■□■ 俺はこんな奴に負けたのか!? □■□
トシマでは何を手に入れるにも交換用のタグか、かなりの金額の現金が必要だった。しかも物を購入するにも交換するにも、店の数は限られている。果たしてナノはどうやって服を手に入れていたのだろうか。
「…………これはシキが」
「シキ?」
思いがけない名前に声を上げてしまったアキラに、ナノはこくんと頷いてみせる。イグラが始まったばかりのころ、トシマでトランクの交換の折に何故かシキが突然ナノに服を寄越したのだ。
「……年末の差し迫った忙しい時期に、何故か世界中の子供たちに賄賂を配ってまわる、西洋の白い髭の老人のような袋を突きつけて、この中から好きなものを選べ、と」
相変わらずゆったりとした口調で回りくどいことを言うナノ。もしかしてサンタクロースのことだろうか、と夢の無い子供だったアキラは眉根を寄せて考える。
「何で、そんなものを?」
わからない、とナノは横に首を振る。ただわかることは、そのときのシキが酷く憤慨した様子だったことと、袋から適当に選んだ服を着ていたら、次から似たような系統の服をくれるようになったことだけ。
とつとつと語るナノに、もしかしてとアキラは問いかけた。
「アンタ、初めてシキと会ったとき、どんな服を着てたんだ?」
ナノは器械じみた動作で小首を傾げた。
「…………大戦が終わったばかりだった。あのとき俺は、背中にやたら字画の多い幾多の刺繍のある長い上着(特攻服?)に、機動力に重点を置いて腿の部分がゆるく足首を絞ったズボン(ニッカーボッカー?)に、断熱に長けた底の厚い鉄板入りの靴(上げ底安全靴?)で、頭部を保護するために綿を詰め込んだ厚手の布(防空頭巾?)を着けていて、白と黒の熊(パンダ?)を象ったナップザックを持っていたが」
全部戦時中に適当に拾い集めたものだが、それが一体どうしたのだとナノは言う。しかしおかげでアキラには、シキが一体何故憤慨したのか手に取るようにわかってしまったのだった。
〔おしまい〕
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