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【ある朝のマネジ】
朝もやが抜けきって、夏の日差しが強くなり始めるころ、野球部マネージャーの篠岡千代は、グラウンドへ向けてせっせと自転車をこいでいた。部員ほどではないにしろ、彼女の朝は早い。たった一人しかいないマネジにとって、時間はとても貴重なものだった。
「おはよーございまーす」
練習に励む部員たちの邪魔をせぬように声をかけ、マネジはグラウンドへと入ってきた。着替えより何より先にまずすべきことは、部員たちの親が持たせてくれたおにぎりの具材をチェックすることだ。
その日の提供物をチェックし、前日の成績表と、更には各人の好みのデータと照らし合わせ、夜のおにぎりを誰に何をあげるか決めねばならぬ。だがそれよりもまずは、保冷バッグに入った具材を、数学準備室の冷蔵庫に仕舞わねばならないのだ。
「どれどれ〜」
毎朝の楽しみである保冷バッグの中身を確かめようとベンチに屈んだマネジは、バッグの隣に置かれた紙袋に気がついた。
「あれ?」
初めて見る光景に小首をかしげ、マネジは紙袋を手に取ってみた。意外に重い袋には、書きなぐったような文字で『湿気注意! 要乾燥剤!!」と書いてある。
何事かわからぬまま袋を開けたマネジは、見るからに高級そうな塩を発見したのだった。
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