■□■ イタリア奇談 □■□






 パレルモの夏は暑い。
 ただでさえ40度近い気温になるというのに、地球の温暖化のせいでその夏は異常なまでに暑かった。
 おかげですっかり仕事をする気の失せたツナ・獄寺・山本の三莫迦トリオは、昼も日中だというのに、何故か怪談話を始めたのである。

「……というわけで、次は山本な」

 海に引きずり込まれた高校生の話を終えたツナは、いつも通り過剰な反応を示している獄寺を遮りつつ山本を振り返った。

「んー、そうだなー。怪談じゃないけど、まじビビッた話でもいいか?」

 ツナが笑って、獄寺が不服そうにうなづくと、山本は中空を眺めて口を開いた。






 それはつい先週のことだった。明け方、人の気配で目を覚ますと、雲雀が着替えているところだった。

「まだ寝てれば」

 山本が身じろいだ物音に気付いて雲雀が振り返って言った。
 考えてみれば雲雀が殊勝な物言いをするなど怪しい事態なのだが、昨夜の疲れもあって、山本は何も考えずに彼の言葉に従った。
 しばらくすると、今度は雲雀から声を掛けてきた。もう出るから、餞別にいいものをやろう、と。

「これ、絶対に手放さないようにね」

 寝ぼけ半分で相槌を打った山本は、手渡された物を確かめる間も無く、再び眠りに落ちていった。






 山本が目覚めたとき、すでに太陽は中天に差し掛かっていた。
 さすがに寝過ぎて頭のはっきりしない山本は、しばらくベッドの上でぼんやり過ごしていた。
 少しすると、今朝方雲雀が言い残した言葉を思い出した。
 そう言えば雲雀は何かを手渡していった。丸くて重くて、ひんやりした何かを。そしてそれは、まだ山本の手の中にある。
 言いつけどおり寝ている間も握り締めて放さなかった硬い感触の何かを、山本はやっと見下ろした。
 彼がしっかりと握り締めていたものは、手榴弾だった。

「手榴弾!?」

 驚愕を露わに思わず叫んだツナに、そーなのな、と山本は危機感の無い笑顔を向けた。

「ピ、ピンはっ!?」

 流石の獄寺も他に突っ込みが思い浮かばなかったらしい。

「いやー、それがどこにも見当たらなくてよ」

 快活に笑う山本だが、当時はチビりそうになりながら雷管のピンを探したと言う。
 結局ピンは冷蔵庫の中で、パイナップルに刺さった状態で発見された。
 明らかに故意の嫌がらせである。

「いやもう、まっ裸のまま泣きそうになって探し回ったっつーの。でもさアイツ、オレがその場で取り落としてたらどーするつもりだったんだろな」

 それがオレのまじビビッた体験、と締めくくろうとした山本だが、ついに衝撃から立ち直った獄寺から待ったがかかった。
 獄寺は睨む勢いで猜疑に顔を歪め、

「何で雲雀が手前んちに泊まってんだ?」

「んー? いいウニが手に入ったんだけど、先週ツナもお前もいなかっただろ」

「だからって何であんな奴誘うんだよ!?」

「だいじょぶだって、アイツあれで案外いける口なんだぜ。今度またいいのが入ったら、みんなで飲もうな」

 そんなこと言ってねーよといきり立つ獄寺をまーまーといなす山本。
 そんないつもの二人を眺めつつ、

「何で雲雀さんはシャツを着替えてたんだろう」

 とか、

「それ以前に何で山本は裸だったんだろう」

 とか色々疑問に思ったとしても、決して口には出さず、黙って悟りを開いたような微笑を浮かべるツナであった。





〔完〕







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