを抱えて小さくなっている。

・・・そろそろ許してやるか・・・。

おれはルフィの隣に座ると、できるだけ優しく髪をなでてやった。
「・・・怪我は大丈夫か?」
するとコイツはいきなり笑顔になっておれに飛びついてくる。

・・・おいおい、現金な奴だな。

「ゾロ、好き」
「はいはい」
「なんだよ、それ」
「わかってる、ってこと」
「・・・ゾロは?」
「・・・わかってるだろ?」
「しししし」
どうやら元気を取り戻したようなので、こっちの猫の相手はこれくらいにして、いまだ棚の上でこっちをみているヤツの相手もしねェと。
さて、どうしたものか・・・。

ルフィを体のうえからおろして、おれは猫のいる棚の前にいく。
白い猫はその黒い目で、こっちをみていた。
「ほら、こいよ」
無造作におれは手を差し出す。
しばし猫はためらっていたが、おれがさらに促すと、器用に腕を伝って肩に乗っかってきた。

やっぱりこの場合、ウチでコイツを飼う羽目になるんだろうな・・・。
半分あきらめかけた気持ちで、そのままおれはバスルームに向かった。




「ししし。ぴかぴか」
体をあらって、思った以上にキレイになった仔猫を、ルフィは満足そうにかまっていた。
しつこくされるのをきらった猫は、ルフィの手をすり抜けおれのひざの上にやってくる。
「にしても、お前、どこでコイツを見つけたんだ?」
軽く猫の首をくすぐりながら、昨日から聞きそびれていたことをやっと聞く。
捨て猫ならまぁいいが、もし飼い猫だった場合、いまごろ飼い主が心配してるだろう。
「んーとな、昨日学校の帰りひでェ雨だっただろ?おれ傘持ってなくて、でもゾロん家に来たかったから、真っ直ぐ走って来たのな?」
「・・・馬鹿。電話くれりゃ迎えにいったのに」
「あ、そうか。・・・うん、今度からそうしてもいいか?」
「ああ。それで、猫は?」
「おう、猫な。途中に土手があるだろ?あそこを走ってたら猫の声がしてな、気になってのぞいたら、ダンボールがあって、そんなかにコイツがいたんだよ」

そうか、捨て猫か。
それにしても、こいつが猫をみつけたときの様子が目に浮かぶ。
土砂降りの中、雨に打たれて震える猫を、すぐさま抱き上げて自分の上着で包むルフィ。
そうしてそのまま走って、おれの家まできたのだろう。
なんだか目の前のコイビトが、無性に愛しく思える。
「なんかな、ほっとけなかったんだよ。猫なんて拾って帰ったら、『ウチじゃかえねェ!』ってエースが言うだろうし」
「・・・おれはいいのかよ」
思わずつっこんでしまったのだが、ルフィはあっさりと、
「ゾロなら何とかしてくれると思ったんだ」
あどけない顔で、いってのけた。

・・・・・・・実際、こうして何とかしてしまってるし。
しかもこの際コイツを飼ってもいいか、なんて思ってるおれがいて。
・・・・・なんだかなぁ・・・。

おれは頭を抱えたい気分になった。
どれだけ自分がこいつに参っているかを自覚させられて。
だが、こいつに誰よりも頼りにされてることを自覚させられて。
「ルフィ」
「ん?」
おれのひざの上の猫をかまっていたルフィに、不意打ちで軽くキスをする。
「なんだよ!びっくりするじゃねェかっ!」
顔を赤らめて慌ててはなれるルフィが可笑しくて、おれは軽く笑いをもらす。
「迷惑料」
「ばか」
にやりと言うと、おかえし、とばかりにルフィからの言葉とキス。
「なぁ、なんでこの猫、ゾロのいうことだったらおとなしくきくんだ?ゾロにはくっついてくるし」
こつん・・・と額をつけて、思い出したように鼻先で聞いてくる。
お前が散々追い掛け回した、とか、しつこくされるのがいやだから、とかいくつか理由は浮かぶが・・・。
「ま、猫の扱いにゃ慣れてるし・・・」
目線をそらしてそう答える。
「そうなのか?ゾロ猫飼ってたのか?」
きょとんと、たずねるルフィの耳をくすぐりながら、少しかまってやりたくなって、
「ああ、飼ってる。今おれの目の前にいる、普通の猫以上に手間がかかる黒目黒毛の猫を一匹」
抑えた声で、耳元でささやいてやった。

ちょっと考えて、意味がわかったらしく、『猫』はおれの肩に顔をうずめる。
そしてためらいがちに、
「・・・・なんだよそれ・・・おれのことかよ」
「・・・ほかにいるか?」
あっさり言ってやると黙ったので、さらにいじめてやろうと、
「不服か?」
この言葉に、肩口の黒髪がかすかに動き、おれの方を見上げたのがわかる。
「・・・・・・・・・・ゾロの、ならいい・・・・・」
そして、小さな声でそういった。




ひざの上には白い猫、腕の中にはおれの『猫』。
はっきりいって、おれ、今至福なんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


                                                  
 

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