■□■ 第三の理由 □■□
いつものように応接室で弁当を食べているとき、了平は何か気になる様子でチラチラと雲雀に視線を走らせた。
基本的に了平の奇行に慣れている雲雀は無視して食事を続けたが、案外妹に似ている大きな眼でじっと見つめられるにいたって、とうとう彼は了平を振り返った。
「なに」
言いたいことがあるなら言え、と言外に命じる雲雀の声は厳しい。下手なことを言ったら、咬み殺されるのは必至だ。
了平は大きな弁当箱をローテーブルに乗せたものの、右手では手持ち無沙汰に箸を弄びながら口を開いた。
「……やはりまだ身体が辛いか?」
それは昨日の夜のこと、うっかり二人きりになったせいでうっかり盛り上がってしまい、うっかりことに及んだために、今日は朝から雲雀がどこか疲労感を漂わせていることに了平は気がついていた。他人の様子に敏感な了平など物珍しく、雲雀はふうんと鼻を鳴らして彼を見つめた。
「すごくね」
平然と答えた雲雀だが、了平は顎を落とし、カランと音を立てて箸を取り落としてしまった。まんがのような反応だ。了平は狼狽の様子を見せたまま、慌てて箸を拾い上げた。
「別に気を使わなくていいよ」
何を言ったらいいのかわからないでいるらしい了平を制し、雲雀は呆れたように口を開いた。あの行為は確かに雲雀に苦痛を強い、疲労させはするが、それが全てではないのだから。
しかし了平はどうも納得がいかないらしく、眉間に薄い皺を刻んで雲雀を見つめた。
「しかしだな、そんな辛いのに、何故平気なんだ?」
「……そうだね、理由はいくつか考えられる」
雲雀は小首を傾げ、指折り数えて教えてやった。
一つ、雲雀は肉体の苦痛と精神が乖離しているタイプなので、痛みがあまり気にならないから
二つ、少しくらいは気持ちいいし、そもそも回数をこなさないと慣れないから
三つ、それでも了平が好きだか
雲雀が言い終わる前に、語尾にカランという音が重なった。見れば了平は再び顎を落とし、またしても箸を取り落として絶句している。先ほどと違うことがあるとすれば、感動で言葉を失っているらしいという点だ。
感動に打ち震えて声を失っている了平を眺めながら、彼のこういうまんがみたいなオーバーリアクションが嫌いではないと、冷静に考える雲雀であった。
〔完〕
〔comment〕
Back