■□■ 美徳の不幸 □■□






 何をやらせても卒の無いアキラだが、人生のうちでたった二度だけ、ケイスケに対して敗北感を覚えたことがある。
 それは幼い日の身体測定のとき。やっと160cmを突破したことに内心でちょっと喜ぶアキラに、ケイスケが162cmになったことをはしゃいで報告してきたときだ。何故突然アキラにヘッドバットを喰らったのか、今でもケイスケはその理由を知らない。
 そして二度目の敗北は、やはり孤児院にいた当時のこと。皆で風呂に入っていたら、隣で頭を洗っていたケイスケのブツが、アキラより大きいことに気付いてしまったときだ。短いながらも激動の人生のうちで、本気でアキラがケイスケに男として敗北を覚えた瞬間であった。
 が、何しろ物事を気にしない、それどころか感情の起伏に乏しすぎるアキラであるから、ケイスケが頭を流し終えるより早く、全てがどうでもよくなった。感情が長続きせず、細かいことは気にしないのがアキラの美徳であろう。そしてそんなアキラの敗北感など、アオミドロの繊毛の先ほども知らないケイスケであった。





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