:注意:
このお話には、『オレ様の手前突っ込み』が随所に隠れています。
突っ込みは反転すると読むことができます。
が、かなり台無しな雰囲気になることは間違いないので、
できれば一読後に気が向いたら見てみることをおすすめいたします。
気が向かない方は反転しないで読んでください。
では、ご注意の上、お進みください。
■□■ Amontilladu □■□
人の気配を感じてリーマスが眼を覚ましたのは、月も隠れた真夜中のことだった。暗闇の中に浮かぶシルエットに、鋭く視線を投げかけながら、用心深くリーマスはベッドサイドのランプに手を伸ばした。球体のガラスに指先が触れると、柔らかな光が浮かび上がる。枕元に隠した杖を掴もうとしていた手が動きを止めたのは、戸口に立った人影が彼の良く見知った人物だったからだ。
「シリウス、こんな時間にどうした……?」
ベッドに半身を起こしたリーマスが何かあったのかと問いかける前に、幽鬼の如き足取りでシリウスはベッドに近付いてきた。彼のくちびるは閉ざされたまま、視線さえまともにリーマスを捕らえない。数時間前に別れたときのシリウスは、一人無言でアルコールを煽っていた。グリモールド・プレイスに来てからというもの、目に見えて酒量の増えたシリウスを内心でリーマスは危うんでいた。ましてや最近の彼の精神は悲壮なほど荒廃し、声をかけるのも憚られるほどである。今も光の消えた暗い目をしたシリウスはほとんど無表情で、困惑するリーマスの肩に手をかけた。
「……えっ、あ、ちょっと!」
リーマスが声を上げたのは、シリウスが力任せに彼をベッドに押し倒したからだ。しかし抗議の声もむなしく、シリウスは何の反応も示さない。これほど間近でありながら、リーマスの声が聞こえているのかさえ疑問に思うほど、シリウスの表情は変わらなかった。
「シリウス、やめ、何で……」
力任せに跳ね除けるべきか、それともこのまま受け止めるべきか。困惑のままリーマスが逡巡している間に、シリウスは彼の身体に圧し掛かる。拒絶を見せながらも完全には拒みかねている腕をかいくぐり、首筋に顔を埋める。今まで一体何をしていたのか、あまりにも冷たい指が肌の上を這う感覚にリーマスは息を呑んだ。カキ氷食べてました。
「っ………………」
歯を立てられたのかと思うほどきつく首筋を吸われ、微かな呻き声がリーマスのくちびるから漏れた。仰け反った咽喉に吹きかかるシリウスの吐息は熱い。むしりとるような勢いでシャツの前を肌蹴させ、胸に触れる指はこんなにも冷たいというのに。
性急に肌の上を這い回る指が、薄いリーマスの胸を幾度もなぞっていく。冷たく乾いた指は敏感に反応を示す胸の飾りをつまみ、濡れた舌が鎖骨のくぼみを味わった。
熱い息ばかりしか零さぬシリウスに苛立ちながらも、リーマスは抗議も拒絶も放棄することに決めた。全身で圧し掛かる男を平伏させるまではいかなくとも、完全なる拒否を示して闘うことはできる。このシリウスの行動はあまりにも一方的で傲慢であり、怪我をさせられても文句は言えないだろう。
しかしリーマスは彼を受け止めることを選択した。理由は自分でもよくわからない。ただ、杖を向けて争ったり、優しい声で宥めるよりも、好きにさせてやるほうがいいような気がした。悲壮なまでの精神の荒廃を見て、同情的になったのだろうか。彼は倦み疲れ、焦燥は身を焦がすほどであろう。それとも、彼が自分を必要としているという事態に、優越感を覚えたのだろうか。リーマスにはわからない。それでも今は、シリウスを受け止めてやろうと思ったのだ。
「うっ……く…………」
肉厚の舌が胸を嬲り、冷たい指が脇腹を辿る。乱れた長い黒髪が肌の上を滑り、くすぐるような微細な感覚にリーマスは吐息を零した。薄く浮いた肋骨の翳りに歯を立てながら、器用な手が下肢の着衣を引き剥がす。むき出しの脚の間に身体を割り込ませ、シリウスは細い脚を無理矢理大きく開かせた。
「あぁっ…………!」
冷たい指がリーマスの後庭を探り、慎ましやかな蕾を割り開いたとき、白い背中が電撃を受けたように反り返った。指が、と声に出さずリーマスのくちびるが苦痛に言葉を紡ぐ。節の高い優雅な長い指が今、自分を犯している。ひっと空気の抜けるような悲鳴が漏れても、シリウスは見向きもせずにリーマスを苛んだ。
額と背中に嫌な汗が浮かぶのをリーマスは自覚した。身内を蹂躙される恐怖と苦痛にもがく脚を押さえつけ、尚も長い指がリーマスを犯す。蠢く異物の感覚に、リーマスは指先が白くなるほどシーツをきつく掴んだ。赤みが差した頬の上を、生理的な涙がこぼれてゆく。長い髪に遮られて、シリウスの表情はわからない。ただ、彼は熱心にリーマスの肌を嬲り続けた。
緊張に強張った脚をシリウスが掴んだとき、すでにリーマスはぐったりとベッドに身を投げ出していた。荒い息の下で、これから加えられるであろう更なる衝撃に耐えるため、奥歯を噛み締める。緊張のあまりリーマスでさえ上手く動かせない脚を折り曲げさせ、シリウスが長身を屈めた。
「くっ…………」
咽喉まで出かかった悲鳴を噛み殺し、リーマスは強く目を閉じた。身体の奥底で火花が散っている。焼け付くような痛みが走り、一瞬息ができなくなった。先に指でほどかれたとは言え、普段の行為のときほどの時間も丁寧さも無かった。ろくに慣れさせもしないままシリウスを受け止めるのは苦痛でしかない。
「うあぁっ…………!」
最早凶器に近い熱塊を根元まで飲み込まされ、押し殺した悲鳴をリーマスはあげた。シーツを掴むだけでは耐え切れずに、シリウスの背に爪を立てる。滑らかな生地の服の上からでも爪は充分食い込んだだろう。それでもシリウスは身勝手な行為をやめようとはしない。濡れたリーマスの頬に自分の頬を合わせ、表情一つうかがわせぬまま彼を蹂躙する。どんなにきつく脚で締め付けられようが、背中を爪で引っ掻き回されようが、痛覚はどこか遠くに置き忘れたかのようなシリウスの行動を止めることはできなかった。
「あっ、ああっ……くぅっ……」
シリウス、と息も絶え絶えに呼びかけながら、前後に揺さぶられる苦痛にリーマスは耐えた。服さえまるで脱がず、自分に必要なことしかしないシリウスが憎らしい。目一杯爪を立てた背中は逞しく、リーマスが必死で縋ってもびくともしない。力強い肩に顔を埋めて、リーマスは長く短いひと時が過ぎ去るのを待った。
縋りついた身体は熱く、服越しにもリーマスの肌を刺激する。布地にすれて敏感に反応する自身や胸の突起が淫らがましく、慣らされた自分の身体をリーマスは恨めしくさえ思った。
シリウスが身体を離したのは、思う存分リーマスを蹂躙し、荒い息が整ってからだった。とうに苦痛から開放されていたリーマスは、ぼんやりとベッドの上に四肢を投げ出している。今まで彼の首筋に顔を埋めて息を整えていた男は、無感動な様子で身体を起こした。暗い目には相変わらず感情の起伏が見られない。シリウスはなげやりに服装を整えると、疲労した様子でベッドの端に腰を下ろした。
寂寞を漂わせる背中を半裸の姿で眺めていたリーマスは、不意にシリウスの名を呼んだ。
「………………」
ぎこちなく振り返ったシリウスにリーマスは手を伸ばす。疲労から微かに震える指を差し出され、シリウスはようやく困惑の表情を浮かべた。
「……シャワー浴びたい」
掠れた声でリーマスは言った。
「……立てない。連れてってくれるだろう?」
それは問いかけの形式を取った命令だった。有無を言わせず、むしろシリウスが拒むことなど有り得ないとでも言うようにリーマスは真っ直ぐ腕を差し出している。そして短い逡巡のあと、確かにシリウスはその手を取った。
託された腕を首に回し、腰を支えてシリウスはリーマスを導く。力の入らない脚を引きずるようにしてバスルームにたどり着くと、リーマスはシャツを脱ぎ捨ててバスタブに腰を下ろした。
面白いことにこのバスルームは、シリウスの部屋とも繋がっている。二枚ある扉の片方がリーマスの部屋に、もう片方の扉がシリウスの部屋に繋がるようにしたのは、もちろん不機嫌な家主だ。もともとこのバスルームはシリウスの部屋にあったものだが、ある日突然、彼は勝手にリーマスの部屋のバスルームの扉と空間を繋げてしまった。もちろん、リーマスに何の断りも無く。
当然リーマスはあきれ返った。階数さえ違うシリウスの部屋と、どうしてバスルームを共有しなければならないのか。するとシリウスは、一々部屋を出て階段の上り下りをしたり、姿現しをする手間が省けると主張した。別にもともとのバスルームが気に入っていたわけでもないし、確かに部屋の行き来は楽になる。ましてや散々勝手に改装を重ねたシリウスのバスルームは他のどの部屋のものよりいいものであったが、それでもやはりリーマスは釈然としないものを感じたのだった。
風呂で繋がってるのに、普通にドアから入ってきたシリウス。
「スポンジ」
短く言って壁面の棚を指差すと、シリウスが背を向けた。彼が要求を満たしてくれている間に、バスタブの側面についたダイヤルを捻る。2というメモリにダイヤルを合わせると、内側から膨らむようにバスタブが広くなった。これで大人が二人入っても充分な広さになった。何度観ても面白い。もちろんいちゃいちゃするための機能。
リーマスは手を伸ばし、金色の蛇口を捻る。温めのお湯とともに、ふわふわの泡が流れ出す。無造作に伸ばした脚にふりかかる泡は、雲のように軽かった。
バスタブにとって返したシリウスが差し出すスポンジを受け取ると、リーマスは引き返そうとする彼の袖を引いた。
「まだ上手く動けそうもない」
洗ってくれよ、と囁くと、シリウスは怒ったような困ったような複雑な表情を浮かべた。本来なら怒り狂って罵倒されてもおかしくないだけのことをしたのに、予想に反してリーマスは苛立ちすら見せない。どころか、袖を引く指先からは、媚びるような色香さえ漂っている。
困惑してシリウスは自分をじっと見つめるリーマスを見返した。挑むような視線は、恐れることなく真っ直ぐシリウスの眸に向けられている。恐らく彼は先ほどの行為より、今の言葉を拒否する方が怒るだろう。
袖を引く指をそっと外させると、シリウスは黙って頷いた。
微かに湯気の立ち上るバスタブの中で、リーマスとシリウスの二人は向かい合っている。白に一滴だけ青を溶かしたような清冽なタイルの上に、シリウスが脱ぎ捨てた服が無造作に散らばっている。自分の要求に従って服を脱ぎ始めたシリウスの背中を、何気ない様子でリーマスは見守った。
服を脱いで露になった背中は、思ったとおり幾筋もの傷が走っていた。無駄のない筋肉が陰影を作る背中に、幾度となくリーマスは羨望と欲望を覚えたものだ。顔立ちだけでなく彫刻的な彼の身体は、鑑賞するに余りある魅力を湛えている。
そのシリウスは今、柔らかなスポンジでリーマスが伸ばした脚を撫でるように清めていた。細すぎて余計に長く見える脚を根元まで丹念に洗い、もう片方の脚にとりかかる。あえて何も感じないように務めているのか無表情のシリウスを、じっとリーマスは見つめていた。
「…………腕も」
脚を清め終えたシリウスに無造作にリーマスは腕を差し出す。シリウスも何も言わず、指先を取ると、黄色いスポンジをあてがう。指先から丁寧に、骨董品を扱うような丁重さで磨き上げ、恭しく湯の中に戻す。円を描くようなスポンジの動きを見つめながら、リーマスは僅かに目を眇めた。
「身体」
両腕を磨き終えたシリウスに、淡々とリーマスは命じる。そう、まさに彼は命じていた。しかしシリウスもそれに反抗を示すわけでもなく、言われるままに身を寄せて、上気したリーマスの肩を引き寄せる。バスタブの淵から身体を離したリーマスは、目を瞑って仰向いた。
首筋に濡れたスポンジがあてがわれ、優しく肌を拭ってゆく。肩を掴む手が、先ほど乱暴を働いたものとはとても同じと思えない。ちゃぷんと音を立てる湯の動きが心地よく、リーマスは緩やかな睡魔を感じた。ねむねむリーマス。
微かに火照った薄い胸を清めていたシリウスは、大人しく沈んでいた腕が上げられるのを見て目を上げた。白い泡をかき分けた腕は、優雅な仕草でシリウスの肩に回る。ゆるやかに首を抱くリーマスは、湯のためか音も無く身体を寄せた。
思わず抱きとめたリーマスの身体は、無邪気な信頼を寄せてシリウスに預けられた。力強い肩に頭を預け、心地よさそうな表情で目を閉じる。合わせた胸から互いの心音が染みるようで、リーマスは穏やかに微笑んだ。
「……ん…………」
恐る恐るといった様子でシリウスは細いリーマスの背中に腕を回す。スポンジを手放し、掌で湯を掬うようにして背中を撫でると、鼻にかかった甘えるような声をリーマスはこぼす。湯気で額に張り付いた髪をかきあげてやると、くちびるの端に浮かんだ微笑が濃くなった。肩に頭を預けて睡魔に身を任せるリーマスは、無条件の信頼を寄せている。見下ろす首筋には鮮やかすぎる鬱血の痕。つい先ほどあれだけの屈辱を受けたのに、彼の無防備な様子はシリウスの胸を打った。
「…………リーマス」
低く掠れた声に呼ばれて、リーマスは目を開いた。背中を支えてくれる腕が心地よい。目だけを上げてシリウスを見ると、眉根を寄せた端正な顔がどこか遠い場所を見つめていた。
「…………悪かった」
苦渋に満ちたような声は己の不甲斐なさを嘆くようで、リーマスはゆっくりと瞬いた。やはり彼は焦っていたのか。疲れていたのか。どちらにせよ、リーマスに対する甘えがこうした結果になったのだ。
「いいよ、別に…………」よくねぇよ!?
くすっと微笑を零したリーマスは、再びゆったりと目を閉じる。逞しい身体に抱きかかえられ、ゆるやかに立ち上る興奮に心地よい幸福が身体を満たしてゆく。体内を流れる血流が体温を上昇させ、抱き合う身体が火照ってゆく。最早睡魔は遠く過ぎ去り、リーマスは自分が興奮していることを悟っていた。だが彼はあえて目を閉じたままシリウスに凭れ掛かり、何事かが起こるのを待っていた。
リーマスを抱きしめていたシリウスは、濡れた彼の髪に口付けを落とした。額に落ちかかる髪をかきあげて撫でつけ、静脈の透ける額に口付ける。しっとりと汗ばんで吸い付くような肌だ。こめかみに口付け、形の良い耳殻を指先で辿る。普段は白い頬に血が上り、目を瞑るリーマスを美しいとさえ思う。微細に震える睫の先に湯気が雫となって煌き、シリウスは薄い瞼にキスを落とした。
温かなくちびるは瞼から頬へと下る。鼻筋を通り、くちびるの端に口付けた。触れるだけの優しいキスにようやくリーマスは眸を開く。頭を起こし上向いて微笑を浮かべ、シリウスの髪に指を絡めた。濡れてきしむ髪を軽く掴む。覗き込む眸にもう暗い影は無い。
温かな指先でシリウスの髪から首をなぞりながら、リーマスは目を伏せる。薄くくちびるを開いて仰向くと、大きな手が頬に添えられる。微かな息遣いのあと、くちびるにふれる温かな皮膚。ようやく訪れた甘い口付けに、くちびるを離す合間に甘い吐息が漏れた。
バスタブの淵に湯が跳ねる音の他は濡れたキスの息遣いしか聞こえない。さっきまでは息を呑むほど冷たかった指が頭部を支え、甘い舌が痺れるような快楽を教えてくれる。羊水に浸かったようなバスタブの中で、裸で抱き合うことの歓喜。背中を下る指が背骨を刺激するほどに、リーマスは身体の奥底から湧き上がる泡のような快感に酔いしれた。
「……シリウス」
無邪気で気の遠くなるほど甘いキスを終えて呼びかけたリーマスの声には、含めるような色香があった。見上げる眸の奥底にたゆたうのは媚態に近い誘惑で、首に絡められたままの腕が緩やかに導く。先ほどの強要された行為で彼が疲労していないはずはない。けれどその行為を否定するほどの何かをリーマスは欲している。彼の受けた苦痛を思いやれば口付けだけで満足すべきだが、それ以上に今はシリウスがリーマスを慰めてやりたかった。いや、純粋に彼を欲しただけかもしれない。
シリウスはもう一度リーマスに口付ける。今度は深く強く舌を絡め、甘い肉を味わう。お互いの口腔を行きかう唾液がこぼれ、顎を伝って滴り落ちる。くちびるを食んで舐めると、リーマスが忍び笑う気配がした。
細すぎる脚でリーマスはシリウスに跨る。硬い胴に脚を巻きつけると下腹部に硬いものが当たった。無意識にくちびるを舐めたリーマスの頬に口付けながら、シリウスはそっと背中を撫でた。慰撫するように上下するその掌の感覚が心地よく、くすくすとリーマスは笑う。シリウスの首に噛み付くようにキスを落とし、自分と同じ箇所にくちびるの痕を残す。仕返しとばかりのリーマスの行動は、愛情を示す戯れであって、快い痛みを伴った。
首筋をくちびるで食むリーマスの悪戯を受けながら、自然と頬をほころばせてシリウスは恋人の肩に口付けた。火照った肌からは揺らめくような色香が立ち上り、舌先に不思議な甘さを感じさせる。白い泡が背中を滑り落ちる様を見れば、濡れた肌の光沢に目眩を起こすような欲望を覚えた。
「……リーマス、いいか……?」
シリウスはそっと背中を撫でながらリーマスを促した。顔を上げたリーマスは言われるままに身体を離して立ち上がる。シリウスはバスタブの淵を指差し、壁に寄りかかって座るように促した。
物が置けるように平らになった壁際のバスタブの淵にリーマスが腰を下ろすと、シリウスが彼の膝に手を置いて柔らかに脚を広げさせる。もう幾度も繰り返された行為に、最早リーマスも抵抗感は無い。むしろこれから与えられるであろう愛撫に期待が膨らみ、潮騒のような自分の心音を聞いた。
「ぁ………………」
長い指がリーマス自身に巻きつき、じれったいほどゆっくりと擦り上げる。思わず閉じそうになる太腿を左手で宥め、シリウスはすでに勃ち上がっていたリーマス自身に口付けた。ほとんど恭しいほどの行為にリーマスはサッと頬を赤らめる。かたちのよいシリウスのくちびるは硬く張り詰めた器官の表面を辿り、下生えに隠された皮膚を探り出す。根元をくちびるで圧迫しながら、指でそっと擦り上げた。先端に滲んだ先走りで指は滑らかに表面を行き来する。段々強くなる指の圧迫にリーマスは呻き、くちびるを噛んで嬌声を押し殺した。
こうして見下ろすシリウスの愛撫の何と淫らなことだろう。硬く尖らせた舌の先端で血管を辿り、絶えず指で刺激するシリウスの巧みな愛撫。掌に包まれて硬度を増す自身を見るのは初めてではないが、何故か今日は妙に恥ずかしい。
羞恥心に困ったような表情を浮かべながらも、リーマスはシリウスの長い髪を指先で梳いた。濡れた髪は容易く撫で付けられ、シリウスの秀でた額が露になる。彼は甘いお菓子を頬張るようにリーマス自身を口に含み、指で更に奥を探る。弾力あるまろみを掌で包み、揉みしだきながら最奥までの短い道のりを辿る。すでに一度シリウスを迎え入れているとはいえ、臆病になった蕾は彼を受け入れてくれるだろうか。
咽喉の奥までリーマスを咥え込みながらも、シリウスの指は丹念に最奥を探る。辿り着いた健気な蕾は、残った蜜を零しながら慎ましやかに微かな収縮を繰り返していた。
「あっ、あぁ…………」
敏感な粘膜を指の腹で嬲られて、思わずリーマスはシリウスの髪を強く掴んでいた。自身の括れを強く吸われ、後庭を擦られてはたまらない。もどかしいほど丁寧に愛撫を刻む指は、ほんの少し潜り込んでは引き抜かれ、再度差し込まれては引き抜かれる。指は段々と深く潜り込んではいたが、慎重すぎる愛撫にリーマスは泣きたいような切なさを覚えた。
確かに苦痛も無くはない。無理矢理ねじ込まれた余韻は残り、痛みを感じるときがある。しかし今のリーマスはそんなことよりも、最も敏感な二つの部分を攻められながらも、巧みな加減で達することのできないもどかしさの方が辛かった。思わず腰を揺らめかせそうになりながらも、じっと耐えるリーマスにとって、いつしか苦痛と快楽は区別のつかない官能と成り果てていた。
「ああっ、シリウス、早く…………」
もう無理、と呟いてゆるゆると首を振るリーマスを見上げて、シリウスは目を眇める。これ以上引き伸ばすのはリーマスにとって大きすぎる負担であろう。ようやく根元まで指を咥え込んだすぼまりは、ひくついてシリウスの指を締め付けている。自身をしとどに濡らす白濁も、滴るほどに溢れてシリウスの口元を濡らした。
シリウスは二本に増やした指でリーマスの内側をかき回した。突然の荒々しい行為にリーマスがくぐもった悲鳴を上げる。反射的に閉じそうになる脚を肩で押し広げ、張り詰めた幹の先端に舌を差し入れる。先走りを滲ませる幹を強く吸い上げながら含ませた指を引き抜くと、細い嬌声を上げてリーマスは背をしならせた。頭ぶつけなかった!?
限界に達し吐き出された欲望を口腔で受け止めながら、シリウスは更に強くリーマス自身を吸い上げる。飲み下す体液の濃さに目を細める彼の表情は、リーマスが息を呑むほど淫猥だった。
「……シリウス…………」
掠れた声で呼びかけながら、ふらふらとリーマスはバスタブの中に座り込む。体中で弾けた快楽の白い花火に、指先までじんわりとした甘みが広がった。上手く身体に力が入らない。
それでも自分を求めるリーマスを、シリウスは慌てて抱きとめた。肌の表面は落ち着いた体温を取り戻しながらも、内側から弾ける興奮にリーマスの身体は火照っていることだろう。すんなり腕の中に納まったリーマスは頬を摺り寄せるようにしてシリウスに甘え、首に腕を回してしなだれかかった。
「シリウス、シリウス……」
飽きもせず幾度も繰り返し名を呼ぶリーマスは、そっとシリウスの肩に口付けを落とした。軽く歯を立てては離れてゆく口付け。それは彼の満足の証なのだろうか。しかしその些細な刺激に思わずシリウスは息を呑む。抱き合った身体の間に息づく熱に、リーマスも気付いたのかくちびるを離した。
シリウスの首筋に額を預けたまま、リーマスは消えない泡に覆われた湯船を見下ろした。シリウスは困ったようにリーマスの肩を撫で、彼の行動を見守っている。抱き合いたいのはもちろんだろうが、負担を考えて行動を決めかねているようだ。
リーマスはシリウスの首にかけていた腕を解き、胸を辿って腹部をなぞる。身体の中心部に息づく怒張に行き当たると、くすぐるように撫でた。すると腰に回っていたシリウスの手が一瞬の緊張を見せた。更に繰り返して触れると、観念したのかシリウスは強くリーマスを抱きしめた。
「…………リーマス、したい」
額にくちびるが触れる。駄目か、とご機嫌を伺うように問いかけられて、リーマスはくすくすと笑った。何だか余裕の無いシリウスの様子が微笑ましく、愛しさがこみ上げる。ためしに嫌だと言ってみようかという意地悪な考えが一瞬浮かんだが、指先で顎を持ち上げられ、極上のキスをもらうとそんな考えは胡散霧消してしまった。
リーマスはキスに弱い。と言うより、シリウスのキスに弱い。普段は当然そんなことで誤魔化されたりする彼ではないが、こういう場面でしっとりとした甘やかで愛情深いキスは反則だと思う。幾度も触れ合わせたせいで皮膚がより敏感になったくちびる。描いたような理想的なラインのくちびるが、蕩けそうになるほど柔らかいことをリーマスは知っている。
リーマスは答える代わりにシリウスの熱塊を軽く握った。ピクリと反応を示したシリウスは、微笑を零すように薄く開いたリーマスのくちびるに舌を差し入れる。歯列の裏側をなぞって舌を絡め、濡れたくちびるを擦り合わせた。キスに赤く腫れたくちびるは、じんとするような快感を伝え、リーマスは夢中でシリウスの舌を追った。今も昔も彼のキスはリーマスを翻弄してやまない。もうずっと長いこと彼に負けっぱなしのリーマスは、腹立たしさをこめてシリウス自身を愛撫した。
「ん……シリウス、待って」
リーマスの脚を手繰り寄せようとするシリウスの手を押しとどめて、彼は膝立ちになる。シリウスの肩に手を置いて彼の脚を乗り越えると、力強い腕が腰を支えてくれた。シリウスの脚を跨ぐようにしたリーマスは、注意深くゆっくりと腰を落としていく。そうして先ほどの愛撫にほぐれて花開いた蕾に、シリウス自身をゆっくりと迎え入れた。
目の前で段々と腰を落としていくリーマスの肌を、くちびるでシリウスは愛撫する。彼の行為を賞賛するような愛情をこめて。すでに幾つもの鮮やかな鬱血の痕を残す胸は、内側に火を灯したような幻想的な輝きがあった。薄い皮膚の下には熱い血が通い、骨があって内臓があるなどとは信じられない。何かの美味なる果肉が詰まっているような気がして、シリウスは柔らかな皮膚に歯を立てた。
根元まですっかりシリウスを飲み込むと、深いため息をついてリーマスは目を閉じた。大丈夫、苦痛は無い。内側に飲み込んだ熱い塊が脈動して、リーマスの内壁を掻き立てる。硬く熱いそれを最早リーマスは恐れない。凶暴さを備えていても、シリウスは今はもうリーマスを愛することに夢中になっているのだから。
リーマスは慎重に体重をシフトして、細い腰を揺らめかせた。ゆっくりと上下しながら、意識してシリウスを締めあげる。緩急をつけた腰の動きにシリウスは片目を閉じて苦痛に耐えるような表情を浮かべた。
いつの間にかリーマスはシリウスを喜ばせる術を身に着けていた。それはシリウスが教えたせいが大きいのだが、自分だけの功労ではないこともシリウスはちゃんと自覚している。それは少し面白くないような嫉妬に近い感情を起こさせたが、胸を焦がす焦燥は快いと感じるほどのささやかなものでしかなかった。リーマスの手管に屈服するシリウスではないし、彼の中に他人の存在を感じるのなら、それを塗り替えてみるのも一興だろう。その証拠にリーマスはすでにシリウスの好みの身体へと変貌をとげている。シリウスの好みの表情、シリウスを燃え立たせる嬌声、シリウスを扇情する媚態。今だってリーマスは細い腰を動かして、的確に彼の弱点を掠めていた。
「リーマス…………」
懸命に身体を上下させるリーマスに、シリウスはキスを求めた。頭部に巻きつけた腕で黒髪をかき混ぜ、荒い息を繰り返しながらリーマスは口付ける。背中や脇腹を辿る掌が血流を巡らせ、甘い声が漏れた。いつの間にか再び頭をもたげ始めたリーマス自身が、シリウスの硬い腹部に擦れて気持ちがいい。
無意識に腰を摺り寄せると、シリウスの指が絡みついてくる。せがむような格好で満たされた欲求に、リーマスは息を呑んで耐えた。体内を行き来する硬い肉。同じものを愛撫され、淫らな声がとまらない。バスルームの中で反響する自分の声に、羞恥心が疼いて余計に官能を燃え立たせる。
荒いシリウスの息遣い。力強い楔の脈動。自ら内側の良い部分を擦りつけ、白い波が体中に押し寄せる。湯と泡が跳ねて肌に飛び散り、シリウスの厚い舌が舐め取ってくれる。穿たれる身体に、上手く力が入らない。
それでも二人は口付けをやめない。お互いの口腔を行き来する舌。特別に甘いキス。思考を痺れさせ、いつまでもそうしていたい誘惑に駆られる。
二つの箇所で繋がり、空洞を満たす雄の存在にリーマスは狂喜し、腰を振ってシリウスを高めた。シリウスもまた押し寄せる快楽に耐えながら、繰り返しリーマスを愛撫する。お互いに快楽を刻む身体は限界が近く、夢中で二人は貪りあった。脊髄から駆け上った興奮が弾け飛び、呼吸が止まるような快楽が迸った。果たしてそれがお互いの巧みな愛撫によるものなのか、繰り返された口付けによるものなのか、二人には判別することができなかった……。
『Amontilladu=愛しい人』と言う意味なんだそーだ。
うひゃあ、こっぱずかしい!
〔end〕
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