Dream Or Goodnight
「悪い、ルフィ。急な仕事が入っちまって、24日は会えそうにない・・・」
ゾロは忙しい。
おれはちゃんと知ってる。
それでもゾロは出来るだけおれとの時間を作ってくれるから、
「・・・そっか・・・。仕方ねェよな。仕事だからな」
おれは自分のわがままを押さえ込んで、小さく頷いた。
ゾロはすまなそうな顔を苦笑にかえて、おれの頭をやさしく撫でた。
「なんて顔してんだよ・・・ったくお前は・・・」
そんなつもりはなかったのだけど、どうやらすっごくがっかりした顔をしていたらしい。
「だから、24日で全部終わらせて、25日は朝から晩まで付き合ってやるから」
優しい響きの言葉。
そう、いつだってゾロは優しい。
「それでさ、24日、泊まりに来てろよ。おれ、家に帰れねェかもしれないから、ユキのこと頼む」
「よし、まかせろ」
おれは少し笑って頷いた。
今日は12月24日。
街はどこも緑と赤ときれいなイルミネーションに彩られ、楽しげでとても華やかだった。
この雰囲気の中にいるだけでうきうきする。
でも、やっぱり・・・
ゾロがいればもっと楽しいのに・・・・・
「・・・・んー・・・ヤメタ」
おれは沈みかけた気持ちを振り払う。
明日になれば、ゾロと一日中会えるんだから。
早く買い物を終わらせて、ゾロの家にいこう。
明日はゾロとおれとユキとで誰にも負けないくらい楽しむんだ。
それにきっと今ごろゾロは頑張って仕事をしているだろうから・・・。
今すぐ会いたいなんてわがままいったら、そんなゾロに失礼だ。
大丈夫。明日まで待てる。
おれはココアをいれてソファに座った。
そこはいつもゾロが座っている位置。
ユキを膝に抱いてそこにいると、なんだかゾロに包まれているような気がした。
「一人じゃねェからな。お前がいるし」
ユキにむかってそういうと、仔猫は目を細めて頭を摺り寄せた。
ガキの頃は、ほんとのサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれるって信じてた。
クリスマスの朝、目が覚めると枕もとにはプレゼントが置いてあって、それはちゃんとおれが欲しいってお願いしたもので・・・
『すげぇよエース!!ちゃんとサンタさんはいるんだな!!おれの欲しいものを持ってきてくれた!!』
『あったりまえだろ?手紙をかいたら返事もかえってくるんだぞ!』
『そうなのか?!じゃあおれ手紙書くよ!!』
『馬鹿だなお前。今年はもう駄目だ。サンタさんは忙しいからな。クリスマスが終わったら休暇なんだ』
『えええっ!!じゃあ来年書く!!』
『ああ、そうしろよ』
たしかその次の年くらいに、エースにいままでのプレゼントはほんとのサンタクロースが持ってきてくれてたわけじゃない、ってばらされたんだっけ・・・。
でもな、おれはいまでもサンタクロースを信じてるぞ。
そりゃあな、一晩で世界中の子供全員にプレゼントを配って歩けるじいさんはいねェだろうけど。
クリスマスっていうなんだか不思議な日に、誰かにそいつが喜ぶものをプレゼントしてくれるやつがいたら、そいつらはみんな『サンタクロース』になれる気がするだろ?
そしたら当然おれにはダイスキなサンタクロースがいるし。
それにおれだってサンタクロースになれるかもしれねェよな。
急に世界が変わった。
明かりの消えた部屋の天井が目に入った。
窓の外からの薄ぼんやりとした雪明りだけに照らされている。
しばしおれは呆然としていた。
・・・あれ・・・?さっきまでおれなにしてたんだっけ・・・?
ユキとメシくって、そんでソファに座ってくつろいで・・・・・・・・・・・
そこから先の記憶がない。
おれはちゃんとベッドで寝ていた。
ゾロのセミダブルのベッド。
自分で歩いてきた・・・はずはない。
んー・・・と考えながら・・・・、
・・・あ、やっぱり・・・
・・・ぐるりと体の向きをかえて、おれは嬉しくなった。
きっとおれはユキを抱えたまま、ソファでうたた寝してたんだ。
それを、ベッドに寝かせてくれたのは・・・・
ベッドの隣の机に・・・、
クリスマスの朝、目が覚めると枕もとにはプレゼントが置いてあって、それはちゃんとおれが欲しいってお願いしたもので・・・
きちんとラッピングされた包みが置いてあって、そして・・・
・・・ゾロがいた。
おれは足元で寝てるユキを起こさないように慎重に体を起こした。
ゾロは椅子に座ったまま眠っていた。
机の上にはきちんとまとめあげられた書類がそのまま置かれている。
時計を見ると午前四時過ぎだった。
きっとついさっきまでここでも仕事をしていたんだと思う。
机のスタンドがまだ熱かった。
おれはベッドから抜け出ると、買っておいたゾロへのプレゼントを持ってきて、そのきれいな包みの隣に置いた。
それから、さすがにおれはゾロをベッドに運ぶことはできないから、とりあえず何もかぶっていないゾロに毛布をかける。
ほんとはゆっくりベッドで寝てもらいたいし、くっついて寝たかったけど、寝てるのを起こすのもヤダし、この椅子じゃ二人は窮屈だから・・・。
うん。楽しみは明日にとっておくことにしよう。
だから今は・・・
「・・・おやすみ、ゾロ。メリークリスマス・・・」
おれは小さく呟いて、静かに眠るゾロに口付けた。
明日、一緒に『サンタクロースのプレゼント』を開けような!
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