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【違いのわかる男】
そのおにぎりを食べたとき、栄口の動きは止まった。
夏とはいえ、家庭科調理室から運ばれてくるまでにアツアツではなくなったおにぎりである。にもかかわらず、一口食べただけで口内に広がる豊潤な海の香り。程よい握り加減のおかげで、ホロホロと崩れたとたんに米の甘さが味蕾を刺激する。塩と甘味の絶妙なハーモニー。田島のばーちゃんが漬けたナスのぬか漬けの味を決して損なうことなく、むしろ引き立たせるこの味は……。
「っうまーい!」
おにぎりを一口食べたとたんフリーズしていた栄口の発した声に、モモカンまでもが驚いた。
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