4/1 エイプリルフール


「ヒバリー!」
 勢いよく扉を開けるけたたましい音とともに応接室に飛び込みながら、山本はさも嬉しそうに雲雀の名を呼んだ。
「うるさい」
 低くよく通る声でぴしゃりと言い切った雲雀は、部屋の奥の執務机に着いたまま書類から顔も上げようとしない。定規でも背中にさしているのではないかと思えるような見事な姿勢で仕事を続ける雲雀を、山本は感心して見つめた。
「悪ぃ、悪ぃ」
 謝罪しながらもまったく悪びれた様子のない笑顔を浮かべ、山本は勝手にソファに腰を下ろす。しかし雲雀も慣れたもので、最早苦情を言いたてることもなかった。こういうときは大抵、山本ばかりが一方的に話しかけ、しかし雲雀は山本を無視し続けるのだ。
 ところが今日はいつもと違った。部活用のバッグからすでに傷だらけとなった携帯を山本が取り出したのに気付くと、珍しく雲雀が口を開いたのだ。
「ねぇ」
「んー?」
 自分のtweetyのページを開いていた山本は、雲雀から話しかけられたことに驚きつつも嬉しそうに笑って彼を振り返った。
「私的な話を垂れ流すのはやめてくれる」
 風紀委員専用の鉛筆を机に置いた雲雀は、いかにも気だるげに釘を刺す。tweetyでもさんざん言われた台詞だった。
「ハハハッ、悪ぃ。ついアンタと話せるのが楽しくってさ」
 言って頭をかいた山本だが、あまり反省しているようには見えない。彼としては、まさかあれほど雲雀が話に付き合ってくれるとは思わなかったのだ。
「……あれは風紀委員用だよ。皆が見られるように公開されてる」
 呆れたような雲雀の発言は、前半は先程画面上で言われたことと同じであるが、後半は初めてのことだった。つい忘れがちだが、tweetyでの発言は個人同士のやりとりではなく、繋がりのある人間全てに配信され、想像以上に多くの人間が見ているのだ。おかげで山本は雲雀が何故あれほど私的な話はするなと言い募ったのか、ようやく理解できた。なるほど、皆が見ている前で委員長が夕飯の話を垂れ流すわけにはいかない。
「あ〜、そっか、そっか」
 再度頭をかいて山本は一人ごちる。さすがに悪いことをしたと反省したのだ。
「ごめんな、ヒバリ。でも、変な話はしてないから大丈夫なのな!」
「どこが」
「んー? だって、こないだアンタがうちの店来たとき、ガリ食い過ぎて胸やけ起こしてオレの部屋で休んでた話しかしてないぜ?」
 しかも重要な部分はぼかしてあったから、何の事だかわからなかったはずだ。だが、言われてみれば、先ほど応接室の手前ですれ違った副委員長の草壁が、何やら変な反応をしていたように思う。何か勘違いさせたのだろうか。
「……だいたい君」
 心底呆れた様子で雲雀は顰め面を作り、ソファで勝手にくつろぐ山本を見つめた。常人ならばチビってもおかしくないような眼光だが、山本には通用しない。むしろ雲雀に見つめられていることが嬉しいのか、キラキラした瞳で見つめ返してくる。
「君は本当に僕があんなツールで群れたりすると思っているの?」
「ん?」
「ちまちまと携帯で勤勉に返事をする人間だとでも?」
「んんっ?」
 次第に冷淡さのなかに嘲弄を含み始めた雲雀の発言に、山本は目を見開いた。言われてみればその通りだ。山本の知る限り雲雀という男は、例えそれが風紀委員からの報告でも、いちいち返事をするような男ではない。ましてや画面上とは言え、群れだらけの場所で会話などするわけがないではないか。
「え、じゃあ、あれは……」
 混乱をきたして変な汗をかき始めた山本の脳裏に、一人の男の姿が浮かび上がる。勤勉で礼儀正しく、雲雀の名を騙ることを許され、またその言動をまねることができ、風紀委員の仕事を熟知して指示を与え、報告や発言の内容を雲雀に伝えられる人物。
「ええっ、じゃあ、あれってもしかして……?」
 自分がずっと雲雀だと思って会話していた人物に思い当たった山本は、驚いて雲雀を見た。雲雀は彼の疑問を肯定も否定もしようとはしなかったが、ただただ意地の悪い笑みを浮かべ、行儀悪く鉛筆の尻をくちびるに咥えて見せたのだった。


   〔エイプリルフール・完〕


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