8DAYS






[ハリーの日記]

7月29日
 僕は今、ルーピン先生の家にいる。何故って、今年の誕生日を楽しく過ごすためにだ。
 ここにはシリウスもいて、今年の誕生日をこっちで過ごさないかと手紙を貰ったとき、僕は飛び上がって喜んだ。ダーズリーおじさんたちはもちろん激しく反対したが、先生からの手紙に同封されていた別の手紙を見せたら、顔を赤から紫に変色させながらも何故か無言になってしまった。あれは一体何だったんだろう?
 駅に迎えに来てくれた先生とシリウスに訊いたけど、先生は笑って教えてくれなかった。シリウスは車を運転しながら神妙な顔つきで、『世の中には知らないほうがいいこともあるんだ』なんて言っていたけど、よくわからない。今度ハーマイオニーにでも訊いてみよう。

 先生とシリウスは郊外の大学町に住んでいる。プリベット通りよりももっと閑静で一軒一軒の敷地が大きく、庭が広い。びっくりしたことに、ガレージに止めてある二台の車は両方ともシリウスがスクラップから廃材を集めて作ったものなのだそうだ。今働いている工場の同僚に手を貸してもらったんだと嬉しそうにシリウスは言っていたけど、大丈夫なんだろうか?
 それより、一体いつの間に免許を取ったんだか。でも、運転はかなり上手かったと思う。ウィーズリーおじさんなんかはどうにもおっかなびっくりだけど、シリウスは片手でコーヒーを飲みながら普通に運転していた。メカヲタクだって話は本当だったんだな。

 先生とシリウスは遠縁の親戚ってことになっているらしい。確か、シリウスが働いていた田舎の工場が閉鎖になって、クビになってしまったから親戚を頼ってこちらへ出て来た、という設定だとか。絶賛指名手配中の身の上のくせに、普通に工場で働いてるんだから妙な話だ。マグルに紛れていればまず見つかりはしないという先生の提案だというけど、よくまぁ上手くいったものだ。二人とも凄い度胸だよな。
 夕飯は三人で作った。と言っても、料理はシリウスと僕で、先生は手伝いがほとんどだ。何でかシリウスはできるだけ先生には料理に参加して欲しくないらしい。本当なら杖の一振りでできるのだけど、マグルとして生活しているので二人は極力魔法を使わないようにしているのだそうだ。
 シリウスは先生の料理の腕を全く信用していないみたいだけど、先生はずっと一人暮らしだったのだし、料理くらいできるんじゃないかな? あ、でも、魔法で作るのと実際に包丁を使うのじゃ勝手が違うか。先生はにこにこ笑って僕らが料理をしているのを手伝っていた。
7月30日
 今日はいつもの曇り空。先生は今日はちょっと仕事があるとかで出かけていった。僕とシリウスは午後からお隣のルーさんちの兄妹と庭でサッカーをした。
 中国系の兄妹はブルースとツィーと言うらしい。ブルースは黒髪で切れ長な黒い眸をした11歳の男の子で、将来はサッカー選手か舞台俳優になりたいのだそうだ。妹のツィーはふわふわとしたやや茶色っぽい長い髪の女の子で、まだ5歳になったばかりらしい。シリウスはツィーがとにかく可愛いらしく、何かというとかまってやっていた。くりんとした眼がよく動いて、小動物みたいな感じがすごく可愛いと思う。僕にも妹がいたらこんな感じなんだろうか。
 ブルースはサッカー選手を目指すだけあって凄く上手かった。地元のクラブチームでもレギュラーをやっているらしい。後で聞いたら彼はゴールキーパーだというからびっくりだ。てっきりフォワードだと思っていたのに。僕もまだホグワーツに入らないころは学校でサッカーをしたり、おじさんやダドリーがテレビで試合を見ているのをこっそり盗み見したりしてたけど、今はもうよくわからない。どうやらシリウスはマグルとしてもぐりこんで働いている工場で感化され、ブルースと同じサッカーチームが好きらしい。クィディッチは見れないから、それに代わってということか。
 どっちにしろ、あのフーリガンの体質は、マグルも魔法族も同じなんだな。いや、待てよ。ひょっとして、世界共通?

 夜は先生とブルースたちのお父さんの帰りを待って、両家でバーベキューだった!
 この時期はサマータイムで中々夜にならないから、明るい中を庭で皆で用意して、凄く楽しかった。ブルースたちの小柄なお父さんは、ジャッキーさんというらしい。お母さんのリューシーさんは反対にすらっと背が高いから、ブルースはお母さんに似ることを毎日神さまに祈っているらしい。確かにお父さんに似たらサッカー選手の夢は諦めた方がいいかもしれない。特にゴールキーパーの夢は。
 ジャッキーおじさんは物理学の学位を持っていて、どこかの研究所に勤めているらしい。マジックが得意なんだと言って僕にも見せてくれた。シリウスはマジックが大好きで、毎回一生懸命タネを見破ろうとしているのだと先生が言っていた。魔法使いのくせにマジックが好きなのかと呆れていたら、『タネがあるからこそ不思議なんだ!』とシリウスは言い張った。ああ、なるほど、言われてみればそうかもしれない。
 ルーさん一家は凄く仲が良くて、僕の両親が生きていたらあんな風だったのかな。それで、ブルースやツィーみたいな弟や妹がいたのだろうか。誕生日にはシリウスや先生が来てくれて、皆でバーベキューをしたりしたのだろうか。だったらいいんだけどな。
7月31日
 今日は僕の誕生日だ!天気は珍しくいいし、夏らしく気温も高くて朝からなんだか凄くウキウキしてしまった。
 午前中に先生とシリウスと駅までロンとハーマイオニーを迎えに行った。途中、駐車場の片隅でシリウスはアニメーガスに変身した。何たってウィーズリー家の人々には面が割れているわけだから。
 モリーおばさんはひょっとしたら人狼のせいでホグワーツをやめた先生がいることを知っていたかもしれないけれど、それがルーピン先生だとは結びつかなかったらしい。相変わらずぎゅっと僕を抱き締めて、元気で良かったと何度も頭を撫でてくれた。ロンは母親のその様子にもう子供じゃないんだからと苛々してるみたいだったけど、僕は別に嫌じゃない。それにおばさんから見たら、僕らはいつまでたっても子供なのだろうし。
 駅からの帰りに、お昼を食べて、デザートに皆でアイスを食べた。外国産のアイスは凄く美味しかったけど、魔法界の不思議な味に慣れるとちょっと物足りないような気がする。ハーマイオニーは物を食べるとすぐに歯を磨く習慣がついてるからとかで、すぐにトイレに行ってしまった。うがいに行ったのだと言っていたけど、ロンはしばらくハーマイオニーをからかって、ついに怒らせてしまった。全く、ロンはいつも一言多いんだよな。

 お昼ご飯の後は皆でマーケットに寄った。そのあまりの巨大さにロンは口を半開きにしてボーっとなってしまい、僕とハーマイオニーは笑いを堪えるが大変だった。大きな店内で子供の2,3人は乗り込めるカートを転がしながら、皆で買い物するのは楽しかった。今日の買い物はケーキの材料で、これから家に帰ったら、皆で僕のバースデーケーキを作るんだ。
 先生とシリウスはもう慣れたもので、どこに何があるのかわかっているらしい。ロンは始終難しい顔をして、マグルの製品にいちいち驚かないように気をつけているようだった。それでも玩具のコーナーで展示されていたテレビゲームに釘付けになり、ロンの気をそらすのにほんと苦労した。

 ケーキ作りは楽しかった。相変わらず先生は調理には参加しなかったけど、シリウスはもう何でも作れるっぽい。ハーマイオニーは生クリームをホイップするロンの危なっかしい手つきに、『お母さまを全然手伝わないなんて、恥かしくないの?』と言っては逆襲を加えていた。ロンは真っ赤になって怒っていたけれど、僕がフルーツをスライスする手つきを見て何か思うところがあったのか、結局何も言わなかった。
 ケーキはちょっと不恰好でスポンジも硬かったけど、最高の出来だと思う。明るい夜に皆でテーブルを囲んで、ローソクを吹き消すのがこんなに楽しいなんて知らなかった!
 ロンはプレゼントに英国のクィディッチナショナルチームのサポーターフラッグをくれた。シルクに似た質感の綺麗な布で、織り込まれたナショナルチームの紋章がキラキラして凄く綺麗だった。縁取るように代表選手の名前が書いてあり、それは選手が代わると自動的に書き換えられるのだそうだ。
 ハーマイオニーがくれたのは自己救急セットだった。『何でこんな物?』と不思議に思って訊いたら、『だって生傷が絶えないんだもん!』とちょっと怒ったように言っていた。ハーマイオニーはどうも僕を心配してくれているらしい。ちょっと照れた。
 シリウスと先生は共同でプレゼントをくれた。大き目の箱だったので何だろうかと一生懸命開けてみたら、なんと中身はプレイステーションだった!
 ロンとハーマイオニーがおおっと声をあげる中、シリウスは『いとこが持ってるんだからハリーもな』とウィンクし、先生は『あんまりテレビに近付きすぎちゃ駄目だよ』と言って幾つかのソフトをくれた。こんな高価な玩具を貰うのは初めてで、僕は感動してしまった。ロンは早くテレビに繋ごうと言ってはしゃぎ、ハーマイオニーも興味津々だったみたい。おかげで今日はすっごい夜更かしだったけど、今までで一番楽しい誕生日だった。
8月1日
 昨日遅くまで遊んでいたので、今日起きたらもう午後が近かった。僕とロンは同じ部屋で、ハーマイオニーだけが別の部屋。僕らの隣の部屋が先生とシリウスの寝室で、ロンは初めちょっと考え込むような表情を見せていたけど、別に気にすることは無いのに。

 今日はお隣のルーさん一家とパークに行った。バスケットにお弁当とシートを入れて、僕らはサッカーボールとバドミントンの道具を持って。
 ロンはやっぱりジニーがいるせいか、小さい子をあやすのが上手い。ツィーを肩車してやる姿は板についていて、ハーマイオニーがくすくすと笑っていた。そう言えばこないだの先生の手紙の話を彼女にしたら、『それは先生が策士ってことよ』とわけのわからないことを言っていた。結局何なんだかわかりゃしない。
 ロンは初めてやるサッカーに翻弄されていたけど、ボールを蹴って相手に渡すだけのゲームだし、そんなにムキになら無くてもいいのに。何気にハーマイオニーが上手くてびっくりだ。箒は駄目でも、運動神経は悪くないんだな。昨日もゲームで負けたロンは面白くないみたいだけど、マグルのゲームでなら負けないとハーマイオニーもかなりマジだったっぽい。あーあ、何やってんだか。

 夜に先生とシリウスが出かけていった。今日はシリウスの応援するサッカーチームの試合があるからだ。因縁の対決とか言われている対戦カードらしく、シリウスは工場の同僚に誘われたらしい。それでわざわざバーまで観戦に行くのだけど、多分勝っても負けても僕らが起きてる時間にはもどってこないだろうな。
 出かける間際にシリウスが僕らに耳を貸すように言って、『秘密は一つだけな』と囁いた。先生もそれを笑って見ていた。うーん、流石はいたずら仕掛け人。話がわかる!
 ハーマイオニーは何だかんだと言いながら、夜中に僕らがビールとワインを持ち出すのに加わった。カーテンをきっちり閉じて絨毯の上に寝そべり、三人で遅くまで話をした。昨日貰ったゲームもしたし、下らない話で盛り上がった。考えてみると、ロンとはいつもそうだけどハーマイオニーとこんなに遅くまで遊ぶのは初めてかもしれない。
 折角夏なので怪談話をしたんだけど、何せゴーストが普通にいる世界に生まれ育ったロンは何が恐いのかちっともわからないようだった。これがカルチャーショックというやつなのか?
8月2日
 朝、目が覚めたら、居間の床でタオルケットにくるまってロンと二人で丸くなっていた。ハーマイオニーだけがソファで寝ていて、どうやら彼女が掛けてくれたらしい。流石はハーマイオニー、ぬかりが無い。
 そのときはもう明け方だったのに、先生とシリウスはまだ戻っていなくて、僕は二人を起こして急いで部屋を片し、寝室に引き上げた。
 先生たちが戻ってきたのがいつかはわからないけど、次に目が覚めたらシリウスがキッチンで朝食兼昼食を作っていた。慣れないアルコールのせいで随分眠ってしまったらしい。だけどどうやら贔屓のチームが勝ったせいで昨日一晩引き回されたのか、先生もまだ大分眠そうだった。シリウスもすっかりサポーターだ。生粋の魔法族だけど、テレビの前でシュートのたびに大歓声を上げるシリウスはあまりに想像しやすくて。僕はついつい笑ってしまった。

 夕方、ロンとハーマイオニーを来たときと同じように送っていった。三日後には僕は今度はロンの家に行くことになっている。そのまま夏休みを過ごし、学校になる。ほんとは先生とシリウスともっと過ごしたいのだけど、二人とも纏まった休みがそんなに取れなかったから仕方が無い。
 ハーマイオニーは明後日から両親と外国に旅行に行くという。別れ際に宿題をちゃんとやりなさいよ何て言うから、嫌なことを思い出してしまったとロンは渋い顔をしていた。そう言えばもう8月なんだもんな。まだ半分も手をつけてないから、明日にでも先生に教えてもらおう。
8月3日
 今日はあんまり天気も良くなかったから、外に出るより先生に宿題を教えてもらった。シリウスはキャラメルミルクティーを煎れてチョコレートのケーキを午後のお茶に出してくれた。
 よく考えてみると、ここに来てから僕は毎日ケーキを食べている気がする。おやつに必ず何か甘いものが出てくるのだ。それは先生が甘党だからなのだろうけど、毎日ケーキを食べられるなんてちょっとホグワーツみたいだ。
 シリウスもさかんに僕に何か教えたがったけど、先生が『君は自己完結が激しすぎて教えるのには向かないよ』と追い払うように手を振っていた。シリウスは不服そうだったけど、仕方なく引き下がった。僕らが宿題をしている横で洗濯物をたたんだりすっかり主夫なシリウスが、ちらちらとこちらを伺っていたのは何でだろう。いや、こちらというより、先生を盗み観ていたような気がする。変なの。

 宿題にも飽きたので、夕方に三人でいつものマーケットに買い物に行った。
 シリウスがいつもの洗剤が無い、と店員に訊きに言ったとき、僕と先生に見知らぬ男の人が話し掛けてきた。25歳くらいの若い男の人で、先生を知っているらしい。先生はいつもの穏やかな微笑を浮かべて普通に会話をしていたけど、口振りからしてそんなに親しいわけじゃないみたいだった。
 とにかく邪魔しちゃいけないから僕はシリウスのところに行ったのだけど、話を聞いたシリウスの様子はちょっと変で、慌てて引き返すと立ち話を続けていた二人のところに割り込んだ。シリウスは笑顔だったけど、不機嫌なのが良くわかる。男の人もそれがわかったのかあわてて帰っていった。何だろう、何か揉めたことでもあったのかな?
 僕には良くわからないけど、シリウスはその日凄く不機嫌だった。僕にはいつも通り接するのに、先生のことはずっと無視している。思春期の子供じゃあるまいし、もう少し表現方法もあるだろうに。
 でも先生はそんなシリウスの反応なんか全然気にしていないようで、ちょっとシリウスは可哀相かも。二人は口をきけばシリウスが何か嫌味を言っていたが、先生はさらっとかわしていた。いいな、僕もあんなふうにできたら、何かと楽なのに。
 結局シリウスは一人でずっと怒っていたみたいだ。これはひょっとしてあれなのかな。嫉妬?
 えー、あー、うー、な、何だかなぁ。
8月4日
 昨日からずっとシリウスの機嫌は悪い。僕の前ではそうでもないけど、もういい加減にしたらいいのに。どうせどんなに怒っても先生には相手にしてもらえないんだから。
 気の毒だけど、先生はシリウスの勝てる相手じゃないと思う。軽くあしらわれておしまいなのに、一人で怒りつづけて疲れないのかな。まぁ、見てるこっちはちょっと面白いけどね。
 おやつの後、先生に電話が掛かってきた。また宿題を始めた矢先だったので、先生は首をかしげていた。シリウスは庭で水撒き中で、電話を取った先生は外国語で話しているみたいだった。凄いな、流石は先生。外国語も喋れるんだな。
 その後先生はどこかに出かけていき、戻ってきたシリウスはそのことを知らなかった。僕が教えてあげると首を傾げて、『外国語? ラテン語かヘブライ語か?』なんて言い出したけど、僕にそんなことわかるわけが無い。それでもドイツ語じゃなかったかなと言うと、何やら考え込んでしまった。
 腕を組んでじっと考え込むシリウスの背後には炎が見えたような気がする。男の嫉妬はオソロシイ。流石は文学の永遠のテーマになるだけのことはあるなぁ。

 夕食前に帰ってきた先生にシリウスはどこに行ってたとか何してたとか、誰に会ってたとか口うるさく詰問したけど、先生が相手にしなかったもんだからシリウスは益々怒ってしまったらしい。夕食の間中シリウスは怒りの形相で一言も口をきかず、僕は黙って二人を見守った。相変わらず先生は気にしていないようだったけど、この分じゃあ明日にはシリウスは家出でもするんじゃないか。
 『君が気にすることは無いよ』と先生は言ったけど、後ろでシリウスは今にも掴みかかりそうな様子で先生を睨んでいた。やでやで、何か妙なことになっちゃったな。
8月5日
 奇妙なこともあるもので、昨日の今日だっていうのに、シリウスの機嫌は全快だった。うー、何で、なーんーでーだー!?
 まぁ、どうせ先生がどうにかしたんだろうけど、それにしても急激な変わりようだ。シリウスは朝から鼻歌交じりに料理をするし、先生は何だかちょっと疲れたみたいにぼんやりとしていた。欠伸をかみ殺すような表情で食事を始めた先生は僕の視線に気付いて、初めて悪戯っぽく笑って見せた。

 今日は二人とお別れの日だ。僕らは車に乗って駅に向かった。まだウィーズリー家の人々は来ていなかった。
 先生とシリウスは代わる代わる僕を抱き締めると、待ち合わせの場所に向かうのを見送ってくれた。並んで立った二人はずっと手を振ってくれていたようだ。
 何だかよくわからないけど、ともかく二人が仲直りできてよかった。全く、何であんなことになったのだか。いつか絶対二人に聞いてみようと思った。







[シリウスの日記]







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