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【マネジは何でも知っている】
「おーい、巣山!」
部活も終わり、ようやく空も暗くなった帰りしな、思いがけず栄口に呼び止められて巣山は立ち止まった。
「ちょっといいか?」
自転車を引きながら、栄口は顎でグラウンドの脇を指し示す。その仕草やらそもそも呼び止められたことにドキドキしながら、おうとかああとか言って巣山も頷いた。
皆には先に帰ってもらうことにして、二人はグラウンド脇の雑草が生い茂った小さな空き地に自転車を止めた。
一体何だろうかと怪訝な様子でありながら、黙ってついてきた巣山に栄口は向き直った。
「あ、あのさ。すげー高い塩持ってきてくれたの、巣山ってほんと?」
思い切った様子の栄口の質問に、つい巣山はぐっとつまってしまった。塩を持ってきたのは確かに巣山だが、そのことは誰にも話していないのに、何故栄口は知っているのだろうか。そりゃあ、栄口のために小遣いをはたいて買ったものだから、気づいてくれたら嬉しい。けれど、その十倍くらい恥ずかしくて、誰にも見られないようにさんざん苦心してそっと置いておいたはずなのに。
肯定も否定もしなかったが、巣山の反応から答えを読み取った栄口は、やっぱりと呟いた。
「なっ、何で知ってんだ?」
「んー。しのーかがさ、教えてくれて……」
それは今日の練習中のことだった。数日前から急においしくなったおにぎりについて栄口が問うと、マネジは思いがけないことを言ったのだ。
「巣山くんがね、すっごい高そうなお塩くれたんだよ」
気づいたの栄口くんくらいだよ、と笑いかけるマネジに、栄口は小首をかしげた。巣山がマネジと話している姿を、栄口はほとんど見たことがない。ましてや、そんな高価な物の話を自慢げにするような巣山ではないのだし。
すると栄口の心を読んだようにマネジは首を横に振った。
「あのね、袋に字が書いてあって、それが巣山くんの字だったから」
「へぇー。でも、何で塩なんだろ?」
当然といえば当然の栄口の疑問だったが、むしろマネジは不思議そうに首をかしげた。
「え? だって栄口くん、塩にぎり好きでしょ?」
「うん? そーだけど」
「だからだよ」
「へ? 何で?」
「だって巣山くん、栄口くんのこと好きだもん」
「え?」
「知ってるよー。だってマネジだもん」
……というわけと、丸い耳まで真っ赤になった栄口に釣られ、聞いていた巣山までもが赤くなってしまった。何故篠岡がそれを知っているのか、何故それを栄口に話したのか、何故それをいま栄口が自分に話しているのか。頭の中はぐるぐるの大混乱だったが、窺うような栄口の視線に、
「うん、まぁ、そういうことだ……」
しどろもどろに答えた巣山の言葉に、戸惑ったような栄口が消え入りそうな声で答えた。
「えっと、……ありがと」
そしてますます赤くなる二人だった。
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