■□■ 霧深い夜に □■□
目の前を雲雀が歩いていた。
雲雀のあとを了平が歩いていた。
満月だというのに、霧のせいで輪郭のぼやけた夜。
それなのにふしぎと明るい夜。
雲雀が目の前を歩いている。
同じスピードで歩きながら、了平は雲雀の指先を見た。
少し硬い指。
暴力と慈しみの指。
了平は手を伸ばす。
揺れ動く指先を握った。
雲雀が立ち止まって振り返った。
了平も立ち止まって雲雀を見た。
雲雀は何も言わない。
了平も何も言わない。
雲雀は前を振り返り、歩き出した。
了平は握っていた指先を放し、雲雀の手を握って歩き出した。
雲雀は何も言わない。
雲雀が何も言わないから、了平は嬉しそうに笑った。
霧に隠れた満月の、不思議と明るい夜だった。
〔おわり〕
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