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【がんばれ男の子!】



 かくかくしかじかで、どうやらマネジに莫大な借りの出来てしまったらしい巣山は、肩を並べて栄口と歩きながら、珍しく饒舌に話し始めた。

「ほんとは栄口の好きなおにぎり取ってやろうと思ってたんだけどな」

 あいだに挟まった自転車が邪魔で、巣山は恨めしそうに人力走行具を見下ろした。

「えー、それはあんまなぁ……」

 思いがけず栄口は不満げな声を出した。もはや赤くはない顔を巣山は見つめた。

「え、何で?」

「何でって、だってそれは勝者の権利じゃんか。何か同情されてるみたいであんま嬉しくないっつーか」

 栄口とてずっと野球という勝負の世界に身を置いてきた男である。勝った人間から何かを譲られて嬉しいはずがない。

「……そっか」

 どうやら巣山の贈り物は、怪我の功名であったらしい。もしおにぎりを差し出していたら、栄口は受け取ってはくれなかったことだろう。自分の浅薄さを呆れながら、やらなくてよかったと巣山はしみじみ思った。

「あ、でも塩はすげー嬉しかったよ」

 遠い眼をして何事か考えている巣山が気分を害したと思ったのか、あわてて栄口がフォローを入れた。気配りさんな栄口らしい反応だ。

「オレのこと考えてくれたのは嬉しいから、今度何かお礼すっからさ」

「別にいらねーよ」

 巣山にしてみれば自分が勝手にやったことでお礼をもらういわれはない。しかし栄口は頑として首を縦には振らず、自分だけが何かを貰うのは不公平だと訴えた。お互いに負けん気が強いことはわかっているので、このままでは話は平行線をたどるだろう。それを察した巣山はしばしのあいだ考え込むと、

「……じゃあ、ちゅーさせてくれよ」

「は!?」

 さすがに予想だにしなかった事態であるのか、栄口が頓狂な声を上げた。同時にペダルを蹴とばしたのか、ガシャンと自転車が抗議の音をたてたが、二人の耳にはほとんど届いていなかった。

「……いいけど」

 それってお礼になんのか、と照れ隠しに近い状態でぶつくさ呟きながらも、栄口は自転車を止めて立ち止まった。巣山もいつになく動揺がうかがえるせわしない動作で自転車を止める。それから栄口の正面に回り込むと、入念にあたりを見回した。

「じゃ」

 巣山の顔が近付いたので、思わず栄口はぎゅっと目をつむった。しかしやわらかな感触は、思いがけず額に触れて、去って行った。恐る恐る眼を開けると、ぎこちなく笑った巣山の顔がすぐそこにあった。釣られて笑う栄口。今はそれが精一杯の二人だった。
 何となく恥ずかしくて、どちらともなく二人とも自転車を引き、歩き始める。

「……でもさ」

 何となく無言になった空気がいたたまれず、栄口ができるだけ前方を見ながら口を開いた。

「ん?」

 巣山も照れ隠しか、やはり前方を見つめている。

「しのーかにも、何かお礼しなきゃだよな?」

「……そーだな」

 やや困惑の内混ざった声で答えた巣山が横目で見ると、栄口もまた巣山をチラリと横目で見た。見事なタイミングで視線がかち合った二人は息を呑み、照れくさそうに笑い合った。
 一人分の悩みが消え、そして二人分の悩みが増えた夏の宵。二人は時間を惜しむように、自転車を引きながら歩いていった。






〔マネジ最強伝説・完〕




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うっかり身内にゲットされたキリバンでございますv
こちらは4月5日に開催された栄口+巣山オンリーにて、
凪総帥の巣栄本に寄稿させていただいたものです。
つってもキリバンゲッターは萌なんだけどね☆
ちなみにリクエストは『ちょい悪男風巣山、
おにぎりの具を争奪し、栄口にあげる、でこチュー』でございました。
巣山も栄口も勝負の世界に楽しみを見出してきたために、
他人が獲得した商品を与えられて喜ぶってのはないんじゃないかと悩んだ結果、
こんなことになりました。
あまりの甘酸っぱさに茎わかめが自作できSO DEATH☆
っつか、ちょい悪って何だよちょい悪って(笑)!?
とゆーわけで、貴重な機会をくださった萌ちんと凪総帥に感謝v






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