■□■ ほしいものはひとつだけ □■□






 そこは静けさに満ちていた。城内の地下深く、高い場所にある小さな明り取りの窓だけが光源であるその牢獄は、死によく似た沈黙に満ちていた。
 どこかで水の滴る音が響いていた。規則的に聞こえる音といえばそれくらいで、広い牢獄に囚人はただ一人。石壁に打ち付けられた長い鎖のついた手枷が無くとも、彼に反抗は不可能であろう。石床の上に両膝をついた姿勢で面を上げているのが精一杯であろうことが、全身を覆う生々しい拷問の痕から伺えた。
 男は黙って檻の向こうにいる人物を見上げている。長きに渡る拷問のせいで視力が落ち、力を失った視線を彼が向けるのは、やはり半分死んだような容貌の男だ。かつてはさぞや美しかったであろう顔立ちの片鱗を今も残す男は、檻の前に置かれた場違いに豪奢な椅子に腰を下ろしている。それはおそらく、彼もまた立ち上がることが出来ぬ身であるためだろう。
 檻を挟んで向かい合った二人は、呼吸音さえ潜めてお互いを見つめていた。人払いされた牢獄は静かで、わずかな衣擦れの音さえもがやけに耳に響いた。
 今まで沈黙のままに椅子に座し、静かな怒りを露にしていた男が久々に口を開いた。

「何故こんなことになってしまったのだろうな……」

 それは苦渋と悲哀に満ちた声音だった。






 長く平和が続く豊かな国があった。大陸の交易路の中心として栄え、長い歴史と華やかな文化を誇るその国に、二人の少年がいた。
 一人はその国の王の嫡男で、名をシュミットと言った。慈悲深く英明なる君主として名高い父王と、異国から嫁いで来た絶世の美貌を誇る王妃の間に生まれ、幼いころから将来を嘱望されて育った少年である。
 今一人は国王の親友でもあり国軍を統括する大将軍でもある高潔な騎士の息子で、名をエーリッヒと言った。生まれはエーリッヒのほうがわずか四ヶ月ほど早いものの、二人は父母たちの友誼のために身分を越えて兄弟のように育てられた。それだけではなく、二人はお互いを唯一無二の親友と思い合い、将来は王とその片腕として、この国を支え合おうと誓った仲であった。
 早熟で攻撃的なほど妥協を許さぬシュミットと、聡明で常に控えめに彼を支えるエーリッヒは火と氷、太陽と月のように正反対な存在であった。だからこそ欠けた部分を補い合って、二人は双子のように、あるいは半身であるかのようにお互いを思っていたのである。
 まださほど長くはない人生ながらも、片時も離れず一緒に育ち、同じものを見て同じように感じ、当然のように死ぬまで一緒だと信じて疑わなかった二人に転機が訪れたのは19歳のときだった。王立学院を卒業と同時に軍門に下った二人であったが、エーリッヒに対して西にある隣国への留学命令が下されたのだ。
 何故エーリッヒにだけ留学の勅命が下ったのか。それには幾つか事情がある。まず彼がシュミットよりも語学力に優れ、武官でありながらも大使としての職務に着くことを望まれていたからということ。また思慮深く感情の表に出にくい彼に政治的駆け引きを学んでもらおうという考えもあった。特に西国は歴史的にも好敵手として有名であり、この国の長い歴史の中でも敵であったり、仲間であったり、ここ二十年は良好な関係を保っているとは言え、いつ侵略の誘惑に駆られて戦端を開くかわからない国であったからだ。
 もちろんその逆の仮定も大いにありうる。となれば、時期国王の右腕となるべきエーリッヒには、敵の内情を良く知っておいてもらうべきであろう。だからこそ王命は下ったのだ。
 わずか19歳という若年で、国王直々の命令を拝するというのはとても名誉なことである。それを理解していたから、シュミットは喜んでエーリッヒを送り出した。それまで自己同一視に近いほど付かず離れずできた二人には突然の別れは永遠ではないにしろ、長すぎるものだった。






 二年の留学を終えて戻ってきたエーリッヒは、実の年齢よりも更に大人びていた。寡黙で穏やかで、幼さや未熟さを欠片も窺わせない青年となっていた。出立のときと同じように帰還を喜んだシュミットであったが、エーリッヒの成長は彼にいくばくかの寂寥を覚えさせた。
 こうして何の恐れも無く親しんだ子供時代は過ぎ去り、多くの余計な感情が入り混じった国王と臣下という関係になってゆくのだろうか。身分も遠慮も関係なく、本気で喧嘩をしたり、笑いあうことは絶えて無くなってしまうのだろうか。
 王子という逆の身分差別の頂点にあるシュミットは、変わってしまった二人の関係を寂しく思った。それでも父王や大将軍のようになれることを願い、シュミットは遠くなってしまったようなエーリッヒを困らせまいと、彼に合わせるように距離を置くようになったのだった。






 一年ののち、かねてから折衝のあった西の隣国と、ついに戦端を開くこととなってしまった。それは国境付近にある大河の、水利権を両国が主張したことに端を発していた。もともと二十年も講和が続いたことの方が奇跡なのである。いつか必ず起こると言われ続けた戦乱が、ついに訪れただけのことだ。
 その戦は長引くことになるだろうと誰もが思っていた。二十年にわたって降り積もった鬱積は、爆発を機に膨れ上がる。憎しみよりも利権を争っての戦である。となれば、どちらかが確実に得をしない限り、戦争が終結するはずがなかった。
 結果から言って、ほとんど全ての人間の予想を覆し、戦争はあっけないほど短期で終結を迎えた。それも、一つの国が攻め滅ぼされるという最悪の形で。
 滅びたのは、攻め込まれたシュミットの国だった。
 一体何故そんな結果となったのか。理由は簡単だ。卑劣な裏切りがあったからだ。その裏切り者とは、ときの大将軍の子息である、エーリッヒだった。
 誰もが目を疑った。話を伝え聞いた者は自分の聴覚がおかしくなったと思った。国王の覚えめでたきその人物は、たとえ世界が滅びようとも、王と王子とその母国に忠誠を誓い続けることを誰もが信じて疑わなかったからだ。実際、王都を攻め滅ぼさんとする軍勢の中にエーリッヒの旗印を掲げた兵士達がいても、人々は彼の裏切りを信じることが出来なかったほどだ。
 こうして栄華を誇った王国は滅び去り、国は併呑されて民は虐げられることとなった。名だたる将帥たちは戦死するか捕らえられて処刑され、その中にはエーリッヒの実父である大将軍の姿もあった。国王もまた戦死し、王都を預かっていた王妃や他の廷臣たちは度重なる猛攻を受け、民の安全と引き換えに処刑、あるいは自殺を余儀なくされたのだった。






 果たしてシュミットがどうなったのか。開戦の折、国王の傍にあって先陣を務める栄誉を賜った彼は、公式には戦死したことになっていた。だが事実は異なる。彼は生きていた。裏切りにより戦局は悪化、国王と大将軍の首級もあげられながら、よく味方の軍を支え、戦乱を突破しようと試みた。しかし敵の追っ手はどこまでも喰らいつき、ついに彼は捕虜となったのである。
 その後、自分がどうなったのかシュミットにはわからなかった。ただ、意識を回復したときには窓さえ無い暗い部屋の中におり、長い監禁のあと、彼はかつては自分のものであった城の地下牢に移された。
 初めて経験する屈辱。しかしシュミットを絶望させたのは自分の置かれた状況などではない。与えられる数少ない情報から、父母や側近達、全ての親しい人々の非業の死を知ったこと。そして何より彼を打ちのめしたのは、全ては彼の半身とも言わしめたエーリッヒの裏切りによるものだという事実だった。
 エーリッヒの造反という事実を、シュミットは知らないわけではなかった。何しろ彼はエーリッヒが裏切りに踏み切った戦場にいたのであるし、自軍がもろくも崩れ去ってゆく姿を目の当たりにしている。それでもエーリッヒが卑劣な裏切り者であることを認めるには難しく、それは当然のことであったかもしれない。たとえ誰が見捨てたとしても、エーリッヒだけは味方である。何の疑いも持たずにそう信じ続けてきた彼である。何かの間違いだと思ったとしても不思議は無かった。
 けれどシュミットの願いは聞き届けられず、冷酷な現実が彼を待っていた。ある日牢獄を訪れたエーリッヒが、全ての事実を認めたのである。
 それまでの信頼と愛情が深ければ深いほど、裏切られたときの傷は深く致命的だ。そして同じだけ、相手に対する憎悪は深刻なほど強くなる。冷静に事実を受け入れようとしたシュミットであったが、やはりどこかでエーリッヒに対する淡い期待を抱いていたのか、真実を当人の口から聞いた瞬間の彼の絶望は哀れなほどであった。世界の崩壊をシュミットは知った。それまで見えていたはずのものが全てまやかしであり、都合のいい偽物であったことを、シュミットは身をもって知ったのである。
 深すぎる絶望は人を死へと誘惑する。けれどシュミットは死神の甘い囁きに屈することは無かった。彼は絶望を怒りに変え、たまに現れるエーリッヒを舌峰鋭く非難した。否、罵倒し、ありったけの憎悪を叩きつけた。殺してやる、とそう叫んだことも一度ではない。それは彼にとって正当な権利のある行為であった。また、一体何故こんなことをしたのか、そう叫んで問い詰めることもあった。しかしエーリッヒが答えを返すことは無く、ただ無言で去っていくことだけが繰り返されたのだった。






 公式上死亡したことになっているシュミットの身柄は、戦争の功労者であるエーリッヒに引き取られることとなった。理由は誰も知らない。そもそもそんなことをシュミットに教えてくれるはずもない。
 とにかくシュミットはエーリッヒに引き取られ、牢獄での彼の生活は終わりを告げた。しかし死亡したことになっているはずの人物が自由に出歩けるはずもなく、広い屋敷の奥深くに監禁されているのだから、結局は同じことである。冷たい石床の上で寝るか、豪奢な寝台で寝るか、それだけの差に過ぎない。そしてシュミットにとっては、敵の恩寵を受けるような行為は唾棄すべきもので、地下牢での生活の方が遥かにましだった。
 エーリッヒが何故自分を引き取ったのか、そもそも何故殺されずにいるのか、もちろん誰もシュミットには説明してくれない。幸いシュミットには自分の置かれた状況を分析する時間だけはいくらでもあった。そうして突き詰めた結果、どうやら自分が生かされているのは、何らかの取引材料にされるためではないかという理由に行き当たった。
 王家というものは洋の東西を問わず、多くの婚姻によって他国の王族たちと密な繋がりを持つものである。その例に漏れず、シュミットの父王は東国の王家から妃を迎えた。故に東側の隣国の国王はシュミットの伯父に当たり、年上の従弟が次期国王であり、国軍をまとめる総帥でもある。
 予想に反して瞬く間にシュミットの国が滅亡したため、時機を逸して援軍を送ることもままならなかったが、伯父は当然、臨戦態勢を整えていることだろう。一度の戦争ごときでその価値を失うこともないこの国の豊かな財源の魅力もある。妹夫婦の敵という大義名分のために、いつ攻め込んできても不思議は無い。
 その際に取引材料として政治的選択肢を増やすために自分は生かされているのではないか。そうシュミットは結論した。それ以外に思い当たる節が無かったからだ。となればすぐさま殺されることもないだろう。もともと一度は死んだ命である、今更惜しくはない。けれどただ無茶をすることが得策ではなく、シュミットは虎視眈々と脱走の機会を狙っていた。
 不幸なことに、シュミットの大人しい態度は周囲の不審を呼んだ。そこは長年の付き合いのあるエーリッヒであるから、彼の思考を読むことは容易かったのかもしれない。ある晩、監視の目を盗んで脱走を試みたシュミットであったが、広大な邸内から脱出する前に警備兵に捕まり、エーリッヒの前に引きずり出されることとなってしまったのである。
 憎き裏切り者の前に引きずり出されてもシュミットは屈しなかった。彼はいつも以上にエーリッヒを罵り、眉一つ動かさない裏切り者を責めた。ここでもし殺されたとしても、シュミットには何の損も無かった。それ以上に、この目の前の男に、何らかの感情が少しでもあることを確かめたく、彼は罵倒をやめなかった。
 結局エーリッヒは相変わらず一言も口をきかず、シュミットは再び監禁された。彼があまりに暴れるために監視の兵士が増やされ、脱走の罰として右足の腱を切断されてしまった。
 だが誤算はそれだけではなかった。シュミットは歩行の自由だけではなく、思考の自由まで奪われたのだ。
 彼の自由を奪ったのは、悪魔の薬    阿片だった。初めは足の腱を切断した苦痛を取り除くためと思われていた阿片だったが、いくらシュミットが拒否しても、定期的に薬を摂取することを求められた。足の包帯が取れてもそれは終わらず、エーリッヒはシュミットに無害な人間であることを求めているかのようだった。
 事実、阿片で思考の麻痺した状態のシュミットは別人のように大人しかった。彼の正当な権利としてエーリッヒを弾劾することも無く、むしろ子供のころに戻ったように彼に信頼を寄せた。周囲に知った顔が無いせいか、余計にエーリッヒによく甘える。阿片の効いているあいだはひどくご機嫌で、母親譲りの美貌で笑顔を振りまいていた。
 阿片に酔ったシュミットは最早シュミットではなく、ただの無害で無能で無責任な放蕩者だった。何も考えず、何も憎まず、彼はある種の境地を彷徨っていたのかもしれない。穏やかで幼いころと同じようにエーリッヒに甘えるシュミットは、哀れな愛玩物であった。
 シュミットがある日正気に戻ったとき、彼は何故か裸で寝室におり、そしてそこはエーリッヒの部屋だった。一体エーリッヒが何を思ってそうしたのか、シュミットにはわからない。けれど何をされたのかは一目瞭然であった。
 その屈辱は恐怖に酷似していた。あるいは恐怖が屈辱に酷似していたのかもしれない。とにかくシュミットは自分の身に起こった事態に嘔吐するほどの嫌悪感を覚えた。おぞましい、おそるべき行為。それまでエーリッヒはシュミットに対して沈黙を持って相対し、毛ほどの接触さえ無かったのである。それが一体どうしたことか。
 シュミットの困惑と懊悩は深かったが、彼がものを考える時間は与えられなかった。おぞましさに歯を食いしばる暇も無く、再び彼は阿片を投与されたのだから。
 エーリッヒはシュミットを抱く。理由はわからない。阿片に酔ったシュミットはそれを嫌がらない。自分が何をされているのかも理解できていなかった。暴れることも罵ることも無く、恐るべき安逸の中にある。その時間は日に日に長くなり、シュミットに投与される阿片の量は目に見えて増えていった。それに比例してシュミットの身体は損なわれ、命は削られてゆく。けれどそれを止めることはできず、止める者もまたいなかった。






 シュミットは強い人間であった。彼は諦めることを知らず、不屈の精神を有していた。それも全ては過去のこと。
 かつてのシュミットを知る者が阿片に耽溺した彼を見たら、そう思ったに違いない。阿片を求めて泣きじゃくり、憎き裏切り者にすがって抱擁を求める姿など、誰が想像できただろうか。エーリッヒが裏切ることを誰もが想像できなかったように、これほどに腑抜けたシュミットの姿もまた想像できなかったことだろう。自己の正しさを信じ、清冽な輝きを放つシュミットを、神々しいと言った者さえいたというのに。
 将来を嘱望された王子は完全に死んだ。阿片に酔って、一人忍び笑いをやめないシュミットを見て、誰もがそう思った。哀れみをこめて彼を見つめ、愚かな姿を内心で嘲笑っていた。
 しかしシュミットは敗北したわけではなかった。堕落は彼の本性を隠すための演技だったのだ。脱走事件の際に増やされた監視の中に、東国の間者が紛れ込んでいた。その男はシュミット戦死の報に疑問を持った従弟によって使わされた者で、裏切り者のエーリッヒの下に潜り込んで情報を探っていたのだ。
 まさか本人に出会えるとは思っていなかったのだろう、間者はシュミットに身分を明かし、再度逃亡を申し出た。彼の使命はシュミットの安否を確認し、生存していたならばどうにかして東国へ脱出させることにあった。
 それは地獄に射した一筋の光明のようであった。しかしシュミットは男の手を取らず、今ここで自己の安全だけを図ることを拒否したのである。彼は自分の命よりも復讐を望み、為政者に虐げられる民の救済を望んだ。確かにシュミットが東国へ逃れれば、従弟や伯父はこの国へ攻め入る大義名分を手に入れるだろう。しかし二つの国が正面から衝突すれば、疲弊するのはシュミットの国の民たちだ。これ以上の苦痛を強いるわけにはいかない。
 間者はあまりに高潔で頑固なシュミットに根負けし、脱出を諦めざるを得なかった。その代わりシュミットは、エーリッヒの周囲をかぎまわり、情報を提供することを自ら志願したのである。
 当初、阿片によってシュミットの目論みは潰えたかに見えたが、監視を装って留まった間者の協力もあって、彼は完全に正気を失うことは無かったのである。投与される阿片に混ぜ物をして量をごまかし、シュミットの正気を保たせた。また、地下に潜って情勢を伺っていたかつての廷臣たちに連絡を取り、虎視眈々と時期を待ったのだった。
 シュミットの身体が完全に蝕まれるのが先か、時期が到来するのが先か。常人であれば発狂しそうな緊張の中、シュミットは周囲を欺き待ち続けた。そして運命は二転する。天の時は訪れ、人の和は熟し、地の利は彼にあった。異国からやってきた支配者に強いられた苦境についに人民は蜂起し、予定通りに支配の進まなかった為政者達の結束は乱れ、潜伏していた将帥たちに導かれた東国の軍勢に招かざる支配者達は敗れ去った。
 こうして、深刻な被害の爪痕を残し、その国の支配権は東国の王家へと移ったのである。






「何故こんなことになってしまったのだろうな……」

 呟いたシュミットの声は苦渋と悲哀に満ちていた。最早身体は持ち主の言うことを聞かず、こうして口をきいているだけで自然と息が切れてしまう。彼の命が風前の灯であるのは明白で、そのことを誰もが理解していた。
 変わり果てた親友の姿を見上げながら、跪いたエーリッヒの口元は自嘲の形に歪んでいた。問いかける者にとっては永遠の謎であっても、問われる者にとってはわかりきった事実であったからだ。
 裏切りの日よりエーリッヒが初めて見せる人間らしい表情に、シュミットは目を眇めて彼を凝視した。エーリッヒの自嘲は深刻な色合いを垣間見せ、彼の抱えた闇の深さを思い知らせるかのようだった。
 エーリッヒは口を開く。それまでいかなる拷問を受けようが、呻き声一つ漏らさなかった彼が、ようやく真実を語ろうとしていた。

「……それは、何としてでも手に入れたいものがあったから」

 見上げるエーリッヒの蒼い目は、不思議な静寂に満ちていた。






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