■□■ アゾート □■□
他人から見るでもなくやばいくらい雲雀に嵌っている山本だが、その彼をしてもたった一つだけ惜しいと思われることがあった。雲雀には、顔をうずめられる胸の谷間が無いことだ。
「それだけが残念なんだよな」
などといかにも口惜しげに呟いたのは、当の雲雀の胸に抱きついたまま寝そべる山本である。一方、ベッドに半身を起こしながら山本に抱きつかれている雲雀はと言うと、山本の頭に本を乗せて、不機嫌な表情で読書の最中だ。やることやったらさっさと帰って欲しいのだが、一向に山本は離れてくれようとはしない。どころか、男の雲雀についているはずのないものについて、先ほどからしきりに残念だ残念だと零している。
「オレ、基本的に巨乳も貧乳もおっぱいに好き嫌い無いからさ、雲雀の胸ならどんなんでも気にしないからさ」
どうやら山本は雲雀に胸があるなら貧乳と決めてかかっているようだ。その根拠のありかなど雲雀の知ったことではないが、いい加減鬱陶しくて限界だった。
「それなら君は、僕に胸があればいいって言うのか」
わざと角を立てて頭に置いていた本を脇に置くと、雲雀は山本の髪にくしゃりと手を置いた。その手をどけようともせず、雲雀の胸に顔を乗せていた山本が上目遣いに彼を見上げる。
「胸がついてて、下はそのままでもいいんだな」
侮蔑を含んだ棘のある声と視線。ところが最近の山本は雲雀のそんな不機嫌な様子がお気に入りなので、あまり効果は無い。だた、雲雀の発言には少し思うところがあったのか、視線を中空に向けて何か考えるような表情を見せた。
「うーん、まぁ、それはなんだな」
でへへっと頭をかいて照れて見せた山本。どうやら彼のすでにぶっ飛びすぎた脳みそでは、そんな雲雀も有りらしい。
どうやら自分の危ない趣味にちょっと気づいてしまったらしい山本を胸に乗せたまま、彼のおぞましいご趣味に鳥肌を立てた雲雀の右目が、怪しい殺意に光りを放った。
〔了〕
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