■□■ 世界最強兵器 □■□
それまでアキラはNicole・Premierという生体兵器を『凄まじい戦闘能力を付加された人間』だと考えていた。だがどうやらそれは微妙に違うようだ。
実際ナノの戦闘能力は人間のそれを遥か凌駕する。だが実際にはただ戦闘能力を上げることは不可能であり、正確には『戦闘に必要な能力を強化された人間』というのが正しいのだろう。例えば動体視力や筋力の強化、それに伴うスピードのアップ、標的の急所を的確に捉える運動能力、状況判断の正確さ、それを維持する肉体の強化、驚異的な記憶力、そして無限の体力。それら全てが備わったからこそ、ナノは最強の生体兵器となったのだ。
そのことをアキラがまざまざと思い知らされることになったのは、内戦終結間近の日興連でのことだった。夕飯の買出しにナノを連れて街に出たアキラは、駅前の騒がしい通りでふいに袖を引かれて振り返った。
もちろん袖を引いたのはナノである。彼は相変わらずぼんやりと見える様子で駅前を派手なネオンで照らし出す一軒のパチンコ屋を指差していた。
「何だ、パチンコ屋がどうかしたのか?」
アキラがスーパーの袋を片手に振り返ると、さも不思議そうにナノは小首を傾げた。どうやら人生のほとんどを研究所で過ごしていたナノにとって、パチンコ屋というのは初めて見るものであるらしい。ある意味非常に貴重な人間だ。
「賭け事するとこだよ。小さい鉄の玉を、ピンで邪魔された穴に上手く入れると、賞金が出るんだ」
微妙に違う気もするが、完全に間違っているわけではない。しかしやはりイメージはしづらかったらしく、ナノは今度は逆側に小首を傾げた。
そこでふとアキラは考えた。最近少しずつ感情の片鱗が戻り始めたナノに、新しい刺激を与えてみるのもいいかもしれない。何より、ソリドを包装ごと齧ろうとするようなやつであるから、少しは常識を学んでおいてもらいたいものだし。
ジーンズのポケットに左手を突っ込んだアキラはくしゃくしゃになった千円札を数枚引っ張り出すと、やはりぼんやりと立ち尽くしているナノを見上げた。
「やってみるか?」
こくんと頷いたナノの手を引いて、アキラは店に向かった。そしてアキラはナノの生体兵器としての力を目の当たりにすることとなる。
本日の戦果、27万円。
……二人が世界中のどこへ行っても生活に困らないようになるのは、もう少し先のお話。
〔おしまい〕
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