■□■ 深みに嵌る □■□
自分が何故、雲雀から離れられないのか山本は知っていた。雲雀はとても冷めた人間で、普段は人を人とも思わぬような態度を取る。言動の一つ一つを取ってもそれは酷いもので、苛烈とさえ言える性格をしていた。
それがどうだろう、ひとたび情事となれば雲雀は豹変した。彼は情を交わす相手を濡れた瞳で見つめ、慈愛を思わせる素振りを見せる。愛情深くくちづけ、荒々しく相手を求める。まるでこの世に他は無いとさえ思わせる視線に、相手は囚われてしまうだろう。普段が残酷なまでに冷めた男であるから、その落差に戸惑いを覚えながらも。
けれど情熱的に求められ、与えられて、喜びを覚えぬ人間はいない。それが例えひとときでも、いや、むしろひとときであるからこそ、余計に深みに嵌るのだろう。情事を終えた雲雀は冷徹さを取り戻し、今までの情熱が嘘のように相手を突き放す。突き放された相手は寂寥と屈辱を覚えながらも、再び彼の欲望や官能を希う。何ものにも囚われず、恐れを知らぬ誇り高い男を独占したいと欲するのだ。そしてそれは、山本をも捕らえて放さぬ蠱惑的な魅力だ。
だから山本は、雲雀から離れることは出来ない。
〔了〕
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