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「お前な、いい加減にしろよ」
シリウスはリーマスの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。リーマスの不安もコンプレックスも理解できる。理解できるが、こんな関係になっておいて今更妙な気を回されたり遠ざけられたりご機嫌伺いをされるのは信頼されていないようで腹が立つ。
「そんなに俺が信用できないのか」
そこまで器が小さいと思ってやがるのか、と尚もシリウスはリーマスの髪をかき回す。人狼という事象がリーマスの人格を形成する上で凄まじいほどの影響を及ぼしたことは容易に想像できる。だが、それら全てを持ち合わせた上でリーマスという人間が出来上がっているのならば、シリウスに出来るのは受け入れることだけだろう。今更否定して何になるというのだ。
「別に、信用できないとかじゃないけど……」
くしゃくしゃになった前髪の下からリーマスが上目遣いにシリウスを見る。くちびるをやや尖らせて、不服を申し立てるような口調は甘えているようでもある。いや、頬に赤みが戻ったところを見ると、不安が取り除かれてようやく安堵したのだろう。丸めた背中が愛らしく、シリウスの膝に乗ったままの足の先を何度も上下させていた。
「だったらゴチャゴチャ言うな。あと、噛んでもいいけど、歯形は残すな」
「…………噛んでいいの?」
「痕残さなきゃな」
真顔のシリウスに、神妙な顔でリーマスは頷いた。
「わかった」
そして急に可笑しさがこみ上げたのか、照れたように笑った。こういうときのリーマスは実年齢よりも幼くて、素直なだけに非常に可愛らしい。まだまだ少年期を抜けきらないため中性的なイメージが強く、シリウスは押し倒したい衝動に駆られた。いや、そもそもそのためにここへ来たのだ。わざわざ結界を張ったり、額縁を裏返したりしたのはそのためだ。歯形のおかげで女のところにも行けない責任を取らせようと狙っていたのに、逃げ回るリーマスを捕まえるのに一週間もかかってしまった。しかもリーマスは現在とっても機嫌がよろしいし、シリウスに後ろめたい部分があったためかいつに無く大人しい。あれこれするには今がチャンス!
「おい、リーマス」
照れ笑いを浮かべながら髪の毛を直すリーマスに、真面目腐ってシリウスは呼びかける。
「うん?」
やはりご機嫌な様子のリーマスは嬉しそうに微笑んでシリウスを見上げた。
「ほら、腕上げろ、腕」
「え? ああ」
促すと事態が分かっていないらしいリーマスは素直に両腕を上げる。その隙に最後の一枚であったシャツを脱がせると、せーのと掛け声をかけつつシリウスはリーマスを押し倒した。
うわっと声を上げたリーマスだが、ようやく自分の置かれた状況に思い至って周囲を、むしろ自分を見回した。
「ああっ、いつの間に!」
気付けば服は全て取り払われ、一糸まとわぬ姿になっている。下着まで綺麗に畳んで寝椅子の脇に置いてあるのは、あとでリーマスに怒られないためだろう。そう言えば話している間中シリウスは忙しそうに手を動かしていた。脱がされるのにもすっかり慣れてしまったがために、押し倒されるまで全く気付かなかった。
吃驚するリーマスを押し倒して見下ろしつつ、シリウスは何故かふっと陰のある微笑を浮かべた。
「お前のそういうリアクション、嫌いじゃないぜ」
リーマスは時々『アメリカ人だってもうそんなリアクションはとらねぇよ』という行動をとることがある。そんな化石と化したベタベタな言動を、シリウスは結構気に入っていた。いつもやられたら腹が立つだろうが、たまになら面白いものだ。
何故かニヒルな微笑を浮かべるシリウスに気圧されたのか、呆然とリーマスは彼を見上げていた。何でそんな風にシリウスが笑うのか全く理解できないが、莫迦にされているわけでもないらしい。この場合シリウスを突き飛ばすべきか鼻でも摘んで煙に巻くか、それとも素直に受け入れるべきか。リーマスの逡巡は一瞬のもので、シリウスのくちびるが降りてくると彼は黙って目を閉じた。一人でやきもきしていたのが莫迦みたいだが、シリウスは許してくれた。それどころか、リーマスが人狼であることをほとんど失念さえしていた。リーマスが一瞬たりとも忘れたことのない事実を、忘れてくれるシリウスが嬉しかった。
珍しくキスを嫌がらないリーマスの頭を撫でつつ、シリウスは細い身体を腕に抱きこむ。何故かリーマスはキスをあまりしたがらない。何故かと訊いてもまともに答えてくれたためしがないので、とにかく嫌がっているということしかわからない。そして嫌がられれば嫌がられるほどやりたくなるのがシリウスの性分である。セックスの合間に隙をついてキスをして、それなりに教え込んだとは思う。だが、こうしてじっくりとくちびるを交わすと、やはりまだまだ稚拙であることがよくわかった。それはそれで好ましいことでもあるのだが。
「ん…………」
舌先を触れ合わせながらシリウスは小作りなリーマスの頭部を右手で支えてやる。豊かな鳶色の髪を軽く掴み、薄い舌を吸い上げる。慣れぬ様子のリーマスは呼吸を乱し、それでも両腕をシリウスの背中に回して応えようとする。息継ぎが上手くできずに咳き込みながら、骨の目立つ膝を開いてシリウスの身体を迎え入れ、細い脚で硬い胴を緩く挟んだ。
くちびるが離れた隙に大きく呼吸をするリーマスの鎖骨を齧り、シリウスは薄すぎる胸にキスを落とす。抱き込んだ背中や腰を撫でると、仰け反った胸がひくりと反応を示した。同世代の少年に比べて明らかに幼く華奢な身体。関節の骨が目立つその身体を、シリウスは嫌いではなかった。
「……ぁ…………」
細い身体を念入りに撫で回し、全身にキスを落とす。肋骨のとりわけ皮膚の薄い箇所を舐められて、リーマスは吐息混じりに呟いた。シリウスのくちびるのたどった場所が火照り、全身が熱い。下腹部に息づく熱塊に触れるようで触れてくれないシリウスの手管が憎らしいほどだ。
何故シリウスのくちびるはこれほど熱いのだろう。リーマスは寝椅子に仰向けになり、腕を目の上に翳してシャンデリアの光を遮りながらぼんやりと思う。腹部をたどり、腿の内側に達したくちびる。それが触れる箇所が次々と燃え上がるようで、リーマスの吐息は絶えることが無い。脚の間からこちらを伺うシリウスの視線を感じる。リーマスの動向を伺いながらも、どこか悪戯を仕掛けるような光が伺える。彼は器用な指を動かし、くちびるのたどったあとを丁寧に追った。
整った爪先で火照る肌を刺激し、内股の敏感な部分を吸い上げると、面白いほどリーマスは顕著に反応を示す。頬を染めて、息をつめて、蕩けたような、そのくせ恨みがましい目でシリウスを見つめる。キスに濡れたくちびるを軽く噛みながら見つめられても、そそられるだけだ。
シリウスは薄く笑って身を乗り出す。リーマスの身体の脇に手をつき、肉の薄すぎる脚を立てさせ、開かせる。何をされるか悟ったリーマスはため息をついて身体の力を抜いた。抱き合うことをシリウスに教えられてもう一年になるが、この瞬間だけはまだ慣れることができない。過敏なほどに研ぎ澄まされた感覚が、皮膚の上をたどるシリウスの指を脳裏に描き出す。長い指はリーマス自身に絡みつき、先走りを救い上げるとゆるゆると身体の奥底へ滑り落ちていった。ぬめり気を帯びた指が繊細な花芯をくすぐり、頃合を見て忍び込む。息を呑んで耐えるのは、これで何度目のことだろう。
「う…………」
苦悶と言うには甘すぎる声で呻いてリーマスは顎を仰け反らせた。身体の中で蠢く指の形がまざまざと伝わっている。腹の中をかき乱されて、それなのに気持ち悪いだけではないのは何故なのか。
素直なリーマスの反応に満足げな微笑を浮かべ、シリウスは眼前で優雅に勃ち上がったリーマス自身に舌を這わせる。あっと声を上げたリーマスは、だが顔を上げて文句を言うでもなく、息を詰めてじっと耐えている。いじらしいまでの反応に、よくできましたと褒めてやりたいくらいだ。
そろそろかと頃合を見てシリウスは身体を起こし、片手でシャツのボタンを外す。その微かな衣擦れの音を聞きつけたのか、腕で目元を覆っていたリーマスが何かを訴えかけるようにシリウスを見つめた。
「…………どうした?」
意地悪に笑いかけながら指を動かすと、涙目を細めてリーマスはシリウスを睨み付ける。彼は乱れがちな呼気を抑制しながら、掠れた声で話しかけた。
「ここは駄目だ」
むしろ嫌だと言いたかったのではないかとシリウスは小首を傾げた。ここ、とはどこのことを言っているのだろう。そんなシリウスの疑問を察したのか、リーマスは咽喉を鳴らして唾液を嚥下すると、再びくちびるを開いた。
「寝椅子が汚れる。だから、ここは駄目だ」
浅い息の下で駄目などと言われて引き下がるのは難しいが、百戦錬磨のシリウスは誘惑に耐えた。なるほど、学校の所有物をいかがわしい理由で汚すわけにいかない。ましてやこのバスルームは監督生専用。誰が汚したのか人物特定は容易であろう。
「…………わかった」
シリウスはわざとらしくリーマスの口元に音を立ててキスをすると、焦らすように身体を離した。長い指を引き抜かれ、背筋を走る甘い痺れにリーマスは耐えた。反射的に脚を閉じると、シリウスが笑う低い声が頭上から聞こえた。
身を起こしたシリウスは寝椅子を離れ、バスタブに歩み寄る。床に掘り込まれたプールのような浴槽の周囲には百本ほどの蛇口がついており、一つ一つ違った宝石のついた取っ手をシリウスは適当に幾つかひねった。水色とばら色のお湯が浴槽に流れ込み、何故か淡いエメラルドグリーンになる。次にひねった蛇口からは薄いオレンジのふわふわした泡があふれ出し、柑橘系の爽やかな香りがあたりに漂った。何度見ても飽きない面白さだ。
浴槽の脇にしゃがんだシリウスの背中を見つめながらリーマスは音を立てぬように身を起こした。別にコソコソする必要は無いのだが、何となく物音を立てて振り返られるのが嫌だった。シリウスが振り返らないのを確認すると、寝椅子の傍にあった籐籠から素早く真っ白な大判のバスタオルを取り上げる。肩に羽織って膝を抱え込み、タオルで身体を包み込む。シリウスの体温が離れたせいで身体が冷えるのを防ぐためだが、その実バスルームは暖かく、変化をきたした自分の身体を直視するのが嫌なだけだ。
もう慣れてもいいのに、とリーマスは膝に顎を乗せつつ自分でも思う。抱き合えば誰だってこうなるのに、どうにも未だに戸惑ってしまう。こればかりは場数を踏むしかないのだろうか。
自分の稚拙さに不満を感じつつ、何気なくリーマスは視線を上げた。浴槽の脇でお湯の量を確認していたシリウスがいつの間にか立ち上がっている。彼はシャツを脱ぎ捨て、ズボンに手をかけると、誰に憚るでもなくさっさと裸になってしまう。無駄のない裸体はリーマスには眩しいほどで、完成に近い男性美を有しているように見える。おそらくリーマスが同じようになれることは無いだろう。だからこそこれほどに焦がれるのだろうか。リーマスには分からない。
ふいにシリウスが振り返った。丁度彼を見つめていたリーマスと眼が合う。するとシリウスは何故か急にむっとした表情になり、つかつかと歩み寄ってきた。
「おい、何白けることやってんだ」
言うなりシリウスはむんずとリーマスの羽織ったバスタオルを掴んだ。この特別なバスルームが、特権を与えられた使用者の身体を冷やしてしまうようなことは無い。にも拘らず、一体何をやっているのだこいつは。
「ちょ、ちょっと……!」
リーマスは思わず反射的にタオルを掴み、シリウスに反抗するように身体を丸めた。タオルを無理に引っぺがされるのは何だか腹が立つ。シリウスはときどき何でも自分の思い通りにしようとして横暴になり、それがリーマスには腹立たしい。別にこんな場面で我を張る必要は無いのだが、何故か頑なになったリーマスはシリウスの文句にも耳を貸さずに益々膝を抱えて縮こまった。
「…………っの野郎」
低く唸るように言ったシリウスは忌々しげに舌打ちをすると、突然リーマスを抱き上げた。驚いたのはリーマスである。うわっと声を上げたときにはもう遅く、肩に担ぎ上げるようにしてシリウスは易々とリーマスを抱き上げた。
何するんだ、とリーマスは言うことができなかった。慌てたリーマスが口を開く寸前に、シリウスは事も無げに彼の身体を浴槽に放り込んだのだ。オレンジの香り漂う浴槽の上空に放り出されたリーマスは、事態が把握できないというより自分が置かれた立場が信じられなかった。眼下にはふわふわの美味しそうな泡の浮いた湯船が、視線と水平になった床の上にはニヤニヤと笑ったシリウスが。そしてホグワーツも地球上にある以上重力の束縛から自由であることは出来ず、リーマスもまた枝から離れた林檎と同じように派手な水しぶきを上げて湯船に落下したのだった。
「…………ぶはっ!」
目まぐるしい状況の変化を理解するより早く、死に物狂いでリーマスは湯船から顔を出していた。幸いふわふわの泡のおかげで浴槽の底に叩きつけられることは無かったが、しこたまお湯を飲み込んでしまった。思わず咳き込むリーマス。そんな彼が怒りと息苦しさに顔を上げたとき、床の上にシリウスの姿はすでに無く、リーマスは黒い影が自分のすぐ横に飛び込むのを視界の隅にかろうじて捕らえた。
「うわぁっ!」
顔面にもろに飛沫を浴びて、リーマスは顔を背けた。顔にかかった泡が視界を奪う。やはり泡だらけの両手で顔の泡を取り除けたときには、すでにシリウスはリーマスに飛び掛る準備を整えていた。
シリウス、と非難の声を上げる暇は無かった。泡の中から伸びてきた腕が、リーマスの身体を抱き寄せる。文句を言うはずのくちびるは塞がれ、問答無用で逞しい胸に抱きこまれていた。
「んっ、む…………」
ぬるりと忍び込む舌にリーマスは傍若無人なシリウスの胸を叩いて抗議する。どうにか身体を離そうと試みるが、後ろに下がろうとするリーマスに合わせてシリウスも前進するので全く意味が無い。気付けば浴槽の淵に追い詰められ、背中に壁を感じていた。
「ちょっと、シリウス!」
くちびるが離れた隙に顔を背けて名を呼ぶが、生返事のシリウスはまるで気に留めなかった。んー、とか、ああ、とか言うだけで、細いリーマスの首に口付け、耳殻を齧る始末。嫌がってリーマスが身体を揺すっても、焦らしているようにしか感じないだろう。こうなってしまってはリーマスにはもうどうしようもない。観念するしかないのだ。
不貞腐れたリーマスはそっぽを向いて抵抗するのをやめた。そんな彼の子供っぽい反応、否、歳相応の反応にシリウスは満足げに笑う。濡れた髪を後ろに撫で付けた様子が普段の彼ではないようで、リーマスは内心とても興味を引かれていた。
「怒るなよ。悪くしねぇから」
自分に向けられた顔の半面や首筋、髪や肩に口付けながら色っぽくシリウスは囁きかける。耳の後ろの皮膚の薄い部分を吸い上げ、密着させた身体を撫でる。上気した頬をについた水滴を舐め取ると、リーマスの身体がかすかに震えた。何でもない振りをしているが、薄く開いたくちびるから絶えずと息が漏れている。嫌がる素振りを見せていても、それも気を引く手段に過ぎない。
「リーマス、逃げんなよ……?」
耳元でくすくす笑うと、言葉に反応するようにリーマスが間近に迫ったシリウスを睨み付けた。脚の付け根を撫でられてくちびるを噛みながら、精一杯の抵抗かシリウスの腕の中で身体を返す。背中を見せたところで事態は変わらないのに、可愛らしいものだ。
「あっ…………」
シリウスの指が背中をたどり先ほど散らされたばかりの花芯をなぞった。それだけのことで身体が震えてしまう。たった一週間期間を空けただけで、こんな風になるものだろうか。リーマスは浴槽の端に手をかけて大きく息をつく。体内に埋め込まれた指が緩やかに円を描くのが分かる。シリウスの吐息が首筋にかかり、彼が興奮していることがわかった。今更嫌がってやめてくれる相手ではない。それに、本当にリーマスが嫌なら、無理矢理しようとはしない相手だ。だからこそ今もこうして、リーマスの身体を慣らしているのだろう。
少しくらい酷くしても構わないのに。その言葉を飲み込んで、リーマスは次に来るであろう衝撃に備えた。あの長い指が引き抜かれ、はるかに大きな質量が探るように埋め込まれる。慎重にゆっくりと、けれど確実に。
「う…………」
埋め込まれる熱塊に声が漏れる。けれど苦痛のためだけではない。これから起こることへの期待も入り混じった声だ。身体を推し進める度に漏れる声に、シリウスは宥めるようにリーマスの耳朶をくちびるで食む。緩やかに腰を動かしながら強張った身体をほぐそうと胸を探り、敏感な部分を摘んでは舐るように弄ぶ。薄い胸はシリウスの興奮に呼応するように激しく上下し、リーマスもまた嵐のような高揚の中にいるのだと教えてくれた。それがシリウスには楽しくて仕方が無い。
「リーマス…………」
低く、誘うように囁くと、恐る恐るリーマスが振り返る。涙を浮かべた目は、伺うようにシリウスを見つめた。薄く開いたくちびるがたまらず、細い顎を掴んで貪るように口付ける。リーマスももう反抗しない。無理な体勢にも拘らず舌を差し出してキスに応えようとする様は健気で、くちびるを離してもシリウスは何度もリーマスの髪や項に口付けた。
「あっ……んぁ…………」
胸をまさぐりつつ身体の中心を握りこむ。掌の中の熱はシリウスの愛撫に顕著に反応を示し、体内の異物を締め上げる。リーマスの身体は何故これほどいいのだろう。シリウスは不思議でならない。そしていつもは老成さえ感じさせるリーマスの痴態が、他の誰も知るところでは無いという優越感。男の欲望をこれほど満たす相手には、早々出会えるものではないだろう。それら全てがシリウスを喜ばせた。
「ふ、あ…………」
ぐいと突き上げられて、悲鳴が口をついて出た。けれどそれはリーマスが自分でも赤面したくなるような甘えるような声だった。こんな声を出しておいて、抵抗するなど莫迦みたいだ。頭のどこか冷めた部分でそう考えながら、リーマスは小さくシリウスの名を呼んだ。自身を扱かれ、背後から突き上げられて、腰にたまった熱がどんどん温度を増してゆく。身体を覆っているのが汗なのかお湯なのかシリウスの体温なのかわからない。咽喉から迸るはしたない声が響いて恥ずかしい。耳のすぐ傍で聞こえるついばむようなキスの音が近くなったり遠くなったりする。それに何故か酷く視界が揺れる。翳ったような、戻ったような、気が遠くなっていく感覚。もう、何も考えられない。
シリウスがひときわ強く腰を押し付けると、リーマスは伸び上がるようにして背をしならせた。腰にたまっていた甘い痺れが背筋を駆け上がり、呼吸を乱す。
「あっ、ああっ…………!」
高いはずの声は呼気が乱れて音にならず、リーマスは天井が暗く遠のいてゆくのを見た。
何か冷たいものが顔に当たっている。濡れた感触に眉根を寄せて眼を覚ましたリーマスは、眼前に迫った犬の鼻面に驚いて身体を起こした。何だ、何が起こったんだ。
慌てて辺りを見回すと、そこは寮の部屋のベッドの上だった。そして右脇には長く伸びたパッドフットの寝姿。どうやらその鼻が頬に当たっていたらしい。どおりで冷たいわけである。
リーマスはぼんやりと辺りを見回して頭をかいた。ええと、一体何が起こったのだろうか。腕を組んで考えると、おぼろげながら記憶が戻ってきた。酷く慌てたシリウスの表情。ジュースしか置いていないカウンターバーで、冷たいライムソーダを作って飲ませてくれたような気がする。それから暗い廊下をシリウスの背中に負ぶさって進む記憶。気持ち悪いと言ったらシリウスが悲鳴を上げた記憶がある。その後のことはわからないが、多分ここまで運んでシリウスも力尽きたのだろう。で、隣で何故か犬の姿のまま寝こけているのか。
ピスピス鼻息を立てて眠る黒犬の頭を撫でてから、リーマスは寝ぼけ眼を擦った。どうも情けない姿を晒したようだが、元はといえばシリウスのせいだ。いや、大元はリーマスのせいなのだが、そこは考えないようにしておこう。でも一応シリウスは怒らないでくれたから、今日のことは不問にするという名目で有耶無耶にしてやってもいい。うん、そういうことにしておこう。
勝手に自分の中でけりをつけたリーマスは、気持ちよさそうに寝こける犬を起こさないようにそっとベッドを滑り降りた。咽喉の渇きを覚えたので洗面所へ向かったのだ。水を一杯飲んだら、身体が冷えないうちにベッドへ戻ろう。毛布を被って犬に近寄り、体温を分けてもらおう。多分同室の友人の目を気にして犬の姿なのだろうシリウスにくっついて、朝までの短い夢を見よう。
一週間ぶりにどこか緊張の解けた表情のリーマスは、こっそりとベッドに戻ると目を閉じた。これでようやくゆっくりと眠ることが出来る。
しかし彼はまだ知らない。自分の右の肩に、くっきりと大きな歯型があることを。もちろんシリウスの意趣返しであることは明白だが、それが犬の歯型なのか人の歯形なのか、リーマスが微妙な表情で首を傾げるのは、まだ少しだけ先のお話。
〔おしまい〕
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いつもの悪い癖でやけに長くなってしまいましたが、学生編の結局は単なるラブラブ話はいかがだったでしょうか。
とりあえずうちのサイトだし、エロがあってもいいかと思いまして(汗)。
因みに、この時期の二人の体格は、シリウス 185cm 75kg、リーマス 169cm 53kgとなっております。
平均身長175cmのお国で出てくるたびに長身と書かれ、その上セブより頭一つ分大きいシリウスは最終的に190cm近くなる予定です。
リーマスは20歳まで背が伸びたので、最終的には身長差は15cm以内になりました。
参考までにうちの兄公は169cm 56kgだそうです。
リーマスはともかく殺意がわきますね!
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